あずか)” の例文
にちて、アンドレイ、エヒミチは埋葬まいそうされた。その祈祷式きとうしきあずかったのは、ただミハイル、アウエリヤヌイチと、ダリュシカとで。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
だがその行先はしばら秘中ひちゅうの秘としてあずかることとし、その夜更よふけ、大学の法医学教室に起った怪事件について述べるのが順序であろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また将軍継嗣論のいまだ定まらざるに就いては彼れ曰く、「夷官の来たり居るや、後必ずこの議にあずからん。これ石敬塘の事遠からざるなり」
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
修験者の珠数じゅずを押しんで祈祷きとうする傍には、長者の一人むすめと、留守をあずかっている宇賀一門の老人達が二三人坐っておりました。
宇賀長者物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
夜ふかしは何、家業のようだから、その夜はやがて明くるまで、野良猫のらねこに注意した。彼奴きゃつ後足あとあしで立てば届く、低い枝に、あずかったからである。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中には見ず識らずの人も多きにわざわざ書を寄せられてとかくの御配慮にあずかる事誠に難有ありがたき次第とそぞろ感涙に沈み申候。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「世上の噂でも聞いたであろう、御薬園あずかりの本草家ほんぞうか峠宗寿軒とうげそうじゅけんの娘お小夜さよは、府内にも並ぶ者なしという美人だ」
甲「これ彼処あすこに下足をあずかる番人があって、銘々下足を預けてあがるのに、懐へ入れて上る奴があるものか、是には何か此の方に意趣遺恨があるに相違ない」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
証書の表どおり、おあずかりしてある後藤彫ごとうぼり目貫めぬきは、他へ売払いに出しますから、どうかおふくみ願いたいもので
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
よし学校の先生のいる所でも、その人はなんにも知らないか、さもなければなにかほかに仕事があって、あずかった子どもの世話をろくろくしない者が多かった。
判事は鍵をあずかっている庭番に命じて礼拝堂の扉を開けさせた。その礼拝堂というのは昔から崇められたものでそこにある立派な彫刻の人物などは宝物ほうもつであった。
今日ははからず御招きにあずかりまして突然参上致しました次第でありますが、私は元この学校で育った者で、私にとってはこの学校は大分縁故えんこの深い学校であります。
模倣と独立 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
歳月は匆々そうそうとしてすぐること二十五年、明治戊辰ぼしんの年となって、徳川氏は大政を奉還したので、丸亀藩では幕府の罪人をあずかってこれを監視する義務がなくなった所から
枇杷の花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
昨年まで年に一回の月番役を勤めたが、月番の提灯をあずかったきりで、一切の事務は相番あいばんの肩に投げかけるので、皆迷惑したと見えて、今年から月番を諭旨免職になった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
社会共有のもので、自分のふところに入っている間とても、なお一時社会からあずかったようなものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
本来ならばそんな事は、恐れ多い次第なのですが、御主人のおおせもありましたし、御給仕にはこの頃御召使いの、兎唇みつくちわらべも居りましたから、御招伴ごしょうばんあずかった訳なのです。
俊寛 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
客は湯冷めのせぬうちに、せめてもう一献いっこんの振舞いにあずかって、ゆるゆる寝床に手足を伸ばしたいのだが、主人の意は案外の遠いところにあるらしい。それがこの辺から段々に分って来た。
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
それは何か、人が非常に厚意にあずかる前の態度だった。妻女は慌てて患者のあとから立ち上って、これはまた何か非常に恥しい出来事でも到来する前のような恥らいを四方の人に見せておどおどした。
春:――二つの連作―― (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
八五ろうは、春信はるのぶからあずかった結文むすびふみを、ちょいと懐中ふところからのぞかせた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
いわゆる誠はその色にあらわれたのでありますから、唯今怪しい事などは、身の廻り百由旬ひゃくゆじゅんの内へ寄せ附けないという、見立てにあずかりました小宮山も
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多「番頭さん、貴方あんた算盤そろばんを取って店をあずかるものだから聞きやすが、日に十二文の草履が五足で幾許いくらになりやす」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「むむ、うまいじゃないか」「いやこれは恐れ入った。飛んだところでトチメンボーの御返礼にあずかった」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この泣声を聞いては、小供をあずかっていた隣家の人も可哀そうになって来るので、伴れて来てやろうと思っていると、小供の泣声がぱったりんで、その小供が何か話す声が聞えて来る。
