まんじ)” の例文
この邸の屋根瓦には、まんじの紋がこけさびてあろう。遠祖源頼政みなもとよりまさ公が、義兵をあげられた時、高倉宮より賜った家紋と伝え聞いておる。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あのようにめいめい右乳下へまんじのいれずみすらしておいた身にかかわらず、つい仲間の者にそむいて、長崎奉行に密告したのでござります。
それはもちろんブラマプトラに注いで居る川でその川の名を後で聞いて見るとチェマ・ユンズン・ギチュ(まんじの砂の川という意味)という。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
二を引いて上から落ちて来た。まんじえがいて花火のごとく地に近く廻転した。最後に穂先を逆に返して帝座ていざの真中を貫けとばかりげ上げた。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すぐに、まんじて、ふつとまへとほつてきます。う、それると、口惜くやしさがむねしばつて、咽喉のどめて、主人あるじくちけなかつたさうなんですよ。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
みんな土葬でひつぎは三尺程高い箱棺で、それに蓮台れんだい天蓋てんがいとはお寺に備えつけのものを借りて来て、天蓋には白紙を張り、それに銀紙でまんじをきざんで張りつけ
現にこのまんじの形がそうなんだが、いつぞやの黒死館で、クリヴォフの死体の上に何があったと思うね。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「さあさあみんないつもの手だ! まんじ廻わりに押し廻わり、突き破って行こう、切り抜けて行こう!」
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
鐘楼があり、多宝塔があり、そして、正面、石段による適当な高さをもつた本堂には“寂光殿”とした額がかゝり、その下に、マルにまんじの、浅黄いろの幕が張つてあつた。
にはかへんろ記 (新字旧仮名) / 久保田万太郎(著)
その途中吊台のおおいすきから外の方を見ると、寒詣かんまいりらしい白衣びゃくえの一面にまんじを書いた行者らしい男が、手にした提灯ちょうちんをぶらぶらさせながら後になり前になりして歩いていた。
天井裏の妖婆 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
谷崎潤一郎氏の「まんじ」もやはり、大阪の女が自分の恋物語を大阪弁で語っている形式である。
大阪の可能性 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
たまたままんじつなぎとかともえとかの幾何学的模様があるけれどそれらは皆支那から来たのである。近頃鍬形蕙斎くわがたけいさいの略画を見るにその幾何学的の直線を利用した者がいくらもある。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これはつい先ごろ谷崎さんのまんじの値段(一〇〇〇円)が問題になつたことゝ思ひ合はせられ、モノの値上りの比率が、このさきもこの割で時の経過と正比例してひろがつて行けば
東京の風俗 (新字旧仮名) / 木村荘八(著)
それから蓋の上にまんじを書き、さらにまた矢の根を伏せたのち、こう家康に返事をした。
古千屋 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私たちはすぐ目の前にユンクフラウの本体を仰ぎながら、富士より三九〇米高く、新高より二一六米高いその俊峰をまんじ巴の雪花の中に見失い、しばらく償われない気持で立ちつくした。
吹雪のユンクフラウ (新字新仮名) / 野上豊一郎(著)
森田草平もりたそうへい氏の四十八人目と云うのや、谷崎潤一郎たにざきじゅんいちろう氏のまんじ、川端康成氏の温泉宿、野上弥生子のがみやえこ氏の燃ゆる薔薇、里見弴さとみとん氏の大地、岩藤雪夫いわとうゆきお氏の闘いをぐもの、この七篇の華々しい小説が
文学的自叙伝 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
土蔵破むすめやぶりで江戸中を騒がし長い草鞋を穿いていたまんじの富五郎という荒事あらごと稼人かせぎて、相州鎌倉はおうぎやつざい刀鍛冶かたなかじ不動坊祐貞ふどうぼうすけさだかたへ押し入って召捕られ、伝馬町へ差立てということになったのが
まんじくずしの紗綾形さやがた模様のついた白綾子しろりんずなぞに比べると、彼の目にあるものはそれほど特色がきわだたないかわりに、いかにも旧庄屋風情ふぜいの娘にふさわしい。色は清楚せいそに、情は青春をしのばせる。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
雪霙いよよまんじとふるなかにあなかうがうしけの白鶴しらつる
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
まんじ地獄
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
阿波守の乗っている卍丸——そのふなべりに立てつらねた船印の差物さしものには、桐のかげ紋とまんじの紋、朝の潮風をうけてへんぽんとひるがえった。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
事の勃発ぼっぱついたしましたのは、前回のまんじ事件がめでたく落着いたしまして、しばらく間をおいた九月下旬のことでありました。
顔はかくれて、両手は十ウの爪紅つまべには、世に散るまんじの白い痙攣けいれんを起した、お雪は乳首を噛切かみきったのである。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
刻々とせまる暮色のなかに、嵐はまんじに吹きすさむ。噴火孔ふんかこうから吹き出す幾万斛いくまんごくの煙りは卍のなかに万遍まんべんなくき込まれて、嵐の世界を尽くして、どす黒くみなぎり渡る。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
お浜の頭の中でまんじとなりともえとなって入り乱れておりますが、ここでもやはり勝目かちめは竜之助にあって、憎い憎いと思いつつも、その憎さは勝ち誇った男らしい憎さで
そう云って、検事が指差したところを見ると、その前後二様の流血でされた形が、なんとなくまんじに似ていて、そこに真紅の表章が表われているように思われたからである。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
