青年わかもの)” の例文
別荘へは長男かしらわらべが朝夕二度の牛乳ちちを運べば、青年わかものいつしかこの童と親しみ、その後は乳屋ちちや主人あるじとも微笑ほほえみて物語するようになりぬ。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
いまあはたゞしくつた。青年わかもの矢庭やにはうなじき、ひざなりにむかふへ捻廻ねぢまはすやうにして、むねまへひねつて、押仰向おしあふむけたをんなかほ
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
青年わかものを見てあざ笑う。青年は太刀の柄をすてて、更に弦の切れたる弓を取りしが、容易にかかり得ず、いたずらに睨みいるのみ。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
村第一の立派な青年わかものと、村第一の美しい少女むすめですから、皆は最早自分達が取りに行くよりもずっと勢い付いて、直ぐに支度に取りかかりました。
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
良人おっとというのは、ひげの濃い、顔色のつやつやとした、肩幅の広い男で、物わかりは余りいいほうではなかったが、根が陽気なたちで、見るからにたくましい青年わかものだった。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
これほど大胆に物を言った青年わかものがその日までにあろうか。すくなくも自分等の言おうとして、まだ言い得ないでいることを、これほど大胆に言った人があろうか。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
月の上るころおい、水辺の森に来て、琴を鳴らし、ああ、くびに掛けたる宝玉たまを解いて、青年わかものちぎりを結ぼう。
森の妖姫 (新字新仮名) / 小川未明(著)
女も老人としよりも、子供も、青年わかものも通る。その階級の多くは元より中流以下の庶民たちであるが、まれには、被衣かずきをした麗人もあり、市女笠いちめがさの娘を連れた武人らしい人もあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
きみゆゑこそ可惜あたら青年わかもの一人ひとり此處こヽにかくあさましきていたらくと、まど小笹をざヽかぜそよともげねば、らぬ令孃ひめ大方おほかた部屋へやこもりて、ことなどにいよいよこヽろなやまさせけるが
暁月夜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
落着き払った、雪之丞の嘲笑に憤怒を煽り立てられたように、青年わかものの一人が
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
社会のことはすべて根気だ、僕は一生工夫や土方を相手にして溝の埋草になってしまっても、君たちのような青年わかものがあって、蒔いた種の収穫とりいれをしてくれるかと思えば安心して火の中にでも飛び込むよ
駅夫日記 (新字新仮名) / 白柳秀湖(著)
かくて仲善き甲乙ふたり青年わかものは、名ばかり公園の丘を下りて温泉宿へ帰る。日は西に傾いてたにの東の山々は目映まばゆきばかり輝いている。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
五ツ紋の青年わかものは、先刻さっき門内から左に見えた、縁側づきの六畳にかしこまって、くだんの葭戸を見返るなどの不作法はせず、うやうやしく手をいて
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
青年わかものは残念そうに折れたる太刀をながめて立つ。しばしの沈黙。蛇は衣冠を着け、優美なる姿にて奥よりあらわる。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
今までこの湖のふちをぐるりと布告ふれてまわったが、まだ二人のような勇ましい青年わかもの少女むすめは一人も居なかったと千切ちぎりましたが、とにかくそれでは今から直ぐに支度をして
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
駒形こまがたの、静かな町を、小刻みな足どりで、御蔵前おくらまえの方へといそぐ、女形おやま風俗の美しい青年わかもの——鬘下地かつらしたじに、紫の野郎帽子やろうぼうしえり袖口そでぐちに、赤いものをのぞかせて、きつい黒地のすそに、雪持ゆきもち寒牡丹かんぼたん
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「小間使でありますよ。」と教えたが、たまりかねたか、ふふと笑った。青年わかもの茫然ぼんやり拍子抜のした顔を上げた時、奥のかたで女の笑声。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主人あるじ青年わかものに語りしところによれば千葉なるなにがしという豪農のもとに主人あるじ使われし時、何かの手柄にて特に与えられしものの由なり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
が、それはもとより酒の上の冗談に過ぎないのを、世間知らずの山育ちの青年わかものただ一図いちず真実ほんとうと信じて、こことんでもない恋の種をいたのであろう。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
と、青年わかものは、老人が前にした高脚たかあしの机に、すがり寄って
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と気高い女は青年わかものを指しました。
犬の王様 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
濡色ぬれいろふくんだあけぼのかすみなかから、姿すがたふりもしつとりとしたをんなかたに、片手かたて引担ひつかつぐやうにして、一人ひとり青年わかものがとぼ/\とあらはれた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わが青年わかものの名を田宮峰二郎たみやみねじろうと呼び、かれが住む茅屋くさやは丘の半腹にたちてうるわしき庭これを囲み細き流れの北のかたより走り来て庭を貫きたり。
わかれ (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
人か獣か判らぬような生活をしている青年わかものにも恋は有った。彼は何日いつか柳屋のお葉を見染めたものと思われる。お杉はあわれむように我子の顔を見た。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
二筋ふたすぢ三筋みすぢ後毛をくれげのふりかゝるかほげて、青年わかものかほじつながめて、睫毛まつげかげはなしづくひかつて、はら/\とたまなみだおとす。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(蟹は長刀なぎなたをたずさえて悠々と奥に入る。翁と嫗と娘はそのうしろ姿を拝む。青年わかものは腕をくみて考える。)
蟹満寺縁起 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
秋のはじめの空は一片の雲もなくはれて、景色けしきである。青年わかもの二人は日光の直射を松の大木の蔭によけて、山芝の上に寝転んで、一人は遠く相模灘を眺め、一人は読書している。
恋を恋する人 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「さようでございましょうか、へい、」といってこの泥に酔ったような、あわれな、腑効ふがいない青年わかものは、また額を拭った。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
午後三時、一人の青年わかもの村境むらざかいの小高い丘に立って、薄暗い町のかたを遠く瞰下みおろしていた。彼は重太郎である。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
梅子からの手紙! 細川繁の手はるえた。無理もない、かつて例のないこと、又有りべからざること、細川に限らず、梅子を知れる青年わかものの何人も想像することの出来ないことである!
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
やしろの裏を連立って、眉目俊秀びもくしゅんしゅう青年わかもの二人、姿も対に、暗中くらがりから出たのであった。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
口数をあまりきかない、顔色の生白なまじろい、額の狭い小づくりな、年は二十一か二の青年わかものを思い出しますと、どうもその身の周囲に生き生きした色がありません、灰色の霧が包んでいるように思われます。
あの時分 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
他所よそながら指をくわえて見物している青年わかものも少くはなかった。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)