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迸
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ほとばし
ふりがな文庫
“
迸
(
ほとばし
)” の例文
ほとんど腐朽に瀕した肉体を抱えてあれだけの戦闘と事業を遂行した巨人のヴァイタルフォースの
竈
(
かまど
)
から
迸
(
ほとばし
)
る火花の一片二片として
子規の追憶
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
活々した抑揚とか、快い発声法はなく、ただ内に閃くもの、
迸
(
ほとばし
)
るものに随って声を出すのであった。その調子は時に唐突でもあった。
忘れがたみ
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
欣
(
うれ
)
し泣きに
嗚咽
(
おえつ
)
するお珠の顔を、
酷
(
むご
)
いような力でいきなり抱きしめると、安太郎は、彼女の唇に情熱の
迸
(
ほとばし
)
るままに甘い
窒息
(
ちっそく
)
を与えた。
鬼
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
安島二郎氏が突然に
歪
(
ゆが
)
んだ顔を上げた。中腰になって両手を伸ばした。両袖のカフス・ボタンからダイヤの光りがギラギラと
迸
(
ほとばし
)
った。
山羊髯編輯長
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
夫人は、心の中に抑えに抑えていた女性としての平生の
鬱憤
(
うっぷん
)
を、一時に晴してしまうように、烈しく
迸
(
ほとばし
)
る火花のように
喋
(
しゃ
)
べり続けた。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
▼ もっと見る
あれこそ言々肺腑から
迸
(
ほとばし
)
ったというのでしょう。いう人に誠実がなければああは人の胸を打つものでない。或は田中君は鉱毒問題を
渡良瀬川
(新字新仮名)
/
大鹿卓
(著)
雲は暗かろう……水はもの凄く白かろう……空の所々に
颯
(
さっ
)
と
薬研
(
やげん
)
のようなひびが
入
(
い
)
って、霰はその中から、銀河の
珠
(
たま
)
を砕くが如く
迸
(
ほとばし
)
る。
霰ふる
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
すべてのものがいっしょになって、
闇夜
(
やみよ
)
の中の沼みたいな奇怪な夢の世界をこしらえていて、そこから希望の
眩
(
まぶ
)
しい光が
迸
(
ほとばし
)
り出ていた。
ジャン・クリストフ:11 第九巻 燃ゆる荊
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
忘れたい歌の文句が、はっきりと意味を持って、姫の唱えぬ口の
詞
(
ことば
)
から、胸にとおって響く。乳房から
迸
(
ほとばし
)
り出ようとするときめき。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
けれど的確に表現されたロシア語ほど大胆不敵で、しかも心の奥底から
迸
(
ほとばし
)
り出て、生気溌剌として沸き立つ言葉は他にないだろう。
死せる魂:01 または チチコフの遍歴 第一部 第一分冊
(新字新仮名)
/
ニコライ・ゴーゴリ
(著)
忽ち又千百の
巨礮
(
きよはう
)
を放てる如き聲あり。一道の火柱直上して天を衝き、
迸
(
ほとばし
)
り出でたる熱石は「ルビン」を
嵌
(
は
)
めたる如き觀をなせり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
しかしその
強靱
(
きょうじん
)
な論理を示す文章の間に、突然魂の底から
迸
(
ほとばし
)
り出たかのような啓示的な句が現われて、全体の文章に光を投げる。
西田先生のことども
(新字新仮名)
/
三木清
(著)
しかるに
言
(
い
)
おうと
云
(
い
)
う
望
(
のぞみ
)
は、
終
(
つい
)
に
消
(
き
)
えず
忽
(
たちまち
)
にして
総
(
すべて
)
の
考
(
かんがえ
)
を
圧去
(
あっしさ
)
って、こんどは
思
(
おも
)
う
存分
(
ぞんぶん
)
、
熱切
(
ねっせつ
)
に、
夢中
(
むちゅう
)
の
有様
(
ありさま
)
で、
言
(
ことば
)
が
迸
(
ほとばし
)
り
出
(
で
)
る。
六号室
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
ここだと云はないばかりに
迸
(
ほとばし
)
つて來た儘に、渠はおのれの妻が
裏店
(
うらだな
)
のかかアか何かのやうに、燒けぼツ
杙
(
くひ
)
じみた行爲に出た
不埒
(
ふらち
)
を述べた。
泡鳴五部作:02 毒薬を飲む女
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
「ああ
妾
(
わたし
)
行って見たい。ああ妾行って見たい!」と夢見るような声で云った。若い娘の好奇心と若い娘の虚栄心とから
迸
(
ほとばし
)
り出た声である。
八ヶ嶽の魔神
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
暴風雨
(
あらし
)
が私の体中を荒れ狂ふ。
雷雲
(
