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蟠
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わだかま
ふりがな文庫
“
蟠
(
わだかま
)” の例文
蒼白い、悲哀が女の黒髪の直後に
蟠
(
わだかま
)
る無限の暗のなかに迷い入るとき、皮一重はアルコールでほてっても、腹の底は冷たい、冷たい。
愛と認識との出発
(新字新仮名)
/
倉田百三
(著)
或は木曾駒の金懸の小屋又は甲斐駒の屏風岩の小屋から上に露出しているような、恐ろしく大きな一枚岩の
蟠
(
わだかま
)
りも少ないようである。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
外に何も
蟠
(
わだかま
)
りのないことに安心して来たのであるから、妙に渋り勝な松村の詞を聞いてはあせり気味にならざるを得なかつたのである。
瘢痕
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
予は予が
最期
(
さいご
)
に際し、既往三年来、常に予が胸底に
蟠
(
わだかま
)
れる、呪ふ可き秘密を告白し、以て
卿等
(
けいら
)
の前に予が醜悪なる心事を暴露せんとす。
開化の殺人
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
此等の声は、段々と暗くなり、涼しくなつて行く夕暮の空気の中に、涼しげに賑やかに
蟠
(
わだかま
)
りなく響いた。蜩の声は止んでも聞えた。
秋の第一日
(新字旧仮名)
/
窪田空穂
(著)
▼ もっと見る
女は何んの躊躇もなく
艪
(
ろ
)
に寄ると、至って器用に漕ぎ始めながら、
蟠
(
わだかま
)
りのない調子で、——こう忠弘に用事をいいつけるのでした。
奇談クラブ〔戦後版〕:12 乞食志願
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「おとつゝあ、
喫
(
た
)
べてえ
物
(
もの
)
でもねえけえ、
俺
(
お
)
ら
明日
(
あした
)
川向
(
かはむかう
)
さ
行
(
い
)
つて
來
(
く
)
べと
思
(
おも
)
ふんだ」
勘次
(
かんじ
)
はまだ
幾
(
いく
)
らか
心
(
こゝろ
)
に
蟠
(
わだかま
)
りがあるといふよりも
土
(旧字旧仮名)
/
長塚節
(著)
ベルナルデーヌの街から河岸に出て、橋を渡ると、左には黒いノートル・ダムが高く
聳
(
そび
)
え、右には低い
死体収容所
(
ラ・モルグ
)
が
蟠
(
わだかま
)
っている。
雨の日
(新字新仮名)
/
辰野隆
(著)
快活で、
蟠
(
わだかま
)
りがなくて、話が好きで、碁が好きで、
暇
(
ひま
)
さえ有れば近所を打ち歩き、大きな
嚏
(
くしゃみ
)
を自慢にする程の罪のない人だった。
平凡
(新字新仮名)
/
二葉亭四迷
(著)
初めのうちは夜だけしか見えなかったのが今は真昼でも見えることに成り、
恰
(
あたか
)
も大空に恐ろしい龍の
蟠
(
わだかま
)
っている様にも思われた。
暗黒星
(新字新仮名)
/
シモン・ニューコム
(著)
ただ
斯様
(
かよう
)
に現実界を遠くに見て、
杳
(
はるか
)
な心にすこしの
蟠
(
わだかま
)
りのないときだけ、句も自然と
湧
(
わ
)
き、詩も興に乗じて種々な形のもとに浮んでくる。
思い出す事など
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
今迄私の心の隅の
蟠
(
わだかま
)
りとなっていた色々の事実が、この私の発見を裏書きでもする様に、続々思い出されて来るのでありました。
陰獣
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
あたかも
毘廬沙那大仏
(
びるしゃなだいぶつ
)
の虚空に
蟠
(
わだかま
)
って居るがごとき雪峰にてその四方に聳えて居る群峰は、菩薩のごとき姿を現わして居ります。
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
紅葉と私とは妙なイキサツから
気拙
(
きまず
)
くなっていたが、こうして
胸襟
(
きょうきん
)
を開いて語ればお互に何の
蟠
(
わだかま
)
りもなく打解ける事が出来た。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
しかし、客観的には内容が無いが、主観的にはです、米友の頭の中には、かなり米友として複雑なる感情が
蟠
(
わだかま
)
っているのです。
大菩薩峠:35 胆吹の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
初めに眼につくのは、広重や北斎の描いたような樹齢数百年と思われる松の古木が、点々と巨竜の
蟠
(
わだかま
)
る恰好で、蒼空に聳えている風景だった。
箱根の山
(新字新仮名)
/
田中英光
(著)
いつに似合はぬ口振りは、どうでも離縁さすまいの、心尽くしか、不憫やと、思ひながらも、いひ難き、事情の胸に
蟠
(
わだかま
)
れば。
したゆく水
(新字旧仮名)
/
清水紫琴
(著)
その中央で王座のように
蟠
(
わだかま
)
って君臨しているのが、黄銅製の台座の柱身にはオスマン風の
檣楼
(
しょうろう
