“口髭:くちひげ” の例文
“口髭:くちひげ”を含む作品の著者(上位)作品数
芥川竜之介19
夏目漱石8
太宰治8
海野十三6
徳田秋声4
“口髭:くちひげ”を含む作品のジャンル比率
文学 > フランス文学 > 小説 物語11.5%
文学 > ロシア・ソヴィエト文学 > 小説 物語4.8%
文学 > 日本文学 > 小説 物語1.8%
(注)比率=対象の語句にふりがなが振られている作品数÷各ジャンルの合計の作品数
「そうだ。高浜虚子きよこというおじいさんもいるし、川端龍子りゅうこという口髭くちひげをはやした立派な紳士もいる。」
眉山 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「変ですね。」先生は、不満そうに口髭くちひげを強くこすりながら言った。「私がそんなばかな事を言うはずが無いやないか?」
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
取澄してさえいれば、口髭くちひげなどに威のある彼のがっしりした相貌そうぼうは、誰の目にも立派な紳士に見えるのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そして毛ぶかい頤鬚あごひげ口髭くちひげをブルブルふるわせながら、低声こごえの皺がれ声で何かブツブツいっていた。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
立派な口髭くちひげを生やしながら、酔漢を相手に敢然と格闘して縁先から墜落したほどの豪傑と、同じ墓地に眠る資格は私に無い。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
浅井は押入れの前にしゃがんで、手紙や書類を整理していたが、健かな荒い息が、口髭くちひげを短く刈り込んだ鼻から通っていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
僕はちょっと憂鬱ゆううつになり、次のがんへ目をやりました。次の龕にある半身像は口髭くちひげの太い独逸ドイツ人です。
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お絹の夫は腕組みをした手に、時々口髭くちひげをひっぱっていた。慎太郎は義兄の言葉の中に、他人らしい無関心の冷たさを感じた。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
若い検事は署長を相手に、自分の観察をそう述べた。署長はそれに対して、口髭くちひげに手を当てながらうなずきつづけていた。
或る嬰児殺しの動機 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
良心は我我の口髭くちひげのように年齢と共に生ずるものではない。我我は良心を得る為にも若干の訓練を要するのである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
けれどもその奥に口髭くちひげをだらしなく垂らした二重瞼ふたえまぶちやせぎすの森本の顔だけはねばり強く残っていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
春ごろ、日比谷の近くで会ったが、あのときの泣虫の子供が、ひとかどのおとなになって、口髭くちひげをはやしているのには、笑った。
あなたも私も (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
敬太郎はこの気楽そうな男の口髭くちひげがだらしなくれて一本一本下向したむきに垂れたところを眺めながら、
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
からだの大きい、顔のたいへん赤く、鼻のとがった、そしてほそい口髭くちひげのある、目のするどい人物でありました。
豆潜水艇の行方 (新字新仮名) / 海野十三(著)
立ちながら紅茶を一杯すすって、タオルで一寸ちょっと口髭くちひげこすって、それを、其所へ放り出すと、すぐ客間へ出て、
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
轢死れきしした彼は汽車の為に顔もすつかり肉塊になり、僅かに唯口髭くちひげだけ残つてゐたとか云ふことだつた。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
アルサスの女だといって自慢をしていたが大柄な男のような女で鼻下には多少の口髭くちひげもあって、あまり美しいとは考えられなかった。
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
髪もまゆも、薄い口髭くちひげもまったくの緑色で——その不思議な色合いが、この娘を何かしら、神々こうごうしく見せるのだった。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
中年以後には短い口髭くちひげがあって、頬髯ほおひげがまばらにのび、晩年にはらないので、それが小さな渦を描いていたという。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
のちには養子を貰ったが、それが口髭くちひげやした立派な男だったので、私はちょっと驚ろかされた。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
亭主はあまく、いいとしをして口髭くちひげなんかを生やしていながら「うむ、子供の純真性は大事だ」などと騒ぐ。
純真 (新字新仮名) / 太宰治(著)
口髭くちひげはやした五十年配の主人に出ッ歯の女房、小僧代りに働いている十四、五の男の子の三人暮らし。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
近眼鏡きんがんきょうをかけた宮本はズボンのポケットへ手を入れたまま、口髭くちひげの薄いくちびるに人のい微笑を浮べていた。
