ののし)” の例文
のあるいは世をなげき、時をののしり、危言きげん激語げきごして死にく者の如き、壮は則ち壮なりといえども、なおこれ一点狂激の行あるを免れず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
魚屋大声を揚げてうそつきの牝犬め、わが夫は十年来離さず犬の皮のパッチを穿いているが、彼処あそこ肉荳蔲にくずくのように茶色だとののしったそうだ。
是が彼の最初の失敗で、学校側の人達は佐藤を忘恩の痴者しれものののしった。斯ういう悪声はぜんを追うて一般に拡がるものである。
人に物を思わせたる報酬むくいはかくぞとののしりて、下枝が細き小腕こがいなを後手にじ上げて、いましめんとなしければ、下枝は糸よりなお細く、眼を見開きてうらめしげに
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「無礼なり何奴なにやつなれば、われを野良犬とののしるぞ」「無礼なりとはなんじが事なり。わが飼主の打取りたまひし、雉子きぎすを爾盗まんとするは、言語に断えし無神狗やまいぬかな」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
しかるにその國王の子が心おごりして妻をののしりましたから、その女が「大體わたくしはあなたの妻になるべき女ではございません。母上のいる國に行きましよう」
文明二年八月国民の一つたる越知家栄が、畠山義就に党して河内に出陣し、畠山政長方と戦争したについても、尋尊はこれを批評して、「於国民輩者過分所存也」とののしっている。
俗法師考 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
自ら一を手にしけるが、たちまちにして色をしてののしって曰く、今世間の小民だに、兄弟宗族けいていそうぞくなおあいたがいあわれぶ、身は天子の親属たり、しか旦夕たんせきに其めいを安んずること無し、県官の我を待つことかくの如し
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いかるべきか、この時。恨むべきか、この時。はぢしむべきか、悲むべきか、さけぶべきか、ののしるべきか、責むべきか、彼は一時に万感の相乱あひみだれて急なるが為に、吾を吾としも覚ゆる能はずして打顫うちふるひゐたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
表裏のはなはだしいやつだとののしる者を多く見る。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
にんにくを求めるとねぎ、豆を求めると麦をくれるので訳を尋ね、哀しみ狂して王宮へ帰りののしあるく、后怪しんで訳を聞き息切れるまで踊り廻る
だが何という大胆なんだろう! 夕暮時とは云うものの、織田信長の管理している、京都の町の辻に立ち、その信長を攻撃し、その治世をののしるとは!
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、所好すきな貸本の講談を読みながら、梁山泊りょうざんぱく扈三娘こさんじょう、お孝が清葉をののしる、と洩聞もれきいて
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「さな嘆きそ。世は七顛八起ななころびやおきといはずや。心静かに養生せば、早晩いつかいえざらん。それがし身辺かたわらにあるからは、心丈夫に持つべし」ト、あるいはののしりあるいは励まし、甲斐々々しく介抱なせど
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
その王賓おうひんう、賓もまたまみえず、ただはるかに語って曰く、和尚おしょう誤れり、和尚誤れりと。またいて姉を見る、姉これをののしる。道衍惘然ぼうぜんたりと。道衍の姉、儒を奉じぶつしりぞくるか、何ぞ婦女の見識に似ざるや。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
女は身をふるはせてののしるとともに、念入おもひいりてのろふが如き血相をせり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
由って鳶を呼ぶと鳶教えて一同を自分の下に隠す、所へ薯来って、鳶汝は鶏雛の所在を知らぬかと問うに、知らぬと答え、薯怒って鳶をののしる。
窓の戸を叩き、部屋の扉を蹴り、ののしり、叫び、やがて嘆願する、小次郎の声が部屋の中から嵐のように聞こえて来ても、それに答える何物もなかった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
じゃあま、あばあ、阿媽おっかあが、いま、(狐の睾丸がりま)ぞとののしったのはそれである。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不知しらず、この恨み、ののしり、呪はるる者は、何処いづくだれならんよ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その辺の大都フェスの諺に口ばかり剛情な怯者をののしって汝はアグラの獅ほど勇なりこうしにさえ尾をわるべしというとある。
「こっちだ」「あっちだ」「逃げた逃げた」ののしる声々の湧き上がったのも、それから間もなくのことであった。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
資治卿のうわさをして、……その千人の女にちぎると言ふ好色をしたゝかにののしると、……二人三人のめかけてかけ、……わざとか知らぬ、横肥よこぶとりに肥つた乳母うばまで、此れを聞いてつまはじき、身ぶるひをするうち
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
僕は正直に云うけれど、彼女の前で君のことをどんなに悪様あしざまののしったろう。彼奴あいつ白痴ばかで無節操でロマンチックの生地いくじ無しだ! このように僕は云ったものだ。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とんと打入れる発奮はずみをくッて、腰も据らず、仰向あおむけひっくりかえることがある、ええだらしがない、尻から焼火箸やけひばしを刺通して、畳のへり突立つッたててやろう、転ばない呪禁まじないにと、陰では口汚くののしられて
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
身体極めて軽捷けいしょうで、たちまち海上を歩んでかの島に到り、千万苦労してようやく私陀が樹蔭に身の成り行きを歎くを見、また、その貞操を変ぜず、夫を慕い鬼王をののしるを聴き、急ぎ返って羅摩に報じ
一軒の家では老いた夫婦が、互いに口穢くちぎたなののしっていた。と女房の鋭い爪が、良人の右の眼をえぐり抜いた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ののしる剣幕にきもを抜かれ、鉄蔵茫然とする処を飛かかって咽喉のんどやく
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「いい気味だ。神罰だ。もっとピシピシ撲られるがいい!」突然ののしる声がした。若者の部屋と軒を並べたもう一つの部屋の窓の中から、その罵声は聞こえるのである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
老爺ぢいは、さすがに、まだ気丈きじやうで、対手あひてまでに、口汚くちぎたなののしあざける、新弟子しんでしさく如何いかなるかを、はじめて目前まのあたりためすらしく、よこつてじつて、よわつたとひそかたで、少時しばらくものもはなんだ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
歌っている者、叫んでいる者、笑っている者、ののしっている者……お祭りのような騒ぎであった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「こら!」と驚くべき声でののしわめく。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ののしり詈り熊を追い、追いすがったと思ったとたんパッと背中へ飛び乗った。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
魂消たまぎゆるかなののしかわすわ。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
呻吟の声、のろいの声、ののしる声、悲しむ声——四方の辻で聞こえていた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と自ら我身をののしるごとく
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「ご帰館ご帰館!」「船を廻せ!」互いに口々にののしり合う。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして自分はその運命をどんなに怨みののしるだろう
船大工たちは口惜しそうに、口々にののしりました。
怪しの者 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山影宗三郎ののしった。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)