)
、
羽目
(
パネル
)
には海人獣が
象嵌
(
ぞうがん
)
されていて、その上に
黒死館殺人事件
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
擬勢は示すが、川柳に曰く、
鏝塗
(
こてぬ
)
りの形に動く雲の峰で、蝋燭の影に
蟠
(
わだかま
)
る魔物の目から、
身体
(
からだ
)
を遮りたそうに、下塗の本体、しきりに手を振る。
菎蒻本
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
百日紅の大木の
蟠
(
わだかま
)
った其縁先に腰をかけると、ここからは池と庭との全景が程好く一目に見渡されるようになっている。
百花園
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
北東の方には、石狩、十勝、釧路、北見の境上に
蟠
(
わだかま
)
る連嶺が青く見えて來た。南の方には、日高境の青い高山が見える。
熊の足跡
(旧字旧仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
ただ私の胸にも昨夜以来モヤモヤと
蟠
(
わだかま
)
っているこの妙な気持を幾分でも
霽
(
は
)
らさなければ、どうしても気がすまなかった。
逗子物語
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
北東の方には、石狩、十勝、釧路、北見の
境上
(
きょうじょう
)
に
蟠
(
わだかま
)
る
連嶺
(
れんれい
)
が青く見えて来た。南の方には、日高境の青い
高山
(
こうざん
)
が見える。
みみずのたはこと
(新字新仮名)
/
徳冨健次郎
、
徳冨蘆花
(著)
不思議だといえば、あの本——岩波文庫の魯迅選集——に掲載してある作者の肖像が、まだ強く心に
蟠
(
わだかま
)
るのであった。
翳
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
僕等は赤彦君のまへに
偽
(
いつはり
)
を言ひ、心に暗愁の
蟠
(
わだかま
)
りを持つて
柹蔭
(
しいん
)
山房を辞した。
旅舎
(
やど
)
に著いて、
夕餐
(
ゆふさん
)
を食し、そして一先づ銘々
帰家
(
きか
)
することに
極
(
き
)
めた。
島木赤彦臨終記
(新字旧仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
書きぶりも自分のによく似た上、運ぶこころも自分へ向けてゐるものばかりであつた。あの虫のやうな女に、こんな
纏綿
(
てんめん
)
たる気持が
蟠
(
わだかま
)
つてゐたのか。
上田秋成の晩年
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
行く水の流、咲く花の
凋落
(
ちょうらく
)
、この自然の底に
蟠
(
わだかま
)
れる抵抗すべからざる力に触れては、人間ほど
儚
(
はかな
)
い
情
(
なさけ
)
ないものはない。
蒲団
(新字新仮名)
/
田山花袋
(著)
無批評に自分の尊貴を許すということは、自分の内に
蟠
(
わだかま
)
っている多くの性質の間の関係をことごとく変化せしめた。
自己の肯定と否定と
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
解らんものでございますから名御奉行は皆向うの云う事を聞きますに、心に
蟠
(
わだかま
)
りがあると言葉に濁りがあるから、目を眠って裁判を致されたと申しますが
政談月の鏡
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
此歳月の間に
如何
(
いか
)
なる進歩ありしか、如何なる退歩ありしか、如何なる原素と如何なる精神が此文学の中に
蟠
(
わだかま
)
りて、而して如何なる現象を外面に呈出したるか
明治文学管見:(日本文学史骨)
(新字旧仮名)
/
北村透谷
(著)
彼を中心とした一団はまことに
蟠
(
わだかま
)
りがない。彼を卑しめることなく、煙管の折れとマッチの軸によって生じる音色に聴き惚れる。そして、金を置く者があると
乞はない乞食
(新字旧仮名)
/
添田唖蝉坊
(著)
あれ以後、小右京のいきさつは、どっちからもまだ、その
蟠
(
わだかま
)
りを口にして解く機会もなくつい過ぎている。
私本太平記:05 世の辻の帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
この弊は近年に至るまで予の胸底に
蟠
(
わだかま
)
りて長く害毒を流したり。俗宗匠輩またこの法を慣用する者多し。
俳句の初歩
(新字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
自分は茲で、古い記憶を呼び覺して、夜の街の感想を説くことを、極めて愉快に感ずるのであるが、或一事の
蟠
(
わだかま
)
るありて、今往時を切實に忍ぶことを
遮
(
さへぎ
)
つて居る。
葬列
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
自分が本気になれない焦立たしさも
蟠
(
わだかま
)
っていて、ともすると
小競合
(
こぜりあい
)
が、佃との間に再燃しそうになった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
