ひじり)” の例文
ほんに、今日こそ、氷室ひむろ朔日ついたちじゃ。そう思う下から歯の根のあわぬような悪感を覚えた。大昔から、暦はひじりあずかる道と考えて来た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
ただに後の学侶・ひじり等の区別ばかりでなく、奈良朝頃からすでに、その行によって、法師にも浄行智行の分業があったものらしい。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
こんなこともお言いになり、なおこの人にだけはひじりの心持ちにもなれず、行為もお見せになることはおできにならないのであった。
源氏物語:42 まぼろし (新字新仮名) / 紫式部(著)
ひじりさとしていひけるは、汝が聞けるおのが凶事を記憶にをさめよ、またいま心をわが言にそゝげ、かくいひて指を擧げたり 一二七—一二九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
「じゃあ、源信僧都げんしんそうずの作だとか、弘法大師の彫りだとか、このお山にもひじりの彫った仏像がたくさんあるが、あれはどういうものだろう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
落ちたるは拾はずといふひじりの御代は遠いむかしの事で、今は国もまづしく民もまづしく政治もまづしく、宗教も教育もすべて無力である。
子供の言葉 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
これは子のひじりという有名な上人しょうにんが、初めてこの山に登った時に、ここで休んで、昼餉ひるげに用いた杉箸を地にさして行ったと伝えております。
日本の伝説 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
むかし快庵禅師くわいあんぜんじといふ大徳だいとこひじりおはしましけり。総角わかきより教外けいぐわいむねをあきらめ給ひて、常に身を雲水にまかせたまふ。
高野山には、父重盛しげもりの家来で、斎藤滝口時頼たきぐちときよりという侍が、今は出家して、滝口入道と名乗る立派なひじりになっていたのを頼っていったのである。
薄衣 幾たびおとゞめ申しても、お聞き入れがないばかりか、高野のひじりのおん供して、これからすぐにお立ちとは、情ないことでござりまする。
佐々木高綱 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
現身うつしみの人のひじり現身うつしみの鳥の雀と、雀とフランチエスコと、朝夕に常かくなりき。あなあはれ、世のつねの事にはあらずよ。
観相の秋 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
願阿弥陀仏がんあみだぶつと申されるおひじりは、この浅ましさを見るに見兼ねられて、義政公にお許しを願って六角堂の前に仮屋を立て、施行せぎょうをおこなわれましたが
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
むかし快菴禪師くわいあんぜんじ大徳だいとこひじりおはしましけり。總角わかきより教外けうぐわいむねをあきらめたまひて、つね雲水うんすゐにまかせたまふ……
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
けれどもこのひじり沢の水源地程私の心を惹きつけた場所はありません。夫はあながち二日三晩も水に不自由した揚句であった為ばかりではないようです。
日本アルプスの五仙境 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
大炊介の父の小太郎も清和から出た源氏の末流で、五代前から相州のひじり山に住みついて風摩という姓を名乗った。
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
それですから人民が榮えて、勞役に出るのにくるしみませんでした。それでこの御世を稱えてひじりの御世と申します。
慈眼房はわしにとっては受戒の師範である上に衣食住のこと皆ことごとくこのひじりに扶持をして貰った。だが法門をこの人に学んだ教えられたというわけではない。
法然行伝 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わが帆木綿の上なる穉子をゆすぶる傍にて、媼はうみつゝ、我に新しき祈祷を教へ、まだ聞かぬひじりの上を語り、またこの野邊に出づる劫盜ひはぎの事を話せり。
世間では内記のひじりと呼んだ。在俗の間すら礼仏誦経らいぶつじゅきょうに身心を打込んだのであるから、寂心となってからは、愈々精神を抖擻とそうして、問法作善さぜんに油断も無かった。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「此れと云うのも、自分には御佛の冥護が加わって居たのだ。自分は飽くまでも上人の仰せを守り、行く末高徳のひじりになって、必ず千手丸の菩提を弔ってやろう。」
二人の稚児 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その誓いの通りなさんした、源兵衛さんは、凡夫でいながらひじりも同然。見れば開山聖人さまの御影像も泣いていやしゃります。源兵衛さんは本望であろうわいなあ。
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
狂言の小歌にも「ここ通る熊野道者の、手に持つたも梛の葉、笠にさいたも梛の葉、これは何方いずかたのおひじり様ぞ、笠の内がおくゆかし、大津坂本のお聖様、おゝ勧進聖ぢや」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
それ怪しがりて抱き下ろして見るに、大師もとの姿になり給ひぬ。使驚きて帝にこの由奏す。帝、仰せられけるは、他国のひじりなり、すみやかに追ひ放つべしと仰せければ、放ちつ。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夫怒りて阿を打ってほとんど死せしめたと出るが、阿は高の知れた人間の女に、心を動かすような弱いひじりでなく、かつて林下に住みし時、前生に天にあって妻とした天女降って
