かな)” の例文
可笑をかしなお話をいたしましたが、策伝さくでんの話より、一そう御意ぎよいかなひ、其後そののち数度たび/\御前ごぜんされて新左衛門しんざゑもんが、種々しゆ/″\滑稽雑談こつけいざつだんえんじたといふ。
落語の濫觴 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
さてまたわれらの情は、たゞ聖靈のこゝろかなふものにのみもやさるゝが故に、その立つる秩序によりてとゝのへらるゝことを悦ぶ 五二—五四
神曲:03 天堂 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
こういう中で、私は別に自分の気質にかなったことを始めた。それは信州へ入ってから六年目、丁度長い日露戦争の始まった頃であった。
芽生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
チャプリンはさすがに米国一流の思い切った演出法であるから、それが現代人の趣味にかなってあれだけの名声を博したのであろう。
活動写真 (新字新仮名) / 淡島寒月(著)
不幸にも女子の気にかなう面貌があるが、この男のかおつきはまったくその一ツで、桃色で、清らかで、そしてきわめて傲慢ごうまんそうで。
あいびき (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
丁度そういう目的にかなうような自働記録ゼンマイ秤というものがあるので、それを用いて今後もたま引の研究を続けることにしている。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
即ち小学校などでは儀式的に教育するから、子供があちらを向いているのを、こちらへ向かせる真の教育の趣旨にかなうまいと思う。
教育の目的 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「わしは元来淡白じゃ。君たちの要求をもう一度改めて聞いて、すぐそれにかなったものを売ってあげよう。希望をいってみなさい」
豫備の客間と寢室は古風な桃花心木マホガニイ臙膩色えんじいろの家具類で、すつかりその目的にかなつた。廊下には粗織布キヤンヷスを、階段には敷物を敷いた。
松王二度目の出よりは脇師の腹ありてよし。すべてのこなし方く本文の意にかなひ、人形流の悪騒ぎなくして、後人の模範となすに足る。
両座の「山門」評 (新字旧仮名) / 三木竹二(著)
ぱっとあがった灰神楽はいかぐら、富五郎が蹴った煙草盆を逃げて跳り上った釘抜藤吉、足の開きがそのままかなってお玉が池免許直伝は車返くるまがえしの構え。
聞しが其の音節調子おもきを負ふて米山をこゆるによくかなひたり拍子詞へうしことばにソイ/\といふは嶮しけれども高からぬゴロタ石の坂を登るを
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
何か特別な事があって餅を搗いているものと見た方が、「くれもせぬ」という言葉にもかなうし、五月雨の徒然な様子も現れるようである。
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
この表をるものは食物の成分と季節の寒暖と人体の健否けんぴと消化の善悪と嗜好とをよく考えて生理上にかないたる食物を作るべし。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
熱意、情熱畢竟ひつきやうするに其もとたるや一なり。情熱を欠きたる聖浄は自から講壇より起る乾燥の声の如く、美術のヱボルーシヨンにはかなひ難し。
情熱 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
そしてこの軽蔑の美しさほどわれ/\滅びる青い血の人種の好みにかなふものは無い。またこの言葉に軽蔑の礼儀を持つてゐる。
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
「本当にね」と趣味にかなわない不得要領の言葉を使った。誠吾は梅子の言葉が、あまり重い印象を先方に与えない様に、すぐ問題を易えた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
筆を持っている時が一番楽しく、貴く、神の心にピッタリかなっているような、大丈夫の心持でございます。絵三昧に入っているのであります。
エドガーアセリングとともに、きてウィリアムに面謁めんえつし、王冠わうくわんさゝげたのは當然たうぜんのことです。ウィリアムの行動かうどう最初さいしよれいかなふたものでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
卵でも呑みに来たり、余程わるさをしなければ滅多に殺さぬ。自然に生活する自然の人なる農の仕方は、おのずから深い智慧ちえかなう事が多い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ながめていたそうでございますが、心にかなう花もなかったか、裏木戸からふいと出て行ったままだったとか、後で聞きました
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大切に勤めし故主人の氣にかなひ店の支配しはいをも任せられ私し儀も安堵あんど致し居候に昨年不慮ふりよの儀にて永のいとまに相成廿餘年の勤功きんこう
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
あまり旅行をされたことのない読者諸君の心にかなわないこともなかろうと思うのだが、わたしは一枚のスケッチを描いて
駅馬車 (新字新仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
他は犬われは狐、とてもかなはぬ処なれば、復讐あだがえしも思ひとどまりて、意恨うらみのんで過ごせしが。大王、やつがれ不憫ふびん思召おぼしめさば、わがためにあだを返してたべ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
