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彷彿
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ほうふつ
ふりがな文庫
“
彷彿
(
ほうふつ
)” の例文
荒行にたえたその童貞の身体は
逞
(
たくま
)
しく、彼の唄う梵唄はその深山の修法の日毎夜毎の切なさを
彷彿
(
ほうふつ
)
せしめる哀切と荘厳にみちていた。
道鏡
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
わたくしは一葉柳浪鏡花等の作中に現れ
来
(
きた
)
る人物の境遇と情緒とは、江戸浄瑠璃中のものに
彷彿
(
ほうふつ
)
としている事を言わねばならない。
里の今昔
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
新聞の標題の下の最も簡約で要領をえた報道におとらず、スペインの正確な事態、もしくは乱脈状態をわれわれに
彷彿
(
ほうふつ
)
させるであろう。
森の生活――ウォールデン――:02 森の生活――ウォールデン――
(新字新仮名)
/
ヘンリー・デイビッド・ソロー
(著)
「翌日訪ねると、もう
何処
(
どこ
)
かへ行ってしまっていた」といい、生前の伯父を知っている者には、
如何
(
いか
)
にもその風貌を
彷彿
(
ほうふつ
)
させる描写なのだ。
斗南先生
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
この「倫敦消息」は後年の『
吾輩
(
わがはい
)
は
猫
(
ねこ
)
である』をどことなく
彷彿
(
ほうふつ
)
せしめるところのものがある。試みにその一節を載せて見る。
漱石氏と私
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
▼ もっと見る
この第一楽章に示された高雅な雲雀の歌の美しさは、春の
野辺
(
のべ
)
の
麗
(
うらら
)
かさを
彷彿
(
ほうふつ
)
させるもので、今は亡きカペエの傑作レコードの一つである。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
庸三は
窶
(
やつ
)
れたその顔を見た瞬間、一切の光景が目に
彷彿
(
ほうふつ
)
して来た。葉子のいつも黒い
瞳
(
ひとみ
)
は光沢を失って
鳶色
(
とびいろ
)
に乾き、
唇
(
くちびる
)
にも生彩がなかった。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
はすはになりがちであるのをしっとりと品よく、大どころの秘蔵娘を
彷彿
(
ほうふつ
)
させたと、あのきりりとした綾之助の面影まで思いうかべるのだった。
豊竹呂昇
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
はじめて皆一斉に「都の西北」を高唱しながら
練歩
(
ねりある
)
いて行ったその時の感激的な光景は、今もなお眼前に
彷彿
(
ほうふつ
)
としている。
早稲田神楽坂
(新字新仮名)
/
加能作次郎
(著)
実際その時はそうして見たら、ふだんは人間の眼に見えない物も、夕暗にまぎれる
蝙蝠
(
こうもり
)
ほどは、朧げにしろ、
彷彿
(
ほうふつ
)
と見えそうな気がしたからです。
妖婆
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
あるいは生きあるいは死ぬる様が
彷彿
(
ほうふつ
)
として、昨日のことのようにも思われる。壁は揺らぎ、石は落ち、裂け目は音をたてている。穴は傷口である。
レ・ミゼラブル:05 第二部 コゼット
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
東海道でもしばしば太洋を見たが、この感じとは違う。水天
彷彿
(
ほうふつ
)
たるかなたまで、さえぎるものもなく、無辺際までつづくかと思える大海原だった。
新潮記
