故郷くに)” の例文
それだのに故郷くにの母から大学を出たのだから、月々十円でもいゝから送金せよと云つて来た。僕は尚更憂鬱にならざるを得なかつた。
世に出る前後 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
みちの二三丁も歩いたが、桂はその間も愉快に話しながら、国元くにもとのことなど聞き、今年のうちに一度故郷くにに帰りたいなどいっていた。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「その沢から、あの藪地ブッシュを越えて、ほぼ十マイルもいったところが、ドドの発見地なんだ。おいドド久しぶりで故郷くにへかえろうぜ」
人外魔境:01 有尾人 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
万一を希望していた通り、その日の夜になッたら平田が来て、故郷くにへ帰らなくともよいようになッたと、嬉しいことばかりを言う。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「紐育生れの御婦人が一人して持つてらつしやる色々な美点は、故郷くにの女では三人四人集めなければ得られないからなんですよ。」
「いや、私はたまらなくなるから吹くのです。しかし吹くとなおたまらなくなってしまう。故郷くにの景色が目に見えるようで……」
北国の人 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
彼奴きゃつはその金でさかんに女房の名で故郷くにに土地を買っているそうだ」などと、まことしやかな話が出て来るに決まっています。
しかも自分の露骨な女文字までわざと同封して、あの何も知らずにいる故郷くにのお通へ宛てて、飛脚で出してしまったものである。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
方々探しても、何うしても分らなかったから、口髭ひげなんか剃って了って、一寸ちょいと見たくらいでは見違えるようにして、私の故郷くにに行ったの。
別れたる妻に送る手紙 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
と、その姿で……ここは暗闇くらやみだ。お聞きになるあなたの目に、もう一度故郷くにの一本松を思い浮べて頂きたい。あの松の幹をです。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
萩乃はぎのという息女があって、それがかれを待っているはず——故郷くにの兄、柳生対馬守と、妻恋坂の老先生とのあいだには、剣がとり持つ縁で
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
舐めると糸が切れないという「まじない」を故郷くにの年寄衆にきいていたからである。針の間からゆるやかに大巾の模様レースが流れ出してくる。
鴻ノ巣女房 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
茂兵衛 わしは、故郷くにのお母さんのお墓の前で横綱の土俵入りをして見せたいんだ、そうしたら、もう、わしは良いんだ。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
俺は決してお前を憎むのではないが暫らく余焔ほとぼりめるまで故郷くにへ帰って謹慎していてもらいたいといって、旅費その他のまとまった手当をくれた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
月の良い晩でございましたが、ぼんやり船の船首へさきに立ち、故郷くにのことや兄のことを、思い出していたのでございますな。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
故郷くにへ帰らうか、それとも京都へ行かうか、平三は此の問題に二日間悩まされた。同じことを積んだり崩したりして何時までも考がまとまらなかつた。
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
一日々々と戸外そとは春景色になつた。お梅は故郷くにの親達や弟妹が花見に來る時節の近づくのを樂みにして待つてゐた。
孫だち (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
「これは、故郷くにからおくってきた、らんのはなけたのだが、んでみないか。」と、れてしてくれました。
らんの花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
故郷くに靜岡しづをか流石さすが士族出しぞくでだけ人品じんぴん高尚かうしようにて男振をとこぶりぶんなく、さいありがくあり天晴あつぱれの人物じんぶついまこそ内科ないくわ助手しよしゆといへども行末ゆくすゑのぞみは十のさすところなるを
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
あま美味おいしくはございませんが、東京見物とうきやうけんぶつ他県たけん方々かた/″\が、故郷くに土産みやげつてつたものと見えまする。
あの荒れの真最中に御夫婦連れの方がお見えになって「小田切の親類の者だが、今日故郷くにへ帰るについて暇乞いとまごいかたがた参詣に来た、是非納骨堂に案内して欲しい」
情鬼 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
もっとも故郷くにを出る時の意気が違うから、自然その態度がはげしいのでありましょうが、たとえば、毎日通って来るようになってからも、上京早々のこと故、上野
故郷くにからの送金は絶えている。イヤでも不良かゴロに仲間入りしなければやり切れなくなっている。
東京人の堕落時代 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
