樺色かばいろ)” の例文
彼方かなたの床の間の鴨居かもいには天津てんしん肋骨ろっこつが万年傘に代へてところの紳董しんとうどもより贈られたりといふ樺色かばいろの旗二流おくり来しを掛けたらしたる
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
築地外科病院の鉄扉てっぴは勿論しまって居た。父のと思わるゝ二階の一室に、ひいた窓帷まどかけしに樺色かばいろの光がさして居る。余は耳を澄ました。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
つま屋と名づくるのが、また不思議に貝蛸の小店に並んでいて、防風芹ぼうふ生海苔なまのり、松露、菊の花弁はなびら。……この雨に樺色かばいろ合羽占地茸かっぱしめじ、一本占地茸。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
躑躅つつじが燃えるように咲き乱れていた。先生はそのうちで樺色かばいろたけの高いのを指して、「これは霧島きりしまでしょう」といった。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
学校の事務室から小使が早くやって来て、合宿の前へ樺色かばいろの大きな旗を立てた。それがひどく晴れがましく見えた。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
フランシスはただ一人獣色けものいろといわれる樺色かばいろの百姓服を着て、繩の帯を結んで、胸の前に組んだ手を見入るように首を下げて、壁添いの腰かけにかけていた。
クララの出家 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
最早初茸はつだけを箱に入れて、木の葉のついた樺色かばいろなやつや、緑青ろくしょうがかったやつなぞを近在の老婆達が売りに来る。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まず暗い水色が、次第次第に透明になり、やがて薄い樺色かばいろとなった。そうして徐々に孛藍色はいらんしょくとなり、おもむろに変って卵黄色となった。そこへ紅が点じられた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、絹川の土手にとりついたころには、きれい樺色かばいろに燃えていた西の空がくすぶったようになって、上流かわかみの方はうっすらした霧がかかりどこかで馬のいななく声がしていた。
累物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
どっちも緑のひだ樺色かばいろに光る同じ色の着物を着ていたジュジュとエレンは、むす子の左右にすわった。
母子叙情 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
薄い樺色かばいろ乳暈にゅううんだけの、小さいけれど固く張りきった乳房ちぶさから、きめのこまかな、清絹すずしのように青みを帯びた白いなめらかな肌、まるく小さな肩や、くびれている細腰などを
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
出札掛りの河合というのが、駅夫の岡田を相手に、樺色かばいろの夏菊の咲き繚れた、崖に近いさくそばに椅子を持ち出して、上衣を脱いで風を入れながら、何やらしきりに笑い興じている。
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
○本文の法にて煮たるものは最初樺色かばいろにて一日二日を過ぐると次第に黒味を帯び来る。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
樺色かばいろに、褐色かついろに、黄色に、すがれて行くさまざまの林の色は、次第に黒ずんで来た。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
元来の地味がこの花に適しているのであろうが、大きい木にも小さい株にも皆めざましい花を付けていた。わたしの庭にも紅白は勿論、むらさきや樺色かばいろの変り種も乱れて咲き出した。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「瓦斯煖炉の明りかな」と思って見ると、なるほど、礬土はんどくだが五本並んで、下の端だけ樺色かばいろに燃えている。しかしその火の光は煖炉の前の半畳敷程の床を黄いろに照しているだけである。
鼠坂 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
夕方ちかい樺色かばいろの空が
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
樺色かばいろと灰色の空の
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
樺色かばいろ
雨情民謡百篇 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
同時に真直まっすぐに立った足許に、なめし皮の樺色かばいろの靴、宿を欺くため座敷を抜けて持って入ったのが、向うむきに揃っていたので、立花は頭から悚然ぞっとした。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
梢に残った夕日が消えて、樺色かばいろの雲が一つ波立たぬ海の様な空に浮いて居る。夏の夕明ゆうあかりは永い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
薄い樺色かばいろ乳暈にゅううん、ゆたかな腹部のえぐったようなくぼみと、それに続くたかまりの上の僅かな幅狭い墨色、広くなった腰から重たげな太腿ふとももへ、そうしてすんなりと細くしなやかに伸びている脚。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
薄い金茶色をして燃えていた陽の光がかすれて風の音がしなくなっていた。大異は西の方を見た。中の黒い緑の樺色かばいろをした靄のような雲が地平線に盛りあがっていて、陽はもう見えなかった。
太虚司法伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
じき下には、地方裁判所の樺色かばいろの瓦屋根があって、その先には道庁の赤煉瓦、その赤煉瓦を囲んで若芽をふいたばかりのポプラが土筆草つくしのようにむらがって細長く立っていた。それらの上には春の大空。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
樺色かばいろの囚徒の服着たる一個の縄附をさしはさみて眼界近くなりけるにぞ、お通は心から見るともなしに、ふとその囚徒を見るや否や、座右ざうの良人を流眄ながしめに懸けつ。
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
姉妹を乗せた車は先きに、余等三人を乗せた車は之につゞいて、瀬田川せたがわの岸に沿いつゝ平な道を馬場の方へ走る。日は入りかけて、樺色かばいろくんじた雲が一つ湖天にいて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その病気にかかると特に肌が美しくなるというが、おしのの肌はまえよりも白く、てのひらの中へはいりそうな乳房ちぶさは、文字どおり透きとおるようで、乳首ちくびのまわりの薄い樺色かばいろが、際立ってなまめかしくみえた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……おどりもよほしとへば、園遊會ゑんいうくわいかなんぞで、灰色はひいろ黄色きいろ樺色かばいろの、いたちきつねたぬきなかにはくまのやうなのもまじつた大勢おほぜいに、引𢌞ひきまはされ、掴立つかみたてられ
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
魴鮄ほうぼうひれにじを刻み、飯鮹いいだこの紫は五つばかり、ちぎれた雲のようにふらふらする……こち、めばる、青、鼠、樺色かばいろのその小魚こうおの色に照映てりはえて、黄なる蕈は美しかった。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まいだけはその形細き珊瑚さんごの枝に似たり。軸白くして薄紅うすべにの色さしたると、樺色かばいろなると、また黄なると、三ツ五ツはあらむ、芝茸はわれ取って捨てぬ。最も数多く獲たるは紅茸なり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鼠のずぼんのすそが見え、樺色かばいろの靴を穿き、同一おなじ色の皮手袋、洋杖ステッキを軽くつき、両個ふたつの狼を前にしつつ、自若たるその風采ふうさい、あたかも曲馬師の猛獣に対するごとく綽々しゃくしゃくとして余裕あり。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あおく晴れて地の上に雨の余波なごりある時は、路なる砂利うつくしく、いろいろのこいしあまた洗いいださるるが中に、金色こんじきなる、また銀色ぎんしょくなる、緑なる、樺色かばいろなる、鳶色とびいろなる、細螺きしゃごおびただし。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あし枯葉かれはをぬら/\とあをぬめりのみづして、浮草うきぐさ樺色かばいろまじりに、船脚ふなあしころの、五位鷺ごゐさぎはうちやう。またひとしきりはげしくきふに、なめらかなおもみづひゞいて、鳴渡なりわたるばかりとつたが。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
ぶくぶく樺色かばいろふくれて、湯気ゆげが立っていたです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その樺色かばいろの根をしずかに洗う。
沼夫人 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)