いまし)” の例文
突棒つくぼう刺叉さすまたというようなものを押立てた同勢が、その中へ高手小手にいましめた一人の者を取押えながら、引き立てて来たのであります。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
また一匹ひとつはその腕にからみてはじめの如く彼をいましめ、かつ身をかたくその前に結びて彼にすこしも之を動かすをゆるさゞりき 七—九
神曲:01 地獄 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
も見ずして逃去にげさりけり役人は外の者にかまひなくつひに多兵衞願山の兩人を捕押とりおさへ高手小手にいましめつゝ夫より家内をあらためて町内へあづけ兩人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
さきに采女をいましめる時に彼等は不用意にもその太刀を奪い取るのを忘れていたので、縛めから放たれた采女は早くも太刀をぬいた。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二人はいましめられている松の根元を転々としながら、どうかして、なわを噛み切ろうと、さまざまにもだえて体をえびのごとく折り曲げた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして苦しむことも少なくなるだろう。しかしもっともいけないのは、身をいましめない束縛やのがれ得る義務などをもってることである。
大分離れているので、表情までは分らないが、今はもうすっかりいましめを解かれて、心なしか、明るく元気になったらしく見える。
役人は彼等をいましめたのち、代官の屋敷へ引き立てて行った。が、彼等はその途中も、暗夜やみよの風に吹かれながら、御降誕ごこうたんの祈祷をじゅしつづけた。
おぎん (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
床下よかしたから死骸しげえが出る所を見ると、屹度けっと調べをなければ成らぬと、お役所やこしょまでまえれとたちまちきり/\っといましめられて、庄吉が引かれみしたと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
諸手もろてをばいましめられたり。我身上みのうへは今や獵夫さつをに獲られたる獸にも劣れり。されど憂に心くらみたる上なれば、苦しとも思はでせくゞまり居たり。
大人になって、偉い人になって、遊びに行くと誓った私はお屋敷の子の悲哀かなしみを抱いておきてられいましめられわずかに過ぎし日を顧みて慰むのみである。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
コックが旨を領して退出すると、間もなく、いましめを解かれた早苗さんが、北村という船員に手をとられてはいってきた。
黒蜥蜴 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立騒ぐ召つかいどもを叱りつも細引ほそびきて来さして、しかと両手をゆわえあえず奥まりたる三畳の暗き一室ひとま引立ひったてゆきてそのまま柱にいましめたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
槍、竹槍、長脇差、大鎌、鋤の類を、日光にギラギラ光らせた、浪人と百姓との群であり、高手小手にいましめた三人の男を、中に囲んで走って来た。
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と云う者がある、——見ると、後手にいましめられたまま、猿轡さるぐつわを外して、髪を振乱した女……思いもかけぬ町であった。
松林蝙也 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そうかと思うと、内府殿は父のいましめを解いて礼を厚うして引見なされ、父もその昔の五奉行の随一、佐和山二十三萬石の格式を以て対面したと云う話。
聞書抄:第二盲目物語 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
あつ! それはカテリーナだ! だが、この時、ダニーロは五体を鎖でいましめられたやうに覚えて、物を言はうとしても、唇が動くだけで声は出なかつた。
いましめからでも解かれたやうに、一同は急にくつろいで、陽気に、がやがやとしやべり出した。「やれやれ!」といつたやうに大きな吐息をもらすものさへあつた。
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
はしごをはずされて三階にいましめられていても、彼女たちは、いろいろな知恵をふるって鼠のように登って来て、縛めを解いてくれて、そこでお話をせびったり
英雄一たびその志すところに失敗せば、かの行為は、奸賊かんぞく強盗ごうとうの行為をもって目せらる。我らは衆人環視のうちに捕えられいましめられ、暗獄あんごくのうちに幽閉ゆうへいせられる。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
従来婦人をいましめてその縄をもつて自分勝手に動かした人達の手からその縄を取り返す事を云つたのです。
男性に対する主張と要求 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
やがて太き麻縄あさなわもて、犇々ひしひしいましめられぬ。そのひまに彼の聴水は、危き命助かりて、行衛ゆくえも知らずなりけるに。黄金丸は、無念に堪へかね、切歯はぎしりしてえ立つれば。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
