っか)” の例文
「おじさんの家の焼けた年、お産間近に、おっかさんが、あの、火事場へ飛出したもんですから、そのせいですって……私にはあざが。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
新「本当にあんな事を云われるといやなものでね、私は男だから構いませんが、お前さんはさぞ腹が立ったろうが、おっかさんには黙って」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
りませんよ。おっかさんが風邪かぜいて、ひとりでててござんすから、ちっともはやかえらないと、あたしゃ心配しんぱいでなりませんのさ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
そのおっかさんに手を引かれて、なんの気もなくこのお堂へ連れられてきてみると、そこに、ジッと待っていたお武家様がありました。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
白樺しらかばの皮、がして来たか。」タネリがうちに着いたとき、タネリのおっかさんが、小屋の前で、こならの実をきながら云いました。
そして私と清ちゃんが年も背丈も誰よりも小さかった。柳屋の姉弟きょうだいにはおっかさんがなく病身のおとっさんが、いつでも奥でせきをしていた。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
「おれは、いつでも出かけられるばかりにして、お前の帰りを待っていたところさ。お前の留守に、おっかさんの枕屏風まくらびょうぶもできた。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「お前が、そういう心掛こころがけで買うのなら、時々は買ってもいい。お父様とうさまは、お好きなほうなのだから。」と、おっかさんは言いました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「鍛冶屋さんは知るまいが、わしは昔この辺に来たことがあるから、お前さんの家も好く知っておる、おとっさんもおっかさんも、まだに達者かな」
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それを相手の女に寄せさせたことが数々しばしば有った、実に頼もしい有難いおっかさんで、坊ちゃん挙周はお蔭で何程いくら好い男になっていたか知れない。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あとにはおっかさんが片息になって倒れているのを、みんなで介抱しているようであったが、離れた処から見ていた上に、言葉が普通あたりまえと違っているので
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「うん、あばたのりゅうってやつに金をもらったとき、おっかさんが買ってくれたのを大事に持っていたんだけど……鉱山を下りて箇旧へ来る途中で……」
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
分けてもお前のおっかさんと来たら不精で汚らしい、そのお母さんの炊いた御飯を、私は三月——三月といえば百日だ、私は百日の間辛抱して食っていた。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
善兵衛がおひとよしだから姉さんはあんなになってしまってと、おやそさんは言ったが、勝梅さんのおっかさんよりおやそさんの方がよっぽど貧乏性だった。
かけがえのねえちゃんやおっかあに、泣きを見せているろくでなしが、一匹や二匹はいるようだが、おいらの唄で、胸に手を置いてとっくり考えてみるがいいや。
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
このおっかさんの上に、また切下きりさげ御祖母おばあさんがいて、その御祖母さんがまた喜いちゃん喜いちゃんと呼んでいる。喜いちゃん御琴おこと御稽古おけいこに行く時間ですよ。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「おっかさん、おとっさんはんでしまわれたんでしょうか。」と、むすめなみだをためて、母親ははおやいますと
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
杜子春は老人の戒めも忘れて、まろぶようにその側へ走りよると、両手に半死の馬のくびを抱いて、はらはらと涙を落しながら、「おっかさん」と一声を叫びました。…………
杜子春 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「どうしてったって、お前、おっかあが亡くなってからというもの、出歩きをしたがっていけねえ」
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「アア、いけないいけない。留吉、堪忍してくれ、お前のおっかさんを殺したのは俺だッ!」
白痴の知恵 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
子供 小父ちゃん! おっかちゃんがね、仁丹おくれって。おぜぜ持って来たよ、これ。
「おっかさんも、お前も車へ乗れや、まだまだ遠いけに、歩くのはしんどいぞ……」
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「寿々ちゃん、あんた今日倉持さんのおっかさんにっただろう。」
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「いや、おっかさんだ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
起返って、帯をお太鼓にきちんとめるのを——お稲や、何をおしだって、叔母さんがとがめた時、——私はおっかさんのとこへ行くの——
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