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
隠れたるに見給う神に祈を捧げている鳴尾君の姿には、使徒トマスとかアンデレとかを
彷彿
(
ほうふつ
)
させるものがあって、私はひどく心をそそられたのである。
西隣塾記
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
それから突然、何処かの村で明もそうやって片側だけ雪をあびながら有頂天になって歩いている姿が
彷彿
(
ほうふつ
)
して来た。
菜穂子
(新字新仮名)
/
堀辰雄
(著)
二百七十名の来会者が大広間に居並んだその正面に、黒紋付の羽織袴に端然と構えた翁の姿、さながら能面の如く気品ある容貌、今なお眼前に
彷彿
(
ほうふつ
)
する。
明治世相百話
(新字新仮名)
/
山本笑月
(著)
指のそりかえった
頑丈
(
がんじょう
)
な足をみると、生存を歓喜しつつ大地をかけ
廻
(
まわ
)
った古代の娘を
彷彿
(
ほうふつ
)
せしむる。その瞑想と微笑にはいかなる苦衷の
痕跡
(
こんせき
)
もなかった。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
ラサ府が
遙
(
はる
)
かに東北の方に
彷彿
(
ほうふつ
)
と見えて居るのみならず、法王の宮殿も
糢糊
(
もこ
)
の間に見えて居りますと、幸いに
往
(
い
)
きも帰りも好天気であったものですから
チベット旅行記
(新字新仮名)
/
河口慧海
(著)
大勢の人びとは岸にあつまって眺めていると、金の
甲
(
よろい
)
を着た神者が
彷彿
(
ほうふつ
)
として遠い空中に立っているのを見た。
中国怪奇小説集:12 続夷堅志・其他(金・元)
(新字新仮名)
/
岡本綺堂
(著)
ヴォルテル称揚して言えらく、「人類の偉業を失うや久し、モ君出でてこれを回復しこれを恢張せり」と。陸羯南の人となり、真に先生に
彷彿
(
ほうふつ
)
たるものあり。
近時政論考
(新字新仮名)
/
陸羯南
(著)
幻花子
(
げんくわし
)
も
新聞
(
しんぶん
)
の
方
(
はう
)
が
忙
(
いそが
)
しいので、
滅多
(
めつた
)
に
來
(
こ
)
ず。
自分
(
じぶん
)
一人
(
ひとり
)
で
時々
(
とき/″\
)
掘
(
ほ
)
り
始
(
はじ
)
めの
處
(
ところ
)
へ
立
(
た
)
つては、
往事
(
むかし
)
を
追懷
(
つひくわい
)
すると、
其時
(
そのとき
)
の
情景
(
じやうけい
)
が
眼前
(
がんぜん
)
に
彷彿
(
ほうふつ
)
として
見
(
み
)
えるのである。
探検実記 地中の秘密:02 権現台の懐古
(旧字旧仮名)
/
江見水蔭
(著)
地は荒れ、物は
毀
(
こぼた
)
れたる中に
一箇
(
ひとり
)
は立ち、
一箇
(
ひとり
)
は
偃
(
いこ
)
ひて、
言
(
ことば
)
あらぬ姿の
佗
(
わび
)
しげなるに照すとも無き月影の隠々と
映添
(
さしそ
)
ひたる、既に
彷彿
(
ほうふつ
)
として
悲
(
かなしみ
)
の図を
描成
(
ゑがきな
)
せり。
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
君の顔を見た瞬間に、故郷の
禿山
(
はげやま
)
が
彷彿
(
ほうふつ
)
として眼前に浮んだね。イヤ。
禿
(
は
)
げているから云うんじゃない……アハハハ。今夜はこの風を
肴
(
さかな
)
に飲み明かそうじゃないか。
爆弾太平記
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
町々を歩くと、しばしばあの
唐三彩
(
とうさんさい
)
を
彷彿
(
ほうふつ
)
させる
緑釉
(
りょくゆう
)
の陶器を、山と車に積んで通るのを見かけます。
北支の民芸(放送講演)
(新字新仮名)
/
柳宗悦
(著)
私交上、女子の位地の重要なる事は、国際上に個人としての政治家の位地が重大なるに
彷彿
(
ほうふつ
)
しておる。
国民教育の複本位