かみなりぐも
)
のやうに険悪に濁つた血が、
迸
(
ほとばし
)
り出る出口を探し求めてるやうに、脈管を走り廻つている。
脱殻
(新字旧仮名)
/
水野仙子
(著)
雪の固い粒は梨の肉のような白い片々となって、汁でも
迸
(
ほとばし
)
りそうに、あたりに散らばる、鉈の
穿
(
うが
)
った痕の雪道を、足溜まりにして、渡った。
谷より峰へ峰より谷へ
(新字新仮名)
/
小島烏水
(著)
水道の
栓
(
せん
)
から
迸
(
ほとばし
)
るように流れ落ちて来る勢いの好い水の音を聞きながら
鍋
(
なべ
)
の一つも洗う時を、この婆やは最も得意にしていた。
新生
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
金蔵の首へかけた縄は放さなかったけれど金蔵の刀は避けられず、またしても左の
額際
(
ひたいぎわ
)
を
一刀
(
ひとたち
)
やられた。血が
迸
(
ほとばし
)
って眼へ入る。
大菩薩峠:04 三輪の神杉の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
手に持つ錫杖を突きさして
暫
(
しばら
)
く祈念し、やがてそれを抜くと、その穴から水が
迸
(
ほとばし
)
って、女の顔のところまで飛び上りました。
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
のみならず彼女が何分かの後、胡弓と笛とに合わせながら、
秦腔
(
しんこう
)
の唄をうたい出した時には、その声と共に
迸
(
ほとばし
)
る力も、確に群妓を圧していた。
上海游記
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
すなわち実はその一面には同氏等のような少くもヒガンザクラについては半可通な学者をして醒覚せしめんとの下心の
迸
(
ほとばし
)
りもあったのである。
植物記
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
ややもすれば筆の先に
迸
(
ほとばし
)
りでようとする感激を、しいて呑みくだすように押えつけた。彼のペンは容易にはかどらなかった。
星座
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
玻璃色
(
びいどろいろ
)
の
薔薇
(
ばら
)
の花、
草間
(
くさま
)
に
迸
(
ほとばし
)
る
岩清水
(
いはしみづ
)
の色、
玻璃色
(
びいどろいろ
)
の
薔薇
(
ばら
)
の花、おまへの眼を愛したばかりで、ヒュラスは死んだ、
僞善
(
ぎぜん
)
の花よ、
無言
(
むごん
)
の花よ。
牧羊神
(旧字旧仮名)
/
上田敏
(著)
其傍になまぐさき血の
迸
(
ほとばし
)
りかゝれる痕を
見
(
みた
)
りと言へば、水にて殺せしにあらで、石に撃つけてのちに水に
入
(
いれ
)
たりと
覚
(
おぼえ
)
たり。
鬼心非鬼心:(実聞)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
間もなくこの憤懣の情が粗暴な、意地の悪い表情言語になつて
迸
(
ほとばし
)
り出た。わざと相手を侮辱して遣らうと思つたのである。
死
(新字旧仮名)
/
ミハイル・ペトローヴィチ・アルチバシェッフ
(著)
それは
自
(
ひとりで
)
に妾の口を
迸
(
ほとばし
)
り出でた言葉だったけれど、このとき云った、(どんなことをしてでも探しだしていただきたいわ)
三人の双生児
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
歌人とゆめ名のらぬ人から歌が
迸
(
ほとばし
)
るのです。こんな境地が現にあるということについて、歌道に志すほどの人は意を留めなくてよいでしょうか。
民芸四十年
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
横浜! 横浜! と
或
(
あるひ
)
は急に、或は
緩
(
ゆる
)
く叫ぶ声の窓の
外面
(
そとも
)
を
飛過
(
とびすぐ
)
るとともに、響は雑然として起り、
迸
(
ほとばし
)
り
出
(
い
)
づる、
群集
(
くんじゆ
)
は
玩具箱
(
おもちやばこ
)
を
覆
(
かへ
)
したる如く
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
私が夢のような薄暗い
灯
(
ひ
)
で見た唐紙の血潮は、彼の
頸筋
(
くびすじ
)
から一度に
迸
(
ほとばし
)
ったものと知れました。私は
日中
(
にっちゅう
)
の光で明らかにその
迹
(
あと
)
を再び
眺
(
なが
)
めました。
こころ
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
夏目さんは大抵一時間の談話中には二回か三回、実に好い上品なユーモアを混える人で、それも全く無意識に
迸
(
ほとばし
)
り出るといったような所があった。
温情の裕かな夏目さん
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
これに
騎
(
の
)
りて須坂を出ず。足指漸く
仰
(
あお
)
ぎて、遂につづらおりなる山道に入りぬ。ところどころに清泉
迸
(
ほとばし
)
りいでて、野生の
撫子
(
なでしこ
)
いと
麗
(
うるわ
)
しく咲きたり。
みちの記
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