由「そう/\おっかさんが来ておい/\泣いて居た時には、流石さすがわっちも気の毒に思いましたが、おたきの死骸はいまだに知れませんかえ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
万吉さんにも、一度話したことがあるけれど、おっかさんはお才といって、仲之町なかのちょうでは売れた芸妓げいしゃ、たいそうきれいなひとでした——。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「コートなんかは無くても済むものだなんて、おとっさんがやかましいことを言いますからね——まだおっかさんだけにしか見せません」
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「森へは、はいって行くんでないぞ。ながねの下で、白樺しらかばの皮、いで来よ。」うちのなかから、ホロタイタネリのおっかさんがいました。
「だめよ、ほんとにだめよ、叔父さんはお疲れよ、だから、今晩、おっかさんが精のつくものを、御馳走してあげるのだよ」
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「横浜の野沢屋さんの大奥おおおくさんからのおつかいものでございますの。なんでも六代目さんなんぞは、「おっかさん」というふうにお呼びなすってるようですね。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「だって、公然おもてむき、仲に立って世話でもする人はなかったの? おっかさんが付いて居ながら、大事な娘の身で、そんな、もう細君のある男の処へ行くなんて。」
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
思えば、名あるお武家さまを縁者えんじゃに持ちたいなどと大それた望みを起したお父つぁんやおっかさんがうらめしい。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
事件というのは西村のおっかさんが昨夜ゆうべのうちに首をくくったので、昨日きのうのハイカラ美人さんが殺したのじゃないかと、疑いがかかっているらしい……というのであった。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「おっかさん、そとはたいへんなかぜですね。おとっさんが、今夜こんやあたりかえっておいでなさるなら、おきれてくらでどんなにおこまりでしょうね。」と、むすめはいいました。
ろうそくと貝がら (新字新仮名) / 小川未明(著)
そしてお前がおっかさんに機嫌を悪くされないように。そうしたらわたしは大へん嬉しいのだから。
蘆声 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「先生、僕のおやじさんは大変やかましい人で、それにおっかさんが継母ままははですから、もし退校にでもなろうもんなら、僕あ困っちまうです。本当に退校になるでしょうか」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
“弟はそんな所へでも引張られてしまったのではないか、おっかさんはどうしたろう”
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
あたしの留守るすにも、ここへあしれたが最後さいご、おっかさんのはつぶれましょうと、きつくいわれたそれからこっち、なになにやらわからないままに、おせんのたのみをかたまもって、おきし
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「家では、納豆を少しも買わないの。」と、おっかさんに、ききました。
納豆合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「かわいそうだって仕方がねえや。おいらなんぞも、家が貧乏なんだから、おっかあが、間曳いてしまうつもりでいたのだが、おいらが生れるとニコニコと笑ったから、つい間曳く気になれなかったんだとさ」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
惡「此の小柄は滅法にいてえや、おっか彼奴あいつは今夜大宮の栗原へ泊ると云ったから、今夜あとから往って意趣返いしゅげえしに仕事をして来るからよ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もうその時、天人は、転んだ踊子が、おっかさんに抱かれるように、お悦に背を支えられて、しかししずかに、橋がかりを引いて行く。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「どうでしょう、おっかさん、今度の山林事件が稲葉へは響きますまいか。うちじゃ、もう庄屋でも、戸長でもありませんよ。」
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そうか。そんだらいい。」おっかさんは、タネリの顔付きを見て、安心したように、またこならの実を搗きはじめました。
オオこわい、というような気がして、私はおっかさんにすがりつくと、そのお侍は、いきなり私の手を取って、見飽みあかぬように、涙ぐむじゃアありませんか
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やっぱり近所に住んでいたが、みんな後家ごけさん——後家さんはおっかさん一人で、あとは老嬢おうるどみすだったのかも知れないが、女ばかり四人よったりしてキチンと住んでいた。
私は、その時初めて、お前のおっかさんの家を出ようという気が起った。自然ひとりでに心の移る日を待っていたらお宮を遊びに来さす為には早く他へ行きたくもなった。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
「あたい、自分の物なんか何もいらないの。お人形も、お着物べべもいらないから、そのチョビ安兄ちゃんのおとっちゃんとおっかちゃんを、探しだしてくださらない?」
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「だってかえりがおそくなると、おっかさんにしかられるもの。うみなんかとおくて、ゆくのはいやだ。」
雪の国と太郎 (新字新仮名) / 小川未明(著)