えき)” の例文
算木さんぎ筮竹ぜいちく、天眼鏡、そうして二、三冊のえきの書物——それらを載せた脚高あしだか見台けんだい、これが店の一切であった。葦簾よしずも天幕も張ってない。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
一、えき源氏げんじ、七十二候などその外種々の名称あれども多くは空名に過ぎず。実際に行はるる者は歌仙かせんを最も多しとし、百韻ひゃくいんこれに次ぐ。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
河北軍のほうは、えき算木さんぎをおいたようなかたち魚鱗ぎょりんの正攻陣をいている。曹操の陣はずっと散らかって、鳥雲の陣をもって迎えていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
左右さいうふり我元より言葉ことばかざらざるが故に其許のえきは申されずと云ふ靱負問て今も申如く假令如何なることなりとも苦しからず夫を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
警部は、素人探偵の思わせぶりに、少からずへきえきしたが、事の真相を知りたさに、しばらく明智のお芝居気を、許しておくほかはなかった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「私がもう数年生き永らえて、五十になる頃までえきを学ぶことが出来たら、大きな過ちを犯さない人間になれるだろう。」
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
苦節はかたくすからずの一句、えき爻辞こうじの節の上六しょうりくに、苦節、かたくすれば凶なり、とあるにもとづくといえども、口気おのずからこれ道衍の一家言なり。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
一時正岡がえきを立ててやるといって、これも頼みもしないのにうらなってくれた。畳一畳位の長さの巻紙に何か書いて来た。
正岡子規 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわちそれは武蔵の国都筑郡新治村字中山(今は横浜市港北区新治町中山となっている)の斎藤えき君の邸内にある。
植物一日一題 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
竜之助一行を送り出しておいて、しきりに胸さわぎがしたので、読みかけた本をふせて、丹後守は座右の筮竹ぜいちく算木さんぎとを取ってえきを立ててみました。そうして
わし行者ぎやうじやでもなんでもないのぢや。近頃ちかごろまで、梅暮里うめぼりみぞて、あはせのえきつてましたが、きなどぶろくのたしにもらんで、おもひついた擬行者まがひぎやうじやぢや。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
専門たるりつれきえきのほかに道家どうかの教えにくわしくまたひろじゅぼくほうめい諸家しょかの説にも通じていたが、それらをすべて一家のけんをもってべて自己のものとしていた。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
〔譯〕えきは是れせいの字の註脚ちゆうきやくなり。は是れ情の字の註脚なり。しよは是れ心の字の註脚なり。
成善は四月二十二日に再び竹逕の門にったが、竹逕は前年に会陰えいん膿瘍のうようを発したために、やや衰弱していた。成善は久しぶりにその『えき』や『毛詩もうし』を講ずるのをいた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その中にて最も古く、より広く用いらるるはえきの筮法である。これを八卦はっけの占いという。そのほかにシナにては亀卜きぼくの法があるも、わが国にては今日これを用うるものはない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
子曰く、我に数年を加え、五十にしてもってえきを学ばしめば、もって大過なかるべし。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
乃チ告ゲテ曰ク陰陽相和スルニ非ザレバ雨ナラズ。ソノ感応スルヤ知ルベシ。えきニイハズヤイテ雨ニ逢ヘバ吉ナリト。コレ余ノ喜アル所以ゆえんナリト。海湾数十里。曲渚きょくしょ廻汀かいてい相環合ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
えきいわく約自ムスブヲイルルニマドヨリス』、まどは明らかなるところなり。たとえば家の内にある人に外より物を言い入るるに、壁越かべごしにいえば聞こえず、まどよりいえば聞こゆ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どうかあなたえきて戴きたい、ラサへ帰って罪になって苦しむような事があるかまた帰らずにここに居る方がよいかという事を一つて戴きたいというものですから、そりゃいけない
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
これでも堂々とえきの看板をかけておるで、金、銀、米、そのほか、相場の高低を争う、はしッこい町人たちが、慾に瞳が暗んだ折に、よりよりわしの筮竹ぜいちくをたのみにして駆けつけてまいるが
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それから、今も暇さへあれば蠅ばかり獲つたり、ぶつぶつひとり言を言ふ癖がありまして、この頃はえきの本を読み耽つてゐるやうでございます……と、寿枝はここで泣き、部屋の中はもう暗かつた。
六白金星 (新字旧仮名) / 織田作之助(著)
