機会おり)” の例文
旧字:機會
けれども表向おもてむき兄の承諾を求めると、とうてい行われにくい用件が多いので、自分はつい機会おりを見ては母のふところに一人かれようとした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仕方が無いから、今に又機会おりも有ろうと、雪江さんの話は浮の空に聞いて、只管ひたすら機会おりを待っていると、忽ちガラッと障子がいて
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
村長は高山の依頼を言い出す機会おりの無いのに引きかえて校長細川繁はほとんど毎夜の如く富岡先生をうて十時過ぎ頃まで談話はなしている
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いずれ、また。——そのうちに春にでもなりましたら、一度ゆッくり、機会おりをこしらえてみなさんにもお目にかゝりましょう。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
あまつさへうゆる時は、いちに走りて人間ひとを騒がすなんど、片腹痛き事のみなるに、機会おりもあらばとりひしがんと、常より思ひゐたりしが。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
こうして正太と二人ぎりで居ることは、病院に来ては得難い機会おりであった。豊世はすすものか何かに出て居なかった。幸作も見えなかった。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これをでかばちに申したら、国家の安危にかかわるような、機会おりがないとも限らぬ、その拇指、その小指、その片手の働きで。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、まあ考えられるのですが、それならば今夜のような時を選ばずとも、もっと都合のいい機会おりがあったろうと思われます。
怪談一夜草紙 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この頃お前も滅多に外出たことがないし、丁度いい機会おりだと思うがね、招待状を貰うにはこれでも一通りや二通りの苦心じゃあなかったのさ。
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
義父司馬先生の御霊みたまに、もの申す。生前お眼にかかる機会おりのなかったことを、伊賀の柳生源三郎、ふかく遺憾いかんに存じまする。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これからはよくそのことわきまえて、あの竜神様りゅうじんさまのおみやへおまいりせねばならぬ。また機会おり竜宮界りゅうぐうかいへも案内あんないし、乙姫様おとひめさまにお目通めどおりをさしてもあげる。
野郎等二人はドッチミチこの船の貧乏神に違いないんだ。……だから機会おりがあったらつまみ出してくれようと思っているところへ、ツイこの間の事だ。
幽霊と推進機 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
かれこれ四五十日がほどは帰省の機会おりを得ざるべく、しばしの告別いとまかたがた、一夜あるよ帰京して母の機嫌きげんを伺いたり。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
臆し恥ずる所なく、往きて交り、機会おりあらば然るべき人にも仕うべし。されど、人と交るや、人しばしばその長所を喜ばず、その短所を喜ぶものと心得べし。
猿飛佐助 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
「そちたちには腕だめしゆるすぞ。よき機会おりぞ。日頃仕込んだ揚心流当身の術、心ゆくまで楽しむ用意せい」
誠心まごころのこもった主人の態度や愛嬌あいきょう溢れる娘の歓待もてなしは、彼の心を楽しいものにした。殊にお露が機会おりあるごとに彼へ示す恋の眼使いは、彼の心を陶然とうぜんとさせた。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして時たま乳母の背に負われて黒門を出る機会おりがあると坂下のカラカラに乾ききった往来で、独楽廻しやメンコをする町の子を見て、自分も乳母の手を離れて
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
、受け継ぐ時世でもなえし、阿母おふくろさまも、お亡なりなさったで……ちょうどお前は帰って来たし、ええ機会おりじゃから、そういうたんだが。民法も、変っとるでなア
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
その機会おりを失って、今では、当のおしかさんも、おやすさんも死んでしまったので残念におもっている。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
鹿子は認めて機嫌よく『おおそこに居やつたか。定めて旦那はもうお帰宅、どんな様子ぞ、見て来てたも。機会おりが好ければ、直ぐにも行く』と、いふも四辺あたりを憚る声。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
島崎さん、いつかの機会おりには、私を、月下氷人むすぶのかみだと言ったくせに、今夜は、人違いなの。——だけど、ご心配はいらないことよ、お約束の人は、今横から出て来ますから。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文治はもう此の島人を逃がしては此の島を出る機会おりがないと思いまして、いろ/\上手を使って、話もしかと分りませぬが、片言かたことまじりで交際つきあいながら、彼方かなた此方こなた経廻へめぐって
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「いずれ話す機会おりもあろう、——ところで、命の恩はどうして報いたものだろう翠川君」
水中の宮殿 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
それまでは行く度に機会おり好く思うように呼べたが、逢いたいと思う女が、そうして他の客に連れられてお酉さまに行った、と聞いては、固より有りうちのことと承知していながらも
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
