ねが)” の例文
とにかく、老年変若をねがう歌には「みつは……」と言い、瑞歯に聯想し、水にかけて言う習慣もあったことも考えねばならぬと思う。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
しかし僕は祈るべき言葉を持たなかったから、Bの恩師の言葉を引用して、ひたすら彼らの旅路のまどかなるべきをねがうのであった。
吊籠と月光と (新字新仮名) / 牧野信一(著)
「ウーム。……おれの考えか。おれもそれをねがっているが、ただ悠長にだらだらと日を過しているのは嫌いだ。やるなら早くいたせ」
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
てんにでもいゝ、にでもいゝ、すがらうとするこゝろいのらうとするねがひが、不純ふじゆんすなとほしてきよくとろ/\と彼女かのぢよむねながた。
(旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
しかし、わが子の安全をねがうのが現としての情であるかぎり、時として父の説く道理にも、いくらかのゆがみがないとは限らない。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
事ここに至った縁起えんぎを述べ、その悦びを仏天に感謝し、かつは上人彼みずからの徳に帰すことをねがい、ここに短き筆をきたく思います。
民芸四十年 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
わしは分不相応なことをねがつてゐたのだ。考へて見るがよい。わしは名主職でさへ、満足につとめられないやうな、能なしではないか。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
ひそかにねがったりしていたのも真実で、今後もしう機会があっても、もう今までのような気持では逢ってもいられないだろうし
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
……そうすればきっと、私達がそれをねがおうなどとは思いも及ばなかったようなものまで、私達に与えられるかも知れないのだ。
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
むしろ、常に我々をめぐりややともすれば我々に襲い掛ろうとしている所の数知れない痛苦と心配とから離脱しようという事をねがうべきだ。
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
ねがわくはわが求むる所を得んことを……願くは神われをほろぼすをしとし御手みてを伸べて我を絶ち給わんことを」と彼はひたすらに死をねがう。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
太子すなわち聖徳太子とを親しく召されて「我が大御病の太平ならんことをねがうために、寺と薬師如来の像とを造り奉仕せよ」
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
それらの善良なる男女はわれわれを放蕩息子ほうとうむすこと呼び、われわれの帰国をねがい、われわれのためにこうしを殺してごちそうをしようと言っている。
過日京師けいしへ差出し下され候由これまた謝し奉候。さて阿波へもつかわく先にこれり候五、六部も拙方へ御遣しの程ねがひ申上候云々。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きのふは縁なくゆかりなき公衆の喝采を得て、けふは世に稀なるべき美人のわが優しき一言をねがひ求むるに逢ふも我なり。
彼は知力もあり全力をつくして自分の教育を完成しようとねがっていたが、いつも貧困のために身動きがならなかった。
そしてその必死の努力が同時に、その船の安全をねがわせ、船中にあって彼と協力すべき人々の安全を希わせるだろう。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
 時間と長い引用を省くために、私はここでコンドルセエ氏の考えの若干の要旨を伝えることとするが、ねがうらくはそれを誤り伝えないことをと思う。
それで永いあいだ、その遠野に行こう、……山で囲まれた町、雪の中の町を見に行こうとねがっていた、好奇心がすっかり消え去ってしまうようだった。
遠野へ (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
何も廃刊させようと思って、あんな危い記事を書いたわけではないが、しかし、ひそかにお前の失脚をねがう気持がなかったとは、言えなかったからだ。
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
今年は、気まぐれな戦争から解放されたはじめての鮎釣り季節を迎えて、またこの魚野川に伜や娘を伴い、一夏を楽しく過ごしたいと、ひたすらねがう。
(新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
(魂なきものは幸いなるかな。彼女等は絶えず笑い得るから、ねがわくば笑うことを知らざる淋しき人達に恵あれ!)