私は愛を犠牲献身の徳を以て律しいましめていてはならぬ。愛は智的生活の世界から自由に解放されなければならぬ。この発見は私にとっては小さな発見ではなかった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
然うして急いで竜次郎のいましめを解いて、縄の喰入った痕を、血の通うようにさすってやるのであった。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
これをける貫一は鉄繩てつじようをもていましめられたるやうに、身の重きにへず、心のうたくるしきを感じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人夫の背負うていた私の写生箱は、いつか細引のいましめを逃れて、カラカラと左のたにへ落ちた。ハッと思って下をのぞくと、幸いに十数間の下で樹の根にさえぎられて止まっている。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
生れて来た子供は、よかれあしかれ、そんな運命のかせの中で苦しまねばならないのだ。その子供は歴史を作るどころか、定められた歴史の網にいましめられた小鳥に過ぎない。
捕り手に囲まれた悪人の最後のやうに忽ちいましめられてもとの牢獄へ伴れ戻されてしまつた。
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
将門が醍醐の開基理源大師の法力ほふりきいましめられ、さらくびに遭つたのを残念がつて、首が空を飛んで来たのを拾つたのだといふが、事に依つたら、大師が申請まをしうけたのかも知れない。
自分をいましめている陰闇なる鎖から逃れんとするかのように、彼はむやみと歩き出した。
掠奪せられたる男 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
木華里ムカリ (縛された手を振り、怒って)いいや! 軍使を扱う途を知らぬから、肝心の使いの趣きがこの口から出ないのだ。まずこのいましめを解いて、相当の礼をもって対するがよい。
ジルベールがたちまち高手籠手にいましめられたのでルパンも太息といきして起ち上った。
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
いましめさえけば、逃れる道もあるでしょうが、んなに意地悪く縛ったものか、あせればあせるほど縄目が喰い込んで、月の光の下に、豊満な肉塊が、ただピチピチとうごめくばかりです。
裸身の女仙 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
かくも人目を忍んでなされなければならないきびしい悪のいましめと、脅迫と
そして彼らがやっと私のいましめを解いて、坐ることを許してくれたときには、もう知覚が失われるのを感じた。宣告——恐ろしい死刑の宣告——が私の耳にとどいた最後のはっきりした言葉であった。
落穴と振子 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
役人達はあわてて白洲へ飛び降りて、怪量のいましめを解いて無礼を詫びた。
轆轤首 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
何者かと思って振返ると、心中でも仕損じた駈落者かけおちものとおぼしく、橋際はしぎわ晒者さらしものになっている二人の男女があって、その両手は堅くいましめられている処から一心に種彦の袂をば歯でくわえていたのであった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「絵を踏まむとせしものを、何故に切支丹なりとていましめけむ」
白くれない (新字新仮名) / 夢野久作(著)
いましめたる男を一人随へて歩み寄る。)
いましめの糾を断ちて凡ゆる人を解放し
プロパガンダ (新字新仮名) / 加藤一夫(著)
黄銅鎧ふアカイアの一人酷くいましめて
イーリアス:03 イーリアス (旧字旧仮名) / ホーマー(著)
草花の鎖で以ていましめた。又、顳顬こめかみ
走り寄って、いましめを切りほどき、猿ぐつわを外してやると、待っていたように、女は、わッと声を立てて、そこへ泣き伏してしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
問はゞ左りへあやなし越前とやらめい奉行でも何のおそるゝ事やあらんと高手たかて小手こていましめの繩のよりさへ戻す氣で引れ行くこそ不敵ふてきなれ。
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
大分離れてゐるので、表情迄は分らないが、今はもうすつかりいましめを解かれて、心なしか、明るく元氣になつたらしく見える。
立騒たちさわめしつかひどもをしかりつも細引ほそびきを持て来さして、しかと両手をゆはへあへず奥まりたる三畳の暗き一室ひとま引立ひつたてゆきてそのまま柱にいましめたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
遠い間を置いてときどき、反抗した個人が、強健な芸術家や無拘束な思想家が、そこから出て来て、乱暴にいましめを断ち切り、町の番人らを当惑さした。
彼の傍らには一人の若武士——すなわち神保市之丞が厳重に縄でいましめられながら捨てられたように据えられている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
友を殺し、女に別れ、國を去りて、兇賊の馬背にいましめられ、カムパニアの廣野をす。一切の事、おもへば夢の如く、その夢は又怪しくも恐ろしからずや。
と云う娘の声に、はっと気を取直して走り寄ると、手早く娘のいましめを切り放した。——とそのとたんに娘が
お美津簪 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)