その木は地上に出ている部分だけを人は眺めているが、同じ深さにその根は地中に
蟠
(
わだかま
)
っているのである。
俳句への道
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
忽然
(
たちまち
)
樣々
(
さま/″\
)
な
妄想
(
まうぞう
)
が
胸裡
(
こゝろ
)
に
蟠
(
わだかま
)
つて
來
(
き
)
た、
今日
(
こんにち
)
までは
左程
(
さほど
)
迄
(
まで
)
には
心
(
こゝろ
)
に
留
(
と
)
めなかつた、
魔
(
ま
)
の
日
(
ひ
)
、
魔
(
ま
)
の
刻
(
こく
)
の
怪談
(
くわいだん
)
。
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
赤羽主任は、それをチラと見るや、
忽
(
たちま
)
ちにして脳裡に
蟠
(
わだかま
)
っていた疑問を
一掃
(
いっそう
)
し得ることが出来たのだ。
電気風呂の怪死事件
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
俺にとっては実に望外なことで、久しい間、心の中に
蟠
(
わだかま
)
ッていた鬱懐が一時に晴れあがるような気がした。生涯を通じて、この時ほど天空海濶な思いをしたことがない。
湖畔
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
しばらくすると、
二歳
(
ふたつ
)
になる子が、
片言交
(
かたことまじ
)
りに何やら言う声がする。
咲
(
え
)
み割れるような、今の女中の笑い声が揺れて来る。その笑い声には、何の濁りも
蟠
(
わだかま
)
りもなかった。
新世帯
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
針の痕は次第々々に巨大な
女郎蜘蛛
(
じょろうぐも
)
の
形象
(
かたち
)
を
具
(
そな
)
え始めて、再び夜がしら/\と白み
初
(
そ
)
めた時分には、この不思議な魔性の動物は、八本の
肢
(
あし
)
を伸ばしつゝ、背一面に
蟠
(
わだかま
)
った。
刺青
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
「要するに程度問題さ。晴れたって完全に湿気のないことはない。殊に低気圧の
蟠
(
わだかま
)
っている時は上から落ちて来なくても前後左右一種の雨に取り巻かれているんだからね」
ぐうたら道中記
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
このことは、金五郎と、勝則の、そして、組合の幹部の胸のなかに、共通に
蟠
(
わだかま
)
っていた不安であった。不安というより、戦慄をともなうような恐怖といった方が近かった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
著作者と出版業者との間に
蟠
(
わだかま
)
る情實などに拘泥せず、もとつ廣々とした自由な天地へ踏み出して行かれるかと考へ、一方には江戸時代から引き續いて來た作者氣質を脱して
桃の雫
(旧字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
私達は当時は彼がそんなに恐ろしい悪人とも思いませんでしたから、最早私達の事には、
蟠
(
わだかま
)
りを持っていないものと考えていましたが、それは私達がお人好すぎるのでした。
血液型殺人事件
(新字新仮名)
/
甲賀三郎
(著)
蛇で占う事、『淵鑑類函』四三九に、『詩経類考』を引いて、江西の人、菜花蛇てふ緑色の蛇を捕え、その
蟠
(
わだかま
)
る形を種々の
卦
(
け
)
と名づけ、禍福を判断し俚俗これを信ずと
出
(
い
)
づ。
十二支考:04 蛇に関する民俗と伝説
(新字新仮名)
/
南方熊楠
(著)
たとえば口にするも驚くべきことではあるが、一八二一年には、大運河と言わるる
囲繞溝渠
(
いじょうこうきょ
)
の一部が、ちょうどヴェニスの運河のように、グールド街に裸のまま
蟠
(
わだかま
)
っていた。
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
この問題は永く僕の心に
蟠
(
わだかま
)
っているもので、
今日
(
こんにち
)
もまだことごとく解決したとは断言しかねるが、近ごろことに感じたこともあるから、
愚考
(
ぐこう
)
を述べて世人の教えを
乞
(
こ
)
いたい。
自警録
(新字新仮名)
/
新渡戸稲造
(著)
前面に黒部別山
蟠
(
わだかま
)
る、半時間くらいにて雪崩れたるあり、右側に道あれど詳かならず、川原を進み尾根に取付き等してなかなか渉らず、力つき暗くなりたれば河原に野宿せり
単独行
(新字新仮名)
/
加藤文太郎
(著)
単に雷雨の後の天の川ならば、取立てていうほどのこともないが、雨は已に晴れて、しかも一方には雷のおさまった雲が
蟠
(
わだかま
)
っているというところに、多少複雑な趣が窺われる。
古句を観る
(新字新仮名)
/
柴田宵曲
(著)
蟠
漢検1級
部首:⾍
18画
“蟠”を含む語句
蟠踞
蟠居
蟠屈
蟠龍
竜蟠
蟠竜
蟠拠
蟠作
大伴蟠龍軒
蟠祭
蟠松矯樹
蟠竜軒
蟠簇
蟠結
蟠纏
蟠蜒
蟠蜛
鬱蒼蟠居
蟠桃河
蟠桃会
...