そし)” の例文
日本のそういった文学だけをげて、中国や西洋の文芸を挙げないで論ずるのはやはり井の中の蛙のそしりを免れないことになります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
寧ろ多少陳套ちんたうそしりを招きかねぬ技巧であらう。しかし耳に与へる効果は如何にも旅人の心らしい、悠々とした美しさに溢れてゐる。
芭蕉雑記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
逢いたがる子に逢ってやらずに死なせましたら、親の心残りが道の妨げになる気がするので、人間世界のそしりも無視して出て来たのです
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
世の中には癆瘵ろうさいの病気で歿くなる人が多いのです、狐の害ばかりで死ぬるものですか、これはきっと、私のことをそしったものがあるでしょ
蓮香 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
止むな、わが名のために能力ちからある業を行ない、にわかに我をそしりうる者なし。我らに逆らわぬ者は我らに付く者なり。(九の三九、四〇)
往々同君の発表の跡追いをなすものだとのそしりをも甘受するものである事をここに告白して、同君に敬意を表するものである。
「僕は、これ以上卑怯者とそしられないために、もう逃げ隠れはしません。Bが僕に復讐を決心したのなら、平気でそれを受けて見せます。」
かくありしと知りしならば友を外国に需め置きしものを、かくありしと知りしならば余の国を高めんがために強く外国をそしらざりしものを
基督信徒のなぐさめ (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
云はゆる夫婦は親しけれども而も瓦に等しく、親戚は疎くしても而も葦にたとふ、若し終に(伯父を)殺害を致さば、物のそし遠近をちこちに在らんか
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
そしられた男子同性愛も、事こうずればいわゆるわけの若衆さえ、婦女同然の情緒を発揮して、別れを恨んで多数高価の鶏を放つに至ったのだ。
だから、誉められても標準に無交渉なので嬉しくもなければ、そしられても見当違いだから、何の啓発される所もなかった。
余が翻訳の標準 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
しかしてゲーテ崇拝すうはいの念の増すのは、さきの某文士のげんによれば、あるいはみずか俗化ぞっかして理想の光明こうみょう追々おいおいうすらぐのそしりを受けるかも知れぬ。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ですから、骨肉しんみの旦那様よりか、他人の奥様に憎悪にくしみが多く掛る。町々の女の目はほめるにつけ、そしるにつけ、奥様の身一つに向いていましたのです。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
旧思想との妥協者としてそしられる恐れがあったので、私は主として虚栄心のためあるいはパンのために書かれた一夜仕込の断片的な思想を受け容れた。
語られざる哲学 (新字新仮名) / 三木清(著)
かなひたりとも邪道じやだうにて正當せいたうひとよりはいかにけがらはしくあさましきとおとされぬべき、れはさても、殿とのをば浮世うきよそしらせまゐらせんことくち
軒もる月 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私を狂人だと思う人があったなら、その人は、ガリレオをののしったピザの学徒のようなそしりを受けるでしょう。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
あるいは近来東京などにて交際のいよいよ盛んにして、遂に豪奢ごうしゃ分外のそしりを得るまでに至りしも、幾分か外国人に対して体裁云々の意味を含むことならん。
日本男子論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
したがって山水によって画を愛するのへいはあったろうが、名前によって画を論ずるのそしりもおかさずにすんだ。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは自分の好きなものをわざそしり、内心嫌ひなものをことさらに褒める遊び女らしい一つの技巧に過ぎなかつたであらうか。或は唯単に嘲弄であつたのであらうか。
此方こっちまでが、人のそしりも世間の義理も、見得も糸瓜へちまもかまわぬ気になって、ただ茫然ぼんやりと夢でも見ているような、半分痲痺した呑気な心持こころもちになって、一日顔も洗わず
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
されば變り果てし容姿に慣れて、笑ひそしる人も漸く少くなりし頃、蝉聲せみかまびすしき夏の暮にもなりけん。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
「白法師の所業しわざに相違ない。我々の部落、我々の信仰を日頃から彼奴きゃつそしっていた。我々の神聖な神をけがし、我々の霊場を踏みにじった者は彼奴きゃつ以外にあるはずがない!」
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
如何に彼が大奥の援引えんいんによりてその位を固うしたるにせよ、如何に彼が苟安こうあん偸取とうしゅしたるのそしりは免るべからざるにせよ、如何に因循いんじゅん姑息こそくの風を馴致じゅんちし、また馴致じゅんちせられ
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
妾が烏滸おこそしりを忘れて、えて半生の経歴をきわめて率直に少しく隠す所なくじょせんとするは、あながちに罪滅ぼしの懺悔ざんげえんとにはあらずして、新たに世と己れとに対して
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
召使いの僕婢おとこおんなことおそきはいつか退けられて、世辞よきが用いられるようになれば、幼き駒子も必ずしも姉を忌むにはあらざれど、姉をそしるが継母の気に入るを覚えてより
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