寒さ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もっとも著るしく見えたのは、彼の近眼よりも、彼の薄黒い口髭くちひげよりも、彼の穿いていた袴であった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つい最近退職したばかりの軍人のよくするように、口髭くちひげだけをたくわえて、頤鬚あごひげは今のところきれいにり落としている。
伸びた口髭くちひげをグイ/\引つ張り/\詩を考へてゐた狂詩人は、私が問ふと矢にはに跳ね起きあごを前方に突き出し唇をとがらせて
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
どの世界にでも、いっそ口髭くちひげをつけて歩いておればよいようなむつかし気な女性が一人二人はあるものだ。
平凡な女 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
葉子はなお夢みるような目を見開いたまま、船員の濃いまゆから黒い口髭くちひげのあたりを見守っていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「中部シナ方面の戦況は、大分発展を始めたらしいですな」前の参謀が、短い口髭くちひげに手を持っていった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
パイ軍曹は、唇のうえに鉛筆で引いたようなほそい口髭くちひげをひねりながら、大兵のピート一等兵を見上げ、
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
反対のかたすみには、支那しな服を着た、大きな男がいました。顔は平たく、長い口髭くちひげをはやしていて、頭がひどく禿げていました。
金の目銀の目 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
からぬ口髭くちひげはやして、ちひさからぬ鼻に金縁きんぶち目鏡めがねはさ
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
まっくろい口髭くちひげは立派だが、ひどい近眼らしく、眼鏡の奥の小さい赤い眼は、しょぼしょぼしている。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
立ちながら紅茶を一杯すゝつて、タヱルで一寸ちよつと口髭くちひげこすつて、それを、其所そこへ放り出すと、すぐ客間へて、
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
轢死した彼は汽車の為に顔もすっかり肉塊になり、僅かに唯口髭くちひげだけ残っていたとか云うことだった。
歯車 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は彼女のそばに、右手を腰にあてがって立ったなり、左手でせわしなく茶色の口髭くちひげをひねっている。
年とった支那人は歎息たんそくした。何だか急に口髭くちひげさえ一層だらりとさがったようである。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は自分の白髪頭しらがあたまを両手でつかむと、すっぽり帽子のように脱いだ。次に耳の下からつらなる頬髯ほおひげ口髭くちひげとをとった。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ハンメル・ランクバック男爵閣下は、頬髯ほおひげ口髭くちひげとをはやし、頤鬚あごひげってる、さっぱりとした小さな老人であった。
ジャヴェルは橋の欄干に両肱りょうひじをもたせ、あごを両手に埋め、濃い口髭くちひげ爪先つまききで機械的にひねりながら、考え込んだ。
男は幾分うるさそうに、丸々まるまると肥った、口髭くちひげの短い、活動家らしい頭をもたげた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
口髭くちひげの濃い、あごの四角な、どこかで見た事のあるような男だが、どうしても思い出せない。
Mensura Zoili (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
粟野さんはかすかに笑い声をらした。やや鳶色とびいろ口髭くちひげのかげにやっと犬歯けんしの見えるくらい、遠慮深そうに笑ったのである。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
色の白そうな、口髭くちひげまゆや額の生際はえぎわのくっきりと美しいその良人の礼服姿でった肖像が、その家には不似合らしくも思えた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
褐色の口髭くちひげの短い彼は一杯いっぱい麦酒ビールに酔った時さえ、テエブルの上に頬杖ほおづえをつき、時々A中尉にこう言ったりしていた。
三つの窓 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
巡査じゆんさ呼吸いききりのやうにすこれた口髭くちひげひねりながら
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
もう一つは雑誌の印刷写真から切り抜いたものらしく、眼の大きく鋭い、口髭くちひげの厚い、一種云ひ尽せない魅力のある、豪気な中年の男の横顔でした。
亜剌比亜人エルアフイ (新字旧仮名) / 犬養健(著)
得石のよく手入れのしてある口髭くちひげが片方へひきつった。だがそれは怒りのためではなく、ぬかるみへ坐りこむ酔漢の、居直るような表情に似ていた。
五瓣の椿 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
背が高く、でっぷりして、頭が禿げ、得意げにぴんとはね上がった口髭くちひげをもっていた。
