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梭
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ひ
ふりがな文庫
“
梭
(
ひ
)” の例文
この朝予は吉田の駅をでて、とちゅう畑のあいだ森のかげに絹織の
梭
(
ひ
)
の音を聞きつつ、やがて大噴火当時そのままの石の原にかかった。
河口湖
(新字新仮名)
/
伊藤左千夫
(著)
山と雲との影が
綾
(
あや
)
に織り出されたり消されたりして、
其
(
その
)
間を縫って銀光沢を帯びた青緑色のヤンマの一種が
梭
(
ひ
)
のように飛び交うている。
日本アルプスの五仙境
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
所は奈良で、
物寂
(
ものさ
)
びた春の宿に
梭
(
ひ
)
の音が聞えると云う光景が眼前に浮んで
飽
(
あ
)
く
迄
(
まで
)
これに
耽
(
ふけ
)
り得る
丈
(
だけ
)
の趣味を持って居ないと面白くない。
高浜虚子著『鶏頭』序
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
小銃の反響する街区では、群衆の巨大な渦巻きが、分裂しながら、建物と建物の間を、交錯する
梭
(
ひ
)
のように駈けていた。
上海
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
機
(
はた
)
の
梭
(
ひ
)
が行きかふ樣になつた時、義雄はその意味を取り違へたり、ただやかましい噪音が聽えたりする瞬間もあつた。
泡鳴五部作:02 毒薬を飲む女
(旧字旧仮名)
/
岩野泡鳴
(著)
▼ もっと見る
樫鳥
(
かしどり
)
や、木つつきや、島じゅうを木づたい鳴きかわす鳥のなかでひよどりの声がことによく
谺
(
こだま
)
にひびく。なに鳥か大杉の梢で玉の
梭
(
ひ
)
を投げるように鳴く。
島守
(新字新仮名)
/
中勘助
(著)
生命のヤソの顔を見つめていた一人の顔を見た時の私のよろこび! その人は美と不思議と神秘の三本の
梭
(
ひ
)
を上げて、その室内に「虹」の
靄
(
もや
)
を織り出した
最後の晩餐
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
盃が、
梭
(
ひ
)
のように、二人の間を往復する。金五郎も弱い方ではないが、お京の強さはおどろくばかりだった。
花と龍
(新字新仮名)
/
火野葦平
(著)
唖
(
おし
)
のように今まで黙っていたほかの漁夫たちの口からも、やにわに勇ましいかけ声があふれ出て、君の声に応じた。艪は
梭
(
ひ
)
のように波を切り破って激しく働いた。
生まれいずる悩み
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
からりと鳴って、響くと
斉
(
ひと
)
しく、
金色
(
こんじき
)
の
機
(
はた
)
の
梭
(
ひ
)
、一具宙を
飛落
(
とびお
)
つ。一同
吃驚
(
きっきょう
)
す。社殿の
片扉
(
かたとびら
)
、
颯
(
さっ
)
と
開
(
ひら
)
く。
多神教
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
それである時七夕が短気を起して、
機
(
はた
)
を織っておられた
梭
(
ひ
)
を投付けなされると、犬飼さんも腹を立てて、七夕の作っておられる瓜畠の瓜を真二つに切割ってしまわれる。
年中行事覚書
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
此女らの動かして見せる
筬
(
おさ
)
や
梭
(
ひ
)
の扱い方を、姫はすぐに会得した。機に上って日ねもす、時には
終夜
(
よもすがら
)
織って見るけれど、蓮の糸は、すぐに
円
(
つぶ
)
になったり、
断
(
き
)
れたりした。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
(
達府
(
ダブリン
)
湾のほとりに十万の家が建つ、
愛州
(
アイルランド
)
にもこの繁華なさまをみる。街は縦横に整い、人は織るがごとく往来し、幾百ものはたおりの
梭
(
ひ
)
のごとくゆきかうのは電車である。)
西航日録
(新字新仮名)
/
井上円了
(著)
柿の枝などの年々なつかしい蔭を作る
廂
(
ひさし
)
のなかで、
織機
(
はた
)
に上って、物静かにかちかち
梭
(
ひ
)
を運んでいる陰気らしい母親の傍に、
揺籃
(
つづら
)
に入れられた小さい弟がおしゃぶりを
舐
(
しゃぶ
)
って
爛
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
天照らす大御神の
忌服屋
(
いみはたや
)
四
にましまして
神御衣
(
かむみそ
)
織らしめたまふ時に、その
服屋
(
はたや
)
の
頂
(
むね
)