サッサッと糊刷毛のりはけで掃き、レッテルを貼り、押し、叩き、次の荷造場にづくりばへ送る中年おんなの活躍もさることだが、彼女らもまた同じ種の高麗鼠であるそしりは徹頭徹尾まぬかれない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
負ひて川原へおろ壳馬車からばしやにして辛うじて引上げしが道を作り居たる土地の者崖の上より見下して乘り入れたる馬丁べつたうも強しりぬ客人も大膽やとほめるかそしるか聲を發して額に手を
木曽道中記 (旧字旧仮名) / 饗庭篁村(著)
頭山満とうやまみつるもスケールは堂々たるものであるが、俗悪の部類であって、そのそしりは免れまい。
人と書相 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
その上かつて「中書堂内坐将軍ちゆうしよだうないしやうぐんをざせしむ」と云ったことがある。綯が無学なのをそしったのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と反感はたかまっていたが、不敬というそしりは、加害者の内匠頭の方へ、当然傾いていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私も今でこそ今日のハイカラ達をそしりもしいましめもするが、以前の私のハイカラは今日の人々よりも数倍のハイカラで、このハイカラ熱からいえば今の若い人々はまだまだ沈着しているのだ。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
その自分が彼について説くことは越権のそしりをまぬかれぬではなかろうか。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
知らぬ人われをそしると聞くたびに昔は憎み今は寂しむ
註釈与謝野寛全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
世間でこれからの御自身がお受けになるそしりもつらく、過去のあるころにその人に好意を持っておいでになった御自身をさえ恨めしく
源氏物語:40 夕霧二 (新字新仮名) / 紫式部(著)
現に私も一両度、その頃奈良の興福寺こうふくじの寺内で見かけた事がございますが、いかさま鼻蔵とでもそしられそうな、世にも見事な赤鼻の天狗鼻てんぐばなでございました。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
居士油を売って渡世するをそしったのだ。そこで居士、只今思い合す事がある、諸国を行商した時、ある国に形は常の鶏のごとく、声は烏のようながあった。
と一ごんした。してみると、他人が彼の醜きをそしるのを気にしていたと思われるといた人の論を聞いた。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
他目よそめにもかずあるまじき君父の恩義惜氣をしげもなく振り捨てて、人のそしり、世の笑ひを思ひ給はで、弓矢とる御身に瑜伽ゆが三密のたしなみは、世の無常を如何に深く觀じ給ひけるぞ。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
誉めるなりそしるなり喜ぶなりいかるなり勝手次第にしろ、誉められてまで歓びもせず、譏られて左まで腹も立てず、いよ/\気が合わねば遠くに離れて附合わぬばかりだ。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
内典を知るも、りょうの武帝の如く淫溺いんできせず、又老子ろうしを愛し、恬静てんせいを喜び、みずから道徳経註どうとくけいちゅう二巻をせんし、解縉かいしんをして、上疏じょうその中に、学の純ならざるをそしらしむるに至りたるも
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかなる社会といえども空論世界のそしりを免るるあたわざるはもちろんなれども、天下万邦
将来の日本:04 将来の日本 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
そしるは易く褒むるは難し。独り作詩の咏嘆に易く応酬に難きのみならんや。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
料理学上無知のそしりを免れず、まことに噴飯に堪えないのが実情である。
味を知るもの鮮し (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
アンナスの前から下げられたイエスを、番卒どもは嘲弄ちょうろうし、これを打ち、その目をおおうて、「預言せよ、汝を打ちし者は誰なるか」と言ってそしった。時刻は鶏鳴けいめいの刻、すなわち午前三時ごろであった。
キリスト教入門 (新字新仮名) / 矢内原忠雄(著)
我は心よりおそれ、妻は心よりたはる。我父母の為に泣き、妻はわが父母ちちははそしる。行道ぎやうだう念々ねんねん、我高きにのぼらむと欲すれども妻は蒼穹さうきうの遥かなるを知らず。我深く涙垂るれども妻は地上の悲しみを知らず。
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
お政治向きをそしったり、浮世の間違いをののしったり、善悪両道のトンチンカン、賢愚明暗の行き違い、そういうのをアテッコスッたり! 男女痴態の醜きを、やっつけたりしたのでござるからなあ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
◯サタンのこの申出は人間をそしりまた神を譏りしものである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
我をめ、やがてまたそしるらん。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
夫人の心細い気持ちに共鳴したふうのものを返しにしては、認識不足を人からそしられることであろうと思って、明石はそれに触れなかった。
源氏物語:41 御法 (新字新仮名) / 紫式部(著)
内々師匠に「智羅永寿ちらえいじゆ」と云ふ諢名をつけて、増長慢をそしつて居りましたが、それも無理はございません。
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)