阿漕あこぎ)” の例文
得て早速さつそく阿漕あこぎうらへ到り見ればあんたがはずあみおろす者あり與力こゑをかけ何者なれば禁斷きんだんの場所に於て殺生せつしやういたすや召捕めしとるべしと聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「旦那、お立派なお侍様で、幾値いくらがとこでもありませんぜ。そんな、阿漕あこぎなことをいわないで、買っておくんなさい。口開くちあけだ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
然し間であるのがさいはひだ、押掛けて行つて、昔の顔で一つ談判せうぢやないか。我々が口を利くのだ、奴もさう阿漕あこぎなことは言ひもすまい。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
しかしいつの代にも横着者は絶えないもので、その禁断を承知しながら時々に阿漕あこぎの平次をきめる奴がある。この話もそれから起ったのです
半七捕物帳:44 むらさき鯉 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「怖がっちゃァいないさ。怖がっちゃァいないが、そうしなかったら、チョコのこったもの、どんなまた阿漕あこぎなことをいって来るか知れない。」
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「ナーニ、それにゃ及ばねえ。それにしても阿漕あこぎだなあ。……ようごす、旦那、もう十両だ、詳しく話しておくんなさい」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは自分の心のうちの邪悪と、倒錯観念の交響世界で実に不可思議な苦痛深刻を極めたものでした。謡曲阿漕あこぎの一節に
涙香・ポー・それから (新字新仮名) / 夢野久作(著)
夜になったのでは雌波めなみおと一つ立たないで、阿漕あこぎうらで鳴く千鳥が遠音とおねに聞こえるくらいのものでありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二ではうたいの「善知鳥うとう」など、三では「阿漕あこぎ」、「鵜飼うがひ」などその適例てきれいである。幽靈ゆうれいがいして全體ぜんたい性質せいしつ陰氣いんきで、すごいものである。相貌さうぼうなども人間にんげん大差たいさはない。
妖怪研究 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
「そうさ。口じゃ親類付合だとか何とかいってるくせに、金にかけちゃあかの他人より阿漕あこぎなんだから」
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
阿漕あこぎのようかは知れませんが、私どもでも商売でございますからな。貸した金が取れなければ抵当をいただくより致しかたがございません、どうかそのおつもりで」
暗がりの乙松 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
阿漕あこぎが浦のたびかさなれば、おさだまりで、たちまち近所となりのうわさ、これも定まる処です。
雪柳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
予は植物の方に潜心して返事せぬ事多きに屈せず、阿漕あこぎが浦の度重たびかさなりてそんな眼に逢う。
ところが、悪運が尽きたとでもいうのですか、それとも、阿漕あこぎが浦で引く網も度重なれば何とやらのたとえか、警察ではやっとのことで、彼等の二つの住居の中の一つを嗅ぎ出したのです。
稀有の犯罪 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
去年の夏伊勢へ商用で参りましたが、帰途かえり阿漕あこぎから桶を担いだ男が乗りました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
いくら父でも師でも、わたしに対し面と向っては阿漕あこぎなことはもう口に出せない。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
良しや清水にるとても、離れまじとの誓いごとは、反故ほごにはせまじとうつゝを抜かして通わせました。伊勢の海阿漕あこぎヶ浦に引く網もたび重なればあらわれにけりで、何時いつしか伯父様が気附いた。
彼は微笑してあざけるかの如き口吻こうふんで、由来伊勢には天火が多い、阿漕あこぎうらの入口に柳山やなぎやまと云う所がある、此処ここに石の五重の塔があって、このあたりから火の玉が発し、通行人を驚かす事は度々たびたびある
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
小町 (興奮こうふんしながら)では誰でもつれて行って下さい。わたしの召使めしつかいの女の中にも、同じ年の女は二三人います。阿漕あこぎでも小松こまつでもかまいません。あなたの気に入ったのをつれて行って下さい。
二人小町 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
路考さん、あっしはいつか一度言おうと思っていたんだが、いくら立女形たておやま名代なだいのでも、あんたのやり方は少し阿漕あこぎすぎると思うんだ。薄情もいい浮気もいいが、いい加減にしておかないと、いずれ悪い目を
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
