もっとも)” の例文
きっとなりてばたばたと内に這入はいり、金包みを官左衛門に打ち附けんとして心附き、坐り直して叮寧ていねいに返す処いづれももっともの仕打なり。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
只今ただいまのご質問はいかにもごもっともであります。多少御実験などもお話になりましたが実は遺憾いかんながらそれはみな実験になって居りません。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
もっとも此十年ばかりは余程中風めきて危く見え、かつ耳も遠くなり居られ候故、長くは持つまじと思ひ/\是迄これまで無事なりしは不幸中の幸なりき。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
成功せぬ事を予期して十余年の径路を一朝に転じたのを無謀だと云って驚くならもっともである。かく申す本人すら其の点については驚いて居る。
入社の辞 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
代匠記には「中大兄ハ天智天皇ナレバみことトカ皇子みこトカありヌベキニヤ。傍例ニヨルニもっともあるベシ。三山ノ下ニ目録ニハ御ノ字アリ。脱セルカ」
万葉秀歌 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
今の御姿おすがたはもう一里先か、エヽせめては一日路いちにちじ程も見透みとおしたきを役たたぬ此眼の腹だたしやと門辺かどべに伸びあがりての甲斐かいなき繰言くりごとそれももっともなりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
誠にこの勧工場というものは、明治時代の感じをあらわす一つのもっともなるものであって、私共にとっては忘れられない懐かしいものの一つである。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
これは一応もっともらしいが、またあながちそうも言われぬかと思う。ファウストがえらい物だと云うことは事実だとして好かろう。
訳本ファウストについて (新字新仮名) / 森鴎外(著)
あの円満うまびとが、どうしてこんな顔つきになるだろう、と思われる表情をすることがある。其おももちそっくりだ、ともっともらしい言い分なのである。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
「これはもっともだ。ロシアに十月オクチャーブリがあったのは。そして、この沢山な十字架と鷲との上に今日一片の赤旗が高くひるがえらなければならなかったのは」
モスクワ印象記 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
かかるところにあっては蛇の姿を嫌がるどころにあらず、諸邦でこれを家の祖霊、耕地の護神とせるはもっとも千万せんばんと悟った。
まことにもっとももなことである。しかし世田谷はなかなか家が手に入らない。誰しも安全地帯と思っているせいであろう。
海野十三敗戦日記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いや、来るときには来るよ、やつ等にしてみれば、それももっともなはなしだ、浪人どもが乗り込んできたら、おれはいつでもいさぎよく斬られてやる」
本所松坂町 (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
もっとも咯血したりとて必ず死すとも限らねどあるいは先日腫物はれもの云々の報知ありしころの事にはあらずやなど存じ候。秘し居るにはあらずやなど存じ候、いかゞ
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
三蔵 そりゃもっともなことだが、なあおきぬ。親分がお召捕りになってから落目の上に落目となった中ノ川一家、今じゃ身内てのは俺がたった一人なのだ。
沓掛時次郎 三幕十場 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
やがて少々、とろりとなって、「さてそこへ立っていちゃ、ああ成程——風紀上、もっともです……と、従って杯は。」
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
私ももっとものことと思い、何分ともよろしくと申し、この上はこの人の丹精によって師匠の一命を取り止めるより道もないことと観念致しおった次第であった。
実にその志操こゝろざしに傳次やなおほれるじゃアねえかとういう旦那の心持で、誠にもっともだからそう云う事ならせめて盃の一つも献酬とりやりして、眤近ちかづきに成りたいと云うので
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前者は女的男を他の男が評する事ゆえ至極しごくもっともと思はるれど、この歌の如きは男的男を他の男が評する事故余り変にして何だかいやな気味の悪い心持になるなり。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
土方人足の村で恐れられるももっともである。然しながら何ものも有たぬ彼等も、まだ生命いのちと云うものを有って居る。彼等は生命をおしむ。此れが彼等の弱点である。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
元来歴史上の現象は単に或る一ツの思想があり、之が社会に具体化されて初めて歴史の進動があるように考えられておりますが、これは如何にももっともであります。
流れ行く歴史の動力 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
前田等もっとも千万なる志であるとして、途中長浜の伊賀守勝豊をも同道し、宝寺に至って、秀吉に対面した。
賤ヶ岳合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
特に女子に限りて教訓するが如きは至極もっともに聞ゆれども、男女共に犯す可らざる不徳を書並べ、男女共に守る可き徳義を示して、女ばかりを責るとは可笑おかしからずや。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
有名な作家、有名な俳書に佳句が多いということは、常識的に一応もっともな話ではあるが、その故を以て爾余じよの作家乃至ないし俳書を看過するのは、どう考えても道に忠なる所以ゆえんではない。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