を穿ちて、天の
斑馬
(
むちこま
)
を
逆剥
(
さかは
)
ぎに剥ぎて墮し入るる
五
時に、天の
衣織女
(
みそおりめ
)
見驚きて
梭
(
ひ
)
六
に
陰上
(
ほと
)
を衝きて死にき。
古事記:02 校註 古事記
(その他)
/
太安万侶
、
稗田阿礼
(著)
お母様の
梭
(
ひ
)
の音のみが、ひっそりしている家に響き渡っている。
ヰタ・セクスアリス
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
梭
(
ひ
)
は往ったり来たりする、1925
ファウスト
(新字新仮名)
/
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテ
(著)
桧の
梭
(
ひ
)
の飛び交うひまに
レモンの花の咲く丘へ
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
鳶尾
(
いちはつ
)
などの青々と繁っている茅葺の家、そことなく洩れ来る
梭
(
ひ
)
の音に交って、うら若い女の歌う声、路のへに飛び交う
燕
(
つばめ
)
の群。
秩父の渓谷美
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
シャロットの女の投ぐる
梭
(
ひ
)
の音を聴く者は、
淋
(
さび
)
しき
皐
(
おか
)
の上に立つ、高き
台
(
うてな
)
の窓を恐る恐る見上げぬ事はない。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
一人一人が自分の前にある粥の皿に匙を入れたりパンをちぎったりする前に三本の
梭
(
ひ
)
を卓の上に置いた。
最後の晩餐
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
氷河が青く浮き上ったと見る間にびりびりと震え、
梭
(
ひ
)
のように山から山へ閃光が飛び移った。
旅愁
(新字新仮名)
/
横光利一
(著)
老
(
おい
)
の
手捌
(
てさば
)
き美しく、
錦
(
にしき
)
に
梭
(
ひ
)
を、投ぐるよう、さらさらと緒を
緊
(
し
)
めて、火鉢の火に高く
翳
(
かざ
)
す、と……
呼吸
(
いき
)
をのんで驚いたように見ていたお千は、思わず、はっと両手を
支
(
つ
)
いた。
歌行灯
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
郎女は、
断
(
き
)
れては織り、織っては断れ、手がだるくなっても、まだ
梭
(
ひ
)
を放そうともせぬ。
死者の書
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
例えば静かな谷川の
淵
(
ふち
)
の中で、機を織る
梭
(
ひ
)
の音をきくといい、または人が行くことも出来ぬような峰の岩に、布をほしたのが遠く見えるというなどはそれで、こういう
為事
(
しごと
)
は男がしませんから
日本の伝説
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
空は隈なく晴れて陰暦十月十八日の月が照っている。真木では織物に名を得た郡内の地方だけに、電灯の光と共に
梭
(
ひ
)
の音の洩れて来る早起きの家もあった。
初旅の大菩薩連嶺
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
得之
(
これをえ
)
たるは、
知
(
し
)
らず、
機
(
はた
)
の
下
(
もと
)
に
寢
(
ね
)
て
梭
(
ひ
)
の
飛
(
と
)
ぶを
視
(
み
)
て
細君
(
さいくん
)
の
艷
(
えん
)
を
見
(
み
)
ざるによるか、
非乎
(
ひか
)
。
術三則
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
郎女が奈良の御館からとり寄せた
高機
(
たかはた
)
を
設
(
た
)
てたからである。機織りに長けた女も一人や二人は、若人の中に居た。此女らが動かして見せる
筬
(
をさ
)
や
梭
(
ひ
)
の扱ひ方を、姫はすぐに
会得
(
えとく
)
した。
死者の書:――初稿版――
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
二人は美と不思議と神秘の
梭
(
ひ
)
を取っておのおのが無限の形を織り出し、その室からそとの青い世界に出て行かせた、永久にいつまでも人間の耳に歓びのたのしい歌をうたわせるために。
最後の晩餐
(新字新仮名)
/
フィオナ・マクラウド
(著)
窓を射る日の
眩
(
まば
)
ゆきまで明かなるに、室のうちは夏知らぬ
洞窟
(
どうくつ
)
の如くに暗い。輝けるは五尺に余る鉄の鏡と、肩に漂う長き髪のみ。
右手
(
めて
)
より投げたる
梭
(
ひ
)
を
左手
(
ゆんで
)
に受けて、女はふと鏡の
裡
(
うち
)
を見る。
