うつす)” の例文
浴室よくしつまどからもこれえて、うつすりと湯氣ゆげすかすと、ほかの土地とちにはあまりあるまい、海市かいしたいする、山谷さんこく蜃氣樓しんきろうつた風情ふぜいがある。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
弱々しい外光が、戸のすきだけの巾の白い線を、うつすりと障子に筋つけるのを見ると、電燈が消えるのも、もうすぐだといふ事が分つた。
ある死、次の死 (新字旧仮名) / 佐佐木茂索(著)
彼れは顯微鏡のカバーの上にうつすらたまつたほこり隻眼かためで見やりながら、實驗室に出入しなかつたこの十日間程の出來事を、涙ぐましく思ひかへしてゐた。
実験室 (旧字旧仮名) / 有島武郎(著)
日はひるすこし過ぎ、空は高いが、何処どこからとなく、うつすらした雲のかさが、白くよどむで来ては掻き消えてゆく。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
星明りにうつすりと浮んだ阿寒山の雪が、塵も動かぬ冬の夜の空を北に限つて、川向の一區域に燈火を群がらせた停車場から、鋭い汽笛が反響も返さず暗をつんざいた。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
あひだに、風呂敷ふろしきは、手早てばやたゝんでたもとれて、をんな背後うしろのものをさへぎるやうに、洋傘かうもりをすつとかざす。とかげが、またかごはなうつすいろへつつうつる。
艶書 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
星明りにうつすりと浮んだ阿寒山あかんざんの雪が、塵も動かぬ冬の夜の空を北に限つて、川向かはむかひ一区域ひとしきり燈光ともしびを群がらせた停車場から、鋭い汽笛が反響も返さず暗をつんざいた。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
おなひかりながら、やま樹立こだちみづながれと、あをく、しろく、うつすりといろわかれて、ひとツをはなれると、ひとツがむかへる。
月夜 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
葉といふ葉は皆黄金の色、曉の光の中で微動こゆらぎもなく、碧々あを/\としてうつす光澤つやを流した大天蓋おほぞらに鮮かな輪廓をとつて居て、仰げば宛然さながら金色の雲を被て立つ巨人の姿である。
葬列 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ぬまうへはなれるときあみそゝいでちるみづひかり、かすみかゝつたおほき姿見すがたみなかへ、うつすりとをんな姿すがたうつつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
葉といふ葉は皆黄金の色、暁の光の中で微動こゆるぎもなく、碧々としてうつす光沢つやを流した大天蓋おほぞらに鮮かな輪廓をとつて居て、仰げば宛然さながら金色こんじきの雲をて立つ巨人の姿である。
葬列 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
成程なるほど近々ちか/″\ると、しろちひさなはなの、うつすりと色着いろづいたのがひとひとツ、うつくし乳首ちゝくびのやうなかたちえた。
人魚の祠 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
翌朝あくるあさ目を覚ました時は、雨戸の隙を潜つて空寒うそさむく障子を染めた暁の光の中に、石油だけは流石に凍らぬと見えて、心を細めて置いた吊洋燈つりランプ昨夜よべの儘にうつすりと点つて居たが
菊池君 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かつせえまし、かたからむねあたりまで、うつすらとえるだね、ためしてろで、やつとげると、矢張やつぱあみかゝつてみづはなれる……今度こんどは、ヤケにゆつさゆさ引振ひつぷるふと
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
雨戸の隙を潜ってうそ寒く障子を染めた曉の光の中に、石油だけは流石に凍らぬと見えて、しんを細めて置いた吊洋燈つるしランプ昨夜よべの儘にうつすりとともつて居たが、茶を注いで飮まずに置いた茶碗が二つに割れて
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
……唯吉たゞきち見越みこしたはしに、心持こゝろもち會釋ゑしやくげたうなじいろが、びんかしてしろこと!……うつくしさはそれのみらず、片袖かたそでまさぐつた團扇うちはが、あたかつきまねいたごとく、よわひかつてうつすりと
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
うつすりと淺葱あさぎに、朱鷺ときに、くさはなあやつた。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)