寵愛ちょうあい)” の例文
夫の死後しきりに寵愛ちょうあいしている小姓こしょう上りの渾良夫こんりょうふなる美青年を使として、弟蒯聵との間を往復させ、秘かに現衛侯逐出おいだしを企んでいる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
女の方に例を取って見ると、源氏の生母桐壺更衣の没後、父桐壺の帝の寵愛ちょうあいせられた藤壺女御を、「かゞやく日の宮」と書いている。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
うらめしげに児太郎を見あげると、その真赤な顔は、百万石の主君の寵愛ちょうあいをほしいままにしているだけ、わけても逆上のぼせ気味で美しかった。
お小姓児太郎 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
その新女御を院が御寵愛ちょうあいあそばすことは月日とともに深くなった。七月からは妊娠をした。悪阻つわりに悩んでいる新女御の姿もまた美しい。
源氏物語:46 竹河 (新字新仮名) / 紫式部(著)
倭将の一人——小西行長はずっと平壌へいじょう大同館だいどうかん妓生ぎせい桂月香けいげつこう寵愛ちょうあいしていた。桂月香は八千の妓生のうちにも並ぶもののない麗人である。
金将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
寵愛ちょうあいの「ファラリイス」という亜刺比亜アラビア産を種馬として南佐久へ御貸付になりますと、さあ、人気が立ったの立たないのじゃ有ません。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
それはただいま現在に、この甲府でさる重い役人の寵愛ちょうあいを受けているということを聞いて、いよいよ思いがけない思いを致した。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これは多分、暑さに圧迫された肉体が渇したごとく要求するせいであって、夏一般にうなぎが寵愛ちょうあいされるゆえんも、ここにあるのであろう。
鰻の話 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「だいそれたことを申すなッ。かりにもご三家のお殿さまからお寵愛ちょうあいうけているお手かけさまだ。下司げす下郎の河原者なんかとは身分が違わあ」
床から起きてきた御寵愛ちょうあいのデュ・パリー夫人のあらわな両足に各自上靴をおはかせ申したその日に、請願書は国王ルイ十五世に差し出された。
寵愛ちょうあいいよいよ厚きを加えたが、その後きさきちょうおとろえたとき、かつて食い残した品を捧げた無礼のけんによりてばっせられたという。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
巨頭宰相の寵愛ちょうあいを一身にあつめ、世の中に重く見られる人たちをも、価値なきものと見なすような心の誇りも知って来た。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
おもかげは胸にとまって忘れたこともなかったが、このほど押原殿の養女として、上のご寵愛ちょうあいになったのは意外ともまた意外。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
母が俊成に再嫁して定家を生んでからは、定家が寵愛ちょうあいを独占して、隆信は淋しさをまぎらすことができなかったらしい。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
殿とのさまご寵愛ちょうあいのおさるさま、つねからわがままいっぱいのくせがついているので、老臣の膝を脇息きょうそくのかわりにするぐらいなことは平気へいきだが、折もおり
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
チェリーはその頃、金の寵愛ちょうあいを集めていただけに、服薬量が大変多量にのぼっていた。だからチェリーは金を訪ねて、ヘロインをせびったのだった。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、中老たちに対して、相当の権威を持っている、取締りの老女にささやくと、寵愛ちょうあいならびない浪路のいい分にそむいて得はないと知る彼女、すぐに
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かえって主君きみの非をあばき、ご寵愛ちょうあい著しい鳰鳥におどり殿に無礼の振舞い致す段臣下の身として許し難し、よって速かに罪を謝し謹しんで主命を奉ずればよし
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは、あのように彼の寵愛ちょうあいを受けていた、かの小間使いさえもが、恐れをなして、飛びのいたほどでありました。
鏡地獄 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
子供三人まで持ちしが、二人は早世して、当時ひとり息子にて、利発の生まれつき、親たちの寵愛ちょうあいおおかたならず。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
父母——ことに父のなめるような寵愛ちょうあいもとに何一つ苦労を知らずに清い美しい童女としてすらすらと育ったあの時分がやはり自分の過去なのだろうか。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
宮廷には千人の女御、七人のきさきが国王に侍していたが、右の女御はその中から選び出されて、みかどの寵愛ちょうあいを一身に集め、ついに太子を身ごもるに至った。
あはよくば、Yが寵愛ちょうあいしてゐる弟息子を奪つて、父の傲慢ごうまんの鼻を明かしてやらうとさへヒステリカルに感じた。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
相沢半之丞、弓の折れを取って立上がると、三年越し寵愛ちょうあいした自分の妾の肉塊ししむらを、ピシリ、ピシリと叩きます。
彼は今や、まさしくジナイーダの寵愛ちょうあいを失ったので、老夫人に取入ろうと格別の勉励べんれいぶりを示し、貸馬車で夫人のおともをして、総督そうとくの所へ出かけさえした。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
糟谷かすやはきょうにかぎって、それがうるさくてたまらないけれど、子煩悩こぼんのうな自分が、毎朝かならず出勤しゅっきんのまえに、こうして子どもを寵愛ちょうあいしてきたのであるから