「では、お師匠さまのえきによると、伊那丸さまには、甲斐源氏かいげんじのみ旗をもって、天下をおにぎりあそばすほどな、ご運がないとおっしゃいますか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
燕王笑って曰く、が年まさに四旬ならんとす、鬚あにまた長ぜんやと。道衍こゝに於て金忠きんちゅうというものをすすむ。金忠も亦きんの人なり、わかくして書を読みえきに通ず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
雑誌『太陽』の陽の字のつくり時にえきしたがふものあり。そんな字は字引になし。(二月二十七日)
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
孔子の言葉を記したものとして、「論語」のほかに、しばしば「えき」の「十翼」があげられる。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
えきにぶっつかって創痍満身のお銀様が、からくもここまで反省したことは、さすがでありました。
えき』に曰く、「始めをたずね終わりにかえる。ゆえに死生の説を知る」
通俗講義 霊魂不滅論 (新字新仮名) / 井上円了(著)
蒲生賢秀がもうかたひで氏郷うじさとの父子でさえ、その際には、思案を決しかねて、成願寺じょうがんじの陽春和尚をしょうじ、卜占ぼくせんをたてさせて、決断をえきに訊いたというほどであるから
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
洛書らくしょというものは最も簡単なマジックスクェアーである。それが聖典たるえきに関している。九宮方位きゅうきゅうほういだん八門遁甲はちもんとんこうの説、三命さんめいうらない九星きゅうせいぼく、皆それに続いている。
魔法修行者 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
えきだのうらないなどということは、それこそ薄志弱行の凡俗のすることで、人間に頭脳と理性が備わっていることを信ずるものにとっては、ばかばかしくて取上げられるものではない。
されど陽揚腸場楊湯など陽韻よういんに属する字の旁はえきの字の真中に横の棒を加へたるなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
まさにそのえきはあたっている。——敵人遠くへ奔るという卦のかたちだ。それがしが思う所とよく一致する。おそらく関羽は麦城からのがれ出んものと今や必死に腐心しておる。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はい、左様でございますか、それはそれは御無理もないことでござりまするな、孔夫子のひじりを以てすらが、我ニ数年ヲ加エ、五十以テえきヲ学ババ大過ナカルベシ——と仰せられました」
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ないことはありません。それがえきだ。易とは、過去のことをあてて足れりとせず、未来の凶にそなえて、よく身を護るべきためにあるもの。それでなくては易学ではない」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えきを立ててしんぜましょうかな、奉納試合の御運勢を見て進ぜましょうかな」
玄徳が呂範と対面中に、えきをたてて占ってみたところ、大吉のが出たというのである。
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えきを読んで、お銀様が腹を立つ、それは立つ方のお銀様が無理です。
「こら、卜者うらないしゃ、予は必ず、末森へ向うぞよ。そのつもりで、心してえきを立てい」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
盧俊儀ろしゅんぎは、過日来のえきの一条と、血光ノ災のこととを、語りだした。——そして、つくづくいうには、思うに、自分は祖先の業と財と徳をいできたのみで、何の報徳もしていなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ついでに、えきててきた。さあ、見当がついたからもうめたものだ」
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、えきを信ずる者は色を失い、同じ公卿でも、そう信じない若い人々は
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ふたりは、水垢離みずごりをとって、えきをたてた。そして頼朝の前へ出て告げた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「おもしろいものだな。えきというものは、そんなにもあたるものかの」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ゆうべ、なにげなくれいの亀卜きぼくえきをこころみたところが、どうもはなはだおもしろくない卦面けめんのしらせじゃ。そこでにわかに思い立って、きょうぶらりとやってきたが、はたしてこのさわぎ……」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「すこしは学者らしいところがあるな。しかし、えきのほうでは」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「翁は、その天数にくわしいと承る。ねがわくばえきを垂れよ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「なになに? 喬木きょうぼくらいかるとえきにでたか」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)