後生ごしょう)” の例文
後生ごしょうだから貢がしてくださいよ。ねえ、いいでしょう、いいよう! うんとお言いよ。構うものかね、遠慮も何もるものじゃない。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「普天のもと、われに怪をなすものはない。いま汝を伐って、わが建始殿の棟梁とする。汝、精あらば後生ごしょうの冥加を歓んでよかろうぞ」
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「じゃあ、そのお客さんに会いたいっていうのよ。こちらへ押しかけそうにするのを、やっととめてきたの、弘ちゃん後生ごしょうだから……」
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
親父の後生ごしょうが悪いのか、僕たちが悪いのかと、兄もまぶしい空をながめながら笑っていた。それから兄はまたこんなことを言った。
こま犬 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「何が目出たかべい……庄屋様、後生ごしょうだわで、殿様がいやになったらいつでも遠慮なく家さ戻って来るように言ってやってくれべい!」
三人の百姓 (新字新仮名) / 秋田雨雀(著)
「ジンバラハラバイタァが後生ごしょうになるちゅうじゃねいか」仁左衛門さんが真面目に口を入れた。「辰さん、おめえ音頭おんどうをとるンだぜ」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
「俺アこれから六部ろくぶになって、今までに命を取った鳥けだものや、おしゅんの後生ごしょうをとぶらいながら、日本国中を経めぐって来る」
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
作ってみたんですけれども、我慢にももう着ていられなくなりましたわ。後生ごしょう。あなたの所に何かふだんのあいたのでもないでしょうか
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
妖怪変化、悪魔のたぐいが握っているのだか、何だかだかサッパり分らない黒闇〻こくあんあんの中を、とにかく後生ごしょう大事にそれにすがってしたがって歩いた。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
後生ごしょうだからすっぱり斬って、こんな痛いめにあわせないで、あたしも櫛まきお藤だ! あなたのお刀ならいつでも笑って受けましょうよ。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そう聞くと、僕はぜひその化け物屋敷に寝てみたいよ。君が不名誉の退却をしたという、その家のありかを後生ごしょうだから教えてくれないか」
「生意気なことを言やあがる、手前見たような奴だ、こんなところで押しつぶされる玉は! あんまり強吐張ごうつくばりを言やあがると後生ごしょうがないぞ」
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
「心の鬼のつのをおりに来て、ざんげなさるのはよいが、後生ごしょうがようござりますまい。うちの嫁は孝行で、孝行であんなよいものはござりませぬ。」
「ああ、ぼくをれて行かないでください。後生ごしょうですから、連れて行かないでください」とわたしはしくしくきだした。
おれが死んだら、おれが死んだらって、まあ何遍なんべんおっしゃるの。後生ごしょうだからもうい加減にして、おれが死んだらはして頂戴ちょうだい縁喜えんぎでもない。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「……サ……ここから出せ……出してくれ……この檻の中から……そうして一緒に研究を完成しようじゃないか……ね……ね……後生ごしょうだから……」
怪夢 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
同行三 阿弥陀あみだ様に、何とぞ今度の後生ごしょうを助けたまわれとひとすじにお願い申せばいかなる悪人も必ず助けてくださると、こう承っていますので。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
越後の東蒲原かんばらの山村にも同じ日を後生ごしょう始めといい、前年十一月からこの前日まで、鉦を叩かぬ習わしがある。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「もうちょっと待ってください、後生ごしょうですから。」と、奥がたはいいました。そうして、ごくひくい声で
青ひげ (新字新仮名) / シャルル・ペロー(著)
「あたしゃもう、ここにいてさえ、いやな気持きもちがするんだから、そんなとこへるなんざ、ぴらよ。——ねえおまえさん。後生ごしょうだから、かけってとくれよ」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
禅の東洋思想に対する特殊な寄与は、この現世の事をも後生ごしょうのことと同じように重く認めたことである。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
広い生々した世界の中から狭苦しい五味屑ごみくずのような自分の世界を区切ってきて後生ごしょう大事に縋りついて
小さな部屋 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
後生ごしょうですから、わたしのおかあさんや、おとうさんたちの、黄金時代おうごんじだいのことをはなしてください。きくだけでも、まれてきたかいがありますから。」と、彼女かのじょは、たのみました。
冬のちょう (新字新仮名) / 小川未明(著)
