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慇懃
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いんぎん
ふりがな文庫
“
慇懃
(
いんぎん
)” の例文
またそれに対して、
慇懃
(
いんぎん
)
、武蔵も師礼を取ったかもしれない。けれど晩年絵を吉重に学んだとして武蔵の画を見るわけにはゆかない。
随筆 宮本武蔵
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
黒絽
(
くろろ
)
の羽織をひっかけた、多少は酒気もあるらしい彼は、谷村博士と
慇懃
(
いんぎん
)
な初対面の挨拶をすませてから、すじかいに坐った賢造へ
お律と子等と
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
別段、話に聞いていたような不愉快な印象を与えられることもなくかえってすこぶる
慇懃
(
いんぎん
)
に、大使館本館の応接間に招じ入れられた。
ナリン殿下への回想
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
相手よりもなお
慇懃
(
いんぎん
)
な態度で、熱心にあいづちを打ち、おどろいてみせ、感じ入り、適度に反対したり、あいそ笑いをしたりする。
雪の上の霜
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
殊に私は婦人の前で自分を大きくして見せ得る不思議な力と、
慇懃
(
いんぎん
)
を失はない程度で大胆に勝手に振舞ひ得る快活さとをも持つて居た。
犬
(新字旧仮名)
/
島崎藤村
(著)
▼ もっと見る
かかる場合には裁判官は
聊
(
いさゝ
)
か態度を
慇懃
(
いんぎん
)
にし審理を鄭重にし成るべく被告の陳弁を静に聴いて居る。しかしそれはただ聴くだけである。
公判
(新字旧仮名)
/
平出修
(著)
私は、いまこの井の頭公園の林の中で、一青年から
頗
(
すこぶ
)
る
慇懃
(
いんぎん
)
に煙草の火を求められた。しかもその青年は、あきらかに産業戦士である。
作家の手帖
(新字新仮名)
/
太宰治
(著)
が、此源助が、白井樣の分家の、
四六時中
(
しよつちう
)
リユウマチで寢てゐる奧樣に、或る特別の
慇懃
(
いんぎん
)
を通じて居た事は、誰一人知る者がなかつた。
天鵞絨
(旧字旧仮名)
/
石川啄木
(著)
客はあたたかげな焦茶の
小袖
(
こそで
)
ふくよかなのを着て、同じ色の少し浅い
肩衣
(
かたぎぬ
)
の幅細なのと、同じ
袴
(
はかま
)
。
慇懃
(
いんぎん
)
なる物ごし、福々しい笑顔。
雪たたき
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
とうとう隠しきれなかったが、あの人たちは
慇懃
(
いんぎん
)
な世なれた人たちだもんだから、そのことはしゃべらず、わしをかばってくれた。
審判
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
聴水はかくと見るより、まづ
慇懃
(
いんぎん
)
に安否を尋ね。さて今日
斯様
(
かよう
)
のことありしとて、黒衣が黄金丸を射殺せし由を、
白地
(
ありのまま
)
に物語れば。
こがね丸
(新字旧仮名)
/
巌谷小波
(著)
軍右衛門と小平は木蔭へ行って、何やらヒソヒソ囁き合っていたが、やがて梶子の側へ帰って来ると、小平が
慇懃
(
いんぎん
)
に梶子へ云った。
猫の蚤とり武士
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
約束の画面の前に立ってると、脅迫者が揚々と近寄ってきて、わざとらしい
慇懃
(
いんぎん
)
さで話しかけた。彼女は黙ってその顔を見つめた。
ジャン・クリストフ:08 第六巻 アントアネット
(新字新仮名)
/
ロマン・ロラン
(著)
それを道庵が素直に受けますと、お角さんが今度は健斎老の方へ向き直り、これは道庵先生に対するとは打って変った
慇懃
(
いんぎん
)
ぶりで
大菩薩峠:39 京の夢おう坂の夢の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
がらりと人格が変ったように、彼はそこの上り
框
(
がまち
)
に佩刀をおいて両手をつかえた。ながながと、
慇懃
(
いんぎん
)
に、身分姓名を名乗りだした。
石狩川
(新字新仮名)
/
本庄陸男
(著)
細君
(
さいくん
)
は
宗助
(
そうすけ
)
を
見
(
み
)
るや
否
(
いな
)
や、
例
(
れい
)
の
柔
(
やはら
)
かい
舌
(
した
)
で
慇懃
(
いんぎん
)
な
挨拶
(
あいさつ
)
を
述
(
の
)
べた
後
(
のち
)
、
此方
(
こつち
)
から
聞
(
き
)
かうと
思
(
おも
)
つて
來
(
き
)
た
安井
(
やすゐ
)
の
消息
(
せうそく
)
を、
却
(
かへ
)
つて
向
(
むか
)
ふから
尋
(
たづ
)
ねた。
門
(旧字旧仮名)
/
夏目漱石
(著)
「
何卒
(
どうぞ
)
、先生、主義の為めに御奮闘を願ひます」
慇懃
(
いんぎん
)
に腰を
屈
(
かが
)
