細引ほそびき)” の例文
二階の方は、相も変らぬ黄色のペンキで塗ってあり、階下には、馬の頸圏くびきだの、細引ほそびきだの、環麺麭バランカだのを売っている店が並んでいる。
目をこらして、彼の降りて来た個所を見ると、格天井の隅の一枚が、ポッカリ黒い穴になって、そこから一本の細引ほそびきがたれている。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ブル/\ふるえて居る新吉に構わず、細引ほそびきを取ってむこうの柱へ結び付け、惣右衞門の側へ来て寝息をうかがって、起るか起きぬかためしに小声で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前の晩運び下しておいた私のトランクは、細引ほそびきが掛かつて入口のところにあつた。六時までには、ほんの數分しかなかつた。
立騒ぐ召つかいどもを叱りつも細引ほそびきて来さして、しかと両手をゆわえあえず奥まりたる三畳の暗き一室ひとま引立ひったてゆきてそのまま柱にいましめたり。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あとは自分でも人足の姿に身を変え、下男の佐吉に言い付けて裏の木小屋から「せいた」(木曾風な背負子しょいこ)を持って来させた。細引ほそびきまで用意した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
鍛冶倉はお豊をっておいて、そこに投げ出してあった細引ほそびきを拾い取ると片手に持って、金蔵を膝の下に組み敷く。
一男の手は風のように早く動いて職工頭をしばってある細引ほそびきをほどいて、そのぐったりした体を両腕で抱いた。体の重さで、彼はバケットの中でよろめいた。
秋空晴れて (新字新仮名) / 吉田甲子太郎(著)
何やつの仕業しわざか、大小ふたつとも、何時の間にか強い細引ほそびきで、さやからつかへかけて岩矢搦がんじがらめにしばってあるのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
それからやっと長椅子ながいすへかけると、あっけにとられた細君に細引ほそびきを持って来いと命令した。常子は勿論夫の容子ようすに大事件の起ったことを想像した。第一顔色も非常に悪い。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
両側の建物の出窓という出窓からは往来の上じゅう細引ほそびきを張りめぐらして、襁褸おしめ同然の襤褸ぼろ着物が一杯に懸け連ねてあるし、私のところへ来るまでにも長いお邸勤めの生活で
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
大八車だいはちぐるまが三台、細引ほそびきだの滑車だの手落ちのないよう万事気を附け、岡倉校長を先導に主任の私、山田、後藤、石川、竹内、その他の助手、人足にんそくなど大勢が繰り込みましたことで
見るに身は細引ほそびきにて縛られ口には猿轡をはめてあり友次郎は見も悼ましくまづしばりし繩を解捨ときすて猿轡さるぐつわをものくるにとく手遲しとお花は友次郎に抱付いだきつき流石さすがに餘處を兼しか聲をも立ず泣けるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
紫色や桃色のいなずまがぱっ/\と一しきり闇に降る細引ほそびきような太い雨を見せて光った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
これはそれまでにめいめいその準備したくをしていることではあるが、持合せのないもの、または当夜に限って必要なもの、たとえば槍、薙刀なぎなた、弓矢の類を始めとして、おのかすがい玄能げんのう懸矢かけや竹梯子たけばしご細引ほそびき
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
愈よ荷物を片付けようと云うので箪笥を細引ほそびきしばって、青山の方へもって行けば大丈夫だろう、何もただの人間を害する気遣きづかいはないからと云うので、青山の穏田おんでんと云う処に呉黄石くれこうせきと云う芸州げいしゅうの医者があって
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
首へ巻いてあった細引ほそびきは取り外してありますが
そして、ある月のよい晩のこと、窓の外に出っ張っている、電線引込用の小さな横木に細引ほそびきをかけて、首をくくって自殺をしてしまったのです。
