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棗
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なつめ
ふりがな文庫
“
棗
(
なつめ
)” の例文
私はこの
老女
(
ひと
)
の
生母
(
ははおや
)
をたった一度見た覚えがある。
谷中
(
やなか
)
御隠殿
(
ごいんでん
)
の
棗
(
なつめ
)
の木のある家で、
蓮池
(
はすいけ
)
のある庭にむかった
室
(
へや
)
で、お
比丘尼
(
びくに
)
だった。
旧聞日本橋:09 木魚の配偶
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
その時、大柄ののっぽうの、それでいていつも
棗
(
なつめ
)
のような顔をして眼の細い、何か脱俗している
好々爺
(
こうこうや
)
が著て来たのがこれであった。
フレップ・トリップ
(新字新仮名)
/
北原白秋
(著)
百姓たちは、
棗
(
なつめ
)
を採って
咬
(
か
)
んだり、草を煮て、草汁を飲んでしのいだり、もうその草も枯れてくると枯草の根や、土まで喰ってみた。
三国志:04 草莽の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
外界はぽか/\と暖かい五月の陽春であった。庭の
棗
(
なつめ
)
の白っぽい枝に日は輝き、庭の彼方の土蔵の高い甍に青空が浸みいっている。
地上:地に潜むもの
(新字新仮名)
/
島田清次郎
(著)
だいたい五百助の家は年数も知れぬ昔から代々そこで管玉や
切子
(
きりこ
)
玉や
棗
(
なつめ
)
玉、臼玉、
勾玉
(
まがたま
)
、丸玉などを造っていたと伝説されている。
艶妖記:忍術千一夜 第一話
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
▼ もっと見る
時には彼は路傍の石の上に笠を敷き、枝も細く緑も柔らかな
棗
(
なつめ
)
の木の陰から木曾川の光って見えるところに腰掛けながら考えた。
夜明け前:04 第二部下
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
またある道士は、その安期生の手から長寿の薬だといつて、
棗
(
なつめ
)
の実を貰つたが、その大きさが瓜ほどもあつたといふことだ。
独楽園
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
父が此の上もなく大切にしている
堆朱
(
ついしゅ
)
の
棗
(
なつめ
)
というのを覗かしてもらいましたら、それは私のおはじきを納れるによい
容器
(
いれもの
)
のように思われました。
虫干し
(新字新仮名)
/
鷹野つぎ
(著)
診察室の
西南
(
にしみなみ
)
に新しく建て増した
亜鉛葺
(
トタンぶき
)
の調剤室と、その向うに古い
棗
(
なつめ
)
の木の下に建ててある同じ亜鉛葺の車小屋との間の一坪ばかりの土地に
カズイスチカ
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
老紳士の顔は、すこし弾んで
棗
(
なつめ
)
の実のような色になった。青年は相変らず、
眉根
(
まゆね
)
一つ動かさず、孤独でかしこまっていた。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
事件はこれからですが、ね、ある日、それは夏でしたね、私の裏庭には、一本の大きな
棗
(
なつめ
)
の木があって、それに棗の実がいっぱいに
実
(
みの
)
っていたのです。
港の妖婦
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
あたかもその時谷を隔てしかなたの坂の口に武男の姿見え来たりぬ。顔一点
棗
(
なつめ
)
のごとくあかく夕日にひらめきつ。
小説 不如帰
(新字新仮名)
/
徳冨蘆花
(著)
肉も煮焼きをしたものは気に入らず、もっぱら
生
(
なま
)
の肉を
啖
(
くら
)
って、一食ごとに猪の頭や猪の股を梨や
棗
(
なつめ
)
のように平らげるので、子や孫らはみな彼をおそれた。
中国怪奇小説集:11 異聞総録・其他(宋)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
すると一人の童子が王質に
棗
(
なつめ
)
の実をくれた。それを食べたら、もう腹がへらない。いつまでも見物している。
ガラマサどん
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
僕の家の裏には大きな
棗
(
なつめ
)
の木が五六本もあった。『坊っちゃん』に似ているって。あるいはそうかもしれんよ。『坊っちゃん』にお清という親切な
老婢
(
ろうひ
)
が出る。
僕の昔
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
ちょうどその辺に大きな
棗
(
なつめ
)
の木と
柚
(
ゆず
)
の木とがあったので、両方の根を痛めないようにと頼んだのでした。
鴎外の思い出
(新字新仮名)
/
小金井喜美子
(著)
椰子や芭蕉や
棗
(
なつめ
)
の木などにこんもりと囲まれた広庭は彼ら土人達の会議所であったが、今や酋長のオンコッコは、一段高い岩の上に立って
滔々
(
とうとう
)
と雄弁を
揮
(
ふる
)
っている。
加利福尼亜の宝島:(お伽冒険談)
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
汽車の黄河を渡る間に僕の受用したものを挙げれば、茶が二椀、
棗
(
なつめ
)
が六顆、
前門牌
(
チェンメンはい
)
の巻煙草が三本、カアライルの「仏蘭西革命史」が二頁半、それから——蠅を十一匹殺した!