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
其蔭で猫が昼寝していることなどもあった。人通りの少い路の上を、低く燕がすういと飛んで来てはひらりと返して行く。賑やかな
梭
(
ひ
)
の音に交って、歌や笑い声が洩れて来る。
秩父のおもいで
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
郎女は、
断
(
き
)
つては織り、織つては断り、手もだるくなつてもまだ
梭
(
ひ
)
を放さない。
死者の書:――初稿版――
(新字旧仮名)
/
折口信夫
(著)
今
(
いま
)
しがた、
永代橋
(
えいたいばし
)
を
渡
(
わた
)
つた
處
(
ところ
)
で、よしと
扉
(
と
)
を
開
(
あ
)
けて、あの、
人
(
ひと
)
と
車
(
くるま
)
と
梭
(
ひ
)
を
投
(
な
)
げて
織違
(
おりちが
)
ふ、さながら
繁昌記
(
はんじやうき
)
の
眞中
(
まんなか
)
へこぼれて
出
(
で
)
て、
餘
(
あま
)
りその
邊
(
へん
)
のかはりやうに、ぽかんとして
立
(
た
)
つた
時
(
とき
)
であつた。
深川浅景
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
、
泉鏡太郎
(著)
女は
領
(
えり
)
を延ばして盾に描ける模様を
確
(
しか
)
と見分けようとする
体
(
てい
)
であったが、かの騎士は何の会釈もなくこの鉄鏡を突き破って通り抜ける
勢
(
いきおい
)
で、いよいよ目の前に近づいた時、女は思わず
梭
(
ひ
)
を
抛
(
な
)
げて
薤露行
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
鬼怒沼の美に憧れて稀に訪い来る里人は、八千草の咲き匂う花の中で姫の機織る
梭
(
ひ
)
の音を聞くのが常であった。里人はそれを衣姫と呼びなしていたが、ついぞ姫の姿を見た者はない。
秋の鬼怒沼
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
鬢
(
びん
)
に
真白
(
ましろ
)
き手を、矢を黒髪に、
女性
(
にょしょう
)
の最も優しく、なよやかなる容儀見ゆ。
梭
(
ひ
)
を持てるが
背後
(
うしろ
)
に引添い、前なる女の
童
(
わらべ
)
は、錦の袋を
取出
(
とりい
)
で下より
翳
(
かざ
)
し向く。媛神、半ば
簪
(
かざ
)
して、その鏡を
視
(
み
)
る。
多神教
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
汽車が高田の町に近付いて、後ろに遠ざかり行く此等の山の姿が、
梭
(
ひ
)
の如く飛び交う端山の裾に織り込まれてしまう迄、私達は幾度か窓の外を眺めて、幾度か同じような言葉を繰り返した。
黒部川奥の山旅
(新字新仮名)
/
木暮理太郎
(著)
紀昌
(
きしやう
)
こゝに
於
(
おい
)
て、
家
(
いへ
)
に
歸
(
かへ
)
りて、
其
(
そ
)
の
妻
(
つま
)
が
機
(
はた
)
織
(
お
)
る
下
(
もと
)
に
仰
(
あふむ
)
けに
臥
(
ふ
)
して、
眼
(
まなこ
)
を
睜
(
みひら
)
いて
蝗
(
いなご
)
の
如
(
ごと
)
き
梭
(
ひ
)
を
承
(
う
)
く。
二年
(
にねん
)
の
後
(
のち
)
、
錐末
(
すゐまつ
)
眥
(
まなじり
)
に
達
(
たつ
)
すと
雖
(
いへど
)
も
瞬
(
またゝ
)
かざるに
至
(
いた
)
る。
往
(
ゆ
)
いて
以
(
もつ
)
て
飛衞
(
ひゑい
)
に
告
(
つ
)
ぐ、
願
(
ねがは
)
くは
射
(
しや
)
を
學
(
まな
)
ぶを
得
(
え
)
ん。
術三則
(旧字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
少しおくれて、
童男
(
どうだん
)
と
童女
(
どうじょ
)
と、ならびに、目一つの怪しきが、
唐輪
(
からわ
)
と
切禿
(
きりかむろ
)
にて、前なるは
錦
(
にしき
)
の袋に鏡を捧げ、
後
(
あと
)
なるは
階
(
きざはし
)
を
馳
(
は
)
せ
下
(
くだ
)
り、
巫女
(
みこ
)
の手より
梭
(
ひ
)
を取り受け、やがて、
欄干
(
らんかん
)
擬宝珠
(
ぎぼうしゅ
)
の左右に控う。
多神教
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
“梭(シャトル(織物))”の解説
シャトル(シャットル、shuttle)あるいは杼(ひ)とは、織物を織るときに、経糸(たていと)の間に緯糸(よこいと・ぬきいと)を通すのに使われる道具である。梭(おさ)とも。
(出典:Wikipedia)
梭
漢検1級
部首:⽊
11画
“梭”を含む語句
梭魚
梭櫚
梭影
梭手
梭投
梭石
梭糸
機梭
鶯梭