目羅博士の不思議な犯罪 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立騒たちさわめしつかひどもをしかりつも細引ほそびきを持て来さして、しかと両手をゆはへあへず奥まりたる三畳の暗き一室ひとま引立ひつたてゆきてそのまま柱にいましめたり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
あの時、針ヶ別所の山の中で、鍛冶倉かじくらの奴にひどい目にって、首へ細引ほそびききつけられましたがな、わしはまた、鍛冶倉を山刀で無暗むやみに突き立てて突き殺しましたよ。
人足が法被はっぴを腰に巻き附け、小太い竹の息杖を突き、胴中どうなか細引ほそびきで縛った長持を二人でかつぎ、文身ほりものといってもかざりではございません、紺の木綿糸を噛んで吐き附けた様な筋彫すじぼり
見て心中に點頭うなづき時分はよしと獨り微笑ほゝゑあたりを見廻せばかべに一筋の細引ほそびきを掛て有に是屈竟くつきやう取卸とりおろし前後も知らず寢入ねいりしばゝが首にまとひ難なくくゝり殺しかね認置みおきし二品をうばとり首に纒ひし細引ほそびき
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
不思議な事に、その中の一人は、素裸で、仰向けに地面ぢびたへ寝ころんでゐる。おまけに、どう云ふ訳だか、細引ほそびきで、手も足もぐる/\巻にされてゐる。が格別当人は、それを苦に病んでゐる容子もない。
酒虫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
首へ卷いてあつた細引ほそびきは取り外してありますが
「さあ、細引ほそびきの用意はいいか。」
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それと見ると、黒眼鏡の小男は、どこからか長い細引ほそびきを取出して、素早く川手氏の足元に走り寄り、いきなり足の先からグルグルと巻きつけ始めた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
七兵衛は行燈あんどんの下で麻をしごいて、それを足の指の間へはさんで小器用に細引ほそびきこしらえながら
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
柱に縛付しばりつけてあった細引ほそびきへ火が付きますと、もとより年数のってしょうのぬけた細引でございますから、焼け切れますると、の箱が一つべっついへ当り、其のはずみに路地へ転げ落ちましたから
このさるは、だれ持主もちぬしといふのでもない、細引ほそびき麻繩あさなは棒杭ばうくひゆわえつけてあるので、あの、占治茸しめぢたけが、腰弁当こしべんたう握飯にぎりめし半分はんぶんつたり、ばつちやんだの、乳母ばあやだのがたもと菓子くわしけてつたり
化鳥 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これあるより早速彦三郎を呼出されしに細引ほそびきにてしばりまゝ白洲へ引据ひきすゑたり時に越前守殿此體このていを見られ是は何か仔細しさいありはやくも察せられしかばしづかに詞をはつし如何に彦三郎其方が父彦兵衞事去冬人を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
グルグル巻きに細引ほそびきで縛られ、手拭の猿轡をはめられて、物もいえず、身動きもできぬ哀れな有様で転がっていた。
偉大なる夢 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
細引ほそびきの残りを見附け、それを又作の首っ玉へ巻き附け、力にまかせて縊附しめつけたから、又作はウーンと云って、二つ三つ足をばた/\やったなり、悪事のばちで丈助のためにくびり殺されました。
細引ほそびきの麻縄で棒杭ぼうぐいゆわえつけてあるので、あの、湿地茸しめじたけが、腰弁当の握飯を半分ったり、坊ちゃんだの、乳母ばあやだのが、たもとの菓子を分けて与ったり、あかい着物を着ている、みいちゃんの紅雀べにすずめだの
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私は矢庭やにわに飛出して、用意の細引ほそびきをうしろから、兄の——その私と少しも違わないふたごの片割れ——の首へまきつけると、死もの狂いで締めつけました。
独楽こまひもなどぎ足した怪しい細引ほそびきで其の箱をはりつるし、紐のはし此方こっちの台所のあがり口の柱へ縛り附け、あおぬいて見たところ、屋根裏がくすぶっていますから、箱のつるして有るのが知れませんから
書生達は棒切れや細引ほそびきを用意して、金庫の前に待ち構えた。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)