卓子テエブル)” の例文
(無造作に、座を立って、卓子テエブル周囲まわりに近づき、手を取らんとかいなを伸ばす。美女、崩るるがごとくに椅子をはずれ、床に伏す。)
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
所が生憎あいにくその隣の卓子テエブルでは、煽風機せんぷうきが勢いよく廻っているものだから、燐寸の火はそこまで届かない内に、いつも風に消されてしまう。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
こさえたばかしの白木の卓子テエブルと二、三脚の同じ白木の長椅子ベンチとがその蔭に出しっぱなしであった。卓子テエブル長椅子ベンチもじっくりと湿っていた。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しかし卓子テエブルについてから、彼女はその大きな明るい茶色の眼でものゝ十分も私を凝視みつめてゐたが、不意に續けざまにお饒舌をはじめた。
別々のグルウプに属してゐるものが同じ卓子テエブルでめしを食ふといふことは、凡そ最近の新劇関係者間には行はれてゐないことでありました。
新劇倶楽部創立に際して (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
長らく無人の船なら、船の動揺で、それらの食器は卓子テエブルから滑り落ちるか、尠くともコップと薬壜だけは倒れていなければならない筈だ。
海妖 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
「なる程そんな約束をした事はたしかにあつた。」博士は両手を卓子テエブルの上につゝかぼうにして、その上に膨れた顔を載せて平気で言つた。
放課後寄宿舎に帰ると、室から室に油を売つて歩いてゐた以前とは打つて変り、小倉服を脱ぐ分秒を惜んで卓子テエブルかじりついた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
階下したよりほのかに足音の響きければ、やうやう泣顔隠して、わざとかしらを支へつつしつ中央まなかなる卓子テエブル周囲めぐりを歩みゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
そこに安っぽい花模様のあるクロオスを掛けた卓子テエブルが五つか六つ置いてあるきりだった。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ぼくの坐った卓子テエブルは、沢村、松山、虎さんとぼくの四人で、接待して下さる邦人のほうは、立派な御主人夫妻と上品なお祖母様ばあさま、それに二十一になる美しいお嬢さんの御一家でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
贅沢ぜいたくな長椅子や座蒲団クッション卓子テエブルなぞがいかにも王子の応接間らしい豪奢ごうしゃな飾り付けを見せていたが、主のない部屋の中は寒々とした一抹の空虚うつろをどことなく漂わせているように感じられた。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しその間に卓子テエブルのなかりせば
呼子と口笛 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
一枚戸を開きたる土間に、卓子テエブル椅子いすを置く。ビール、サイダアのびんを並べ、こもかぶり一樽ひとたる焼酎しょうちゅうかめ見ゆ。この店のわきすぐに田圃たんぼ
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それでも彼が入口に立って、逡巡しゅんじゅんの視線を漂わせていると、気のいた給仕が一人、すぐに手近の卓子テエブルに空席があるのを教えてくれた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
食堂の卓子テエブルに、もう郵便物がのせてある。何気なくその一つ一つを見て行くうちに、父の筆蹟で、叔母に宛てた封書があつた。
落葉日記 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
遠くの呼鈴ベルが鳴つた。間もなく三人の婦人がこの室に這入つて來た。銘々めい/\卓子テエブルについて座をめ、ミラア先生は四番目の空席くうせきに腰を下した。
先日欧米漫遊に出かけて往つた京都大学の内田銀蔵博士が、出発ぜんのある日の事、晩食ばんめし卓子テエブルで夫人を相手に頻りと洋行の面白さを話してゐた。
アウネスト・スミス氏は、傾く船長室の卓子テエブルに白髪の頭を抱えて、沈思した。苦悶した。懊悩の底に自問自答した。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
何か生きた者が、眼を開いてる者が、紙か、ペンか、受信機か、卓子テエブルか、椅子かの中にいる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しその間に卓子テエブルのなかりせば
(新字旧仮名) / 石川啄木(著)
宵をちと出遅れて、店と店との間へ、脚がめ込みになる卓子テエブルや、箱車をそのまま、場所が取れないのに、両方へ、叩頭おじぎをして
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
現に今日も、この卓子テエブルの上には、とうの籠へ入れた桜草さくらそうの鉢が、何本も細い茎をいた先へ、簇々ぞくぞくとうす赤い花をあつめている。……
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
四人の背の高い女の子が各自かくじ卓子テエブルから立ち上つて、卓子テエブルを𢌞りながら本を集めて片附けた。ミラア先生はまた命令をした。
オレンジではなかった筈だ、その船室の卓子テエブルの上には四万六千ポンドの紙幣束が積み上げられ、トランクの中にも公債や何かで多額の財産があったのである。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
主人は卓子テエブルの上の葉巻入と一緒に、吃驚びつくりして椅子から飛び上らうとする、松下はじろりとそれを尻目にかけて
応接室にては三郎へいげんと卓子テエブルを隔てて相対し、談判今や正にたけなわなり。洋妾ラシャメンかたえに侍したり。かれは得々としてへいげんの英語を通弁す。
