わたし)” の例文
「すっかり、ここで承りました、何もかもわかりました。わたしは、この悪人のために第三の犠牲者になるところだったのでございます」
悪魔の聖壇 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
主人も行くがいいと勸め、我々兩人ふたりもたつてと言つたのだが、わたしはそれよりも自宅うちで寢て居る方がいいとか言つてつひに行かなかつた。
一家 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
わたしのやうな拗者すねものをコロリと云はせるやうに出来たら余程お手柄やと散三さん/″\に冷かされて有繋さすがの大哲学者も頭を抱へて閉口したやうだよ。
犬物語 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
わたしね。昨日もおまいりに行ったとき、あなたがもしも境内にでも出ていらっしゃらないかと思って、しばらく廊下にいましたの。」
性に眼覚める頃 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
……上等のバス、上等のお酒、……わたし一人だけじゃアありませんのよ。他にも女の人居るんですわ。……ですからお好み次第ですわ。
「もし、二人に、万一のことが、ございましたなら、わたしら二人は、あれだけ世話になっておりまして、世間へ、顔向けができませぬ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「軽井沢は去年行つたし、わたし今年は箱根へ行かうかしらと思つてゐるの、今年は電車が強羅まで開通したさうだし、便利でいゝわ。」
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
すると又或日お神さんは外から帰つて来て、わたし身装みなりは貴婦人よりずつと立派にしてるのにお前さんが仕立屋では困るぢやないの。
金剛石 (新字旧仮名) / 夢野久作(著)
わたしも山へ登りたいわ、女性にだって登高本能はあることよ、だって妾、煙突なんかへ登りたくはないの、ねえれてってくんない?」
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
わたしだって、ついこの四月までは女学校の寄宿舎でばかり暮らしていたんですもの。そんなに、いろんな事はよくは知らないわ。」
田舎医師の子 (新字新仮名) / 相馬泰三(著)
公開堂こうかいどうの壇上、華かなる電燈の下で、満場の聴衆が喝采かっさいの内に弾きならしたはこの琴であります、またこの一めんは過ぎし日わたしが初めて
二面の箏 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
こりゃ、これ、ほんまにわたしおもてか、このような悪女の顔に。なんで、まあ、こりゃ、妾かいの妾かいの。妾がほんまに顔かいのう。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
わたし亜米利加の旗を見ると胸が悪くなつてよ。星だのすぢだの、けばけばしいつたら有りやしない、まる有平糖のお菓子チエツカベリイ・キヤンデイのやうよ。」
「嘘よ——。相変らず離室はなれで寝てゐるわよ。皆なが来てゐるから一処に遊びませんかツて、わたしが先刻お迎へに行つたらばね——」
夜の奇蹟 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
『さうぢやなくつてよ、わたしを誘惑したのはあなたぢやない、こゝに味瓜畑のあることは、わたしちやんと知つてゐたんですもの』
味瓜畑 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
「家族、と申してはなんですが、只いまのところ、この方達も加えまして、女中のおきみと下男の早川と、わたし達夫婦の六人でございます」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
何の相手を殺せばこそ主殺しにもなろうが、ほんの微傷を付けた位のことは別に仔細もない。わたし達が呑込んでいて何事も内分に済ませる。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「だからさわたしには直が一郎に対してだけ、わざわざ、あんな風をつらあてがましくやっているように思われて仕方がないんだよ」
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ずっと前、日本に帰って死んだお祖母ばあさんが夢に出てきて、わたしの手をいてくれ、「これから坂本さんのお宅に行くんだよ」と言います。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
信じます。京の命は今はこのひとことだけにつながっています。豆八さんに聞いて下されば、いつでもわたしと連絡がつきます。京より
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
あげ何卒なにとぞゆるしてたべわたしは源次郎といふをつとのある身金子が入なら夫より必ずお前にまゐらせん何卒我家へ回してと泣々なく/\わびるを一向聞ず彼の雲助くもすけは眼を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ああカーさんの……オヤオヤ飛んでもない失礼を申上げて……まあわたしどうしましょう。穴があれば入りとうござんすワ……」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それも道理であって見ればわきからわたしの慰めようもないわけ、ああなんにせよめでとう早く帰って来られればよいと、口には出さねど女房気質
五重塔 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
あなたが、どこの何というお方だか、その見知らぬあなたが、どうしてわたしの所へ通って下さるのか、妾には少しも分らない。
一人二役 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
でも、わたしたちの日給いくらだと思っているの。五十銭から七八十銭。月いくらになるか直してごらんよ。——淫乱すきなら無償ただでやらせらアねえ!