雑信一束
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
先ず裏の畑の茄子
冬瓜
(
とうが
)
小豆
(
あずき
)
人参里芋を始め、井戸脇の葡萄塀の上の
棗
(
なつめ
)
、隣から貰うた梨。
祭
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
麦門冬
(
りゅうのひげ
)
に
縁
(
ふち
)
を取った門内の
小径
(
こみち
)
を中にして片側には梅、栗、柿、
棗
(
なつめ
)
などの果樹が
欝然
(
うつぜん
)
と
生茂
(
おいしげ
)
り、片側には
孟宗竹
(
もうそうちく
)
が林をなしている間から、その
筍
(
たけのこ
)
が
勢
(
いきおい
)
よく伸びて
真青
(
まっさお
)
な若竹になりかけ
つゆのあとさき
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
当惑げな伸子を素子は皮肉な目で見て、
棗
(
なつめ
)
形の彼女の顔をうっすりあからめた。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
「
憑物
(
つきもの
)
でも放れて行ったように思うんですが、こりゃ何なんでしょう、いずれその事に就いてでしょうよ、」と
微
(
かす
)
かに
笑
(
えみ
)
を含んで、神月は
可愧
(
はずか
)
しげに上人が白き
鬚
(
ひげ
)
ある
棗
(
なつめ
)
のごとき
面
(
おもて
)
を見た。
湯島詣
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
少年がふり返ると、彼女はその手に
棗
(
なつめ
)
の実やキャラメルを握らせる。
可愛い女
(新字新仮名)
/
アントン・チェーホフ
(著)
玉箒刈りこ鎌麻呂むろの樹と
棗
(
なつめ
)
がもとゝかき掃かむため
万葉集巻十六
(旧字旧仮名)
/
正岡子規
(著)
乳母 お
庖厨
(
だいどころ
)
では、
棗
(
なつめ
)
や
榲桲
(
まるめろ
)
を
與
(
く
)
れいと
呼
(
よ
)
んでゐます。
ロミオとヂュリエット:03 ロミオとヂュリエット
(旧字旧仮名)
/
ウィリアム・シェークスピア
(著)
棗
(
なつめ
)
はその
間
(
あいだ
)
、ほかの弟子が来ぬように見張っていた。兆二郎は天井の穴に目をつけて、息をのみながら久米一の仕事を
凝視
(
ぎょうし
)
する。
増長天王
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
露次ぐちにある
棗
(
なつめ
)
の枯枝や
庇
(
ひさし
)
さきがひょうひょうとうめき、地震でゆるんだ雨戸や障子はもちろん、柱や
梁
(
はり
)
までがみじめなほどきいきいと悲鳴をあげていた。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
棗
(
なつめ
)
の花の咲くところ、光は強く、
陽
(
ひ
)
は青し。棗の
下
(
もと
)
に啼く
蛙
(
かはづ
)
、蛙と呼ばひ
恍
(
ほ
)
れ遊ぶ。棗よそよげ、青空に。
雀の卵
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
白い頭髪は肩まで垂れ雪を瞞く長髯は胸を越して腹まで達し葛の衣裳に袖無羽織、所謂童顔とでも云うのでしょう
棗
(
なつめ
)
のような茶褐色の顔色。鳳眼隆鼻。引き縮った唇。
天草四郎の妖術
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
自分はこれらの前に立って、よく
秋先
(
あきさき
)
に玄関前の
棗
(
なつめ
)
を、兄と共に
叩
(
たた
)
き落して食った事を思い出した。
行人
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
山のなかに成長して樹木も半分友だちのような三人には、そこの河岸に
莢
(
さや
)
をたれた
皀莢
(
さいかち
)
の
樹
(
き
)
がある、ここの崖の上に枝の細い
棗
(
なつめ
)
の樹があると、
指
(
さ
)
して言うことができた。
夜明け前:01 第一部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
猿
(
さる
)
にしろとおっしゃれば、ほんとうに猿にしてみせますよ、しかし、まあ、それよりも、一ばん早いところをお眼にかけましょう、若旦那、その大きな
棗
(
なつめ
)
の木を枯らしてみましょうか
港の妖婦
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
上り列車に間に合ふかどうかは
可也
(
かなり
)
怪しいのに違ひなかつた。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せてゐた。彼は
棗
(
なつめ
)
のやうにまるまると肥つた、短い
顋髯
(
あごひげ
)
の持ち主だつた。
歯車
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
楽焼
(
らくやき
)
の
煎茶
(
せんちゃ
)
道具
一揃
(
ひとそろ
)
ひに、茶の湯用の
漆
(
うるし
)
塗りの
棗
(
なつめ
)
や、竹の
茶筅
(
ちゃせん
)
が
埃
(
ほこり
)
を
冠
(
かむ
)
つてゐた。
蔦の門
(新字旧仮名)
/
岡本かの子
(著)
赤色
(
せきしょく
)
は
棗
(
なつめ
)
の実の赤色にして
烟
(
けぶ
)
れる
焔
(
ほのお
)
の色(黒き赤)と
銀色
(
ぎんしょく
)
