ふくろう)” の例文
めったに闇の中を歩行あるいて血の池なんかに落ちようものなら百年目だ、こんな事なら円遊にくわしく聞いて来るのだッた。オヤふくろうが鳴く。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
 (重兵衛は太吉を横目に睨みながら、自在じざい湯沸ゆわかしを取ってしものかたへ行き、棚から土瓶どびんをおろして茶の支度をする。ふくろうの声。)
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ぬえは単に未明の空を飛んで鳴くために、その声を聴いた者は呪言を唱え、鷺もふくろうも魔の鳥として、その異常な挙動を見た者は祭をした。
そこから長い石段をおりると、名主利右衛門の屋敷はすぐ左にひらけた藪のかげにあった。どこかで、ほう、ほう、とふくろういている。
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
するとそのとき、戸外で鳥の鳴く声がした。ふくろうのような声で、ほっほう、ほっほうと二た声鳴き、ついで、まをおいてまた三声鳴いた。
ちくしょう谷 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
寒さはいつの間にかすこしゆるんで、のろいひさしの点滴の音が、をちこちで鳴き出したふくろうの声の鳴き尻をたたいてゐる。雨ではない。もやだ。
上田秋成の晩年 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
森のふくろうとか幻想のにじとかいったハイカラなもので、私はその少女の作品から、「神秘的」なと云うおどろくべき上品な言葉を知った。
私の先生 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
初めは低く暗い余韻のない——お寺の森のやみふくろうの声に似た音色が出た。喜びも悲しみもない……只淋しく低く……ポ……ポ……と。
あやかしの鼓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ただある夜おそく、武田大佐と清少年が、代々木なる明治神宮の大鳥居をくぐったことを、神苑しんえんの森にふくろうたちは知っている。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
あちらこちらでふくろうがホーホーといて、夜の七時といえば都会では、まだほんのよいの口です。銀座なぞは人で、さぞ雑踏しているでしょう。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
その人たちの休む仮屋が片隅の二本杉の傍にあって、にぎやかな人声もしますが、常は静かなもので雉子きじが遊んでい、夜はふくろうの声も聞えます。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
祭りが終って群衆が地方に帰った後、詭計たばかりをもってやっつけようと、光を憎むふくろうどもがひそひそと陰謀をめぐらしていた(一四の一、二)。
「おうい」ふくろうのような鼻声を交わしながら、途中から、めいめい、手ごろな石をかついでそこへ群れてくる。そして芝地の露へ
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
卵形といえば一方が少し尖った長円い形にきまったようなものであるが稀には円形の卵もある、亀、ふくろうなどがその例である。
卵の形 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
つぶってだまって説教の木の高い枝にとまり、まわりにゆうべと同じにとまった沢山たくさんふくろうどもはなぜか大へんみな興奮している模様でした。
二十六夜 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
そっと女中にくっ附いていって、女中の袖の下から、小さなふくろうのように覗いていたあんぽんたんは、吃驚びっくりして眼を丸めた。
やがて未練みれんらしく立留って見たが、男の追掛けて来る様子はない。先程つまずいた松の木の梢にふくろうか何かの鳴く声がしている。
或夜 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのときには、音楽や感嘆の声のかわりに、風が、壊れたアーチを蕭々しょうしょうとして吹きならし、ふくろうが破壊した塔から鳴くのだ。
ト思うと、日光の明るみに戸惑いしたふくろうを捕まえて、さかさまに羽根でぶらさげながら、陽気な若者がどこへか馳けて行く。
禰宜様宮田 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
冴えた通る声で野末をおしひろげるように、鳴く、トントントントンとこだまにあたるような響きが遠くから来るように聞える鳥の声は、ふくろうであった。
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ふくろうがきらう第一のことは、蝋燭ろうそくの光をさしつけられることである。それにまず、受け取った千五百フランのことをどうして言い開いたらよいか。
保守と執着と老人とが夜のふくろうのごとく跋扈ばっこして、いっさいの生命がその新らしき希望と活動とを抑制せらるる時である。
初めて見たる小樽 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
その時彼の背後うしろの方からふくろうの啼き声が聞こえて来た。つづいてきじの啼き声がした。呼び合い答え合っているようである。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おまけに二抱ふたかかえから三抱みかかえぐらいの天然の松林の中にあって、ろくろく日の目を見ることも出来ず、からすふくろうの巣であった。
青い絨毯 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
なお身近くには油断のならない敵手「右足のないふくろう」がいて、ピストルに隙さえ見出せるならあべこべに彼の生命を脅かす位置に取代ろうとねらっている。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは何度かたのしい吹雪をしのぎ、戸外では雪がすさまじくうずまいて、ふくろうのホーホー声も途絶えたのに炉のそばで愉快な冬の幾さをすごした。
