)” の例文
「家は自分のものだつて。」重役は自分の大きな鼻を他人ひとの持ちものだと言つて、指でこつぴどくぢ曲げられたやうにびつくりした。
そこで巡査は躍り出て、その者を捕えにかかると、はげしく抵抗したのでじ伏せたが、別に誰も追いかけて来る様子はなかった。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
中婆さんはいつも手近に落ちている銅貨をたくみに膝頭に敷き込んでは、ふくら脛のあたりへ手をやっては、袂へじ込んでいた。
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
同じ気持の渡辺に何か話しかけようと思ってじ向くと、遙か向うの方から怪しい人影が見えた。彼はブラ/\とこっちへ向って来る。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
紀久子はそう言いながら、洋服のポケットにじ込んでおいた幾枚かの紙幣を掴み出して、それを正勝の洋服のポケットに押し込んだ。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
其板に触れた響は、深い高い音を、打たれた時に「無」が発する戦慄すべき音を、陰々と反響した。それから彼は柩の蓋をぢはなした。
クラリモンド (新字旧仮名) / テオフィル・ゴーチェ(著)
このときし地下室をのぞいていた者があったとしたら、すみんだ空樽あきだるの山がすこし変にじれているのに気がついたであろう。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
婆芸者が土色したうすっぺらな唇をじ曲げてチュウッチュウッと音高く虫歯を吸う。請負師が大叭おおあくびの後でウーイと一ツおくびをする。
深川の唄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ここを「じれくぼ」というそうだ。霧は、頻に、頭の上を飛ぶ。空気も、その重さに堪えないで、雨を、パラパラ落して来る。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そしてそれをぢ、叩き、ひつかき、やすりをかける。絹糸は一つ一つに負けて擦りきれてゆく。穴が出来る。蝶は外に出るのだ。
そうかと思えば今度は、わたくしに向っている葛岡の心を、反対にじひしぐような仕方で葛岡に自分との結婚を強いました。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
君達が頼まれもしないおチヨツカイを出したばかりに、彦六め、又ぞろ尻を据へてぢ〈れ〉て来出したら、あの約束もママ角だが取消しだよ。
彦六大いに笑ふ (新字旧仮名) / 三好十郎(著)
少女はびたる針金の先きをぢ曲げたるに、手を掛けて強く引きしに、中には咳枯しはがれたる老媼おうなの声して、「ぞ」と問ふ。
舞姫 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
友の挨拶あいさつはどのへんに落ちたのだろうと、こそばゆくも首をじ向けて、ななめに三段ばかり上を見ると、たちまち目つかった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは細君の手にしている剃刀かみそりであった。細君の右の下唇には血があった。章一はいきなりその手をじあげてくるりと細君の体を前向にした。
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
唇を噛んだと覚しく下唇に多少の出血があるのは、これも両手を背後に廻して床上にじ伏せられた時、被害者が抵抗して生じたものであろうと
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「でなにかえ伊助どん。そう追っかけてまでじ込んできたんだから、此家ここで、お前さん立会たちええのうえで、改めて身柄しらべをしたろうのう、え?」
下女は盥の中の単衣ひとえしぼってお婆さんに見せた。それが絞られるたびじれた着物の間から濁った藍色あいいろの水が流れた。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
でも若し喰べ物が無くなると困ると思つたから、牛の鑵詰と福神漬の鑵詰の口の明けたのをふところぢ込んで出たの。
梅龍の話 (旧字旧仮名) / 小山内薫(著)
骨髄に徹する憎悪を右腕一つにこめて繰出したエビルの突きは二倍の力で撥ね返され、敵の横腹をつねろうとする彼女の手首は造作なくじ上げられた。
南島譚:02 夫婦 (新字新仮名) / 中島敦(著)
呉は、左の腕をじ曲げるように、顎の下に、も一方の手で抱き上げ、額にいっぱい小皺こじわをよせてはいってきた。
国境 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
榎の大木が根を張っているところを少時しばらくの間押しつ押されつしたが、私は到頭相手をじ伏せて馬乗りになった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしながら、狼犬が狂い立った場合に、その鎖を絶ち格子をじ曲げることは困難でないと断定された。いわんやその部屋には鍵をかける設備がなかった。
渠はついにその責任のために石を巻き、鉄をじ、屈すべからざる節を屈して、勤倹小心の婦人となりぬ。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この日は茜染あかねぞめの單衣若々しく、背中を往來に見せて坐つてゐたが、人が表を通る毎に、細い首をぢ向けて、眼の光りを投げかけることは、一人々々に怠らなかつた。
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
廊下の前の横長い手洗場で折折医員や看護婦さんが水道栓をぢて手を浄める音と、何処かで看護婦達の私語する声と、看護婦の溜で鳴る時計の音と、其れ位のものである。
産褥の記 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二人は無二無三に半七をじ伏せようとするのである。もう云い訳をしている暇もないので、半七は迷惑ながら相手になるのほかはなかった。それでも続けてまた呶鳴った。