と、ぱつと扉が開き、あふるゝ許りの光り——裕佐にはさう感じられた——が滝のやうにそこから
迸
(
ほとばし
)
り出るのであつた。
青銅の基督:――一名南蛮鋳物師の死
(新字旧仮名)
/
長与善郎
(著)
相模寅造は立ったままでジロジロと一同を見下していたが、唐突に安亀の方に向き直ると、まるで
迸
(
ほとばし
)
り出るような声で
魔都
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
自分等
(
じぶんら
)
が
立
(
た
)
てる
響
(
ひゞき
)
に
誘
(
さそ
)
はれて
騷
(
さわ
)
ぐ
彼等
(
かれら
)
の
極
(
きま
)
つた
囃
(
はやし
)
の
聲
(
こゑ
)
が「ほうい/\」と
一人
(
ひとり
)
の
口
(
くち
)
からさうして
段々
(
だん/\
)
と
各自
(
めいめい
)
の
口
(
くち
)
から一
齊
(
せい
)
に
迸
(
ほとばし
)
つて
愉快相
(
ゆくわいさう
)
に
聞
(
きこ
)
えた。
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
思いがけぬ不意な熱情の
迸
(
ほとばし
)
りから、また自然の苛酷な皮肉から、主の知れない呪われた子を生み下すとき、その不幸な子供を若干の金で貰い受けて
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
そして此の白煙は、ピストンを動かすたんびに、汽筒から煙突の中へ激しく
迸
(
ほとばし
)
り出て、あの機械の音を出させるんだ。
科学の不思議
(新字旧仮名)
/
ジャン・アンリ・ファーブル
(著)
。さるれえの脳髄とお勢とは何の関係も無さそうだが、この時突然お勢の事が、噴水の
迸
(
ほとばし
)
る如くに、胸を突いて
騰
(
あが
)
る。
浮雲
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
と法水の凄愴な気力から、
迸
(
ほとばし
)
り落ちてきたものに圧せられて、旗太郎はまったく化石したように硬くなってしまった。
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
ただひとつ老人の
贅沢
(
ぜいたく
)
がゆるされるなら、若者らしい正義感の
迸
(
ほとばし
)
るままに時として若干怒りっぽい感じがないでもない。独り息子のせいかも知れない。
指導物語:或る国鉄機関士の述懐
(新字新仮名)
/
上田広
(著)
太陽から
迸
(
ほとばし
)
る宇宙的な光炎なんだ、夜の進むに従って薄らいだとはいえ、時々立ち昇る如く見える、その広がりが幾百幾億万里に及んだか計られない。
暗黒星
(新字新仮名)
/
シモン・ニューコム
(著)
眞劒な而も強く抑制された内心の火は、明瞭な語調の内に
迸
(
ほとばし
)
り、激しい言葉を奔らせたがこれは抑へつけられた、短縮された、抑制された力になつた。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
胸に
漲
(
みなぎ
)
る情の波が指頭に
迸
(
ほとばし
)
って絃に触れるのでもなければ、空に漂う楽のねに心上の琴線が共鳴するのでもない。
芸術と社会
(新字新仮名)
/
津田左右吉
、
津田黄昏
(著)
という言葉も終らぬ中に、良夫の頸はがっくり前に落ち、黒地に金で猛虎を刺繍した大緞帳に鮮血がさっと
迸
(
ほとばし
)
る。
盈虚
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
その騒しさが少年の心を
弥
(
いや
)
が上にも刺戟した。まだ社会の裏面を
渾沌
(
こんとん
)
として動きつつあった思想が、時としては激情の形で
迸
(
ほとばし
)
り
出
(
で
)
ようとすることがある。
夢は呼び交す:――黙子覚書――
(新字新仮名)
/
蒲原有明
(著)
熱血の
迸
(
ほとばし
)
り、熱涙の
滴
(
したた
)
り、秦皇ならねど、円本を火にし、出版屋を坑にせんずの公憤より出た救世の叫びである
一円本流行の害毒と其裏面談
(新字新仮名)
/
宮武外骨
(著)
桶の底の穴をふさぐ栓をぬくと、水がひろがって、
迸
(
ほとばし
)
り出る。一方男はなるべく広い面積にわたって水を撒こうと、殆ど走らんばかりにして行く(図18)。
日本その日その日:03 日本その日その日
(新字新仮名)
/
エドワード・シルヴェスター・モース
(著)
不意に、夕日の光が、少しづつ晴れて来た西の方の雲の細い隙間から一かたまりに流れ
迸
(
ほとばし
)
つて、丘の上に当つた。丘は舞ふやうな光線のなかに急に輝き出す。
田園の憂欝:或は病める薔薇
(新字旧仮名)
/
佐藤春夫
(著)
俺は又それを押へようとはしないで、むしろ其
迸
(
ほとばし
)
るが儘に任せて、ぢつと結局を見つめてやらうと思つた。
公判
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
がそれよりも私の驚いたのは可愛い顔をしているくせに少年の
口吻
(
くちぶり
)
がなんとなく、一家の見識を備えて、威厳
自
(
おのずか
)
ら備わるあるものを
迸
(
ほとばし
)
らせていることであった。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
迸
漢検1級
部首:⾡
10画
“迸”を含む語句
迸出
迸発
横迸
迸水
迸沫
迸溢
迸血
迸裂