身動みうごき)” の例文
少年こどもがこれを口にいれるのはゆび一本いつぽんうごかすほどのこともない、しかつかはてさま身動みうごきもしない、無花果いちじくほゝうへにのつたまゝである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
身動みうごきたくも、不思議なるかな、ちッとも出来んわい。其儘で暫くつ。竈馬こおろぎ、蜂の唸声うなりごえの外には何も聞えん。
つひには溜息ためいききてその目を閉づれば、片寝にめるおもて内向うちむけて、すその寒さをわびしげに身動みうごきしたりしが、なほ底止無そこひなき思のふちは彼を沈めてのがさざるなり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
いつもかかることのある際には、一刀ひとかたな浴びたるごとく、あおくなりてすがり寄りし、お貞は身動みうごきだもなし得ざりき。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身動みうごきをなさる度ごとに、あたりをらすような宝石がおむねの辺やおぐしの中で、ピカピカしているのは、なんでもどこかの宴会へおいでになる処であったのでしょう。
忘れ形見 (新字新仮名) / 若松賤子(著)
で、身體からだひどこゞえてしまつたので、詮方せんかたなく、夕方ゆふがたになるのをつて、こツそりと自分じぶんへやにはしのたものゝ、夜明よあけまで身動みうごきもせず、へや眞中まんなかつてゐた。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
とうとう避難者や弥次馬やじうま共の間にはさまれて、身動みうごきもならぬようになる。頭の上へは火の子がばらばら落ちて来る。りよは涙ぐんで亀井町の手前から引き返してしまった。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
Kは脳振盪を起してそのまゝ引くり返つて死んで了つた。相手は相変らず身動みうごきもしない。
(新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
かくて熊の身動みうごきをしたるに目さめてみれば、穴の口見ゆるゆゑ夜のあけたるをしり、穴をはひいで、もしやかへるべき道もあるか、山にのぼるべきふぢづるにてもあるかとあちこち見れどもなし
いろ蒼白まッさを!……ほかにもたれやら? や、パリスどのまで? あまつさへ血汐ちしほひたって?……あゝ/\、なんといふ無慚むざん時刻じこくぢゃ、如是こんなあさましいことをば一とき爲出來しでかすとは!……や、ひめ身動みうごきやる。
其上そのうへ午餐を断つて、旅行するにしても、もう自分の懐中くわいちうあてにするわけにはかなかつた。矢張り、兄とかあによめとか、もしくはちゝとか、いづれ反対派のだれかをいためなければ、身動みうごきれない位地にゐた。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
生麦酒なまビイル出入だしいれをする一段高い台の上には、器械を胸のあたりにして受持のボオイがあたかも議長席に着いたもののように正面を切って身動みうごきもせず悠然と控えている
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
で、身体からだひどこごえてしまったので、詮方せんかたなく、夕方ゆうがたになるのをって、こッそりと自分じぶんへやにはしのたものの、夜明よあけまで身動みうごきもせず、へや真中まんなかっていた。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
此莊園でラクダルはゴロリところがつたまゝ身動みうごきもろくにず、手足てあしをダラリのばしたまゝ一言ひとことくちひらかず、たゞ茫乎ぼんやりがな一日いちにちねんから年中ねんぢゆうときおくつてるのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
たかへる小鳥の如く身動みうごき得為えせで押付けられたる貫一を、風早はさすがに憫然あはれと見遣りて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
ふッと眼が覚めると、薄暗い空に星影が隠々ちらちらと見える。はてな、これは天幕てんとの内ではない、何で俺は此様こんな処へ出て来たのかと身動みうごきをしてみると、足の痛さは骨にこたえるほど!
Kは脳振盪なうしんたうを起してそのまゝひつくり返つて死んでしまつた。相手は相変らず身動みうごきもしない。
身動みうごきもせずじつとして兩足をくんすわつてると、その吹渡ふきわた生温なまぬくいかぜと、半分こげた芭蕉の實や眞黄色まつきいろじゆくした柑橙だい/\かほりにあてられて、とけゆくばかりになつてたのである。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
その挙動ふるまい朦朧もうろうとして、身動みうごきをするのが、余所目よそめにはまるで寝返ねがえりをするようであった。
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
してみればこれは傷の痛さに夢中で此処へ這込はいこんだに違いないが、それにしても其時は此処まで這込はいこみ得て、今は身動みうごきもならぬが不思議、或はられた時は一ヵ所の負傷であったが
と見るとお若が、手を障子にかけて先刻さっきから立ったままぼんやり身動みうごきもしないでいる。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と丹平はおもむろに。かくて自ら自分等を廊下の外に閉め出した。その扉がせなを圧するような、間近に居たから、愛吉は身動みうごきをしたが、かくても失心のていで、立ちながら、貧乏ゆるぎをぞしたりける。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)