反身そりみ)” の例文
古木学士はいよいよ眼を細くして反身そりみになった。学士の肩の蔭で、アダリーも可笑おかしいのを我慢しながらうつむいている気配である。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
健はいつもの樣に亭乎すらりとした體を少し反身そりみに、確乎しつかりした歩調で歩いて、行き合ふ兒女こども等の會釋に微笑みながらも、始終思慮深い目附をして
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
しわぶき、がっしりした、脊低せいひく反身そりみで、仰いで、指を輪にして目に当てたと見えたのは、柄つきの片目金、拡大鏡をあてがったのである。
頭こそ円けれ、黒羽二重の羽織を長めに著て、小刀を腰にした反身そりみの立姿が立派で、医者坊主などといわれた円頂えんちょうの徒とは違うのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
レイディ・リンは四十位の、大柄おほがらな、肥つた人で、反身そりみで、ひどく傲慢な容子をして、いろ/\に光る繻子の服を着てゐた。
紳士がやゝ反身そりみになつて卓子テーブルの前の椅子に腰をおろすと、鵞鳥のやうに白いうはぱりを着た給仕人がやつて来て註文を聞いた。
お世辞を云うも間が悪かったか反身そりみになって、無闇に扇で額を叩き、口も利かずに扇を振り廻したりして、きょと/\して変な塩梅あんばいで有りますから
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は反身そりみになつていやに勿体ぶつた態度をしながらも、その態度とはまるで違つた斯う云つた、うすつぺらな調子でベラベラとまくしたてるのでした。
ある女の裁判 (新字旧仮名) / 伊藤野枝(著)
友野は、少しばかり反身そりみになって、胸のバッチを示した。そこには帝国新聞の社章が、霧に濡れて、鈍く、私の無為徒食むいとしょくあざわらうようにくっついていた。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
「硝子の球なんかガラス屋へ行けば訳ないじゃないか」「どうして——どうして」と寒月先生少々反身そりみになる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
彦兵衛は、いつもの低い構えと口癖くちぐせを今夜はわすれ果てていた。すこし反身そりみ気味になって、理屈をこねた。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大辻老はそこで大将のように反身そりみになったが、テーブルの上の麦湯の壜をみると、たちまちだらしのない顔になり、ひきよせるなり、馬のような腹に波をうたせて
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
とはいふものゝ、大事を取つて、今にこゝの前を避けて通る、愛と若さと死の皮肉な花が、威勢ゐせいよく反身そりみになつてゐたり、しよんぼりと絶入つてゐる家の前を。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
茂太郎はよりかかって手を伸ばす、兵部の娘は反身そりみになって、それをいよいよ渡すまいとする——そのすぐ後ろは海です。波がもう兵部の娘のかかとめている。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
まゆも、顔だちも、はれやかに、背丈せたけなどもすぐれて伸々のびのびとして、若竹のように青やかに、すくすくと、かがみ女の型をぬけて、むしろ反身そりみの立派な恰好かっこうであった。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
キチンと四角に坐ったまま少しもひざをくずさないで、少し反身そりみ煙草たばこかしながらニヤリニヤリして、余り口数くちかずかずにジロジロ部屋へや周囲まわりを見廻していた。
斎藤緑雨 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
「いや、見ません。」といって、反身そりみになった。青腫れのした爺さんは、爪先で歩いて、次の家の前へと進む。雪もないのに冷たい気が人々の肌に浸み込むようだ。
悪魔 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それに対してホームズは時々質問や間投詞を挟んだ。ロス大佐は腕をこまねいて反身そりみに座席に身をもたせて、帽子を眼のあたりまですべらせ黙々として耳を傾けていた。
反身そりみの刀を肩にかけ、あぐらの中に手をつっこんでいた。ひざを小刻みにふるわしているものもあった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
爪先つまさきで電話室の硝子戸を突きあけ、「清子さん。電話。」と呼びながら君江は反身そりみに振返ってあたりを見廻したが、昼間のことで客はわずかに二組ほど、そのまわりに女給が七
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
その言葉使いの野卑で憎らしかったには、傍で聞いている子供心にもカッと腹が立った。その時ばかりは兵隊が可哀相で、反身そりみになった士官の胸倉へ飛び付いてやろうかと思った。
枯菊の影 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
俊助がこう尋ねると、大井は胸の上に両手を組んで、反身そりみにあたりを見廻しながら
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かれはナポレオンになろうと思ったときには胸のところに座蒲団ざぶとんを入れて反身そりみになって歩いた。秀吉になろうと思った時にはおそろしく目をむきだしてさるのごとくに歯を出して歩く。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