「自己を欺くって次第わけでもなかろう。授かった仕事を天職と心得て、後生ごしょう大切だいじに勤めているのさ」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「お見のがし下されませ! お許しなされませ! 後生ごしょうで厶ります。お見のがし下されませ!」
老中の眼鏡 (新字新仮名) / 佐々木味津三(著)
孔明こうめい兵を祁山きざんいだす事七度ななたびなり。匹婦ひっぷ七現七退しちげんしちたい何ぞ改めて怪しむに及ばんや。唯その身の事よりして人にるいおよぼしために後生ごしょうさわりとなる事なくんばよし。皆時の運なり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「なぜ? 私がいやなの。だったら私代わってもいいわ。そんなこといわないでね。後生ごしょうだわ」
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
わし生涯しょうがい病気びょうきという病気びょうきはなく、丁度ちょうど樹木じゅもく自然しぜん立枯たちがれするように、やすらかに現世げんせにおいとまげました。身分みぶんこそいやしいが、後生ごしょういたってかったほうでござります……。
後生ごしょうだからそんなこと言わないで、あなたはお父様にお詫びして姉様と一緒になって——」
呼ばれし乙女 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
全国の霊場を巡って、せめては後生ごしょうを願おうといった、悲しい決心をめると、佐兵衛の引止めるのも、お絹のなげきも振り切って、弥三郎は越後屋を飛出してしまいました。
後生ごしょう大事の小心から知らず知らず来たわざかもしれないと思えば、ひとしお哀れさが増した。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
もしもし、馬の脚だけは勘忍かんにんして下さい。わたしは馬は大嫌だいきらいなのです。どうか後生ごしょう一生のお願いですから、人間の脚をつけて下さい。ヘンリイなんとかの脚でもかまいません。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「くるしい、くるしい」いうて、「姉ちゃん、後生ごしょうやよってにあての背中の上い載ってぎゅッと押してエな」いうたり、何処をんでほしい、彼処かしこでてほしいいうのんで
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
後生ごしょうは見て来んことじゃから、それはおってのこと、こうひもじゅうては、眼が舞いそうじゃ、そのうえ、この間中あいだじゅうの談議ごとに、大難に逢うときは、百味ひゃくみ御食おんじきをくだされて
切支丹転び (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
後生ごしょうだから命だけは助けてくれよ、いまにこれをかいならして乗馬にするんだから」
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
蛇いわく僕も頭痛持ちだが蛇の頭痛療法を知ると同時に犬の頭痛療法を心得おらぬから詰まらない。犬いわくおまえの事はどうでもよい、とにかくおれの頭痛を治す法を教えてくれ後生ごしょうだ。
後生ごしょうですからその『ほんとに』のほかに何とか言って下さいよ。でないと私気が揉めて死にそうですから。」とプロス嬢が言った。彼女の性質は(その体格とは違って)短い方だった。
新どん後生ごしょうだから女部屋へ来ないようにしておくんなさい、今もおかみさんと旦那様とのお話もよく聞えましたが、店の者が女部屋へ這入ってきては世間体が悪いと云っておいでだから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この仏法僧鳥は高野山に啼く霊鳥で、運好くば聴ける、後生ごしょうの好くない者は聴けぬ。それであるから、可なり長く高野に籠ったものでも、ついに仏法僧鳥を聴かずに下山する者の方が多い。
仏法僧鳥 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
「いいや、養子です。みなし児でして。後生ごしょうのため引取ってやりました。」
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「妾の腹の子の父親のことを教えて下さいな。どうぞ後生ごしょうですから……」
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「そう、たやすくはごねそうもねえ後生ごしょうの悪いやつだったが……」
顎十郎捕物帳:06 三人目 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「母ちゃん後生ごしょうだから行かないでちょうだい。行かないで……」
「じゃあたのむ、おまえさん後生ごしょうだ、わりにかけておくれ。」
鬼六 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
『困りますなあ。出て行って下さい。後生ごしょうですから。』
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
「そんな馬鹿な事を言わないで、ね、後生ごしょうだから。」
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
後生ごしょうだからそんなことをしないでおくんなさい。
一本刀土俵入 二幕五場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
後生ごしょう安楽に余生を送ることになる。
「ね、後生ごしょうだからダーシェンカ」
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
後生ごしょう! 妾はもう……。
華々しき一族 (新字新仮名) / 森本薫(著)