(その時私は、いかに自分の手際てぎわが鮮やかで、巴里パリ伊達者だてしゃがやる以上に、スマートで上品な挙動にかなつたかを、自分で意識して得意でゐた。)
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
おそらくこの土地の風物が、彼の心身にかなったのであろう。悲観的であった精神まで、楽観的になったらしく、言葉にも動作にも活気があった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
空想の国、霊魂の世界に奇しき光を放つ怪異なるものゝ美しさ! 之はヘルンの異常な趣味性癖にかなふものであります。
父八雲を語る (新字新仮名) / 稲垣巌(著)
お前はそれを、美しいヒポデイミヤ姫のすぐれた趣味にかなうように、少しもいためないで持って帰らなければならない。
ところでそれがどれくらゐ私にかなつたものか、惠みの多い、頼母しい、ただし正體の知れない感激が、この場合にひしひしとわたしの心を捉へる。
地方主義篇:(散文詩) (旧字旧仮名) / 福士幸次郎(著)
私の様な不運の母の手で育つより継母御なり御手かけなり気にかなふた人に育てて貰ふたら、少しは父御ててご可愛かわゆがつて後々のちのちあの子の為にも成ませう
十三夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
もしこれらが一般均衡の条件にかなったものでないならば、それらの価格においては、各交換者に最大の満足は生じない。
なる程それは水に浮かんでゐる物体の渦巻に巻き込まれる難易の法則にかなつてゐるといふことを説明してくれましたが
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
「あなたの眼にはとてもかなわないわ。石の塀の上にいらっしゃるのが、遠くからは、朱い球になっていて見えている。」
蜜のあわれ (新字新仮名) / 室生犀星(著)
されば逍遙子はシエクスピイヤと近松とが此旨を同うしたるを認めたるなり、シエクスピイヤと近松とが「ドラマ」主義にかなへるを認めたるなり。
柵草紙の山房論文 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
菜食信者と訳したら、あるいは少し強すぎるかも知れませんが、主義者というよりは、よく実際にかなっていると思います。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
なんのために、いれずみすることが、さうした目的もくてきかなふのかわからないが、うた意味いみはともかく、さうにちがひありません。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
でも、仮令当推量にしろ、そう考える方が理窟にもかない、あなたのお心も安まるとすれば、結構ではありますまいか。
二癈人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私は近来このみ仏を太子の念持仏として、あるいは前にひいた「金人」として拝することを心にかなうものとしていた。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
最小限度の私有物、社会的理念にかなうこの最少の持物に、最も豊かに美が贈られるとはいかなる神の企てであろうか。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
同じく人生に処する上は、なるべく有為の生活を成すべく長く送ることが必要である。それにはどうしても道の理想にかなうところの生活が必要である。
それは愛とゆるしとの教えにかなわないと思われたからである。しかし私はこの頃は、愛しつつ赦しつつ、かくすことができると思うようになりだした。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
すなわち十二宮の各星をその時にかなうよう誤りなく東方に上らしめ、かつ北斗七星を北極星の周囲に動かす事の如き、到底人力の為し得ざる処にして
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
臣を使うに礼をもってし臣、君につかうるに忠をもってす、これが孔子こうしの言葉だ、これこそ日のもとの国体にかなう教えだ、サアこれでも貴様は孟子が好きか。
初恋 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そして心の呵責かしやくは渦を卷いてゐるのだから、そこの虚をかれた日には良心的に實際かなはない感じのものだつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
そはたゞ其卷册の裡より我心にかなへるものをき出し得たりといふのみにて、譬へば蜂の百花の上に翼を休めて、唯だ一味の蜜を探らんが如くなるべし。
この弟子群の中からイエスは御心にかなう十二人を特に選んで、御自分の側近に置き給うた(三の一三—一九)。
その侘しさがその身の今の侘しさによくかなっていると時雄は思って、また堪え難い哀愁がその胸にみなぎり渡った。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
遊戯は我国に於ると同様、時季にかなっていて、只今の所では紙鳶あげ、独楽廻し、追羽子おいばねが最もよく行われる。
それはいたずらな謙遜というわけでもなく、実はそれが神経的に、そして更に迷信的にかなわぬというのであった。
鬼涙村 (新字新仮名) / 牧野信一(著)
理想にかなわずとて、謝絶しければ、父母もこうじ果てて、ある日しょうに向かい、家の生計意の如くならずして、倒産のき目さえやがて落ちかからん有様なるに
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)