裸体はだか)” の例文
旧字:裸體
自分の娘が惨殺されたばかりか、その死体が、しかも裸体はだかの死体が、展覧会に陳列されているのを見る父親の心持はどんなでしょう。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「実はそこに、自分を裸体はだかにさせない気持がひそんでいるからさ。見たまえ、夢中になって踊っている人間は皆ムキ出しの人間だ——」
鳴門秘帖:06 鳴門の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
男子は裸体はだか百貫を、銭の三百持たぬとて、身の置き所ないものか。帰ると思ふて下さるなと十八歳の無分別、不孝たらだら出て見たが。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
ここで青地錦の袋へ入れた刀を口にくわえて、裸体はだかで荒れ狂っている片腕の男ががんりきの百蔵であることは申すまでもありません。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「十七年目にめぐり会い、裸体はだかで御挨拶は相変らず粗忽そそっかしいね。おい/\、村岡君、そんなところに覗いていないで入って来給えよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
内中皆裸体はだかです。六畳に三畳、二階が六畳という浅間ですから、開放しで皆見えますが、近所が近所だから、そんな事は平気なものです。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
無茶先生はやっぱり裸体はだかのままの野蛮人見たような恐ろしい姿をして、まず豚吉をそこにある大きな四角い平たい石の上に寝かしました。
豚吉とヒョロ子 (新字新仮名) / 夢野久作三鳥山人(著)
お殿様のめえだが裸体はだかの女が、ウヨウヨしてやがる、その真ん中に今の泰軒てえ乞食野郎が、すまアしてへえってるじゃあございませんか
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
いつものように腰巻一ツの裸体はだかのままで片肱かたひじを高く上げた脇の下をばしきりと片手の団扇うちわであおぎながら話をしているのであった。
夏すがた (新字新仮名) / 永井荷風(著)
仁「兄いがあゝ言い出しちゃアかねえから、早く裸体はだかになって置いてきな、出さねえでじたばたすると殺してしまうぞ、泣顔なきッつらするねえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
朝夕はひぐらしの声で涼しいが、昼間は油蝉あぶらぜみの音のりつく様に暑い。涼しい草屋くさやでも、九十度に上る日がある。家の内では大抵誰も裸体はだかである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「いかにも武兵衛でございます。春夏秋冬いつも裸体はだか、それで世間の人達は、私のことを裸体武兵衛はだか武兵衛と申します」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
我が一行の扮装いでたちは猿股一つの裸体はだかもあれば白洋服もあり、月の光に遠望すれば巡査の一行かとも見えるので、彼等は皆周章あわてて盆踊りを
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
生やして、裸体はだかになって飛廻ったことも嘘とは申しません、が、何んの罪もない源吉を殺したり、私の親の悪口を仰しゃっては我慢がなりません
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
博士は裸体はだかのまゝ、叮嚀にお辞儀をした。そして頭を上げて向うを見ると、相手はいつの間にやら消えてなくなつてゐた。
思い屈したあまり、彼はどうかすると裸体はだかで学校のグラウンドでも走り廻りたいような気を起して、自分で自分のきちがいじみた心にあきれたこともある。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ころもを奪いたる姿を、そのままに写すだけにては、物足らぬと見えて、くまでも裸体はだかを、衣冠の世に押し出そうとする。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
頭髪かみみだしているもの、に一まとわない裸体はだかのもの、みどろにきずついてるもの……ただの一人ひとりとして満足まんぞく姿すがたをしたものはりませぬ。
娘の裸体はだか吟味 ところで今より十三年程以前にそのパルポ商人のある大きな店へラサ府の婦人が買物に行って珊瑚珠を一つ瞞着まんちゃくしたとかいうので
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
裸体はだかの舟夫四人は、力強く漕いだばかりでなく、曳網に興味を持ち、曳いた材料から標本を拾い出すことを手伝った。
萩野は何時ものように、火の気のない炉のそばに、どっかりと安座あぐらをかいていた。その側には、裸体はだかになった坑夫が三四人、ごろごろと寝転んでいた。
恨なき殺人 (新字新仮名) / 宮島資夫(著)
今時こんな風俗をしていると警察から注意されるが、その頃は裸体はだか雲助くもすけが天下の大道にゴロゴロしていたのだから、それから見るとなんでも無かった。
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
何から何まで揃へて、丸で裸体はだかの人でも引取りに行くやうに、大風呂敷に包み、年老いた祖母と二人で、こつそり人目を忍び、家を出て行つたのである。
父の帰宅 (新字旧仮名) / 小寺菊子(著)
幸はいかにも恐ろしい手から逃がれでもするように急いで遠くまで這い出してから、裸体はだか膝頭ひざがしらを二つ並べたませた格好に坐っていつまでも泣いていた。
御身 (新字新仮名) / 横光利一(著)
それは、体の弱いお母さんと一緒に、涼しい山へ避暑に行つてゐたので、村の漁師の子供たちのやうに、一日裸体はだかで海につかつてゐられなかつたからです。
黒んぼ会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
そのうちとうとう五十たびぶってしまうと、こんどは着物きものをはがして、裸体はだかの上をまた五十たびちました。
