青柳あおやぎ)” の例文
黒目勝くろめがちすずしやかに、美しくすなおな眉の、濃きにや過ぐると煙ったのは、五日月いつかづき青柳あおやぎの影やや深き趣あり。浦子というは二十七。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「悉皆変りましたのよ。私にお土産だといって青柳あおやぎから羊羹ようかんを買って来てくれましたの、こんなことは初めてでございますわ」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
の楽を律へ移すのに「喜春楽きしゅんらく」が奏されて、兵部卿ひょうぶきょうの宮は「青柳あおやぎ」を二度繰り返してお歌いになった。それには源氏も声を添えた。夜が明け放れた。
源氏物語:24 胡蝶 (新字新仮名) / 紫式部(著)
今更いうも愚痴なれど……ほんに思えば……岸よりのぞ青柳あおやぎの……と思出おもいだふしの、ところどころを長吉はうち格子戸こうしどを開ける時まで繰返くりかえし繰返し歩いた。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
京の先斗町ぽんとちょうをでも思い出させるような静かな新地には、青柳あおやぎに雨が煙ってのきに金網造りの行燈あんどんともされ、入口に青い暖簾のれんのかかった、薄暗い家のなかからは
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
常陸ひたち青柳あおやぎという村の近くには、泉のもりというお社があって、そこの清水も人馬の足音を聞けば、湧き返ること煮え湯のようであるといい、それで活き水と呼び
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
俗に「おかま」という中性の流し芸人が流しに来て、青柳あおやぎにぎやかに弾いて行ったり、景気がよかった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
陸のさらえおわると、二番位演奏があって、その上で酒飯しゅはんが出た。料理は必ず青柳あおやぎから為出しだした。嘉永四年に渋江氏が本所台所町に移ってからも、この出稽古は継続せられた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「梅本」「うれし野」「浮舟うきぶね」「青柳あおやぎ」など、筆太ふでふとに染め出した、浅黄あさぎの長い暖簾のれんなどが、ヒラリヒラリとなびいている。店の作りが変っていて、隣りの店とのへだてがない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お母様はお台所でおぐしを上げておいでになったようですが、私が「葵の上」を弾いて、「青柳あおやぎ」を弾いて、それから久しく弾かなかった「みだれ」を弾きますと指が疲れましたので
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
豆腐蒸とうふむしと行きましょうか。ごくごくの淡味うすあじにして、黄身餡きみあんをかけてもらいましょう。焼物は、魴鮄ほうぼうの南蛮漬。口がわりは、ひとつ、手軽に、栗のおぼろきんとんに青柳あおやぎ松風焼まつかぜやき
顎十郎捕物帳:16 菊香水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
するとその侍はしもにいて、しばらくかしらを傾けて居りましたが、やがて、「青柳あおやぎの」と、はじめの句を申しました。するとその季節に合わなかったのが、可笑おかしかったのでございましょう。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「むつとして帰ればかど青柳あおやぎの」と端唄はうたにもうたはれたれば世の人は善く知りたらん。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
はも河豚ふぐ赤魚あかお、つばす、牡蠣かき、生うに、比目魚ひらめの縁側、赤貝のわたくじらの赤身、等々を始め、椎茸しいたけ松茸まつたけたけのこかきなどに迄及んだが、まぐろは虐待して余り用いず、小鰭こはだ、はしら、青柳あおやぎ
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
うらも無く我が行く道に青柳あおやぎの張りて立てればものつも (同・三四四三)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
神田柳原和泉いずみ橋の西、七百二本たつや春青柳あおやぎこずえよりく、この川の流れの岸に今鎮座ちんざします稲荷いなりの社に、同社する狸の土製守りは、この柳原にほど近きお玉が池に住みし狸にて、親子なる由
江戸の玩具 (新字旧仮名) / 淡島寒月(著)
しかし、ばか貝はしてくれ。青柳あおやぎというすいな名があるじゃないか。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
生涯しやうがい保護者ほごしやとはなるべきにや、おもへばいとも覺束おぼつかなきことなり、れに主從しう/″\關係くわんけいなくば、松野雪三まつのせつざうならずは、青柳あおやぎいとぢやうりて、生涯しやうがい保護者ほごしやとならんものあめしたまたとはあるまじ
たま襻 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
その頃のことを「青柳あおやぎ」の女中は、一寸不審そうに眼にとめた。
操守 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
おもふどちあそぶ春日はるひ青柳あおやぎ千条ちすじの糸の長くとぞおもふ 半蔵
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かど、背戸の清きながれ、軒に高き二本柳ふたもとやなぎ、——その青柳あおやぎの葉の繁茂しげり——ここにたたずみ、あの背戸に団扇うちわを持った、その姿が思われます。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
熊本県の壮士と玄洋社の壮士とが博多東中洲の青柳あおやぎの二階で懇親会を開いた時に、熊本の壮士の首領でなにがしという名高い強い男が、頭山の前に腰を卸して無理酒をいようとした。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その日には城から会場へく。八百善やおぜん平清ひらせい川長かわちょう青柳あおやぎ等の料理屋である。また吉原に会することもある。集会には煩瑣はんさな作法があった。これを礼儀といわんは美に過ぎよう。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
越後には青柳あおやぎ村の青柳池といって、伝説の上では、かなり有名な池があります。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
何よりも「青柳あおやぎ」の家でないのがよかった。
操守 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
「また青柳あおやぎがやって来たよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
うまれは東京で、氏素性は明かでない。父も母も誰も知らず、諸国漫遊の途次、一昨年の秋、この富山に来て、旅籠町の青柳あおやぎという旅店に一泊した。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
誰袖は当時川長かわちょう青柳あおやぎ大七だいしちなどと並称せられた家である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と身を横に、おおうたともしびを離れたので、ぎょくぼやを透かした薄あかりに、くっきり描きいだされた、上り口の半身は、雲の絶間の青柳あおやぎ見るよう、髪もかたちもすっきりした中年増ちゅうどしま
女客 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「こりゃ青柳あおやぎさんと、し、梅の香さんと、それから、や、こりゃ名がねえが間違やしないか。」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
瞬間、島の青柳あおやぎに銀の影が、パツとして、うお紫立むらさきだつたるうろこを、えた金色こんじきに輝かしつゝさっねたのが、飜然ひらりと宙をおどつて、船の中へどうと落ちた。其時そのとき、水がドブンと鳴つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
瞬間、島の青柳あおやぎに銀の影が、パッとして、魚は紫立ったるうろこを、えた金色こんじきに輝やかしつつさっねたのが、飜然ひらりと宙を躍って、船の中へどうと落ちた。その時、水がドブンと鳴った。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と美しいひとは、やや急込せきこんで言って、病身らしく胸をおさえた。脱いだ羽織の、肩寒そうな一枚小袖の嬌娜姿やさすがた、雲をでたる月かとれば、離れた雲は、雪女に影を宿して、墨絵につやある青柳あおやぎの枝。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近き頃音羽おとわ青柳あおやぎの横町を
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)