朋友ほうゆう)” の例文
夫婦、親子、朋友ほうゆうの愛も初めの中は感情一偏の愛であるが、少し年齢がけて行った後に誠実と知性との理解が伴わない愛は危い。
姑と嫁について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
このような処で夕暮れに親しい朋友ほうゆうや交際場裡に誰知らぬもののない若い紳士などを集めて、くさぐさの物語に時の移りゆくを忘れたら
頸飾り (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
王政維新おうせいいしん成敗せいはいは内国の事にして、いわば兄弟朋友ほうゆう間の争いのみ、当時東西相敵あいてきしたりといえどもその実は敵にして敵にあらず
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「教育勅語ちょくごに、何と仰せられています? 朋友ほうゆう相信じ、とありましたね。交友とは、信じ合う事です。他には何も要りません。」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうして彼らは必竟ひっきょう夫婦として作られたものか、朋友ほうゆうとして存在すべきものか、もしくはかたきとしてにらみ合うべきものかを疑った。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三、四人の朋友ほうゆうは、そう聞くと、そっと跫音あしおとをしのばせて帰ってゆく。——強右衛門は、襟を縫い終ったらしく、糸を噛んだ。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
親とか子とかまたは朋友ほうゆう知己そのほか自分の世話になった教師先輩のごときは、つまり単に忘れ得ぬ人とのみはいえない。
忘れえぬ人々 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
十年も一所に居てから、今更人にられるやうな事があつたら、ひとり間貫一いつ個人の恥辱ばかりではない、我々朋友ほうゆう全体の面目にも関する事だ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
魂はいかに潔白であろうとも、最も清い交わりのうちにも、恋人同志と朋友ほうゆう同志とを区別する神秘なむべき色合の差を、人は感ずるものである。
かくこころざしつらぬあたわずして、再び帰郷するのむなきに至れるは、おんみに対しまた朋友ほうゆうに対して面目なき次第なるも、如何いかんせん両親の慈愛その度に過ぎ
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
それは親兄弟、妻子さいし朋友ほうゆうのごときはもちろん敵ではないが、彼らが我々の心にふくさぬことがあれば、その不服ふふくの範囲において敵のごときものである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
仮りに一歩を譲ッて、全く朋友ほうゆうの信実心からあの様な事を言出したとしたところで、それならそれで言様いいようが有る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
余コレヲ留メテ曰クメヨ止メヨト。毅堂大声ニ曰ク朋友ほうゆうノ誼ハ重シ。瑣々ささタルノ禁何ゾ意トスルニ足ラン。春濤ラ要シテ遂ニ止ム。ともづなたつノ口ニ解ク。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「はあ、同藩の朋友ほうゆうに絵心ある者がござって、戯れに描いた似絵が、——今は悲しい形身となって居ります」
おもかげ抄 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
墓は千住の大橋で誓願寺せいがんじにあって、今日とても時々墓参をしている次第であるが……月日は何時いつって三十余年を過ぎ、当時の知人朋友ほうゆうも亡くなって行く中
叔父の朋友ほうゆう、大勢集まッて来たが、中には女客もあッたゆえ母を始め娘も、姉も自分もその席に連なッた。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
『いやわたくし貴方あなた朋友ほうゆうじゃいです。』と、イワン、デミトリチはまくらうちかおをいよいようずめてうた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
打たずんば交りをなさずと云って、瞋拳しんけん毒手の殴り合までやってから真の朋友ほうゆうになるのもあるが、一見してまじわりを結んで肝胆相照らすのもある。政宗と秀吉とは何様どうだったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
おのれもまた伯が当時の免官の理由を知れるがゆえに、いてその成心を動かさんとはせず、伯が心中にて曲庇者きょくひしゃなりなんど思われんは、朋友ほうゆうに利なく、おのれに損あればなり。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
己が悪かった、これが家来だからいゝが、朋友ほうゆうか何かであった日にゃア腹を切っても済まない所、家来だからといって、無闇にうたぐりを掛けては済まない、飯島が板の間へ手を
次にこの秋祭は親族朋友ほうゆうの交際というものに、利用せられたのが一つの特色であった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
毛皮市場や祭礼の群衆の中にわれわれの親兄弟や朋友ほうゆうのと同じ血が流れている事を感じさせられ、われわれの遠い祖先と大陸との交渉についての大きな疑問を投げかけられるのであった。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
良き子供はまたなるべく良き兄弟と、良き朋友ほうゆうの多くを持つのが幸いである。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
最も悲しき睦言むつごとを語れり、一生の悲哀と快楽を短か夜の尽しもあえず鶏は鳴きぬ、佐太郎は二度の旅衣を着て未明より誘い来たれり、間もなく父老朋友ほうゆうを初め、老媼女房阿園が友皆訪いつど
空家 (新字新仮名) / 宮崎湖処子(著)
振り分け以来の朋友ほうゆうの清らかな恋を祝ってやるくらいな雅量がなくてなんとなる。また、女の心というものは、そなたのようなよこしまな考えをもつものに、けっしてなびきはいたしませぬぞ。
ただこの際自分の父母なり同胞なり他の朋友ほうゆうなりが私のある為に幾分の便宜を持って居る者もあり、また私の教えを受けることを好んで居る信者も沢山ある。それを打棄てて行くことは実に忍びない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