の灰色(灰の赤)とに分たれ、緑には飲料茶の緑、
蟹甲
(
かいこう
)
の緑、また
玉葱
(
たまねぎ
)
の
心
(
しん
)
の緑(
黄味
(
きいろみ
)
ある緑色)、
蓮
(
はす
)
の芽の緑(
明
(
あかる
)
き
黄味
(
きいろみ
)
ある緑)
江戸芸術論
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
フロイド時代の
棗
(
なつめ
)
の実の夢、その他に表現される潜在的な形をとらない。
心に疼く欲求がある
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
俗にいふ越後は
八百八後家
(
はっぴゃくやごけ
)
、お辻が
許
(
とこ
)
も女ぐらし、又
海手
(
うみて
)
の二階屋も
男気
(
おとこげ
)
なし、
棗
(
なつめ
)
の
樹
(
き
)
のある内も、男が
出入
(
ではいり
)
をするばかりで、
年増
(
としま
)
は
蚊帳
(
かや
)
が
好
(
すき
)
だといふ、紙谷町一町の
間
(
あいだ
)
に、四軒、いづれも夫なしで
処方秘箋
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
死人の耳にも鼻にも
棗
(
なつめ
)
の実ほどの黄金が詰め込んであった。
中国怪奇小説集:03 捜神記(六朝)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
すると大きな
棗
(
なつめ
)
の木が五、六本あって、隠士の住居とも見える閑寂な庭があった。門柱はあるが扉はない。そしてそこの入口に
三国志:02 桃園の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
それから戸板で担ぎこまれたお祖父さん、裏のさかな屋の女房、露次ぐちにあった
棗
(
なつめ
)
の樹、幾つもの研石や
半揷
(
はんぞう
)
や
小盥
(
こだらい
)
のある仕事場、みんなはっきりと眼にうかんできた。
柳橋物語
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
上り列車に間に合うかどうかは
可也
(
かなり
)
怪しいのに違いなかった。自動車には丁度僕の外に或理髪店の主人も乗り合せていた。彼は
棗
(
なつめ
)
のようにまるまると肥った、短い
顋髯
(
あごひげ
)
の持ち主だった。
歯車
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
そこから伸子を見ている黒い二つの
棗
(
なつめ
)
形の眼、くつろいだ部屋着の胸元をゆたかにもり上らせている伸子より遙に成熟した女の胸つきなどを眺めていて、伸子は不思議にたえない心持になった。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
雪のように白い長髪を肩へ深々と垂れ下げた、
棗
(
なつめ
)
のような
赧
(
あか
)
い顔の、獣の皮と木の葉とで不細工に綴った着物を着た、仙人のような老人で、いつも
藜
(
あかざ
)
の杖をついて、静かに歩いて来るのであった。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
今まで落ちていた
棗
(
なつめ
)
の実が落ちやんで、
萎
(
しお
)
れていた葉がみるみる青あおとなるのじゃありませんか、私は老人を神様のように思って、奇術の箱などは、もう打っちゃらかしといて、老人を上へあげて
港の妖婦
(新字新仮名)
/
田中貢太郎
(著)
棗
(
なつめ
)
には実ありき、その実いと赤かるべきも
緑の種子
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
しかし、久米一より大事な罪人、
絵描座
(
えかきざ
)
の兆二郎と、娘の
棗
(
なつめ
)
の姿は、捕手が入った時すでに、影も形も見えなくなっていた。
増長天王
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そして首を
捻曲
(
ねじま
)
げたり肩を揺上げたり、両腕を振廻したりして、暫く筋肉の
凝
(
こり
)
をほぐしてから、ふと思出したように旅嚢を引寄せ、乾した
棗
(
なつめ
)
の実を二つ三つ取出して口へ入れた。
松風の門
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
その日は薄雲が空に迷って、
朧
(
おぼろ
)
げな日ざしはありながら、時々雨の降る天気であった。二人は両方に立ち別れて、
棗
(
なつめ
)
の葉が黄ばんでいる寺の
塀外
(
へいそと
)
を
徘徊
(
はいかい
)
しながら、勇んで兵衛の参詣を待った。
或敵打の話
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
緑色笠のスタンドの光を
棗
(
なつめ
)
形の顔にうけて、素子は、伸子にわからない慣用語や語源の質問をした。それが終り、発音の練習がはじまった。これは、ひとりで伸子の耳にわかり、時々興味をひかれた。
道標
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
映画
(
フイルム
)
の中に一本の
棗
(
なつめ
)
の樹あり。
緑の種子
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
棗
漢検1級
部首:⽊
12画
“棗”を含む語句
棗形
棗商人
梨棗
棗売
棗椰子
棗玉
野棗
重棗
酸棗門
酸棗木
酸棗
綿棗児
海棗
波頭棗
棗面
棗軒
棗色
乾棗
棗漬
棗店
...