人馬 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
それでも、勇助が、『なんぼなんでも、裸体はだかでは唄へません。』つていふと、それぢやつていふんで、閻魔が自分の着てゐた衣物きものいで勇助に着せたんだ相だ。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
心太ところてんをけに冷めたさうに冷して売つてゐる店、赤い旗の立つてゐる店、そこにゐるおやぢの半ば裸体はだかになつた姿、をりをりけたゝましい音を立てて通つて行く自動車
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
彼方此方あっちこっちへ往って、何処の家の風呂でもおかまいなしにのぞき込んで泣いていたが、しまいには空の浴槽ゆぶねの中へ裸体はだかで入っていたり、万一これをさまたげる者でもあると
風呂供養の話 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
れから大阪はあったかい処だから冬は難渋な事はないが、夏は真実の裸体はだかふんどし襦袢じゅばんも何もない真裸体まっぱだか
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
熱帯の住民が裸体はだかで暮しているからと云って寒い国の人がその真似をするわれはないのである。
津浪と人間 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
智恵子のこしらへてくれた浴衣ゆかたをダラシなく着た梅ちやんと、裸体はだかに腹掛をあてた新坊が喜んで来た。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
中津だろうか南兵だろうか? どっちにしろ見つかれば殺されるか、裸体はだかに引きむかれるかだ。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
……彼の子供は裸体はだかになつてゐた。ムク/\と堅く肥え太つて、腹部が健康さうにゆるやかな線に波打つてゐる。そして彼にはいつか二三人の弟妹が出来てゐるのであつた。
哀しき父 (新字旧仮名) / 葛西善蔵(著)
浴衣からは水がしたたり、真青な頬からワナワナ震へる唇にかけて、小さい浮草が一面にくつついてゐた。裸体はだかになり、娘の横に彼も倒れた。そして、親と子は列んで泣きだした。
反逆の呂律 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
どういふものか裸体はだかになると、鏡にうつる彼女の顔はまっ青だ。そしてやせて骨だらけな身体が死んだやうに白い。それに髪の毛ばかりが真黒でおもたさうに見えるのであった。
秋は淋しい (新字旧仮名) / 素木しづ(著)
私同然の道を歩まずにはいられなかったであろうということを——妻を裸体はだかに引きいて、後手うしろでくくり付けてみたり、これを床の上に引き摺り倒して、全身に擦過傷を負わせたり
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
裸体はだかの車夫が引ける武者絵の人力車に相乗あひのりせる裸体人はだかびと、青物市場いちばなどに見る如き土間に売品ばいひんを並べたる商家よ、中形ちゆうがた湯帷巾ゆかたを着たる天草をんなよ、あなさがな、悪きは数へさふらふまじ。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
お庭の木の葉が、赤やすみれにそまったかとおもっていたら、一枚散り二枚落ちていって、お庭の木はみんな、裸体はだかになった子供のように、寒そうに手をひろげて、つったっていました。
玩具の汽缶車 (新字新仮名) / 竹久夢二(著)
町には白い旗が、青い海を背景に翻っているものもあった。裸体はだか赤銅あかがね色に焼けた男や女を相手にして、次の村から村へ、町から町へと歩き、いつしか国境を越えて隣の国へ入った。
(新字新仮名) / 小川未明(著)
どうするッてどうもなりゃあしねえ、裸体はだかになって寝ているばかりヨ。
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「顔だけ見ているとそうでもないが、裸体はだかになると骸骨がいこつだ。ももなんか天秤棒てんびんぼうぐらいしかない。能く立ってられると思う、」と大学でがんと鑑定された顛末てんまつを他人のはなしのように静かに沈着おちついて話して
さて裸体はだかのままでは文明の婦人とはいわれない、それは禽獣きんじゅうと雑居していた蒙昧もうまいな太古にかえるものですから、お互にどうしてもその裸体はだかを修飾して文明人の間に交際つきあいの出来るだけの用意が必要です。
女子の独立自営 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
木の葉落ちつくせば、数十里の方域にわたる林が一時に裸体はだかになって、あおずんだ冬の空が高くこの上に垂れ、武蔵野一面が一種の沈静に入る。空気がいちだん澄みわたる。遠い物音が鮮かに聞こえる。
武蔵野 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「ばかな、俺ら今年は裸体はだかで田植だ」
錦紗 (新字新仮名) / 犬田卯(著)
星屑戴いて飯場へ戻る裸体はだかの章魚人夫
サガレンの浮浪者 (新字新仮名) / 広海大治(著)
相州鎌倉の某寺に裸体はだか地蔵がある。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
入って来た瞬間は、いかにも病み上りのような弱そうな人に見えたが、裸体はだかになった筋骨は、さほど衰えたものではありません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで裸体はだかで手をかれて、土間の隅を抜けて、隣家となり連込つれこまれる時分には、とびが鳴いて、遠くで大勢の人声、祭礼まつり太鼓たいこが聞えました。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その一面に白波を噛み出した曇り空の海上の一点を凝視しているうちに吾輩は、裸体はだかのまんま石のように固くなってしまったよ。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)