それは川が流れて池となり池また流れて川となるで、その池の配合で川の流れ塩梅あんばいまんじのようになって居るのかも知れません。で、その川でわが生命を失うかどうかという困難が起って来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
まんじ頭巾の男はもう、卓に酒肴さけさかなを並べさせて待っていた。そして、銀子ぎんす二十両ずつ、二た山にして、彼らの卓の鼻先においてある。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それがさ、妙なところに妙なものがあるのでな。実は、てまえもいぶかしく思うておるが、右乳の下にまんじのほりものがありましたんですよ」
あきれたやうにおほきなくちけると、まんじ頬張ほゝばつたらしい、上顎うはあご一杯いつぱい眞黒まつくろえたさうです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
まんじが聯想されてくるのでして、また、そこに憶測が加わると云うのは、毎夜八住が外出するのが、払暁あけがたの五時を跨ぎ、さらに今日の事件が、やはり同じ時刻に行われているからです。
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
いちめんに河は飛沫しぶきとなり、その真っ白な水煙のなかで、武者と武者、足軽隊と足軽隊とがまんじになって、合戦をしはじめた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
最後の八番てがらのまんじ騒動のときなどは、せっぱつまって腹までも切ろうとしたところを、右門の情けと義侠ぎきょうであやうく救い出されているんですから、いかに厚顔無恥でも
……動悸どうきに波を打たし、ぐたりと手をつきそうになった時は、二河白道にがびゃくどうのそれではないが——石段は幻に白く浮いた、まんじの馬の、片鐙かたあぶみをはずしてさかさまに落ちそうにさえ思われた。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「折もよし、四、五日のうちに太守の御帰国まんじ丸の船出! どうにでも隠す工夫をしてそなたを連れてゆく所存。もう否応いやおうはあるまいのう……」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
また……あと主人あるじきますと……釣臺つりだいますと、それへいた提灯ちやうちんの四五しやくまへへ、や、あの、まんじをかいたのが、かさなつてともれて、すつ/\とさきつて歩行あるいたんださうです。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
と同時に、右門のまなこを最初にはげしく射たものは、その胸の右乳下に見えるあのまんじのいれずみ——たしかに破牢罪人の同じ右乳下にもあったはずの、あのいぶかしき卍の朱彫りでありました。
まんじ丸御用意のため、川口の脇船へ何かのしめしあわせにおいでになり、只今、お船蔵ふなぐらにはおいでがないそうでござります」
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いてありました松の枝が、煙も立たずに白い炎で、小さなまんじに燃えていて、そこに、ただ御新造の黒髪ばかり、お顔ばかり、お姿ばかり、お顔はもとより、衣紋えもんも、肩も、袖も
まっ黒な人影が、まんじになった。隊の後方の者は、通ろうとしたが、通れないのである。もう合戦は、始まっていたのだ。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
微紅うすあかい光る雨に、花吹雪を浮かせたように、羽が透き、身が染って、数限りもない赤蜻蛉の、大流れをみなぎらして飛ぶのが、行違ったり、まんじに舞乱れたりするんじゃあない、上へななめ、下へ斜、右へ斜
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
広場をえらんで、双方の馬と馬、まんじにもつれた。花栄の閃々せんせんたる白槍びゃくそう、秦明の風を呼ぶがごとき仙人掌棒さぼてんぼう、およそ四、五十合の大接戦だったが勝負はつかない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
俊吉は、まんじの中を雪にただよう、黒髪のみだれを思った。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多くは、灌木帯を目がけて跳び降り、その上にまた跳び降り、跳び降り、青葉をかすめる槍の光や差物さしものが、山つつじの花と共に、一瞬、あらゆる色彩のまんじを描いた。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
影を沈めて六ツの花、ともえに乱れ、まんじと飛交う。
妖術 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
侍臣が止めるつもりでかれのくつわはばめたが、ふり飛ばされて、あッと、起きあがってみた時は、もう主君のすがたは、白と黒のまんじのなかに、魔人のような馳駆ちくを見せていた。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
頭上にきたかと思うと、あなたこなたの鯨幕くじらまくは一せい風をはらみ、地上の紅葉こうようさかしまにきあげられて、さんさんと黒く、さんさんとあかく、まんじをえがき、旋風つむじとなって狂う。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
武行者は、ひじを蹴られて、かえって相手の力量の程度をすぐ察知したかのようだった。戒刀にはおよばない。そして敢て、素手を示しつつ身をすすませた。ばッと格闘のまんじがおこる。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして本尊に、御自身の念持仏ねんじぶつ——胸にまんじの彫ってある阿弥陀如来あみだにょらい像をおさめて——今生の衆生しゅじょう結縁けちえんと、来世の仏果ぶっかのために施与せんというのが、安楽寿院創建の御願ぎょがんとされるところらしい。
雪と馬、雪と戟、雪と兵、雪と旗、まんじとなって、早くも混戦になった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)