髪の毛が長くて頤鬚あごひげ口髭くちひげとのあるたくましい男どもで、リンネル女工のような手つきで布をり分けながら、彼女らをおびえさしていた。
パーヴァはもはや子どもではなく、口髭くちひげを生やした一人前の若者だったが、それが見得を切って片手をさし上げ、悲劇の声色こわいろでこう言った。——
イオーヌィチ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
しかし、この時の亡霊は、はるかに背が高くて、すばらしく大きな口髭くちひげをたてていた。
外套 (新字新仮名) / ニコライ・ゴーゴリ(著)
すると校長と話していた、口髭くちひげの短い粟野教官はやはり微笑を浮かべながら、常談じょうだんとも真面目まじめともつかないようにこう保吉へ注意をした。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ひどく日焦ひやけしたその顔は、半分以上、頬髯ほおひげ口髭くちひげに隠れている。
背が高く口髭くちひげたくわえ、あぶらぎった赭顔あからがおをしていました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私はこの矢島という立派な口髭くちひげをはやした生徒を、前から大きらいだったのである。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
(長い口髭くちひげをひねりながら)いやはや、この髭も、どえらく伸びたもんじゃないか。
私は彼に私の口髭くちひげげを見せた。彼はまた私のために自分の頭をでて見せた。私のは白くなって、彼のは薄く禿げかかっているのである。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
薄い煙りの、黒い口髭くちひげを越して、ゆたかに流れ出した時、クレオパトラは果然、
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうせ妾はマルセーユあたりの口髭くちひげのはえた女友達とつきあっていた女です。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
と、パイ軍曹は、鉛筆ですじをつけたような細い口髭くちひげをうごかして、いった。
地底戦車の怪人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
声をかけたのは三十前後の、眼の鋭い、口髭くちひげの不似合な、長顔の男だった。
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
彼は神経の亢奮こうふんまぎらす人のように、しきりに短かい口髭くちひげを引張った。しだいしだいににがい顔をし始めた。そうしてだんだん言葉少なになった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたしはまたなにかの小言こごとでもくのかとおもつて、軍曹ぐんそうはなしたにチヨツピリえた口髭くちひげながめてゐた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
保吉は夢からさめたように、机の側に立った田中中尉を見上げた。田中中尉は口髭くちひげの短い、まろまろとあごの二重になった、愛敬あいきょうのある顔の持主である。
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
色のまっ黒な、眼の大きい、やわらか口髭くちひげのあるミスラ君は、テエブルの上にある石油ランプのしんねじりながら、元気よく私に挨拶あいさつしました。
魔術 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
先生は無造作むぞうさ挨拶あいさつをしてから、黄一峯こういっぽうに対しました。そうしてしばらくは黙然もくねんと、口髭くちひげばかりんでいました。
秋山図 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
立派な口髭くちひげやして挙措きょそ動作も重々しく、山賊にはものくまの毛皮などは着ないで、つむぎの着物に紋附もんつきのお羽織をひっかけ
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
あの先生、口髭くちひげをはやしていやがるけど、あの口髭の趣味は難解だ。
渡り鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ちょうど見舞いに来合せていた、この若い呉服屋ごふくやの主人は、短い口髭くちひげふち無しの眼鏡めがねと云う、むしろ弁護士か会社員にふさわしい服装の持ち主だった。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ただ、ふり離そうとする拍子に、手が向うの口髭くちひげにさわりました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「ええ好いのを一人周旋しましょう」と小野さんは、手巾ハンケチを出して、薄い口髭くちひげをちょっとでる。かすかなにおいがぷんとする。強いのは下品だと云う。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
綺麗きれい口髭くちひげの手入れをした、都会人らしい紳士である。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「臭いね」綺麗な口髭くちひげの若い士官が、上品に顔をしかめた。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
もう一人はやや黄ばみかけた、長い口髭くちひげをはやしている。
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると反対の側から、年の頃は六十路むそじを二つ三つ越えたと思われる半白の口髭くちひげ頤髯あごひげ凛々りりしい将軍が、六尺豊かの長身を、静かにマイクロフォンに近づけた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