これは私の故郷くにことばでありますが、私の故郷では嬰児あかんぼのことをややと云いますが、父は私を五歳いつつになっても六歳むっつになっても、ややと呼んで、好く母に笑われたと云います。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ツイ懐しくなります——わたし故郷くには中央欧羅巴ヨーロッパの小さい小さい国ですが、世界でも有名な音楽の盛んなところで、上手なヴァイオリンひきを、非常に沢山たくさん出して居ります。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
帰つて参りますと、お友達がお故郷くにの林檎を下さいました。もう綺麗で綺麗で雪の上へ祈りたくなりました。いやなあなたさまの心臓は、きつとこんな色をしてゐましてよ。
ということであったが、べつの女中は「からだがわるくなったので故郷くにへ帰ったようだ」
落葉の隣り (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
僕は故郷くにへ帰ったら、自分の心の天使ともいうべき未来の妻といっしょに、父の老後を
「では、真弓。これから、故郷くにへ帰ったら、二三年は、東京へ顔を出しちゃ、危いぞ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
コルシカの島かげに立つ灰色の村を指して、「おいらの故郷くに」と叫んだ見習水夫。
あの顔あの声 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
すなわちかねてお宅の給仕のユアンという男が病気で故郷くにのヴァレンシアに寝ている母親を見舞いに行きたいと、しょっ中同輩たちに話していたという聞き込みを得ておりましたので
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
小金をめて、故郷くにへ帰り余生を安楽に暮らそうというような量見(之が普通の南洋行商人の目的だ)を全然持合せず、唯、南海の風光、生活、気候、航海を愛し、南海を離れたくないがためにのみ
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
故郷くにから客が来た時、君の部屋を使わせて呉れ」
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
「お前はほんとうの故郷くにへ行くのだよ。」
故郷くにの庭には柘榴ざくろの花が散ってるだろう
無念女工 (新字新仮名) / 榎南謙一(著)
故郷くにへ 帰るぞよ
沙上の夢 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
凶作の故郷くに
鶴彬全川柳 (新字旧仮名) / 鶴彬(著)
「なにも深い話はしなかったけれど、後で思い出しました。——あの人が、又八さんをお故郷くにで待っていた許嫁いいなずけのお通さんなのでしょう」
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
公子 死ぬまで泣かれてたまるものか。あんな故郷くにに何の未練がある。さあ、機嫌を直せ。ここには悲哀のあることを許さんぞ。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
自分はいったい、故郷くにを出てから、なんのために刀をふるってきたのか——わからない。それが、わからなくなってしまった。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
また故郷くにの者誰もどうして正作が暮らしているか知らない、父母すら知らない、ただ何人も疑がわないことが一つあった。
非凡なる凡人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
平田が故郷くにの方の仕法ほうがついて出京したら、二夫婦揃ッて隣同士家を持ッて、いつまでも親類になッて、互いに力になり合おうと相談もしている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
「仕方がありませんよ、奥さん。実は土地ところ習慣ならひで、私の故郷くにではさうしなければならない事情があるのです。」
故郷くにから両親や親類のものが出てきて、祝儀の当日になった。奥の座敷に金屏風を立てて仮の式場にあてた。
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
はたして医者のいったとおりに顔の吹出物はだんだんはげしくなって人前に出されない顔になった。そうなると私は故郷くにに年を取っている一人の母親のことを思った。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
おまえさんは、わたしらのまれた故郷くにへいくはないか。あたたかできれいなはないていて、うまい果物くだもののとどくところにいくらもなっていて、だれもがない。
つばめと乞食の子 (新字新仮名) / 小川未明(著)
Yは私の仕事の手伝いをしに大抵毎日、朝から来ては晩までほとんど一日を私の家で過ごしたが、或る時、「ちょっと故郷くにへ帰りますから今日ぎり暫らくお暇をいただきたい」
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
私の負傷てきずは癒えなかったけれど、故郷くにを出てから六月目に、それでもマドリッドへ帰って来た。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お椀の中へそっと草鞋虫わらじむしを入れて食わせてやっただ、そんな事は何うでもいが、おめえさんがおいとまになるならんにもたのしみがえからおらさがろうか知ら、下らばすぐ故郷くにけえるだよ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
良吉はいぶかしさうに膳の上を見入つたが、其處には故郷くにから來たらしい食物は一つもなかつた。甘つたるい浸物したし鹽鱒しほますの燒いたのと、澤庵と辣薤らつきようとが珍しくもなく並んでゐるばかりだつた。
母と子 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)