老獣医 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わたくしおさな時分じぶんには祖父ぢぢ祖母ばばもまだ存命ぞんめいで、それはそれはにもれたいほどわたくし寵愛ちょうあいしてくれました。
くなった父の寵愛ちょうあいを一身にあつめて成人したので、七つになる児の母親である今日でも、何処かだだっ児じみた所があって、精神的にも体質的にもこらしょうがなく
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
は、おうさまにも、きさきにも寵愛ちょうあいされて、あついもてなしをけ、いばっていたものが、御殿ごてんされると、ふたたび、さすらいのたびのぼらなければなりませんでした。
ひすいを愛された妃 (新字新仮名) / 小川未明(著)
殊にそのなかの孫悟空そんごくうは、わたしが申歳さるどしの生まれである因縁から、取分けて寵愛ちょうあいしているわけです。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この事件により、女帝の道鏡によせる寵愛ちょうあいと信任は至高のものに深まった。道鏡は唯一無二のものだった。それは、然し、すでに昔から、そうだった。女帝は堅く決意した。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
今度は又警察署長「それで分ッて居るじゃ無いか藻西太郎もにしたろうと云う者の名前の初めを書掛かきかけて事切れとなったのだ、藻西太郎とは此老人の唯一人の甥だ、老人が余ほど寵愛ちょうあいして居たと云う事だ」
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
事実は寵愛ちょうあいの侍女の費消したものであり、またその侍女はいろいろの点で光泉院様を、……なんと申したらよいか、その、……俗にいうところの、つまり瞞著まんちゃくしておったというわけで
思い違い物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あの女神は近づく。クライトスとケファロスを強奪し、オリンポスのあらゆる神々のねたみに反抗しつつ、美しいオリオンの寵愛ちょうあいをうけている、あの少年ゆうかいを事とする女神である。
鷹は殿様のご寵愛ちょうあいなされたもので、それが荼毗の当日に、しかもお荼毗所の岫雲院の井戸にはいって死んだというだけの事実を見て、鷹が殉死したのだという判断をするには十分であった。
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
苦しまぎれにKの寵愛ちょうあいを得てハステラーに嫉妬しっとさせようと試みる始末だった。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
お由羅に寵愛ちょうあいせられているかと思うと、この兄の前に——兄の死の前に、父母に代って、何う詫びていいか、何んと云っていいか——久光は、身体を固くして、俯向いていたが、肩を動かし
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
僧一 お師匠様はまた唯円殿をことのほかお寵愛ちょうあいなさいますようですね。
出家とその弟子 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
其の恩人の寵愛ちょうあいなさるお前とうやっているのが知れては実に済まないよ
半作事はんさくじだと言うから、まだ電燈でんきが点かないのだろう。おお、ふたどもえの紋だな。大星だか由良之助ゆらのすけだかで、鼻をく、鬱陶うっとうしい巴の紋も、ここへ来ると、木曾殿の寵愛ちょうあいを思い出させるから奥床しい。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
人物の描写も手ぎわよくなされていた。読者もその細君も友人も皆、描写の精確なことをほめていた。彼は女の打ち明け話か寵愛ちょうあいかを受ける時には、それを書物の中で言わずには済ませなかった。
さまで美しというにあらねど童には手ごろの生き物ゆえかしら寵愛ちょうあいなおざりならず、ただかの青年わかものにのみはその背を借すことあり。青年わかものは童の言うがまにまにこの驢馬にまたがれど常に苦笑いせり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
それから、次は六年後の明治三十五年で、未亡人になった博士とは従妹いとこに当る筆子夫人が、寵愛ちょうあいの嵐鯛十郎という上方役者のためにやはり絞殺されて、鯛十郎もその場去らずに縊死いしを遂げてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「と申したところで、水茶屋では公儀へのきこえもあることだからとても正妻せいさいになおすというわけにはいかんが、一生その、なんだな、ま、めかけということにしてだな、そばへおいて寵愛ちょうあいしたいと思う」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
寵愛ちょうあい仔猫こねこの鈴の鳴り通し
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
早くから宮廷に這入っていて、弘徽殿こきでん女御と言われた。帝が、後に源氏の生母桐壺更衣を余り寵愛ちょうあいなさるので、自尊心を傷ける。
反省の文学源氏物語 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
左大臣様は権力にまかせて大騒ぎになるのだけれど、若様がお生まれになってからは女王にょおう様の御寵愛ちょうあいが図抜けてきたのですもの。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
感応寺の「おみを」は十一代将軍の寵愛ちょうあいこうむって多くの子を生んだ。そのおかげで感応寺は七堂伽藍しちどうがらんを建て、大勢の奥女中を犯していた。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
父親おやじはなかなか仲間うちでも聞えた才物だったとかで、一時は、お組頭にも大変寵愛ちょうあいされた身だったそうだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
これは君江から、すっかりいてしまったことなのだよ。君江が一時、狂暴になったことがあったネ。あれは金が寵愛ちょうあいをチェリーに移し始めた頃だったんだ。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)