車屋の小供 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
客は湯冷めのせぬうちに、せめてもう一献いっこんの振舞ひにあずかつて、ゆるゆる寝床に手足を伸ばしたいのだが、主人の意は案外の遠いところにあるらしい。それがこの辺から段々に分つて来た。
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
正面には山屋敷あずかりの与力、熊野牛王くまのごおうの神紙二十七枚を三方にのせて前へ置き、側には、机を控えて同心と書役かきやく、左の袖部屋にも三、四の下役がおそろしく緊張したていで折目を正している。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
F——学園の校長さんは地方の素封家そほうか出の文化人で、子供が多いところから一つ自分の手で思うような教育をしてみようと思い立ったのが始まりで、世間の子女たちもあずかる学校に発展さしたのですが
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
したがって自分は子守か乳母うばの真似をしていればよいと思うか、あるいは自分のあずかれるものは日本国をうて立つ後日ごじつの国民である。中には貴族の子もあり富豪ふごうの愛嬢もあり、また学者の後裔こうえいもある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そして——たしかあずかる、決して迂散うさんなものでない——と云つて、ちゃんと、衣兜かくしから名刺を出してくれました。奥様は、面白いね——とおつしやいました。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
子供はがつ/\してべているのを、多助は其の母の姿を見てびっくり致しましたが、此の乞食母子おやこは何者でございましょうか、次囘つぎまでおあずかりに致しましょう。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それなら君の未来の妻君の御母おっかさんの御眼鏡おめがね人撰じんせんあずかった婆さんだからたしかなもんだろう」
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
商人は商人、教師は教師、役人は役人とおのれのあずかっている職務に忠実ちゅうじつにして、なおかつ思想は高く俗界を超越ちょうえつして、商人が金を造っても金を目的とせず、農家が肥料ひりょうほどこしても収穫しゅうかく以上に目的を置き
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
勿論もちろん、描いた人物を判然はっきり浮出うきださせようとして、この彩色さいしょく塗潰ぬりつぶすのは、の手段に取って、か、か、こうか、せつか、それは菜の花のあずかり知るところでない。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此方こちらにお預け申して、さア旦那様を疑ぐる訳じゃ有りませんが、どうか三千円確かに預かった、入用にゅうようの時には渡すというあずかり証文を一本御面倒でも戴きたいもので
「時計は今藤尾があずかっているから、わたしから、よく、そう云って置こう」
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
おめでたう存じまする、皆、太夫様の御人徳ごじんとく。続きましては、手前あずかりまする池なり、所持の屋形船やかたぶね
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
見ると五十両ではなくして八十両の包みがね表書うえには「本堂再建さいこん普請金、世話人萬屋源兵衞よろずやげんべえあずかる」
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
お丹は詰寄りて、「さもなければ質として、御手の御数珠を私があずかりましょう、どっちか一つ御返事なさい。貴女、まあどうでございます。」と咄々とつとつ人に迫りきたる。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
手前方へあずかれば石の唐櫃かろうとへ入れたも同然と御安心下さるべくそろと書いてやった
「成程ね、華族様の内をすっかりあずかって、何のこたあない乞食からお前さんを拾上げたほどの人だから、そりゃお前さんを扱うこたあ、よく知っているんだろう。」
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これより多助の身の上如何いかゞ相成りますか、次囘までおあずかりに致しましょう。
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
また婆さんが出て、昨夜ゆうべは帰りました、その事をいって聞かせると、なおのことそのおなさけあずかっては、きっと取って来て差上げずにはと、留めるのもかないで行ったといいます。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
國「あきれたよ、殿様の大事な品がこゝに入っているんだもの、今に殿様がお帰りの上で目張めっぱりこでみんなの物をあらためなければ、私のおあずかりの品がなくなったのだから、私が済まないよ、屹度きっと詮議せんぎを致します」
三年間千破矢家をあずかっていて今も滝太郎を守立ててる竜川守膳たつかわしゅぜんという漢学者。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此のあとうなりますか、次囘つぎまでおあずかり。
が、ことばつたわらないから、おんなは外套をあずかったまま、向直ってと去った。