)” の例文
それをとりまく少年たちは、いずれも真面目な心配を顔に現して、惨めな靴をのぞき込みつつ、大股にいて歩いて来るのであった。
石油の都バクーへ (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
物干場へ上がると、手摺てすりが外れてゐて、屋根へ轉げ落ちさうになつたり、夜なんか外へ出ると、誰かきつと後ろからいて來たり——
そんなつもりでもないけれど、わたしも実は本道がこわいからね。七兵衛のような気味の悪い男にけられたり、人を見ては敵呼かたきよばわりを
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どう考えても怪しい気がしてなりませんので取敢えず閣下に彼奴きゃつ写真スナップをお送りしておいて、ここまでアトをけて来た訳ですが……
人間レコード (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「なにが荒神さまだ」と彼は昂軒のあとをけてゆきながら首をひねった、「こんなところへなんのために荒神さまが出てくるんだ」
ひとごろし (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
振返って見ると誰も居ませんで、ただざあざッという雨に紛れて、わだちの音は聞えませぬが、一名の車夫がいて来たのでありました。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余はただ案内者のあといて何の気なしに這入った。その案内者もまた好い加減に這入った。案内者は青林館せいりんかんと云う宿の主人である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
四ツばかり年下である私が、後を追っかけてけて行きたがると、兵さんは、田圃たんぼの稲のかげなどにかくれて、すぐ私をまいてしまった。
あまり者 (新字新仮名) / 徳永直(著)
やがて健は二階の教室に上つて行く。すると、校長の妻は密乎こつそりと其後をけて行つて、教室の外から我が子の叱られてゐるのを立聞たちぎきする。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
小女こむすめうなずくようにしながら歩いた。山西もいて歩いた。歩きながら、彼は……今晩こそ逃さないぞ、と、女に眼をはなさなかった。
水魔 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ようし、それならば明日は私も、兄の後をけて行こうと決心しました。別段兄の女なぞを、見たいと思ったわけではありません。
仁王門 (新字新仮名) / 橘外男(著)
極端なことには五十に近い鄒七嫂まで人のあとにいて潜り込み、その上十一になる女のを喚び入れた。阿Qは不思議でたまらない。
阿Q正伝 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「よくやる手ですが、私達が跡をけてると思ふんで、足跡をくらますつもりでわざと大浦の方へ曲つたやうな風でした。へツへ。」
果して永住の地となるかどうか、人々の気持はまだきまっていなかった。官庁のおこぼれを拾っていて歩く一連の人民たちであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
白は屠所の羊の歩みで、牽かれてようやくいて来た。停車場前の茶屋で、駄菓子だがしを買うてやったが、白はおうともしなかった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
新太郎君は感激して引き下ると共に、帽子をかぶって部屋から出て来た。未だ何か言い聞かせたくていて行った母親は出合い頭に
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と、鼻をひょこつかせるようにしながら、この磊落らいらくな大泥棒は、そのままいいほどの間合をおいて、雪之丞の乗物をけはじめた。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
「そんだが、旦那だんなはたいしたもんでがすね、旦那だんないたんだつてつたらなあ」とかれさらいてつた近所きんじよものかへりみていつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
長作は、爺の後にいて家の中へ這入りながら、こんなことを言った。この言い草は、すでに、爺は幾度も幾度も繰り返して聞かされた。
山茶花 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
若者はようやく立上って体をいて行ってしまおうとするのをお婆様がたって頼んだので、黙ったまま私たちのあとからいて来ました。
溺れかけた兄妹 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
蹄の痕にいて崩れ易い側崖の縁を、偃松や岳樺だけかんばの枝から枝へと手を伸して、引き上げるように足を運ぶ。やっと雪田の上の崩れへ出た。
黒部川奥の山旅 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
行儀悪く両足を前に投げ出して、先へ立って行く嘉門次に、うしろを振り向かせた、私の後からは、荷かつぎが一人いて来る
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
リツプが村境に這入ると、識らない小供の一群が、跡からいて来て、白い鬚に指をさして笑ひ、また声を立てゝ叫びます。
新浦島 (新字旧仮名) / ワシントン・アーヴィング(著)
その時私は広間サロンを抜けて、廊下をこの室の方に歩いてまいりましたが、その私の後をけて、レヴェズ様も同様歩んでお出でになるのでした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「偶然だなんて皆嘘なんです。私が停車場で省線電車を降りた時から、私の後をねらって来たんです。そして探偵だの刑事などと云って……」
