たず)” の例文
これから油の小路に往って、悉皆屋と糊屋とを一軒一軒たずねて歩いてみよう。そう決心して、それからすぐ油の小路に廻っていった。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
笹村は二、三日、姉たちの家や、兄の養家先などを廻ってみたが、町にはどこをたずねても、昔の友人らしいものは一人もいなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
たずね探ねしながら長田川の橋を渡って五町、上野の城下小田町の三ツ辻まできた。上野は藤堂家の領地で、此処には数馬の知人もいる。
鍵屋の辻 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
けれど、そこには、おとうと姿すがたえませんでした。どこをたずねてもえませんでした。ほしひかりが、かすかにうえらしています。
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
お初どもの巣という巣、立ちまわり先という立ちまわり先、あまさず、姿をやつしてたずね廻って見ているが、彼女の消息は絶えて聴えぬ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
藤「実はこれ/\の悪党の為にだまされて此様こんな難に遭いましたが、従者とも下婢おんな岩と申すのは、何う致しましたか、何卒どうぞたずねなすって下さいまし」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
されどもしその翻訳を試みるものあらんか今日こんにちといへどもなほ日本画の精神をたずぬるに絶好の便宜となるや疑ひなし。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
うちの老婆は娘をたずねて山梨県まで又出掛けて行って未だ帰らぬ。気の毒なことだ。さて寝よう。末子よ、卿の上に佳き眠りと美しき夢のあるように。(九、三)
仏の道に行き、哲学を求め、いままた聖書にたずねるものはなにか——やがて妙諦みょうていを得て、一切を公平に、偽りなく自叙伝に書かれたら、こんなものはらなくなる小記だ。
柳原燁子(白蓮) (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
この一年間、たずねているような少女に私はとうとうめぐり合うことはできませんでした。
キャラコさん:01 社交室 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼はその場所を実際たずね当るかどうか、それはフランボーにも見当がつかなかった。
そして恐らく方々の屍体収容所をたずねあぐねた末に、N聖堂の中をまで一度ならずうろついていらしたといふではありませんか。潤太郎さんはきつと何かの病気だつたに違ひありません。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
ほとんど通常の陸上の人から考えると嘔吐おうとを催すかもしれない、その女たちの風体、態度、その他一切の条件にもかかわらず、それを長い間そのために一切を捨ててたずねあぐんだ冒険者が
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
白山方面とすれば本郷の郵便局へ来んとも限らん。しかし白山だって広い。名前も分らんものをたずねて歩いたって、そう急に知れる訳がない。とにかく今夜の間に合うような簡略な問題ではない。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
寄宿舎に入って数日後、伸子は偶然、安川をたずねてこの建物へ来た。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
行先は多分生れ故郷の英国であろうと女はかんがえていたので、つい此程倫敦へやってきて、毎日根気よく男の行方をたずねているうちに、ようやく男がパーク旅館に滞在しているのを見付け出した。
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
殊にお宝お宝の絵紙を買って、波乗り船のゆたかな夢をたずぬるかれらは、遂に憧憬の児たらずとせんや。吾儕はそれが絵の如き美しさと快さとを絶えず夢みて、ここに不断の詩趣を味いつつあるのだ。
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
妾が長い間、たずねあぐんでいた本当の男性だと思いましたの。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いずれかれらの消息しょうそくは、りこうな、敏捷びんしょうなのねずみによって、たずされて、ぶなのさかなたちにもわかることでありましょう。
縛られたあひる (新字新仮名) / 小川未明(著)
はじめてその路次の中へ女の家をたずねて入っていった時から折々顔を見て口をきき合っていたのであったが、せんだってじゅうからまたたびたび私が出かけていって
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
故に私が改めて貴公に頼むは、何うか隠密おんみつになってお国表へ参って、貴公が何うか又市を取押えて呉れんか……照お前は何処迄どこまでも又市をたずねて討たんければならぬが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そしてぼんちは強い刺戟しげきただれた魂を、柔かい女の胸の中に、墓場にたずねあてて死んでいった。