地上:地に潜むもの (新字新仮名) / 島田清次郎(著)
彼がねがったのは、夢想し耽溺たんできすることの快楽を、恍惚こうこつとして実践する風流人の生活、当時の言葉でいうところの数寄者すきものの生活ではない。正反対である。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
我また語るをねがふ多くのかゝる顏を見しかば、人と泉との間に戀をもやしたるその誤りの裏をかへしき 一六—一八
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
東洋人の、幾多古人の芸術家が「身をけて白雲にし、」とか、「幻に住さん」などということをねがっている。必ずしも自然をもとめるのではあるまい。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
まったく美しいものを美しいままで終らせたいなどとねがうことは小さな人情で、私の姪の場合にしたところで
堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
身だしなみとして書道に学び、ついにここまで行きたいとねがうのは、あながち私一人の感想ばかりではあるまい。
現代能書批評 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
私も常に俳句の新しい事をねがって居ることは人後に落ちない。しかしそれは何処どこまでも俳句としての新しさである。俳句でないものの新しさには関係ない。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
人の死をねがうような心が、自分の胸の奥の何処どこかに潜んでいると考えることは、不愉快でもあり浅ましくもあるけれども、どうやらそれは事実なのである。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
清浄な蒲団ふとんにおいのいい蚊帳かやのりのよくきいた浴衣ゆかた。そこで一月ほど何も思わず横になりたい。ねがわくはここがいつの間にかその市になっているのだったら。
檸檬 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
氏は世の高貴なる栄達をねがわないという意を明瞭に記してあったのを、自分は承知して結婚を諾したのであって見れば、今に至って如何にしてこれに対して
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
不腆ふてんといえども、我国の人年来恩遇を受けしをいささか謝し奉らんがために献貢す。向来きょうらい不易ふえきの恩恵をねがうのみ。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
而して胸中一物のねがふところなく、だ一寺の建立を願欲せしむるに過ぎざりしもの、抑も奈何いかんの故ある。
心機妙変を論ず (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
皆んなは天が其の努力を助けることをねがつて、其の身を犠牲にして恐ろしい災難を防ぐのだ。お前達も危険な時に出遭つたらこれを手本にしなくてはならない。
古人としては梅に不調和な垣根の魚の骨が、雪のために隠れむことをねがうような心持があるかも知れない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ねがうことならいま籠釣瓶の鞘払って、床柱といわず、長押なげしといわず、欄間といわず、そこらのもの片っ端から滅多斬りに斬りまくってしまいたいくらいだった。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
こういう特質は、文学のあらゆる特質のうちで、最も翻訳に適せぬものと信じるが、この冒涜は、私のルナアルに対する無上の愛によって償いたいとねがっている。
当帝が即位されたことは源氏にうれしかったが、自身の上に高御座たかみくらの栄誉をねがわないことは少年の日と少しも異なっていなかった。あるまじいことと思っている。
源氏物語:14 澪標 (新字新仮名) / 紫式部(著)
上手下手へたがあっても、よい子になろうよい人にしようとする二つの心は、人のねがいでなく神の許しであることを信じて、本気に祈りつつこの仕事に従事するならば
最も楽しい事業 (新字新仮名) / 羽仁もと子(著)
いなちゝではありません。ともであります。ほんとにともでありたいと、それをせつねがふものです。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
彼女は決して母親のねがふやうな、嫁になりおほせる事が出来ない事を思ふ程、さうして、母親が必然に自分の思ふ通りになるものと極めてゐる気持を考へれば考へる程
乞食の名誉 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
どうでも無事に生ませたいとねがい、どうでも無事に生まねばと心がける二人は、今までのどの子にもしなかった用心深さで薬風呂を立てたり、毎日生卵をのんだりした。
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
せつねがところは、わが七千餘萬よまん同胞どうはうは、たがひ相警あひいましめて、くまでわが國語こくご尊重そんてうすることである。
国語尊重 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
平次の口調では、理三郎がねがったとはあべこべに、形勢は甲子太郎に悪くなるばかりです。
自分は「静処の人」となって「帝釈諸天たいしゃくしょてんの共に敬重する所」とならんことをねがうのである。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
柔かき臥床ふしどは英雄の死せんことをねがふ場所に非ず。誹謗ひばう罵詈ばり、悪名、窘迫きんぱくたま/\以て吾人の徳を成すに足るのみ。見よ清教徒は失意の時に清くして、得意の時に濁れるに非ずや。
信仰個条なかるべからず (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
不断狂人きちがいになるほどねがっていたように、実際の金持になったり、美味うまいものをたらふく食ったり、美人からおもわれたりするよりも、今のこの歓びの方がどんなに尊いか知れない。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
源吉は、人を轢き殺して、何とも思わぬばかりか、却て、轢くことを、ねがっていたのだ。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
そして、私は彼女がいつもこのやうに機嫌きげんがよくてやさしくて、度々すぎるほど彼女がさうしたやうに私をし𢌞したり、叱つたり、法外はふぐわいに用をさせたりしないようにとねがつた。
ねがわくば死せる人々の霊魂、天主の御哀憐によりて安らかに憩わんことを アーメン。
長崎の鐘 (新字新仮名) / 永井隆(著)