ひろ)” の例文
わしはあのかんが好きでなア、斯漢愚漢このかんぐかんと書いてありさうなひろい額を見ながら、默つて煙草を吸うてゐるだけで、氣持が好かつたわい。
ごりがん (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
またいう、コンモードは水陸ともに棲む、たけ十五フィート周十八インチ、頭ひらたひろく、尾細長くてとがる、褐色で脊と脇に栗色を点す。
白樺しらかばの皮をかべにした殖民地式の小屋だが、内は可なりひろくて、たたみを敷き、奥に箪笥たんす柳行李やなぎごうりなどならべてある。妻君かみさんい顔をして居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
湖は渺漫としてひろく、銀色をした水の上には、一帆の影すら見出すことが出来なかつた。岸には芦荻の枯れたのが疎らに残つてゐるのが見えた。
船路 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
汝がひろき空氣の中に汝の面帕かほおほひぎて天のその調しらべをあはせつゝ汝の上を覆ふ處に現はれし時の姿をば寫し出さんとするにあたり 一四二—一四四
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
政府の方針が開拓に向けられてるのであるならば、まだほとんど手をつけていないひろいこの蝦夷地えぞちに、彼らの恰好かっこうの土地が無いはずはなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
発達の好い丸〻まるまるふとった豚のようなひろい肩の上にシッカリすげ込んだようにして、ヒョロヒョロと風の柳のように室へ入り込んだ大噐氏にむかって
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「ああ、人間がいない、人間がいない。天地の間は、こんなにひろいのに、どうして人間は、こういないのだろう!」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いずれも肩幅がひろ胛肉こうじゅう隆々として勃起している、山形分類を行えば、先ず穹窿ドーム形の部に入るべきであろう。
日本山岳景の特色 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そして根際ねぎわになったところもことごとく内へ入って、前の盆のようにひろかった腫物とは思われなかった。そこでうすものの小帯から佩刀はいとうをぬいた。その刀は紙よりも薄かった。
嬌娜 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
家を倒すなんてそんなことはほんの少しだからね、木を倒すことだよ、これだって悪戯いたずらじゃないんだよ。倒れないようにして置けぁいいんだ。葉のひろい樹なら丈夫じょうぶだよ。
風野又三郎 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
体を動かすことの出来ない病人は昨夜ゆうべ初めて特に院長の診察を受ける時、手を通しやすいように、ひろくほどかれた白地の寝衣ねまきの広袖から、力ない手を良人の方へ延ばした。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
貴婦人はこの秋霽しゆうせいほがらかひろくして心往くばかりなるに、夢など見るらん面色おももちしてたたずめり。窓を争ひて射入さしいる日影はななめにその姿を照して、襟留えりどめなる真珠はゆる如く輝きぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ロダン夫人は無雑作に一方口いつぱうぐち入口いりくちからはひつて来られた。背の低い婦人である。白茶しらちやに白いレイスをあしらつた上被タブリエ風のひろい物を着てられる。自分の手を最初に執つて
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
気が附いて見ると、男子は大股おおまたひろい文明の第一街を歩いている。哀れなる女よ、男と対等に歩もうとするにはあまりに遅れている。我我は早くこのこみちより離れて追いすがりたい。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ひろさ二尺ぐらい、仲密君が蓮の花を植えるために掘ったもので、この池の中からかつて半朶はんだの蓮の花を見出すことが出来なかったが、蝦蟇を飼うには実に持って来いの場所であった。
鴨の喜劇 (新字新仮名) / 魯迅(著)
足一本でいつまでも立っていて、も一つの足を直角に伸ばしていられる位、丈夫なのです。丁度地に根を深くおろしている木のようなのですね。肩と腰のひろい地中海の typeチイプ とも違う。
花子 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
それが高くひろ碧空あおぞらに大きく輝いているのである。
はなしの話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
霧が來去するので何程のひろさがあるか朦朧として、たゞ人の想像に任せるものとして見えたのも却つて興があつた。
華厳滝 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
ひろく湾入したイシカリの海を、その北方の口にあたって区切るマシケあたりの岬であった。昼ならば、河口を越えて、一直線にあおあおと見わたせる。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
「宮中の古楽もよいが、さすがに相府の楽士の譜は新味があるし、哀調がありませんな。なんだか、心がひろくなって、酒をのむにも、大杯でいただきたくなる」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
はてしなくひろき天涯未だこぞりて一の色とならず、夜その闇をことごとく頒ち與へざるまに 七〇—七二
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