法然ほうねん上人は念仏についていったではないか、「ひじりで申されずば、在家にて申すべし」云々、また「悪人は悪人ながらに」とも述べた。もとより自らの力で往生おうじょうが出来るのではない。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
砕身の苦を嘗めている高徳のひじりに対し、深夜の闇に乗じて、ひはぎのごとく、獣のごとく、瞋恚しんいの剣を抜きそばめている自分をかえりみると、彼は強い戦慄が身体を伝うて流れるのを感じた。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
何か呪文じゅもんを唱えるか、「ひじりの石」みたような薬をちょっぴり使って、霧がからりと霽れるような方法を科学者に求めてはいけない。そういうことが有り得ないというのが科学なのである。
霧を消す話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
この大意を述ぶれば、維摩のう道法とはひじりの道である。維摩の真意はこうだ。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
南都北嶺とやらのひじり僧たちも少からぬように見うけたが、一人ひとりとしてこの摩利信乃法師と法力を較べようずものも現れぬは、さては天上皇帝を始め奉り、諸天童子の御神光ごしんこうに恐れをなして
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そのころ高徳のひじりとして朝野に深く渇仰された西教寺の真盛上人であった。
酒の名をひじりおほせしいにしへおほひじりことのよろしさ (巻三・三三九)
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
大きなる歌のひじりはいにしへも今も抂げぬをよしと誨へき
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
ひじりならぬわが厭離のこころはきざした。
ひじりにもせよ、惡しき人にもせよ
ひじりにもせよ、悪しき人にもせよ
無漏慧むろゑ』にあそぶひじり
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
わかひじりののたまはく
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
わがひじり答へて曰ひけるは、しひたげられし魂よ、彼若しわが詩の中にのみ見しことを始めより信じえたりしならんには 四六—四八
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
またその高御門町から東、西新屋町より東北に向かって中新屋町に通ずる小路を、もとひじり辻子ずしといった。『坊目考』には
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
『今昔物語』に鹿の命に代わろうとしたひじりが、猟人かりうど松明たいまつの光で見合わせたという類の遭遇で、ほとんど凡人の発心ほっしんを催すような目であった。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
されば他国かのくにひじりの教も、ここの国土くにつちにふさはしからぬことすくなからず。かつ八三にもいはざるや。八四兄弟うちせめぐともよそあなどりふせげよと。
ひじり生れは、大和葛上郡——北葛城郡——当麻村というが、くわしくは首邑しゅゆう当麻を離るること、東北二里弱の狐井・五位堂のあたりであったらしい。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
願阿弥陀仏がんあみだぶつと申されるおひじりは、この浅ましさを見るに見兼ねられて、義政公にお許しを願つて六角堂の前に仮屋を立て、施行せぎょうをおこなはれましたが
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
現身うつしみの人のひじり現身うつしみの鳥の雀と、雀とフランチェスコと朝夕に常かくなりき。あなあはれ、よのつねの事にはあらずよ。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お身さまの叔父御は法性寺ほっしょうじ隆秀阿闍梨りゅうしゅうあじゃりでおわすそうな。世にも誉れの高い碩学せきがくひじり、わたくしも一度お目見得して、のあたりに教化きょうげを受けたい。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
仏道へ深く私を導こうとされるひじりが私のためにことさらこしらえておかれた場所であったと気がついて帰りました
源氏物語:55 手習 (新字新仮名) / 紫式部(著)
かれその大年の神神活須毘かむいくすびの神の女伊怒いの比賣に娶ひて生みませる子、大國御魂おほくにみたまの神。次にからの神。次に曾富理そほりの神。次に白日しらひの神。次にひじりの神五神。
さるにや気も心もよわよわとなりもてゆく、ものを見る明かに、耳の鳴るがやみて、恐しき吹降りのなかに陀羅尼だらにじゅするひじりの声々さわやかに聞きとられつ。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かかる状態を作っておいてから、わが魏の大軍がうごくにおいては、兵法のひじりがいっているごとく、必勝を見て戦い、戦うや必ず勝つ、の図にあたりましょう
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
井戸沢やほらノカイの方面は、針葉樹で凄いように暗いが、南方は遠く開けて眺望が好い。南アルプスが駒、朝与あさよからひじり上河内かみこうちざるに至るまで一目に見られる。
秩父の奥山 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)