羅漢らかん)” の例文
そこで、田山白雲が、その時の記憶を呼び起して、あの晩、岡本兵部の娘が羅漢らかんの首を抱いて、子守歌を唄ったのを思い出しました。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仏像についで羅漢らかん像も、老僧も、天女てんじょも、鳳凰ほうおうも、孔雀くじゃくも、鶴も、雉子も、獅子も、麒麟も、人の画も、形のある物は皆大声に笑った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
声を懸けると三人が三人、三体の羅漢らかんのように、御者台の上と下に仏頂面を並べたのが、じろりと見て、中にも薄髯うすひげのある一体が
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのカシミールの少し北の所にもやはり開けて居った国があって、そこには羅漢らかんあるいは菩薩ぼさつというような方も居られたそうです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
絢爛けんらんな色彩の古画の諸仏、羅漢らかん比丘びく比丘尼びくに優婆塞うばそく優婆夷うばい、象、獅子しし麒麟きりんなどが四壁の紙幅の内から、ゆたかな光の中に泳ぎ出す。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
湿気払いを飲んで、羅漢らかん雑魚寝ざこねのように高鼾たかいびきになった寄子部屋の隅っこで、左次郎だけはマジマジと眼をあいていた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
虎頭燕頷ことうえんがん羅漢らかんは暫く問はず、何びとも多少はヒステリツクである。殊に詩人たちは余人よりもはるかにヒステリツクな傾向を持つてゐるであらう。
宗助はそれから二三日して、始めてこの居士を見たが、彼は剽軽ひょうきん羅漢らかんのような顔をしている気楽そうな男であった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それに第一ああいう風な羅漢らかんさん的完成そのものが古い東洋です。おびんずるだもの、撫でられぱなしだもの。
多年病魔と戦つてこの大業を成したるの勇気は凛乎りんことして眉宇びうの間に現はれ居れどもその枯燥こそうの態は余をして無遠慮にいはしむれば全くきたる羅漢らかんなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
三尊さんぞん四天王十二童子十六羅漢らかんさては五百羅漢、までを胸中におさめてなた小刀こがたなに彫り浮かべる腕前に、運慶うんけいらぬひと讃歎さんだんすれども鳥仏師とりぶっし知る身の心はずかしく
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
腕力自慢の衣水いすい韋駄天いだてん走り、遥か遅れて髯将軍、羅漢らかん将軍の未醒みせい子と前後を争っていたが、七、八町に駆けるうちに、衣水子ははや凹垂へこたれてヒョロヒョロばしり、四
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
円福寺の方丈の書院の床の間には光琳こうりん風の大浪おおなみ、四壁の欄間らんまには林間の羅漢らかんの百態が描かれている。
はては村中の大けんかになったとさ等、大嘘を物語ってやって、事実の祖父の赤黒く、全く気品のない羅漢らかん様に似た四角の顔を思い出し、危く吹き出すところであった。
虚構の春 (新字新仮名) / 太宰治(著)
羅漢らかん跋陀羅ばつだらというのがある。馴れた虎をそばに寝かして置いている。童子がその虎を怖れている。Bhadra とは賢者の義である。あの虎は性欲の象徴かも知れない。
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
真黒に陽やけした、羅漢らかんさまみたいな男だった。特におでこがてらてらに黒光りしていて、そのまわりをキリストのあのイバラのように、もじゃもじゃの髪がかこんでいる。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
信州では千国の源長寺が廃寺はいじになった際に、村に日頃から馬鹿者扱いにされていた一人の少年が、八丁のはばという崖の端を遠く眺めて、「あれ羅漢らかんさまが揃って泣いている」
幻覚の実験 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
気晴しに参詣さんけいでもするがいと云われて、母と同道で本所の五つ目の五百羅漢らかんへ参詣の帰りみち紀伊國屋友之助きのくにやとものすけの大難を見掛け、日頃の気性ぐに助けようとは思いましたが
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私は今の美術学校の前身である画学校で絵を習いましたが、その時分の先生が鈴木松年さんで、なかなか筆の固い人で、虎とか羅漢らかんとか松とかと、そんなものばかり描いておられました。
雷同性に富む現代女流画家 (新字新仮名) / 上村松園(著)
「首のない者が夜業も致すまい。では、久方ぶりに篠崎流の軍学小出しに致して、ゆっくり化物屋敷の正体見届けてつかわそうぞ。羅漢らかん共は何名位じゃ。京弥、伸び上がって数えてみい」