半七捕物帳:64 廻り灯籠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は学校を休み松林にねて悲しみに胸がはりさけ死ぬときがあり、私の魂は荒々しく戸を蹴倒して我家へ帰る時があっても、私も亦、母の鼻すらじあげはしないであろう。
石の思い (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
跳びかかって、一人は城太郎の腕くびをり、一人はつかをにぎって、斬る構えを見せた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ルパンは咄嗟の場合品物をあらためもせずそのまま懐中ポケットじ込んだ。ジルベールは咡く様に
水晶の栓 (新字新仮名) / モーリス・ルブラン(著)
なにんだな、おとつゝあ」おつぎはあわてゝかほけてすこごゑむしするどくいつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「どうだい。あれを見ろ。綺麗きれいじゃないか。あの水の上に日の差しているところは。それからあそこを見ろ。」こう云いながら男は階段の横の方へじ向いて反対の方角を見た。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
鳩の首をぢようが、孔雀の雛を殺さうが、犬をけしかけて羊を追ひ𢌞さうが、温室の葡萄のをちぎらうが、一番大事な花のつぼみむしらうが、誰ひとりとして、邪魔するものもなければ
こんなことをして楽しんでいる男だった。或る日しきりにエピクテータスが足を引っ張りじまわしては喜でいる。でエピクテータスはちと痛いので「そうなさると私のあしは折れますよ」
イエスキリストの友誼 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
大工とか左官とかそういった連中が溪のなかで不可思議な酒盛りをしていて、その高笑いがワッハッハ、ワッハッハときこえて来るような気のすることがある。心がじ切れそうになる。
闇の絵巻 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
遭難者の身にとってはたまったものではない。禿はげ頭にじ鉢巻で、血眼になって家財道具を運ぶ老爺おやじもあれば、尻もへそもあらわに着物をまくり上げ、濁流中で狂気きちがいのように立騒いでいる女も見える。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
そして急に腹痛でも起つたやうに、顔中皺にしてぎゆうと首をぢつた。
乳の匂ひ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
そこを閉めると余計に小暗くなつてしまふ板の間に、おくみはどんよりした戸棚から煮物の砂糖の入れものを出したりして、うつたうしくこゞんで、アルミニュームの手鍋の下の瓦斯をぢた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
やつちよいやつちよい訳なしだとぢ鉢巻をする男子おとこのそばから、それでは私たちがつまらない、みんなが騒ぐを見るばかりでは美登利さんだとて面白くはあるまい、何でもお前の好い物におしよと
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
全川の水はげられた様に左に折れて、また滔々とう/\と流してく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
じ込み釘に捩じ止め釘」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お婆さんは大きな膝を夫人の方へぢ向けた。椅子はその重みに溜らぬやうに、お婆さんの腰の下でかはづのやうに泣き声を立てた。
私も人々の間にまじって一臂いちびの力をふるい一人の悪漢をじあげましたが、よく見るとそれは皮肉にも竹内だったのです。
暗夜の格闘 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「なるほど好い景色けしきだ」と甲野さんは例の長身をじ向けて、きわどく六十度の勾配こうばいに擦り落ちもせず立ち留っている。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
侍等が出て白酒を飲んで価を償わずに花道へ入る。小団次の黒手組助六が一人の侍の手をじ上げて花道から出て侍等をこらす。侍等は花道を逃げ入る。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その男の首をじ切って、会場の正面へさらしたいくらいに思う。インチキ発見のときは厳罰に処すべきである。
麻雀インチキ物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのとき、かれは緋鯉の丸っこい胴体がじられて、彎曲わんきょくされて滑らかにあらわれたのをみた。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
雲水の僧は矢庭やにわに躍りかかって、弁兆の口中へ燠をじ込むところであった。弁兆は飛鳥の如くに身をひるがえして逃げていた。そのまま逐電ちくでんして、再び行方ゆくえは知れなかった。
閑山 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
私の耳を打ち、鼻をじつつ、いま、その渦が乗っては飛び、かすめては走るんです。
雪霊続記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
早川から黒河内くろこうちはんの河原、それから白剥しらはぎ山と、前年の路を辿たどったときに、洪水からの荒廃は一層甚だしかった、まるで変っている、川筋はもとより、山腹の道などは、じり切って
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)