この話をあなたから六条院様に機会おりがありましたら申し上げてみてください。
源氏物語:34 若菜(上) (新字新仮名) / 紫式部(著)
越えるのはチト億劫おっくうだが、しかしまだ天目山てんもくざんの古戦場を初め、あの辺には見ておきたいと思ってその機会おりを得ない名所がいくらもある、そう言われるとこの際、行って見たいような気持がする
姉を解放するために、機会おりがあったら西村をやっつけてやるんだなんて言いますから、あとで懇々と説いて聞かしたことでしたが、どうも年齢が若くてひねくれた者は手がつけられませんので——
五階の窓:03 合作の三 (新字新仮名) / 森下雨村(著)
と寛一君が機会おりを見て囁いた。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
其処そこで貴所の一条を持出すに又とない機会おりと思い既に口を切ろうとすると、意外も意外、老人の方から梅子さんのことを言い出した。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「いゝえ、あたくしはもう。——それよりぶちまけて一ついゝ機会おりだからあたくし旦那にうかゞいたいことがあります。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「じゃ、鹿爪しかつめらしく云い出すのも何だか妙だから、そのうち機会おりがあったら、聞くとしよう。なにそのうち聞いて見る機会おりがきっと出て来るよ」
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
常にうとましき児どもなれば、かかる機会おりを得てわれをばくるしめむとやたくみけむ。身を隠したるままひそかげ去りたらむには、探せばとて獲らるべき。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度ちょうどよい機会おりであるから、そなたうえやまれてって、ひとたいへんに面白おもしろいものをせてげようとおもうが……。』
某これより諸国をぐり、あまねく強き犬とみ合ふて、まづわが牙を鍛へ。かたわら仇敵の挙動ふるまいに心をつけ、機会おりもあらば名乗りかけて、父のあだかえしてん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そうして機会おりを見て伯林ベルリン巴里パリーへ出て、どこかの寄席よせか劇場の楽手になりおせる計画だったのですが……しかしその計画はスッカリ失敗に帰してしまったのです。
死後の恋 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこで両雄並び立たず、面と向うと何気無い顔で、時候の挨拶から世間話、尋常の交際つきあいはしていたが、腹の中では機会おりがあったら、蹴込んでやろうと思っていた。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
機会おりに依っては、何処かつんと思い揚って、取澄ましているかと思えば、またひどつつましやかで、愛想もそう悪くはなかったが、今夜は余程思い余ったことがあるらしく、心が悩めば悩むほど
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
そして、道後へ着いてからも、毎日毎日退屈な日を、父のうたいを聞かされたり、の相手をいいつかったりして暮しながら、何と父に持ちかけようか? とその機会おりばっかりうかがっていました。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
機会おりている二日目の朝、見知り越しの金貸が来てお政を連出して行く。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
残る人が名残なごりを惜しんで、また見る機会おりのないことを悲しむのであったが、行く人にとっては長い年月をここで送ったのではあっても、見捨てがたいほど心の残るものは何もこの土地になかった。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
『それ聞いて、安心した。だが、なんぞよい機会おりでも心当りがあるか』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然るに昨夕さくせきのこと富岡老人近頃病床とこにあるよしを聞いたから見舞に出かけた、もし機会おりが可かったら貴所の一条を持出す積りで。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「そのうち機会おりがあったら、姉さんにまたよく腹の中を僕から聞いて見ましょう。何心配するほどの事はありませんよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
常にうとましき児どもなれば、かかる機会おりを得てわれをば苦めむとやたくみけむ。身を隠したるままひそかげ去りたらむには、探せばとてらるべき。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
すでに爾も知る如く、年頃われ曹彼の金眸をあだと狙ひ。機会おりもあらば討入りて、かれが髭首かかんと思へと。怎麼にせん他が棲む山、みちけんにして案内知りがたく。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
いずまた機会おりがありましたらあらためておもらしすることとして、ただあの走水はしりみずうみ御入水ごにゅうすいあそばされたおはなしだけは、うあってもはぶわけにはまいりますまい。
「剣は大いに取るがいいさ。しかし今は機会おりが悪い」ホーキン氏は熱心に、「そうだ今は機会おりが悪い。 ...
そうした色々な機会おりの供の中に欠けることも多くなれば、決してそのほうへは足を向けても寝なかった今戸の本宅、……それは、由良の、横浜旗挙時代からの古い住居で
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
西比利亜シベリアが取れたら沿海州へ行くと口癖に云うて御座ったから、コレ位、機会おりはない。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
九州の人たちは三日参籠さんろうすることにしていた。右近はそれほど長くいようとは思っていなかったが、この機会おりに昔の話も人々としたく思って、寺のほうへ三日間参籠すると言わせるために僧を呼んだ。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)