めたる少年村井は、小脇の
革嚢
(
かばん
)
緊
(
しか
)
と抱へて、又た
新雪
(
あらゆき
)
踏んで駆け行けり
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
信長の弟勘十郎信行の折目正しい
肩衣
(
かたぎぬ
)
袴で
慇懃
(
いんぎん
)
に礼拝したのとひき比べて人々は、なる程信長公は聞きしに勝る大馬鹿者だと嘲り合った。
桶狭間合戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
内には言ひ争ふごとき声聞えしが、又静になりて戸は再び明きぬ。さきの老媼は
慇懃
(
いんぎん
)
におのが無礼の振舞せしを
詫
(
わ
)
びて、余を迎へ入れつ。
舞姫
(新字旧仮名)
/
森鴎外
(著)
そして
田舎
(
ゐなか
)
へ
帰
(
かへ
)
つてから、
慇懃
(
いんぎん
)
な
礼状
(
れいじやう
)
も
受取
(
うけと
)
つたのであつたが、
無精
(
ぶしやう
)
な
竹村
(
たけむら
)
は
返事
(
へんじ
)
を
出
(
だ
)
しそびれて、それ
限
(
き
)
りになつてしまつた。
彼女の周囲
(新字旧仮名)
/
徳田秋声
(著)
海の通行人は騎士のごとく
慇懃
(
いんぎん
)
だ。が、全船員は各自その船べりに重なり合って、船同士の儀礼を破壊して日本語で叫びかわす。
踊る地平線:12 海のモザイク
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
森は
二歩
(
ふたあし
)
三歩前へ進み、母を始め姉や娘に向ッて、
慇懃
(
いんぎん
)
に挨拶をして、それから
平蜘蛛
(
ひらくも
)
のごとく
叩頭
(
じぎ
)
をしている勘左衛門に向い,
初恋
(新字新仮名)
/
矢崎嵯峨の舎
(著)
奥の喫茶室で珈琲を飲んでいた一人の
見馴
(
みな
)
れない老紳士が、その時つかつかと雪姉ちゃんの所へ立って来て、
慇懃
(
いんぎん
)
に挨拶をして
細雪:01 上巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
と
四辺
(
あたり
)
を見𢌞している所へ、
依田豊前守
(
よだぶぜんのかみ
)
の組下にて
石子伴作
(
いしこばんさく
)
、
金谷藤太郎
(
かなやとうたろう
)
という両人の
御用聞
(
ごようきゝ
)
が駆けて来て、孝助に向い
慇懃
(
いんぎん
)
に
怪談牡丹灯籠:04 怪談牡丹灯籠
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
その時虹汀、大勢に打ち向ひて
慇懃
(
いんぎん
)
に一礼を施しつゝ、
咳一咳
(
がいいちがい
)
して
陳
(
の
)
べけるやう、
這
(
こ
)
は御遠路のところ、まことに御苦労千万也。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
家康が副将軍だなどと言われて大変な
人望
(
じんぼう
)
があるものだから、秀吉の側近の連中は家康の変に鄭重
慇懃
(
いんぎん
)
な律義ぶりを信用せず
家康
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
正体が知れてからも、出遊の地に
二心
(
ふたごころ
)
を持って、山霊を
蔑
(
ないがしろ
)
にした罪を、
慇懃
(
いんぎん
)
にこの神聖なる古戦場に
対
(
むか
)
って、人知れず
慚謝
(
ざんしゃ
)
したのであるる。
星女郎
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
「私は、」と彼は
慇懃
(
いんぎん
)
な微笑をうかべて私に言った、「パリ法廷づきの執達吏です。検事長殿からの通牒を持って来ました。」
死刑囚最後の日
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
と、モルガンを見つけた若紳士たちは、すぐに彼を取りまいて、肩を
叩
(
たた
)
いたり笑ったりして、お雪には、
慇懃
(
いんぎん
)
に握手を求めた。
モルガンお雪
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
正直な日本人は、心持顔を赤めながら、
慇懃
(
いんぎん
)
に帽子を脱いでお辞儀をした。そして
懐中
(
ポケツト
)
から手帖を取り出して次のやうな文字を書き込んだ。
茶話:04 大正七(一九一八)年
(新字旧仮名)
/
薄田泣菫
(著)
互に歩み寄りて一間ばかりに
近
(
ちかづ
)
けば、貫一は静緒に向ひて
慇懃
(
いんぎん
)
に礼するを、宮は
傍
(
かたはら
)
に
能
(
あた
)
ふ限は身を
窄
(
すぼ
)
めて
密
(
ひそか
)
に
流盻
(
ながしめ
)
を凝したり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ハツバス・ダアダアは再びホラチウスの教を忘れ給ふなと繰返しつゝも、猶
慇懃
(
いんぎん
)
に我手を握りて、詩人よ、
懋
(
つと
)
めよやと云ひぬ。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
チャーミングさんは、なんともいいようのない美しい微笑をうかべながら、たいへんに