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
花下
(
かか
)
に五
裂
(
れつ
)
せる
緑萼
(
りょくがく
)
があり、
花冠
(
かかん
)
は
高盆形
(
こうぼんけい
)
で下は
花筒
(
かとう
)
となり、
平開
(
へいかい
)
せる
花面
(
かめん
)
は五
片
(
へん
)
に分かれ、各片の
頂
(
いただき
)
は二
裂
(
れつ
)
していて、その状すこぶるサクラの花に
彷彿
(
ほうふつ
)
している。
植物知識
(新字新仮名)
/
牧野富太郎
(著)
風の
便
(
たよ
)
りに聞くとも違って、実地を踏んで来た縫助の話には正香の住む京都
衣
(
ころも
)
の
棚
(
たな
)
のあたりや、染物屋伊勢久の
暖簾
(
のれん
)
のかかった町のあたりを
彷彿
(
ほうふつ
)
させるものがあった。
夜明け前:03 第二部上
(新字新仮名)
/
島崎藤村
(著)
読者の眼頭に
彷彿
(
ほうふつ
)
として展開するものは、豪壮悲惨なる北欧思想、
明暢
(
めいちよう
)
清朗なる
希臘
(
ギリシヤ
)
田野の夢、または銀光の
朧々
(
ろうろう
)
たること、その聖十字架を思はしむる
基督
(
キリスト
)
教法の冥想
海潮音
(新字旧仮名)
/
上田敏
(著)
本篇はただ
僅
(
わず
)
かに故人の一生の輪廓を
彷彿
(
ほうふつ
)
せしむるためのデッサンたるに過ぎないのである。
二葉亭四迷の一生
(新字新仮名)
/
内田魯庵
(著)
また曰く、「勝利における唯一の道は、
殉難
(
じゅんなん
)
に依るに
在
(
あ
)
り、殉難を耐久するに
在
(
あ
)
り」と。
苟
(
いやし
)
くもこの語を聞く者は、また以て松陰の維新前における猛志を
彷彿
(
ほうふつ
)
するを得べし。
吉田松陰
(新字新仮名)
/
徳富蘇峰
(著)
ならびに時間的空間的分布の片影を
彷彿
(
ほうふつ
)
させるくらいのものはあるであろうと思われる。
比較言語学における統計的研究法の可能性について
(新字新仮名)
/
寺田寅彦
(著)
年頃に多少の違いはあろうが、むす子の中学時代を
彷彿
(
ほうふつ
)
させる長い
廂
(
ひさし
)
の制帽や、太いズボンの制服のいでたちだけでも、かの女の露っぽくふるえている
瞼
(
まぶた
)
には、すでに毒だった。
母子叙情
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
彼女らの父親の悲憤のさまが
彷彿
(
ほうふつ
)
と思い浮かべられますが、だから、久之進がいくぶんの罪滅ぼしというつもりから、彼女ら姉妹をその邸内に引き取ってくれたのをさいわいに
右門捕物帖:02 生首の進物
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
洋服
(
ようふく
)
のボタンが一つ
取
(
と
)
れて、ひじのあたりが
破
(
やぶ
)
れている
具合
(
ぐあい
)
までが、
無頓着
(
むとんちゃく
)
で、
直
(
なお
)
してあげるといってもめんどうくさがる、お
父
(
とう
)
さんのようすを
彷彿
(
ほうふつ
)
させて、
気
(
き
)
の
毒
(
どく
)
のようにも
汽車は走る
(新字新仮名)
/
小川未明
(著)
親しく語り交わすことが出来た三斎息女
浪路
(
なみじ
)
は、翌日大奥に戻ったが、かの
優人
(
わざおぎ
)
のいかなる美女よりも美しく
艶
(
あで
)
やかなおもかげが、たえず目の前に
彷彿
(
ほうふつ
)
するにつれ、今更のように
雪之丞変化
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
我々はこの人格を通して彼の「悉有」の認識を思索せねばならぬ。その時にこの悉有の内的光景が幾分かは
彷彿
(
ほうふつ
)
せられるであろう。思うにそれは、最も深き意味における「自由」である。
日本精神史研究
(新字新仮名)
/
和辻哲郎
(著)
この歌も前の歌と共通した特徴があって、人麿を
彷彿
(
ほうふつ
)
せしむるものである。
万葉秀歌
(新字新仮名)
/
斎藤茂吉
(著)
カトリックの地獄の幻想を