わたしの識っている人で、鋸山の羅漢らかんさまへお参りに行ったのもありましたが、蛇の話は聴きませんでした。別にどうするということも無いでしょうが、それでも気味がよくありませんね。
半七捕物帳:55 かむろ蛇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
奥と入口に魚油の灯がとろとろと燃えて、老若男女の五百羅漢らかん
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、羅漢らかんのごとき道衆どうしゅうと、仙骨そのもののような老真人ろうしんじん(道士の師)が、門に出迎え、礼をあつく、いたわってくれた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その話のうちで最も多く一座の興味をいたのは、鋸山の日本寺の千二百羅漢らかんの話でありました。その千二百羅漢のうちには必ず自分の思う人に似た首がある。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仏壇のそばには羅漢らかんが立っていたがその羅漢像もそれぞれ一方の眼が潰れていた。武士はまた天井を見た。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
が、そんなことを眼中に置かないでも、鳳凰ほうわう羅漢らかんなんぞは、至極しごく結構な出来だと思ふ。あの位達者で、しかもあの位気品きひんのある所は、それこそ本式に敬服のほかはない。
俳画展覧会を観て (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
この居士こじやまてもう二ねんになるとかいふはなしであつた。宗助そうすけはそれから二三にちして、はじめてこの居士こじたが、かれ剽輕へうきん羅漢らかんやうかほをしてゐる氣樂きらくさうなをとこであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
諸王の為にひそかに謀る者を誰となす。曰く、諸王のゆうを燕王となす。燕王のに、僧道衍どうえんあり。道衍は僧たりといえども、灰心滅智かいしんめっち羅漢らかんにあらずして、かえってれ好謀善算の人なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
心得こゝろえたか、とかたらせたまへば、羅漢らかん末席まつせきさぶらひて、悟顏さとりがほ周梨槃特しゆりはんどくこのもしげなる目色めつきにて、わがほとけ、わが佛殿ほとけどの道人だうじん問答もんだふより、ふすま男女なんによ睦言むつごと、もそつとおきなされとふ。
妙齢 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
現に東京本所の五百羅漢らかんの住職もし、その後は宗内しゅうないにも河口慧海かわぐちえかいという名がやかましく言われるようになったから、自分さえ寺を持つという考えがあれば非常に便宜べんぎな地位を占めて居ったのであります。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
留置場で初めて会ったときの、あの黒光りした羅漢らかんみたいなアビル、ひょうたん池のほとりのあのガタ公みたいな、でも何か神秘的だったアビルとは——ラツサゲ(人相)が単に変っただけではない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
庫裡くりの外だった。真っ裸な男が、井戸のほうから歩いてくる、まるでいぶしにかけた羅漢らかんである。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のもっとも嫌うのは羅漢らかんの様な骨骼こっかく相好そうごうで、鏡に向うたんびに、あんな顔に生れなくって、まあかったと思う位である。その代り人から御洒落おしゃれと云われても、何の苦痛も感じ得ない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
木彫りの羅漢らかんのように黙々と坐りて、菩提樹ぼだいじゅの実の珠数ずず繰りながら十兵衛がらちなき述懐に耳を傾け居られし上人、十兵衛がかしらを下ぐるを制しとどめて、わかりました、よく合点が行きました
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
それは石の羅漢らかんの首ばかりです。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
孤雲はその時、ずっと下の渓流のふちに平たいいわを選んで、羅漢らかんのように坐っていた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すだれ越しにチラと見ると、羅漢らかんのような裸ぞろいが、よからぬ弄戯あそびふけっている。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると文観は、眠っていた羅漢らかんが、とつと、大欠伸おおあくびでも発するように
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)