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「まあ、随分古いわねえ。わたしこれを着てお天長節に学校へ行くのが楽しみで楽しみで、その楽しみつてなかつたのよ……。」
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
ヂュリ ほんにロミオのかほを……死顏しにがほを……るまでは、わたし如何どうしてもこゝろいさまぬ、從兄いとこがおにゃったのが、それほどこゝろみてかなしい。
「ほほ、それではバル・セロナ生れの伊達だてものには見えないわ。それともお前さんはわたしに弱味でもあると思っているの。」
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
抱くかしれたものではありません。……そうなったら、わたしたち妻子は、またいつの日、あなたに会うことができましょう
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしが? 信者? へえ、これは面白い!」女は笑つた。「何か云はうと思つて云ふ事がないもんだからあんな事を。」
権「気に入らないよ、わたしはいやだよ、それより甘いものがすきだから口取くちとりか何かありそうなものだ、見附めっけて来ておくれ」
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「まーとう/\。ほんまに憎らしいのは其あまやつどすえなー、わたしなら死んでも其家を動いてやりややしませんで、」
夜汽車 (新字旧仮名) / 尾崎放哉(著)
わたしは、どんなにも働きますから、どうぞ知らない南の国へ売られて行くことを許して下さいまし」と、言いました。
赤い蝋燭と人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
貴女あなたは仮にも母様おっかさん、恨みがましいことを申して済みませんでした。でももう神様も、仏様も、わたしを助けて下さらないから、母様どうぞ助けて下さい。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わたしは化粧しておりますよ、みてください」とばかりに塗っているのは、おそらく化粧の上手とはいえないでしょう。
般若心経講義 (新字新仮名) / 高神覚昇(著)
(きっと振り返って)あなたは鬼です! 悪魔です! なぜその力自慢の腕で、いまここでわたしを、打って打って打ち殺してしまわないのです! (泣く)
この家は前持主にわたしが与えし愛の代償として譲られしものに御座候。ゆめゆめ粗略には致すまじく候。かしこ。
巴里のキャフェ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
夫人の手を執って落着けようとするが、夫人は唯狂気のように「太子がわたしを殺します。太子が妾を殺します」
盈虚 (新字新仮名) / 中島敦(著)
せがれどもも一人前になって毎度御噂を致しいる、女ながらも西大陸の獣中王たるわたし御恩報ごおんがえしに腕を見せましょうと、口に言わねど畜生にも相応の人情ありて
「毎朝お嬢様が運動だと仰有ってお掃きなさいますので、わたし達はあそこの掃除をしたことはございません」
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
「あい、わたしも早う死にたい、こんなに世話して貰うて治られんのなら、一日も早く楽になりたい、先に行つて居るさかい、お前様達は後から来てくんさいませ。」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
「そんなつもりでやるにやっても、あんまり骨が折れるとばかばかしくてねィ。せっかく来てくれてもこのさまではねィ、わたしゃまた盆にくるだろうと思ってました」
紅黄録 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼奴あいつは発狂の当初わたしを殺さうとしたとか、今度彼奴が娑婆へ出たら本当にしめ殺されて了ふ等とゾッと顫え乍ら、又急に私の顔を眺めてニヤ/\と冷笑を送つたりする。
(新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
けふはわたしなにはれたのがよくよく、くやしかつたとみえまして、めると、しくしくきながら、またつたんです。屹度きつと酒屋さかやへです。わたしさけにくみます。
ちるちる・みちる (旧字旧仮名) / 山村暮鳥(著)
わたしのような魂の抜殼はさぞ兄さんにはお気に入らないでしょう。然し私は是で満足です、是で沢山です。兄さんについて今迄何か不足を誰にも云ったことはない積りです」
漱石の「行人」について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
銭勘定の下手な細君は、いつでも「わたしにはまるでわからない」と答える。すると傍から主人が
二人のセルヴィヤ人 (新字新仮名) / 辰野隆(著)
突然年若き病人らしい、婦人が来て、わたし当楼こちら娼妓しょうぎで、トヤについて食が進まず、鰻をたべたいが買う力が無いと、涙を流して話すのを、秀調哀れに思いその鰻を与えしに
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
切下髪きりさげがみの品のいゝ老婦人が出て来て、「あなたが和作さん? ふうむ。わたしはあなたのお父さんを、よう存じてをりますよ」かう和作の顔をのぞき込むやうにして云つた事がある。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
「ちょいと、どうしたのさ、花ちゃん。何でそんな不景気な顔をしてるのさ。たまの休みだというのにわたしまで気が滅入ってしまうじゃないの。およしよ、そんな顔をするのは」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
わたしらも君の妻と同じく、鬼神のために奪われてきたもので、久しい者は十年にもなる、この鬼神は能く人を殺すが、百人の者が剣を持って一斉にかかっても勝つことができない
美女を盗む鬼神 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)