つぎに阿漕あこぎ、松川磯の小木津。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
阿漕あこぎが浦よ
枯草 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
大湊の海は阿漕あこぎうらには遠く、二見ヶ浦には近い。静かであおい阿漕ヶ浦と、明るくて光る二見ヶ浦が、大湊の島で二つに分れているようになっていました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いい材料を惜しげもなく使うのと阿漕あこぎに高い勘定をとるのとでわずかなうちに売出し、間もなく今度は、いまの「区役所横町」の徳の家という待合のあとを買って入った。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
人情から云えば己の義理を低くして阿漕あこぎな仕打もしようし、趣味から云えば己の芸術眼を下げて下劣な好尚に投じようし、十中八九の場合悪い方に傾きやすいから困るのである。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「天狗様にしろお狐様にしろ、船大工ばかりにたたるなんて、どうでも阿漕あこぎというものだ」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
度々たび/\行く様に成るとそこは阿漕あこぎの浦に引網ひくあみとやらであらわれずには居ない、其の番頭が愚図/\云うに違いない、うすると私が依怙地えこじに成って何を云やアがる此方こっちじゃア元より一つ長屋に居たんだ
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
これが、ぼると言います。阿漕あこぎやつです。はめられたんです。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて徳太郎君は和歌山わかやま城下じやうかは申すにおよば近在きんざいなる山谷さんこく原野げんやへだてなく駈廻かけめぐりて殺生せつしやう高野かうや根來等ねごろとう靈山れいざんのちには伊勢いせ神領しんりやうまであらさるゝゆゑ百姓共迷惑めいわくに思ひしが詮方せんかたなく其儘そのまゝ捨置すておきけりこゝに勢州阿漕あこぎうらといふは往古わうこより殺生禁斷せつしやうきんだんの場なるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
伊勢の阿漕あこぎうらというところで見たのが、あれが最後だろう。いや、あれは見たのではない、聞いたのだ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いい材料を惜しげもなく使うのと阿漕あこぎに高い勘定をとるのとでわずかなうちに仕出し、間もなく今度は、いまの「区役所横町」の徳の家という待合のあとを買って入った。
雷門以北 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「二つを取ろうとなされても、それは阿漕あこぎでございますよ」冷っこい冷っこい声である。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
宗助そうすけ叔母をば仕打しうちに、これ目立めだつた阿漕あこぎところえないので、こゝろうちではすくなからずこまつたが、小六ころく將來しやうらいいて一口ひとくち掛合かけあひもせずにかへるのは如何いかにも馬鹿々々ばか/\しいがした。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
家数四五軒も転がして、はい、さようならは阿漕あこぎだろう。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
以てつかはさる大岡忠右衞門には御奉書到來たうらい熟々つら/\かんがふるに先年徳太郎君まだ紀州表に御入のせつ阿漕あこぎうらにて召捕めしとり吟味ぎんみせし事あり此度はからずも將軍にならせられたれば此度の召状めしじやう必定ひつぢやう返報へんぱう御咎おんとがめにて切腹せつぷくでも仰付らるゝか又は知行ちぎやう御取上おんとりあげかさらずば御役御免おやくごめんなるべしと覺悟かくごし用意も匇々そこ/\途中とちう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
種のいいものを使うのと、阿漕あこぎに高い銭をとるのとで、わずかなうちに仕出し、間もなく、今度は、伝法院横町の、待合のあとに入って店を出した。——それがいまの中清である。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
宗助は叔母の仕打に、これと云う目立った阿漕あこぎなところも見えないので、心のうちでは少なからず困ったが、小六の将来について一口の掛合かけあいもせずに帰るのはいかにも馬鹿馬鹿しい気がした。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「お八重さんばっかりに眼をとられて、あっしを見ねえとは阿漕あこぎですねえ」
仇討姉妹笠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「まあそう云わずと聞かせてくんな、一人占めは阿漕あこぎでやす」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
阿漕あこぎだ! ……九十郎さん……そんな非道!」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)