金時計 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ある夏の午後、お松さんの持ち場の卓子テエブルにいた外国語学校の生徒らしいのが、巻煙草まきたばこを一本くわえながら、燐寸マッチの火をその先へ移そうとした。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
卓子テエブルのように海の静かな晩で、船体は遊ぶように、大きくゆっくりと左右に揺れているだけだ。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
空手からてで物を貰ふ者に附物つきものの愛嬌笑ひを惜し気もなく小説家の卓子テエブルの上にぶち撒けた。
乳のふくらみを卓子テエブルに近く寄せて朗かに莞爾にっこりした。そのよそおい四辺あたりを払って、泰西の物語に聞く、少年の騎士ナイトさわやかよろったようだ。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これに常々不服だった彼は、その代りによく草花の鉢を買って来ては、部屋の中央に据えてある寄せ木の卓子テエブルの上へ置いた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それから、夫人は、小さな卓子テエブルの前にすわった。一枚の書簡紙を取って、書きはじめた。
海妖 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
わめくと同時に、手に持つた鉄扇で、思ひ切り強く卓子テエブルどやしつける。(松下はこんな訪問には、いつも「体面」を置いてく代りに、机の抽斗ひきだしから鉄扇を持ち出す事にめてゐる。)
ねむくはないので、ぱちくり/\いてても、ものまぼろしえるやうになつて、天井てんじやうかべ卓子テエブルあし段々だん/\えて心細こゝろぼそさ。
怪談女の輪 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
そこでその卓子テエブルの側を通りかかったお君さんは、しばらくのあいだ風をふせぐために、客と煽風機との間へ足をめた。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書棚の抽斗から秘法の鏡とかいうものを持出して来て、卓子テエブルの上に置きました。そして私に、一分間じっとその鏡を見詰めていると、未来の良人の顔がそこに浮かんで来ると言うのです。
生きている戦死者 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
侍女三、四、両人して白き枝珊瑚えださんごの椅子を捧げ、床の端近はしぢかに据う。大隋円形だえんけいの白き琅玕ろうかんの、沈みたる光沢を帯べる卓子テエブル、上段の中央にあり。
海神別荘 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
格闘中同人が卓子テエブルと共に顛倒するや否や、首は俄然のどの皮一枚を残して、鮮血と共に床上しょうじょうまろび落ちたりと云う。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
カミィル巡査は貪るように珈琲コーヒーを飲んで、大元気だ。どしんと卓子テエブルを叩いて
ロウモン街の自殺ホテル (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
卓子テエブルさん(卓をたゝく)ことにお前さんはあしで、狐狗狸こっくりさん、其のまゝだもの。きてるも同じだと思ふから、つい、お話をしたんだわ。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
彼は彼の先輩と一しよに或カツフエの卓子テエブルに向ひ、絶えず巻煙草をふかしてゐた。彼は余り口をきかなかつた。が、彼の先輩の言葉には熱心に耳を傾けてゐた。
或阿呆の一生 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
で、その足でビヴァリイ谷の家へ出掛けてみると、つい数刻前まで人の居たらしい気配が残っていて、台所の卓子テエブルの上にサンドウィッチと、レモン・パイの半分這入った紙袋などが置いてある。
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
おもふと、忽然こつねんとして、あらはれて、むくとをどつて、卓子テエブル眞中まんなかたかつた。ゆきはらへば咽喉のどしろくして、ちやまだらなる、畑將軍はたしやうぐん宛然さながら犬獅子けんじし……
雪霊続記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我々は隅の卓子テエブルに、アニセットの盃をめながら、真赤な着物を着たフィリッピンの少女や、背広を一着した亜米利加の青年が、愉快そうに踊るのを見物した。
上海游記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
書棚には、宗教と音楽に関する書物がぎっしり詰まっていて、二人の運転士の部屋と覚しい一室には、二つの懐中時計が卓子テエブルの上に置いてあるだけで、ここも、すべてきちんと整理されていた。
海妖 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
いきなり卓子テエブルの上へショオルだの、信玄袋だのがどさどさと並びますと、つれの若い男の方が鉄砲をどしりとお乗せなすった。
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼が寝室へ退く前、主客は一家の男女と共に、茶の卓子テエブルを囲みながら、雑談に夜をかしてゐた。トウルゲネフは出来得る限り、快活に笑つたり話したりした。
山鴫 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
課長の背後の卓子テエブルで、紙に滑る秘書の鉛筆の音が微かに響く。
アリゾナの女虎 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
それをね、天幕テントの中へ抱入れて、電信事務の卓子テエブルに向けて、椅子にのせて、手はゆわえずに、腰も胸も兵児帯でぐるぐる巻だ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)