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
けれど私は、母が私を縁先の家へ連れて行こうとしたときにはいやと言った。ただ無理に言われるのでいて行ってみた。
余はその車にいて行きながら万一を心配したが、それも無事であった。黄塔君と三人で静に半日を語り明して帰った。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「うむ!」と言ったまま、小平太はもう一度振返って、後をけるものの有無うむを見定めてから、始めて座敷へ上った。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
白河以北破駅荒涼トシテ村落ノ如シ。ハ多ク牝馬ヲ用ユ。往往ノ尾ニキ乳ヲもとムルヲ見ル。須賀川すかがわノ駅ニ宿ス。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼は団十郎にいて行かなかつた。活歴は演劇史上の邪道といふことになつてゐるが、私は世間の人のいふよりは、この活歴に面白いものを感じてゐる。
役者の一生 (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
室内せきとして声無し。窓の外に死のヴァイオリンをたんじつつ過ぎ行くを見る。その跡にきて主人の母き、娘き、それに引添いて主人しゅじんに似たる影く。
それゆえ、その翌日から三日も続けて、上本町六丁目から小橋西之町への鋪道を豹一にけられると、半分はうるさいという気持から、いきなり振り向いて
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
友は斯く語りつゝ我を促し立てゝ出で行かんとせり。嗚呼、我にも猶此の如く慰め呉るゝ友あるこそ嬉しけれ。我は默して帽を戴き、友の後にきて出でぬ。
鶴見は例によって学校なんぞへ行くのをおっくうがって、あまり気がすすまない。しかしそうばかりもいっていられぬので、曾乃刀自にいて学校へ出向いてみた。
婦人は内に入れば、貫一も渋々いて入るに、長椅子ソオフワアかくれば、止む無くそのそばに座を占めたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
万歳の尻には子供は勿論大供もいて行った。才蔵は随分しつこく戯れたもので、そこに居る若い女などにからかい、逃げ出すと勝手向までも追掛けて行くこともあった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
かつは吾輩の膝栗毛もしきりに跳ね出したい様子なので、ままよあとの要務は徹夜しても片付けろと、八溝山をこえて那須野なすのはらまで、一行の尻馬にいてお伴をする事に相成った。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
しゆはあたしにくださらなかつたので、しゆぞくするものつかまへたくなつてたまらない。さてこそ、あたしは、ヷンドオムのから、このロアアルのもりりて幼児をさなごたちをけてた。
二列に並んだ他の生徒達のやうに互に手と手をつないでたのしく語り合ふことは出來ず、辨當袋を背負つて彼は獨りちよこ/\と列の尻つぽに小走り乍らいて行く味氣なさはなかつた。
崖の下 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
あまりに近寄って無遠慮に傘のうちを覗くこともはばかられるので、西岡は後になり先になって小半町ほども黙っていてゆくと、娘は近江屋という暖簾のれんをかけた刀屋の店先に足をとめて
離魂病 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
勿論、それはさう大してすぐれた渓流でもなく、岩石などにもさう大してめづらしいものもなかつたけれども、それでも一日沿つていて来た渓声だと思ふと何となくなつかしかつた。
水源を思ふ (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そういって丘田医師は立った、帆村は私にいてゆくようにと、目で合図をした。
ゴールデン・バット事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「実際なんといふ惨らしいことでせう。敵は自分の体の内部に棲んでゐて、どこへでもいて来るのです。それを殺すためには自分も死なねばならぬのです。自分も死なねばならぬのです。」
間木老人 (新字旧仮名) / 北条民雄(著)
じいさんのほうでは、何処どこかぜくとった面持おももちで、きもせず、ずんずんきへってるきされましたので、わたくしだまってそのあといてまいりますと、いつしかみちくださかになり
すすまないのを、いて行った。許生員は女にはとんと自信がなかった。いもがおをずうずうしくおしてゆくほどの勇気もなかったが、女の方からもてたためしもなく、忙しいいじけた半生だった。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
修繕中で皆は暇さうにデッキの上にごろ/\してゐた。嘉吉は知つた露助を見附けて握手した。露助は笑ひながら何か分らぬ言葉で機関室の方を嘉吉に指さした。丸田は嘉吉の行く方へいて行つた。
煤煙の匂ひ (新字旧仮名) / 宮地嘉六(著)
あといて縁側を折曲おれまがって行くと、同じ庭に面して三ツ四ツの装飾も何もない空室あきまがあって、縁の戸は光線を通ずるためばかりに三ずんか四寸位ずつすかしてあるに過ぎぬので、中はもうおおいに暗かった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
そうして彼へもいて来るようにと、その身振りで示した。
あめんちあ (新字新仮名) / 富ノ沢麟太郎(著)
そして、自分の後方をけて来ている侍が、何うするか?
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その後から忠太郎が見え隠れにいて来ている。
瞼の母 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)