互いにその正反対をかつての朋友ほうゆうに見いだしたのであった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かれの最もちかしい家来であり朋友ほうゆうであるらしかった。
親戚しんせき朋友ほうゆうの注意すべきことなり。一度ひとたび互に婚姻すればただ双方両家りょうけよしみのみならず、親戚の親戚に達して同時に幾家のよろこびを共にすべし。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
うちで主人のにがい顔を見たり、御三の険突けんつくを食って気分がすぐれん時は必ずこの異性の朋友ほうゆうもとを訪問していろいろな話をする。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
親とか子とか兄弟とか、朋友ほうゆうとか社会とか、人の周囲まわりには人の心を動かすものが出来ている。まぎらす者が出来ている。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「それじゃアすこし聞く事が有るが、朋友ほうゆうまじわりと云うものは互に尊敬していなければ出来るものじゃ有るまいネ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
自分の子供や婿や親戚しんせきやまたは朋友ほうゆうなどにさえ、できるだけのわずかな世話はしてやった。いい方面やいい機会や不意の利得などを巧みに世の中からつかんだ。
勿論もちろん朋友ほうゆう幾多いくらも有るけれど、書替の連帯を頼むやうな者は無いのだから。考へて見給へ、なんぼ朋友の中だと云つても外の事と違つて、借金の連帯は頼めないよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
なぐるぞ。長年のあいだ酒は一滴もやれないの、やれ、門限があるのと、朋友ほうゆうよしみを欠いて、俺たちを、馬鹿正直に、買いかぶらせていやがって。——しからんやつだ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
琴嚢書簏きんのうしょろく典売シテほとんど尽ク。ここ朋友ほうゆう親戚しんせきこぞッテソノス所ヲとがム。シカモ九万傲然ごうぜんトシテ顧ズ。誓フニ酔死ヲ以テ本願トナス。奇人トイフベシ。詩モマタ豪肆ごうしソノ為人ノごとシ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
もしこの経験のない人あらば、そは不幸な人である。天の恩はいうまでもなく、朋友ほうゆうや親などのすることに、とかく秘密にわたって、受ける本人は夢にも知らぬことがしばしばある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
祖先を敬するの念厚く、亡父の命日にはお墓の掃除などして、大学の卒業証書は金色の額縁にいれて母の寝間の壁に飾り、まことにこれ父母に孝、兄弟には友ならず、朋友ほうゆうは相信ぜず
家庭の幸福 (新字新仮名) / 太宰治(著)
疑いいぶかる者、引留める者も有ったには相違無い、一族朋友ほうゆうに非難する者も有ったには相違無い。が、もう無茶苦茶無理やり、何でも構わずに非社会的の一個のただの生物いきものになって仕舞った。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
蟠「えゝ/\これはそのなんでござる、実は先日朋友ほうゆうがまいりまして、八丁堀辺の侍の娘で、御殿奉公を致してる者であるが、至って碁ずきな娘、折があったら御前へととと取持とりもちを頼まれまして」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
優は蕩子とうしであった。しかしのちに身を吏籍に置いてからは、微官におったにもかかわらず、すこぶ材能さいのうあらわした。優は情誼じょうぎに厚かった。親戚しんせき朋友ほうゆうのその恩恵を被ったことは甚だ多い。優は筆札ひっさつを善くした。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「僕はその時程朋友ほうゆう難有ありがたいと思った事はない。うれしくってその晩は少しも寐られなかった。月のある晩だったので、月の消えるまで起きていた」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
この以後自分と志村は全く仲がくなり、自分は心から志村の天才に服し、志村もまた元来が温順おとなしい少年であるから、自分をまたなき朋友ほうゆうとして親しんでくれた。
画の悲み (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
主従とは云いながら、同程おなじほどの年頃ゆえ、双方とも心持は朋友ほうゆうで、もっともこれは近頃こうなッたので、以前はお勢の心が高ぶっていたから、下女などには容易に言葉をもかけなかった。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「何を云いに来たか、こっちでは分っておる。聞けよ小助。日ごろの朋友ほうゆうも、義なければ、アカの他人だ。——なんじらは、長年うけた君恩をうらぎり、利に走って、蟹江ノ城を売ったな」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朋友ほうゆうとして私の兄さんに向って働きかける仕事は、だからただ兄さんを私のような人並な立場に引き戻すだけなのです。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
人々は彼と朝日照り炊煙すいえん棚引たなびき親子あり夫婦あり兄弟きょうだいあり朋友ほうゆうあり涙ある世界に同居せりと思える、彼はいつしか無人むにんの島にその淋しき巣を移しここにその心を葬りたり。
源おじ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
一足ひとあしおくれて、御岳みたけおくいんからここへ越えてきた人々があった。それは、神主かんぬし長谷川右近はせがわうこん道案内みちあんないとして忍剣にんけん健在けんざいなりやいなや——と一こくをあらそって、むかえに見えた一とう朋友ほうゆうたちである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから位地位地と云って騒ぐのが、全くの空騒からさわぎでないにしても、郷党だの朋友ほうゆうだのまたは自分だのに対する虚栄心にあおられている事はたしかであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
故郷の朋友ほうゆう親籍しんせき兄弟けいてい、みなその安着のしらせを得て祝し、さらにかれが成功を語り合った。
河霧 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)