慇懃
(
いんぎん
)
な口調で、お招きにあずかって有難い、といった。
キャラコさん:02 雪の山小屋
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
四十といふにしては若く、何んとなく
強
(
したゝ
)
かな感じのする男ですが、噂の通り良い男で、何處か
慇懃
(
いんぎん
)
無禮なところがあります。
銭形平次捕物控:254 茶汲み四人娘
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
細い胸を縮めてお辞儀をするその恰好は人のいい感じの
慇懃
(
いんぎん
)
さを通り越していかにも卑屈な哀しいものだったが、その声も哀しく卑屈だった。
如何なる星の下に
(新字新仮名)
/
高見順
(著)
母が何やらしきりに父をなじると、父の方は例の調子で、冷やかで
慇懃
(
いんぎん
)
な
沈黙
(
ちんもく
)
をまもっていたが、まもなく外へ出て行った。
はつ恋
(新字新仮名)
/
イワン・ツルゲーネフ
(著)
顧盻
(
こけい
)
おのずから雄厳にして、しかして他人のこれに接する生ける鬼神に
事
(
つか
)
うるがごとく、
慇懃
(
いんぎん
)
に尊恭するもまたはなはだし。
将来の日本:04 将来の日本
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
その見かたは
慇懃
(
いんぎん
)
ではあるが、変に思っているという見かたであった。そしてボオイに合図をすると、ボオイがもう一杯水を持って来てくれた。
襟
(新字新仮名)
/
オシップ・ディモフ
(著)
法水にそう云われて、里虹は
慇懃
(
いんぎん
)
に頷いた。彼は、懐古とも怖れともつかぬ異様な表情をして、
凝
(
じ
)
っと伏目になっていた。
人魚謎お岩殺し
(新字新仮名)
/
小栗虫太郎
(著)
見ているとこの外国人の一団はこの日本の作曲者を取り巻いてきわめて
慇懃
(
いんぎん
)
な充分な敬意を表した態度で話しかけている。
試験管
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
間もなくその素封家から「紅葉先生と露伴先生のだけは早速表装しました、お
庇
(
かげ
)
で自慢の家宝が二幅
出来
(
でけ
)
えました、」と、
慇懃
(
いんぎん
)
な礼手紙が来た。
硯友社の勃興と道程:――尾崎紅葉――
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
倉地が岡を通して愛子と
慇懃
(
いんぎん
)
を
通
(
かよ
)
わし合っていないとだれが断言できる。愛子は岡をたらし込むぐらいは平気でする娘だ。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
彼の風采には、快活な眼付から真白なカフスの輝に至る迄、一種渾然と陽気さと
慇懃
(
いんぎん
)
さとの調和したものが漲っていた。
伊太利亜の古陶
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
豎牛ももちろんそれは心得ている。叔孫の息子たち、殊に斉から迎えられた孟丙・仲壬の二人に向かっては、常に
慇懃
(
いんぎん
)
を極めた態度をとっている。
牛人
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
ここより別るるものは勇蔵が前に来て
慇懃
(
いんぎん
)
にその無事と好運とを祈り、中には涙に
溢
(
あふ
)
れて、再び
逢
(
あ
)
い見ぬもののごとく悲しき別れを
宣
(
の
)
ぶるもありき
空家
(新字新仮名)
/
宮崎湖処子
(著)
何故なら、若し結婚するのなら貴族の令孃にもふさはしいやうにあらゆる特權、あらゆる
慇懃
(
いんぎん
)
があなたのものになるやうにしてあげたいからですよ。
ジエィン・エア:02 ジエィン・エア
(旧字旧仮名)
/
シャーロット・ブロンテ
(著)
ふたりは素直にその忠告を
肯
(
き
)
いた。殊に呂氏の家というのもかねて知っているので、それではすぐに行こうと出かけると、主人は
慇懃
(
いんぎん
)
に別れを告げた。
中国怪奇小説集:11 異聞総録・其他(宋)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
大臣だとか華族だとかいえば、
慇懃
(
いんぎん
)
を尽くすというような阿附主義でない坊さんがいると如何にも溜飲が下がる。
僧堂教育論
(新字新仮名)
/
鈴木大拙
(著)
堂島ホテル附近にある、夜間薬品店の売子の
売行表
(
リスト
)
と、商業的な
饒舌
(
じょうぜつ
)
は、女の温度にたいしてひどく
慇懃
(
いんぎん
)
なのだ。
大阪万華鏡
(新字新仮名)
/
吉行エイスケ
(著)
「いや、ダリアさんですか、始めまして」と帆村は
慇懃
(
いんぎん
)
に挨拶をして「その繃帯はどうしたんです」と
尋
(
たず
)
ねた。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
慇
漢検1級
部首:⼼
14画
懃
漢検1級
部首:⼼
17画
“慇懃”で始まる語句
慇懃鄭重
慇懃心
慇懃礼
慇懃丁寧
慇懃丁重
慇懃三顧