それは男に活写いきうつし、はん手札てふだ形とやらの光沢消つやけしで、生地から思うと少許すこしもっともらしくれてはいましたが、根が愛嬌あいきょうのある容貌おもばせの人で、写真顔が又た引立って美しく見えるのですから
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いくさは今度ばかりでなく、これからもいくらもあるのだし、まして今度は戦は、味方が勝つにきまっておることではあり、だから君のような素晴らしい、剣道の天才の力をりずとも……もっとも
甲州鎮撫隊 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
仕立や浜さんがはかまをはいて、三級選出区会議員を望んだのはもっともな向上である。
第二にかれを囚となしてたすけ置るる事は中策也(此事易きに似てもっとも難し)
地球図 (新字新仮名) / 太宰治(著)
もっともも、その教授法に種々の改善や変更の施されることが、ことに現今に於いては甚だしく、これは主として、その寄宿学校を経営してござる女の校長先生の常識と伎倆によって左右されるものである。
、それで……それならそうと早く一言云えばいいのに……なンだろう大方かく申す拙者に……ウ……ウと云ッたような訳なンだろう? 大蛤おおはまぐりの前じゃア口がきかねる、——これやアもっともだ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もっとも千万なことだと思はずにゐられない。
枯淡の風格を排す (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
もっとも、これでも文学士なんで、学問よりはラグビーの方が出来がよかったが、そんなに三下でもありません。まア、時々呼んで可愛がってやって下さい。当人は中世紀のナイトのような気で居るんですから、発奮の足しになりますよ」
流行作家の死 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
つくス故ニ画図ノ此学ニ必要ヤもっとも大ナリ然而しかりしこうして植物学者自ラ図ヲ製スル能ハザル者ハつねニ他人ヲやとうテ之ヲ図セシメザルヲ得ズ是レ大ニ易シトスル所ニ非ザルナリ既ニ自ラ製図スルコト能ハズ且加フルニ不文ヲ以テスレバ如何シテ其うんヲ発スルコトヲ得ルヤ決シテ能クセザルナリ自ラ之ヲ製スルモノニ在テハ一木ヲ得ル此ニシ一草ヲ
「うん。もっともぢゃ。なれども他人は恨むものではないぞよ。みなみづからがもとなのぢゃ。恨みの心は修羅しゅらとなる。かけても他人は恨むでない。」
二十六夜 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
君江は易者のいう事を至極もっともだと思うと、自分ながらつまらない事を気に掛けていたと、たちまち心丈夫な気になってしまった。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
其から其間を縫うて、もっともらしい儀式・信仰にしあげる為に、民俗民俗にはたらいた内存・外来の高等な学の智慧である。
山越しの阿弥陀像の画因 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
さなくとも長きもの神馬の尾髪、神子の袖、上臈のかもじと『もっともの草紙』に見る通り、昔は神の乗り物として社内に飼う馬の毛を一切截らなんだ。
もっとも高橋君のは昔発表せられた時瞥見べっけんして、舞台に上すには適していぬと云うことだけは知っていた。そう云うわけで、私は両君の影響を受けてはいない。
不苦心談 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
深い桜色になるところ、私がおかげさまというのももっともとお思いになるでしょう。非常に工合ようございます。
権太の悪棍となりしは隠し女にはまり、親には勘当せられ、賭事に掛りしためなれば、この道行はもっともなれど、善心に復りしを維盛これもりの大事を聞きたるためとしながら
なさるのは、もっともと思いますわ。でも貴君までが、それに感化かぶれると云うことはないじゃありませんか。縁起などと、云う言葉は、現代人の辞書にはない字ですわね。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
この句を評して趣味に乏しいとあるのはもっともな説である。しかし余自身にはちよつと捨て難い処がある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
代助のもっともこたえるのは親爺おやじである。い年をして、若いめかけを持っているが、それは構わない。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これより三十銭の安西洋料理食う時もケークだけはポッケットに入れて土産みやげとなす様になる者ぞ、ゆめ/\美妙なる天の配剤に不足うべからずと或人あるひと仰せられしはもっともなりけり。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
私は、博士のことを、そんな人物だとは思わないが、ロッセ氏から、のろのろ砲弾についての討論を聞いているうちに、だんだんと氏のいうところももっともだと思うようになった。
芸術は貴族的(無論思想上の意味でいう)のものだというかんがえもここから起り、「俗物(多数人)に何がわかるか」という高踏的態度もここから生ずる。なるほど、それはもっともである。
偶言 (新字新仮名) / 津田左右吉(著)
縁日は植木もさる事ながらあの赤や白色とり/″\に美しいほおずき屋の店はカンテラの光や油煙とともに誠に旧日本の美のもっともなる一つであるといってもまあそう過言でもあるまい。
新古細句銀座通 (新字新仮名) / 岸田劉生(著)
柳亭種彦は昔の杓子のはいたく曲っていたものだという考証をして、『もっとも草紙そうし』のまがれる物品々の段に「大工のかねや、蔵のかぎ、檜物屋ひものやの仕事、なべのつる、おたがじやく」
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
おやまア誠にしばらく、まア、めっきりもっともらしくおなりなすったね、勘藏さんもう云って居なすった、あれも女房を持ちまして、が出来て、何月が産月だって、指を折ってたのしみにして
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
もっともだと思ってまかせたら、やっこさんその間に、すたこら、自分で始末して、棺に入れてしょって、火葬揚やきばへもってってしまったんで——おばさん死ぬまで、重宝な権助をつかまえといたもんだ。