先生せんせいさん、わたしやれでもどうしたものでがせうね」おしな突然とつぜんいた。醫者いしやたゞ口髭くちひげひねつてだまつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
まさしくユシュルーは好人物で、口髭くちひげまではやしていた。
梭櫚しゆろの毛を植ゑたりやとも見ゆる口髭くちひげ掻拈かいひねりて、太短ふとみじかなるまゆひそむれば、聞ゐる妻ははつとばかり、やいばを踏める心地も為めり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
道太はというと、彼は口髭くちひげがほとんど真白であった。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
くち口髭くちひげと鼻の大部分が全くかくれた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
Oさん——あの口髭くちひげ駝鳥だてうの羽根だらう。
軽井沢で (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
松崎は刈り込んだ半白の口髭くちひげでながら、微笑して、「しかし、こういう仕事をするには、呑込のみこみの早い、気のきいた家でなくっちゃいけない。心安い家でうまい処があるか。」
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
博士は見たところ四十五六歳、黒々とした頭髪を耳の辺で房のように縮らせ、ピンとはねた小さな口髭くちひげ、学者臭く三角に刈った濃い顎髯あごひげ、何物をも見透すわしのように鋭い目には
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お重にやり込められると、自分は無言の降意を表するごとくにあははと笑ったり、わざと短い口髭くちひげでたり、時によると例の通り煙草に火をけて瞹眛あいまいな煙を吐いたりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
竜子は或日あるひ学校から帰って来た時、前夜からすこし風邪かぜをひいていた母の枕元まくらもとに年の頃は三十四、五とも見える口髭くちひげのうつくしい見知らぬ医者の坐っているのを見た。
寐顔 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
福間先生は常人よりもむしせいは低かつたであらう。なんでも金縁きんぶち近眼鏡きんがんきやうをかけ、可成かなり長い口髭くちひげたくはへてゐられたやうに覚えてゐる。
二人の友 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
男はふと口をつぐんだ。敏子は足もとに眼をやったなり、影になったほおの上に、いつか涙を光らせている。しかし男は当惑そうに、短い口髭くちひげを引張ったきり、何ともその事は云わなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
あの写真の口髭くちひげの所へ指を当てて、そこへ
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ただ、すすり上げて泣いている間に、あの人の口髭くちひげが私の耳にさわったと思うと、熱い息と一しょに低い声で、「わたるを殺そうではないか。」と云うことばが、ささやかれたのを覚えている。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もともと芸術家ってのは厚顔無恥の気障きざったらしいもので、漱石がいいとしをして口髭くちひげをひねりながら、我輩は猫である、名前はまだ無い、なんて真顔で書いているのだから、他は推して知るべしだ。
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
その顔立ちについてはあまり言う必要もないが、とにかく前にも言ったように、彼の頭は小さくて、髪は薄く、青い眼をして、大きな鼻の下にちょっぴりと口髭くちひげを生やした純然たるユダヤ系の風貌であった。
口と口髭くちひげと鼻の大部分が全く隠れた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
猫と同じように口髭くちひげがはえていた。
立派な口髭くちひげをはやしていたのだ。
花吹雪 (新字新仮名) / 太宰治(著)
島さんは口髭くちひげを立てている。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は外国にいた時に、特にそれを感じた、如何にそれが正しい人間の形であるかは知らないがあのフランスの多少口髭くちひげえた美人が、一尺の間近まぢかに現れたとしたら、私はその美しさに打たれるより先きに
楢重雑筆 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
骸骨がいこつのように大きい頭、黒い眼鏡、特徴のある口髭くちひげ頬鬚ほおひげ頤髯あごひげ、黒い中国服に包んだ痩せた体——一体この体のどこからあのようなすばらしい着想とおそるべき精力とが出て来るのであろう。
五分刈ごぶがりの頭髪は太い眉毛や口髭くちひげと共に雪のように白くなっているので、血色のいい顔色はなお更あからみ、せた小づくりの身体からだは年と共にますます矍鑠かくしゃくとしているように見える。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「どうしたというんだ。肝腎のお婿さんの行方が知れないなぞは少しおかしいね。」とチョッキの間ぬけて衿のひろいフロックを着けて坐り込んでいた浅山は、興のさめたような顔をして、薄い口髭くちひげひねっていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)