と、ふくろうが、高く黒いこずえで鳴いて、それだけでも淋しい谷中の深更け——あまつさえ、狐が通っているのであろう——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
夜はまた遠く近くふくろうの声が起る。見ごとなのは椋鳥の群るゝ時で数百羽のこの鳥が中空に聳えた老松の梢から梢を群れながら渡つてゆくのは壮観である。
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
その声が遠い国に多くの人がいて口々に哀歌をうたうともきければ、森かげのふくろうの十羽二十羽が夜霧のほのかな中から心細そうになきあわすとも聞える。
日光小品 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おまへもならば、将軍様せうぐんさま御手おてにとまつて、むかしは、富士ふじ巻狩まきがりなぞしたものだが、いまぢやふくろう一所いつしよにこんなところへか※んでるのはつらいだろうの。
一歩一歩あるくたびごとに、霜でふくれあがった土がうずらふくろうつぶやきのようなおかしい低音をたててくだけるのだ。
彼は昔の彼ならず (新字新仮名) / 太宰治(著)
外では、樹木が風に吹かれて音をたて、ふくろうが悲しげに鳴き、遠い村の中や森の奥の農家で、犬がほえていた。
急に元気を失った市平は、おぼろの月影にみがかれきらめく長靴を曳きずって、力なくなだらかな坂路さかみちを下りて行った。遠くの森では、さっきからふくろうが啼いていた。
土竜 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
糸杉サイプレスの梢に巣をくむふくろうは灯の光りにおどろいて飛び立ち、灰色のつばさを提灯のガラスに打ち当てながら悲しく叫びます。野狐も闇のなかに遠くいています。
遠くから聞こえて来るかわずの鳴き声のほかには、日勝にっしょう様の森あたりでなくらしいふくろうの声がするばかりだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
これを聞いていて右近は、ふくろうき声を聞くより恐ろしく感じた。答えもできず内舎人を帰したあとで
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
夜はけた。兵士たちのさざめく声は、彼らの疲労とねむけのために耶馬台の宮からしずまった。そうして、森からは霧をとおしてふくろうと狐の声が石窖の中へ聞えて来た。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
絶えて人が踏みこまぬものだから、森の中には落葉がうず高く積み、日暮れ前からふくろうがホウホウと鳴く。
顎十郎捕物帳:01 捨公方 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
その下に立って見上げると、深い大きな洞窟どうくつのように見える。ふくろうの声がその奥にしていることがある。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
異名を五郎助七三郎ごろすけしちさぶろうと申しますが、七三郎が本名で五郎助はふくろうき声から取ったのでございますがね
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
部屋の隅にあった行燈あんどんを持ち出し、老人と私達の間に置いて、火をともしたが、その赤茶けた光の中に浮上った怪老人の姿は、ふくろうの様に陰険で醜怪なものに見えた。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その頃はうぐいすふくろうも鳴いた根岸、日が暮れると滅切めっきり淋しくなるのですが、尼法師はさまで急ぐ風もなく、木立から藪へ、藪から田圃たんぼへと、暗くなりかけた道を辿って
百唇の譜 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「たけだけしいことを申すでない。ひと事らしゅう女犯の罪なぞと申さば裏のもりふくろうわらおうぞ」
たまたま鷹やふくろうひよこ一疋金魚一尾捉られる位は冥加税みょうがぜいを納めたと心得べしと説いた、現に田辺附近で狐を狩り尽くして兎が跋扈ばっこし、その害狐に十倍し弱り居る村がある
肩にかついだささの枝には草の穂で作ったふくろうが踊りながらぶら下がって行く。おおかた雑子ぞうしヶ谷へでも行ったのだろう。軒の深い菓物屋くだものやの奥の方に柿ばかりがあかるく見える。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「ふむ。そりゃ自家うちの者が頭陀袋を取りはずすためのことだ。もう今ごろ行ったってちゃんと本式に釘づけにしちまってあらアな。見ろ。ふくろうめがホウホウと笑ってけつから。」
はとふくろうも出なかったが、すずめはたくさんいた。見あたり次第にポンポンやったけれど、距離きょりが遠いからちっともあたらない。なお林の中をうろつきまわっている間に、照彦様は
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お宮の松にはふくろうんでいたのじゃがと、その不気味ぶきみな鳴声を思いだしながら、暗いこずえを見上げていると、その木蔭から一羽の鳥が羽叩はばたきして空を横切っているような気がした。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
五条川の水の音も静かだし、古城址にふくろうの音も遠音に聞えて来るし、木立こだちの多い広い屋敷の中の奥まったこの建物の中の夜は、いかさま歌を思うのにふさわしいものらしい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
言い換えれば、修辞学がギリシア文化の開花期の産物であるに反して、解釈学はギリシア文化の発展が一応終結した後その黄昏たそがれにいわゆるミネルヴァのふくろうとして現われたのである。
解釈学と修辞学 (新字新仮名) / 三木清(著)