闇夜あんや)” の例文
その雪途ゆきみちもやゝ半にいたりし時猛風まうふうにはかにおこり、黒雲こくうんそら布満しきみち闇夜あんやのごとく、いづくともなく火の玉飛来りくわんの上におほひかゝりし。
それは丁度ちやうど罪悪の暗い闇夜あんやに辛うじて仏の慈悲の光を保つてゐるやうに、又は恐ろしい心の所有者が闇の中におそをのゝいてゐるかのやうに……。
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
中にも利安は伊丹の町の銀屋をかたらつて、闇夜あんやに番兵を欺き、牢屋の背後の溜池ためいけおよいで牢屋に入り、孝高に面會した。
栗山大膳 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
と、孔明の計を奉じて、土嚢どのうせきを一斉にきった。さながら洪水のような濁浪は、闇夜あんやの底を吠えて、曹軍数万の兵を雑魚ざこのように呑み消した。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
逆に行って、彼の眼は天下無敵だ。闇夜あんやの太刀の秘術を教えざるにすでに会得している。怪剣士というは彼がことである
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
「第一岬要塞ようさいの南方洋上十キロのところにおいて、折からの闇夜あんやを利用してか怪しき花火をうちあげた者がございます」
二、〇〇〇年戦争 (新字新仮名) / 海野十三(著)
また獲物えものするどみづつてすゝんでるのを彼等かれら敏捷びんせふ闇夜あんやにもかならいつすることなく、接近せつきんした一刹那せつな彼等かれら水中すゐちうをどつて機敏きびんあみもつ獲物えものくのである。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
七代の將軍とあが家繼公いへつぐこうとぞ申したてまつる此君御不運ふうんにまし/\もなく御他界ごたかいにて有章院殿いうしやうゐんでんと號したてまつる是に依て此度は將軍家に御繼子けいしなく殿中でんちう闇夜あんや燈火ともしび
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
が、堤尻どてじり駈上かけあがつて、掛茶屋かけぢゃやを、やゝ念入りな、間近まぢかいちぜんめし屋へ飛込とびこんだ時は、此の十七日の月の気勢けはいめぬ、さながらの闇夜あんやと成つて、しのつく雨に風がすさんだ。
光籃 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
電光のひらめきに、彼は見てとった、闇夜あんやの底に、彼は見てとった——おのれこそその神であった。その神は彼自身のうちにあった。神は室の天井を破り、家の壁を破っていた。
鼠が出る位であるから恐らく灯火は消されてしまってあるので、全くの闇夜あんやであろう。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
その人が 或る闇夜あんやに道を歩いていて、突然知らずに、高い土手の上からすべり落ちたそうだが、その際土手をすべり落ちて行く瞬間に、矢張やっぱりその人自身の過去の光景が、眼に映ったといっていた。
テレパシー (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
与力満谷剣之助をお捕頭とりがしらに、それに、眼明めあかしの金山寺屋の音松と、金山寺屋の手いの捕方とりかたを四、五十人もつけて、一隊、闇夜あんや暴風雨あらしをついて、黒門町の壁辰の家をおそった——まではよかったが
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
そこで仏陀ぶっだやショペンハウエルの教える通り、宇宙は無明むみょう闇夜あんやであって、無目的な生命意慾に駆られながら、無限に尽きないごうの連鎖を繰返しているところの、嘆きと煩悩ぼんのう娑婆しゃば世界に外ならない。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
それに大いに力を得て、闇夜あんやに乗じて阿片窟包囲に出かけたんだ。
深夜の電話 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
闇夜あんやの空の花火の鮮かさで、彼女の心を占めていたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
如法によばふ闇夜あんやに、睡蓮すいれん
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
その雪途ゆきみちもやゝ半にいたりし時猛風まうふうにはかにおこり、黒雲こくうんそら布満しきみち闇夜あんやのごとく、いづくともなく火の玉飛来りくわんの上におほひかゝりし。
動物は動物にたいして敏感であるから、いま、下のほうでいなないた馬は、ここにさしかかってきた闇夜あんや飛行の怪物の影に、おどろいたものにそういない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「夜目が利くの、闇夜あんやの太刀を心得ておるのと、高慢なことを申しても和主達おぬしたちは駄目だ。俺がここにいるのが見えなかったろう」と、樹上の怪人はあざけり気味に云った。
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
なにすんでえ、ぢいは」おつぎはそれをかるうけういつた。卯平うへいしがめた。かれ闇夜あんやにずんずんとはこんだあしきふくぼみをんでがくりと調子てうしくるつたやうな容子ようすであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
闇夜あんやの空を漂流ひょうりゅう中のゴンドラの中には、彼ただひとりがいるばかりだと思っていたのに、意外にも意外、突然マイクを持つ手首をぎゅっと掴まれたのだから、この愕きももっともであった。
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とぐる處一々明白めいはくに申立ると雖も其方儀先頃無量庵へ闇夜あんやせつ提灯ちやうちんの用意もなく參りしとあり其刻限こくげんとくと申立よと云れければ九助夫は去る三月十九日は私し妻節が實母七回逮夜たいやに當り候間上新田村無量庵の住寺は生佛いきぼとけの樣に近郷きんがう近村にて申となふるにより何卒回向ゑかう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼女を知る人たちは、誰もみな彼女の聡明を挙げるが、彼女も恋をすれば闇夜あんやをも忍んで配所の人へ通うだけの盲目にもなり情熱にも燃やされる女性ではあった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは水揚みづあがりせざるところものどもこゝにはせあつまりて、川すぢひらき水をおとさんとする也。闇夜あんやにてすがたは見えねど、をんなわらべ泣叫なきさけこゑあるひとほく或はちかく、きくもあはれのありさま也。
闇夜あんやをついて、総押しに河を渡って夜討ちをかければ、禍根かこんも抜くこともできようが、油断しておると近いうちに、夜が明けてみたら対岸洲股すのまたに、一夜のうちに忽然こつぜん
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文化のはじめ大雪の時高田の市中(町のながさ一リにあまる)雪にうづまりて闇夜あんやのごとく、昼夜ちうやをわかたざる事十余日、市中ともしびの油つきて諸人難義せしに、御領主りやうしゆより家毎に油をたまひし事ありき。
船は、その翌日、闇夜あんやにまぎれて、さかいの沖から、ふたたび南へむかって、満々まんまんをはった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文化のはじめ大雪の時高田の市中(町のながさ一リにあまる)雪にうづまりて闇夜あんやのごとく、昼夜ちうやをわかたざる事十余日、市中ともしびの油つきて諸人難義せしに、御領主りやうしゆより家毎に油をたまひし事ありき。
闇夜あんやは途中が危険。こよいは城内にお泊りあって、早朝にお帰りあってはいかが」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、えらびだした武士二、三人に、密命をふくませ、そこからいずこともなく放してやると自身はふたたび、民蔵を行列の先頭にして、闇夜あんやの街道を、しずしずと進んでいった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)