おさ)” の例文
二人の刑事の顔、壮平爺さんの嬉しそうな顔、そしておさ馴染なじみの清子の無邪気むじゃきな顔、——それが見る見るあでやかな本牧の女の顔に変る。
疑問の金塊 (新字新仮名) / 海野十三(著)
おさない頃の恋愛は、まだ根が小さく青いので、心残りな、食べかけの皿をとってゆかれたような切ない恋愛の記憶を残すものだ。
恋愛の微醺 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
最初に二川の丸いクル/\とした色白のおさな顔が浮び上って来た。それは母の朝子あさこには似ないが、父の重行にそっくりだといわれていた。
「だれも人がいなかったから、とうとうあれをれてきましたが、ほんとにばかですよ。とうとうおさをあなたに聞かしてしまいましたわ。」
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
一度東京から逗留とうりゅうに来たおさないめいが、二三日すると懐家病ホームシックに罹って、何時いつも庭の端に出ては右の煙を眺めて居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
るくするととりかへしのかぬことになるとまをしまして、れで其時そのときまをしました、わたし郷里きやうりおさ友達ともだちれ/\つて、かんもちの、はつきりとして
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
米友にとってお君は唯一ゆいつおさ馴染なじみであり、お君にとっても米友は唯一の幼な馴染でありました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
夕暮れには、赤い夕焼けの雲を望んで、弥勒の野に静かにおさ伴侶はんりょとしているさびしき、友の心を思うと書いてあった。弥勒野から都を望む心はいっそうせつであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
まれにはおさない者などがこれを事実かと思い、またはそういうことがもし有ったらどうだろうと、考える人があるような、ちょうど境目の線に沿って話を進めようとしている。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ときの手をすこしこばむようにしりごみしていたが、宮内くないからじゅんじゅんと自分の母であることを話されると、東海道とうかいどうで、はなかけ卜斎ぼくさいにひろわれたというおさな話を思いだして
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
色白の福々しくふとっていたおさな顔だけが記憶に残っていた……。
冬枯れ (新字新仮名) / 徳永直(著)
おさない時の自分の顔でもなく
貧しき信徒 (新字新仮名) / 八木重吉(著)
散々さん/″\のおたみ異見いけんすこそめ揚句あげく、そのひとにわかにわかれといふ、おさなきこヽろには失禮ひつれいわがまヽをくみて夫故それゆゑ遠國ゑんごくへでもかれるやうにかなしく
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
大成はちん姓の家からおさ珊瑚さんごという女をめとったが、大成の母のしんというのは、感情のねじれた冷酷な女で、珊瑚を虐待したけれども、珊瑚はすこしもうらまなかった。
珊瑚 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
阿爺おとっさんは、亡児なきこ枕辺まくらべすわって、次郎さんのおさだちの事から臨終前後の事何くれとこまかに物語った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
お小さいとき、よくお気のつくものとしては物売りの声、お祭りなどの行事、その辺のごく狭い地区の名、おさ馴染なじみの名などでございますが、一つ思い出していただきましょうか
三人の双生児 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それからまた、清盛へは、ふと、こんなおさな物語を、して聞かせた。
昔はそのオホアガリの島から、赤い髪の色をした男女が、時たま与那原よなばるの浜に渡ってくることがあったように、うわさをする者が多く、伊波普猷氏などもおさない頃、よくその話を聴いていたそうである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ちと御呵おしかあそばしてくださりませときま文句もんくはなたすれど學士がくしさらにもめず、そのおさなきがたつときなり、反對はんたいはねかへられなばおたみどのにも療治りようぢが六ツかしからん
経つくゑ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
成程違わぬ。舞台のハムレットには、おさな顔の土肥どい君が残って居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そのほかにはちいさき子供こどもの二三にんりて細螺きしやごはじきのおさなげなことしてあそぶほどに、美登利みどりふとみゝてゝ、あれれか買物かひものたのではいか溝板どぶいた足音あしおとがするといへば、おや左樣さう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
可笑をかしらしくはなして機嫌きげんれば、おさこヽろ十倍じふばい百倍ひやくばいおもしろく、吾助々々ごすけ/\きまとひてはなれず、こヽろ面白おもしろしとけばれをそのまヽ令孃ひめかたりて、吾助ごすけはなしはなにごともうそならぬかほつき
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)