さもさも勿体振もったいぶって、いやに反身そりみになって、人を軽蔑けいべつしたような目付をしながら、意気揚々と灰色の馬に跨った様は——いやもう小癪こしゃくに触って、二目と見られたものじゃない、とまあ
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
とぐろをまきて赤味をおびたり。白茶の西洋仕立ての洋服に。ビイツの多くさがりたるを着して。少しくるしそうにはみゆれど。腹部はちぎれそうにほそく。つとめて反身そりみになる気味あり。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
Kさんは安楽椅子にずっと反身そりみになって、上靴スリッパアをつけた片足を膝の上に載せて、肱をもたげて半ば灰になった葉巻を支えながら、壁に掲げたロセッティの受胎告知の絵の方をじっと見ていると
聖書 (新字新仮名) / 生田春月(著)
どんなものだいと反身そりみになるのもマンザラ悪くはあるまいかも知らぬ。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
幻花子げんくわしは、此土瓶このどびん布呂敷ふろしきつゝみ、はすけてひ、自轉車じてんしや反身そりみつてはしらすのを、うしろから佛骨子ぶつこつしが、如何どうかして自轉車じてんしやからちて、土瓶どびんこはしたら面白おもしろからうとのろつたといふ。
臆れた色もなく、こう言って反身そりみになる八五郎だったのです。
だが、それから永くなるとぐっと反身そりみになって
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
めづらかな腰の丸みよ、反身そりみになつて
源十郎はぐっと反身そりみになって
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
反身そりみなる若き女のもすそかへす。
無題 (新字旧仮名) / 富永太郎(著)
何を、と云ってね、そのいきおいで、あー……開けるぞ、と思うと、清葉が、膝を支直つきなおして、少し反身そりみで、ぴたりとおさえて、(お客様です。)
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長過ぎる程の紺絣の單衣に、輕やかな絹の兵子帶、丈高い體を少し反身そりみに何やら勢ひづいて學校の門を出て來た信吾の背後うしろから
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
何だつて十月に限つてそんなに不精ぶしやうなのだと訊くと、菊五郎は親爺譲りの癖で、ぐつと反身そりみになつて、言訳をする。
片手は土手の草に取つき、ずーと立上ったが爪立つまだってブル/\っと反身そりみに成る途端にがら/\/\/\と口から血反吐ちへどを吐きながらドンと前へ倒れた時は
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
油がきれたか、格子天井こうしてんじょう仏龕ぶつがんが、パッ、パッ……と大きな明滅の息をついて、そこへヌッと反身そりみに立っているお十夜の影を、魔魅まみのようにゆらゆらさせた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
突袖をして、反身そりみになって、あの四方窓から中原の形勢を見渡したキザな恰好かっこうをごらんなさい。天下の英雄、使君、われといったような得意ぶりを御覧なさい。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
乃公はそこでいつも勇ましい自分の顔をれと見つめるのだった。ヴィクトル・エマヌエル第一世はこんな顔をしていたように思うなどと、私は反身そりみになった。
不思議なる空間断層 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なんて、技巧的に、やや身を前かがみにして、手を出して制した。そして反身そりみになって車を飛ばせた。前綱は片手をグルグル振って、見送られているので得意にけた。
威勢ゐせいよく反身そりみになつてゐる花もある、しよんぼりと絶え入つてゐる花もある、その花屋の前を通りすがると、妙に氣をそゝる意地の惡い香がした、胸苦しいほど不思議の香がした。
わるい花 (旧字旧仮名) / レミ・ドゥ・グルモン(著)
頬杖を突いて身を乗出したいところであったろうが、卓子テーブルが無いので仕方なしに腕を組んでグッと反身そりみになった。なおなお呉羽を脅やかして、勝利の快感に酔いたい恰好であった。
二重心臓 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
健は、いつもの様に亭乎すらりとした体を少し反身そりみに、確乎しつかりした歩調あしどりで歩いて、行き合ふ児女等こどもらの会釈に微笑みながらも、始終思慮かんがへ深い眼付をして
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……此処で、姉の方が、隻手かたて床几しょうぎについて、少し反身そりみに、浴衣腰を長くのんびりと掛けて、ほんのり夕靄ゆうもやを視めている。
甲乙 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
婦人はスムウト氏がユウタア州の生れだといふ事を訊くと、寡婦やもめ雌鶏めんどりのやうにぐつと反身そりみになつて近づいて来た。
本来、正直な米友は、小さくなって道庵のあとにくっついて行くが、道庵は大気取りで、突袖に反身そりみてい
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それから、長押なげしの槍を外して、摩利支天まりしてんのような恐い顔を反身そりみに持って、ずかずかと、庭へ下りた。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
軍団長イワノウィッチは、大刀だいとうたて反身そりみになって、この際の威厳いげんたもとうと努力した。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
赤猪口兵衛はいよいよ得意然と、すこし反身そりみになって土下座し直した。