建具たてぐ取払って食堂がひろくなった上に、風が立ったので、晩餐のたくすずしかった。飯を食いながら、ると、夕日の残る葭簀よしずの二枚屏風に南天の黒い影がおどって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
白茶に白いレイスをあしらつた上被風タブリエふうひろい物を着て居られる。自分の手を最初につて
巴里の旅窓より (旧字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
かえってひろいだけに、徒渉の回数は少い、深山の渓流としては、先ず安楽な方で、小渋川や、槍ヶ岳の蒲田がまた谷などとは、深さと、急と、けわしさとにおいて、到底、比べられない。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ひろく牙大にしてこの騎士を撃たんとすすむ、両足獅のごとく尾不釣合に長く、首尾の間確かに二十二足生え、酒樽に似て日に映じて赫耀かくようたり、その眼光りて浄玻璃じょうはりかと怪しまれ
「どうしたというんだ。肝腎のお婿さんの行方が知れないなぞは少しおかしいね。」とチョッキの間ぬけて衿のひろいフロックを着けて坐り込んでいた浅山は、興のさめたような顔をして
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
滿谷みつたに君外三人の画家が象鼻ざうびを上げた様な奇態な形の瓦楼ぐわろうの一かくを写生し終るのを待つて一緒に郊外に出たが、何処どこまでもみち幅のひろい、そして黄ばんだ白楊はくやうの並木の続いて居るのが愉快であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
ただちに西北に向ひて、今尚いまなほ茫々ぼうぼうたるいにしへ那須野原なすのがはられば、天はひろく、地ははるかに、唯平蕪ただへいぶの迷ひ、断雲の飛ぶのみにして、三里の坦途たんと、一帯の重巒ちようらん、塩原は其処そこぞと見えて、行くほどにみちきはまらず
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ただ林のひろい木のがぱちぱち鳴っている〔以下原稿数枚?なし〕
門を入ると寺内は思ひのほかに廓落くわらりひろくて、松だか杉だか知らぬが恐ろしい大きな木が有つたのを今より何年か前に斫つたと見えて、大きな切株の跡の上を
観画談 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
しかしこの地の雪にはとげがあり針があった。寒流に乗って北から運ばれ、何カ月も何カ月も地表は凍えていた。ひろい雪の曠野こうやには、風をさえぎる何物もなかった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
川幅がひろかったが、谷が次第にせばまって、水嵩みずかさが多くなったので、左の岸の森へ入った、山桜がたった一本、交って、小さい花が白く咲いているのが、先刻の白花の石楠花とふたつ
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
誰が誰をよぶのか、どこに声のぬしがいるのか、にわかに知るには余りに天地がひろい。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
恋をし結婚をして以後の自分のる世界は処女の時に比べて非常にひろい快活なものとなった。娘の頃の自分の心持にはひがんだり、偏したり、暗かったりした事の多かったのに気が附いた。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
この動作をもっとも強く助勢するは蛇の腹なる多くの横ひろい麟板で、その後端のへりが蛇が這いいる場面のいかな微細の凸起にも引っ掛かり得る。この麟板は一枚ごとに左右一対のあばらと相伴う。
薄汚うすぎたない煤煙色をした満天の雲はます/\南に流れる、水の様に、霧の様に、煙の様に。空は皆動いて居る。ひろい空のの一寸四方として動いて居ないのはない。皆恐ろしい勢を以て動いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
高く、ひろく、奥深い穹窿きゆうりゆう
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
門を入ると寺内は思いのほかに廓落からりひろくて、松だか杉だか知らぬが恐ろしい大きな木があったのを今より何年か前にったと見えて、大きな切株の跡の上を
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一と塊に鋳固いかためられたように黒くなって、その裏を奥穂高岳の尾根が、肩幅ひろくぶっ違いに走っている、三本槍の間には、岩壁の切れ込みが深くて、ジムカデだの、イワヒゲだのという
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
ただ恨むらくはその米俵巻絹世に存せざるなり〉という事は、『質屋庫』に引いた『五雑俎』四に、〈蘇州東海に入って五、六日ほど、小島あり、ひろさ百里余、四面海水皆濁るに、独りこの水清し
ひろ梔花色くちなしいろ上衣うはぎはおりたる
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
ことにこの辺りは川幅もひろくかつ差し潮の力も利けば、大潮の満ち来る勢に河も膨るゝかと見ゆる折柄、潮に乗りてきしり出づる玉兎のいと大にして光り花やかなるを
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
高く、ひろく、奥深い穹窿きゆうりゆう
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
幅はのみひろからぬ川ながら、船の往来のいと多くして、前船後船舳艫じくろふくみ船舷相摩するばかりなるは、川筋繁華の地に当りて加之しかも遠く牛込の揚場まで船を通ずべきを以てなり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
野蛮がひろはねを伸し
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)