竹本綾之助 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
さらし出されることになろうも知れぬという懸念から、どうあっても、彼女をたずね出し、穏便おんびんにすむうちに、大奥へ送りかえさねばならぬと、いみじくも決心している一人であった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
空は飽迄あくまで灰色であった、三尺ばかり上は灰色の厚い布で張詰られているような気がした。外へ出たが誰をたずねて見ようという考えは別になかった。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
死んでしまった、古い宗教からけて、自分の救いを——と、いってわるければ、新しくゆく道をたずねていた人ではないかと、思っていたことにこの一節がぴたときたのだった。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
公方くぼうさまの御親類、当時、飛ぶ鳥も落す勢力いきおいかも知れないが、こんな夜更けに、あっしのようなおたずね者の泥棒風情を、一緒にお目通りまで、連れて来る程の、御懇意な仲でしょう。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
それを盗取ぬすみとりました者をたずねましたらかたきの様子も分ろうかと存じますが、仮令たとえ讐が知れましてもかぼそいわたくしが親の讐を討つことは出来ませんから、旦那様へ御奉公に上って居りましたら
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
その晩二人は寝床へ入ってから、明朝あした自分達を生んでくれたもとの母さんを尋ねに三里彼方あなたの、隣村の杉の木の森をたずねに出る約束をしたのです。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ここに入れるのに丁度よい議事堂の火事の絵をもっていたのだが、どこへか失ってしまった。私は昨日も今日も、随分たんねんにたずねたが見えないのですこしがっかりしている。
この時、水をたずねたように香を嗅ごうと焦った。而して花に鼻を触れて見たけれど、花には何の香というものもない。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今は、七十を越して、比丘尼びくにのように剃髪ていはつしている石井とめ女を、途中で見かけたという便りを叔父おじからもらったが、この章を終るまでにたずね出せなかったので、錦子との交錯は不明だ。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
みんなは、この最後さいごせつしたがいました。それから、ゆきひかる、たかやまたずねて、そのふもとへといったのであります。
北海の波にさらわれた蛾 (新字新仮名) / 小川未明(著)
しかたがないから、どこかの清水しみずのわきるところをさがさなければならないとおもって、おつは、そのから毎日まいにち近所きんじょやまのふもとのこころあたりをたずねてあるきました。
神は弱いものを助けた (新字新仮名) / 小川未明(著)
その太陽たいようは、はやくからがって、みつばちははなたずねてあるき、広場ひろばのかなたにそびえる木立こだちは、しょんぼりとしずかに、ちょうどたかひとっているように
港に着いた黒んぼ (新字新仮名) / 小川未明(著)
かれはそのしままちや、むらでやはりくすりはこって、バイオリンをらして、毎日まいにちのようにあるいたのです。こんど、かれは、おじいさんをたずねなければなりませんでした。
海のかなた (新字新仮名) / 小川未明(著)
昼過ぎに母親は前のはたけいもとを相手にして話をしていたから、裏庭へ出て兄をたずねると、大きな合歓ねむの木の下で、日蔭の涼しい処で黙って考え込んでいるのであります。
迷い路 (新字新仮名) / 小川未明(著)
毎夜まいよもりや、はやしや、うえちかくさまよって、このおほしさまは、なにかたずねています。それは、んだあねが、なお、おとうとのかわいがっていたとりさがしているのであります。
めくら星 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其様ことが如何にも不思議におもわれて、四辺を見物するというよりか人をたずねて、歩き廻ったという方がよかったろう。けれど戸を開けてまで中へ入り込む勇気がなかった。
暗い空 (新字新仮名) / 小川未明(著)
隠れているものは、みんな、鬼の来るのを怖れて見つかりはせぬかと、すくんでいた。鬼は眼をきょろきょろさせて、熊笹の繁った中や、土手の蔭などを一つ一つたずねて歩いた。
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
けれど、いつになったら、自分じぶんたずねているあねにめぐりあわれるか、わからなかった。また、いつになったら、このくるしみからのがれて、幸福こうふくおくられるかわからなかった。
サーカスの少年 (新字新仮名) / 小川未明(著)
もはやさびしいいえのうちを、どこをたずねても、真紅まっかないきいきとした、はなかげられなかったのです。おじいさんは、また、まえのたよりない、さびしい生活せいかつかえってしまいました。
花と人間の話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
或日私は、それでも家をたずねようと思ってぶらぶら寂しい町を歩いていた。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)
くさむらの中でかさかさとするのは何かの小鳥が巣をたずねているのであろう。
稚子ヶ淵 (新字新仮名) / 小川未明(著)