彷彿
(
ほうふつ
)
させながら、無間の闇の中に消えている。
白雪姫
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
処が、
仮令
(
たとい
)
事件そのものは伝説上に置いても、考証学的知識に依って当時の風俗、歴史が適確に描かれ、その時代の空気を
彷彿
(
ほうふつ
)
させるような作品であれば、これを歴史小説と呼んでもいいと思う。
大衆文芸作法
(新字新仮名)
/
直木三十五
(著)
ただいま申しましたご婦人の椅子にこの上なく愚劣な
傲慢
(
ごうまん
)
さを示しながらふんぞりかえっていたその有様が今も私の眼前に
彷彿
(
ほうふつ
)
としているくらいですが、この男はなんと答えたでしょうか? 諸君
審判
(新字新仮名)
/
フランツ・カフカ
(著)
その点に、上古の天皇と
氏上
(
うじのかみ
)
との対面の様子が
彷彿
(
ほうふつ
)
するのである。
中世の文学伝統
(新字新仮名)
/
風巻景次郎
(著)
「好い思いつきだよ。地方色も多少我輩の郷里を
彷彿
(
ほうふつ
)
している」
ガラマサどん
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
ドストエフスキーのように、その人物の特徴ある部分のみを誇張してそれによって全人格を
彷彿
(
ほうふつ
)
たらしめようとする作家がある。
意慾的創作文章の形式と方法
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
この句は唯この七番戸が生命で、其処まで事実を摘み出して来たところに、いかにも田舎らしい家を
彷彿
(
ほうふつ
)
せしむる力があって面白いのである。
俳句はかく解しかく味う
(新字新仮名)
/
高浜虚子
(著)
この人の指揮はこの有名な風景画の描写には少し重いが、しかし申し分なく優麗で、海の奇勝が
彷彿
(
ほうふつ
)
する心地がするだろう。
楽聖物語
(新字新仮名)
/
野村胡堂
、
野村あらえびす
(著)
が、それにもかかわらず、あの「わが袖の記」の文章の中にはどこか樗牛という人間を
彷彿
(
ほうふつ
)
させるものがあった。
樗牛の事
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
お婆さんの部屋の
長押
(
なげし
)
にはその人の肖像が額にして
懸
(
か
)
けてある。私は一言か二言の中にその人の
俤
(
おもかげ
)
や生涯が
彷彿
(
ほうふつ
)
としてくるような言葉をきくのが好きだ。
犬の生活
(新字新仮名)
/
小山清
(著)
お雪は
倦
(
う
)
みつかれたわたくしの心に、偶然過去の世のなつかしい幻影を
彷彿
(
ほうふつ
)
たらしめたミューズである。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
希臘
(
ギリシャ
)
の神殿を
彷彿
(
ほうふつ
)
せしむるような円柱の立ち並んだ金堂、平城京の朝集殿と伝えらるる講堂、及びその西側に細長く建っている舎利殿、小さく
可憐
(
かれん
)
な二階造の鼓楼
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
拗
(
ひね
)
くれた先入観があっては、私はこの故人を、こう
彷彿
(
ほうふつ
)
と思い浮べることは出来なかったであろう。
樋口一葉
(新字新仮名)
/
長谷川時雨
(著)
ツイこの
間
(
あいだ
)
まで立ち働らいていた妻の病み
窶
(
やつ
)
れた姿や、現在、先に帰って待っているであろう
吾児
(
わがこ
)
の元気のいい姿を、それからそれへと眼の前に
彷彿
(
ほうふつ
)
させるのであった。
木魂
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
“彷彿”の意味
《名詞》
自然に思い起こされるような印象を与える様。
(出典:Wiktionary)
彷
漢検1級
部首:⼻
7画
彿
漢検1級
部首:⼻
8画
“彷”で始まる語句
彷徨
彷
彷徊
彷弗
彷狒
彷迷
彷遑
彷徨彳亍