見透みとお)” の例文
横に公園へ上る坂は、見透みとおしになっていたから、涼傘のままスッと鳥居から抜けると、紫玉の姿は色のまま鳥居の柱に映って通る。
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
へたな見透みとおしなどをつけて、右すべきか左すべきか、はかりにかけて慎重に調べていたんでは、かえって悲惨なつまずきをするでしょう。
新郎 (新字新仮名) / 太宰治(著)
まるで己の心もちを見透みとおしでもしたように、急に表情を変えたあの女が、じっと己の目を見つめた時、——己は正直に白状する。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今の御姿おすがたはもう一里先か、エヽせめては一日路いちにちじ程も見透みとおしたきを役たたぬ此眼の腹だたしやと門辺かどべに伸びあがりての甲斐かいなき繰言くりごとそれももっともなりき。
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
いま橋の上から、十何年ぶりで、新温泉の建築を見ていると、そのときの書生の心境をハッキリ見透みとおせるようで頬笑ましくなるのであった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
牛乳の中へでも浸っているようで、すっかり見透みとおしが利かない。流血船の形も、ぼんやりとして、幻のように薄く、影のように揺れている……
流血船西へ行く (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
『論語』の原典批判に関してはなお多くの問題が残されているが、孔子の伝記を考えるについては、以上の見透みとおしでほぼ用は足りるであろう。
孔子 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
男たちは行く先々に見透みとおしを持った。粗末な智識ではあったが、彼ら農に帰ろうとする面々は土に対する見解を深めたのだ。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
だれからかねえでも、おいらの見透みとおしだて。——人間にんげんは、四百四びょううつわだというが、しげさん、おめえのやまいは、べつあつらえかもれねえの」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
それが川べりの道の上にところどころ一塊ひとかたまりになりながら落ちているのがずっと先きの先きの方まで見透みとおされていた。
美しい村 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ともすると、自分が女掏摸すりだという奥底まで、弦之丞の涼しい眼に見透みとおされはしないかと怖ろしい気にも襲われる。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれども患者が縁端えんばたへ出て互を見透みとおす不都合を避けるため、わざと二部屋毎に開き戸を設けて御互の関とした。
変な音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それは見透みとおしのつかぬほど複雑になり難解になっている。それが言葉によって現わされる為めには、勢い周到な表現を必要とする。詩は昔の人の為めにだ。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
案内をうまでもなく、破れた障子から中は見透みとおし、大病人らしい父親を看護していた若い娘が、客の姿を見ると、いそいそとって格子こうしを開けてくれました。
私もまた、将来の見透みとおしがほんとにつかないから、父の家を自分から捨て去ることもできなかった。
道端みちばたの人家は道よりも一段低い地面に建てられてあるので、春の日の光をよそに女房共がせっせと内職している薄暗い家内かないのさまが、通りながらにすっかりと見透みとおされる。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
彼らは三吉らより五つ六つ年輩でもあり、土地の顔役でもあって、普通選挙法実施の見透みとおしがいよいよ明らかになると、露骨に彼ら流儀の「議会主義」へとすすんでいた。
白い道 (新字新仮名) / 徳永直(著)
彼の放浪的な運命をつくった性格を見透みとおさなかった。彼の生き方は、どんな憂き艱難をしても、野に山に、街に部落にさすらって歩くのがその性質に合う生き方なのでした。
慈悲 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それでまと見透みとおしが明瞭はっきりとせぬ故、遠近の見定めがつかぬ……その故にねらいの本式はまず弓を引き分くる時に的を見、さて弓を引込めたる時、目尻でこう桿から鏃をみわたし
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
又尻の軽い福子が、まさか辛抱する気もあるまいと、たかをくゝつてゐたからなのだが、そこに多少の目算違ひがあつたとしても、どうせ長続きのする二人でないと云ふ見透みとおしに
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
夏らしく唐紙からかみなぞも取除とりはずしてあって、台所から玄関、茶の間の方まで見透みとおされる。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
葉子の事件に関して長男の態度にも反感をもっていた二男の、家庭の内部からの火の手のあがり初めて来た叛逆はんぎゃくとの十字砲火を浴びながら、彼の社会的信用に大抵見透みとおしをつけながらも
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
山の出鼻でばなを、廻り切って仕舞うまで前方は、見透みとおしが、利かなかった。
鉄路 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
縁側えんがわ見透みとおしの狭い庭には男女の村童がたかって遊んでいる。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「鬼火の姥は見透みとおしじゃよ」
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
横に公園へあがる坂は、見透みとおしに成つて居たから、涼傘ひがさのまゝスツと鳥居から抜けると、紫玉の姿は色のまゝ鳥居の柱に映つて通る。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「どうも無理だよ。こんな小さなあかりじゃ仕様がない。そのうえ、千切ちぎったような雲が一ぱいひろがっていて、上からは案外見透みとおしがきかないんだぜ」
空中漂流一週間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
片側かたかわに朝日がさし込んでいるので路地のうちは突当りまで見透みとおされた。格子戸こうしどづくりのちいさうちばかりでない。昼間見ると意外に屋根の高い倉もある。忍返しのびがえしをつけた板塀いたべいもある。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この額風呂の庭には、植込みもかなり多いので、離れの一棟も母屋おもやからは見透みとおされません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あの辺は海沿いの一本道でさ。日が暮れたって、一丁や半丁の見透みとおしがききますよ」
平賀源内ひらがげんない文句もんくじゃねえが、春重はるしげは、一さきまで見透みとおしがくんだからの。おまえとくさんとこでって、どこへったかぐらいのこたァ、かねえでも、ちゃんとわかってらァな
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
咄嗟とっさの場合ですよって布団敷いてるアもあれしませんし、寝室い入れるのんはどや知らん思たんですけど、下はみんな見透みとおされる夏座敷ですし、しよことなしにそないしたのんですが
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
離座敷はなれから母屋おもやの方へ通う廊下つづきには庭の見透みとおしの好いところがあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「どうでしょう、今度の事件は巧く行くでしょうか。先生のお見透みとおしは?」
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
それは空中を鍵形かぎがたに区切り、やいば型に刺し、その区切りの中間から見透みとおす空の色を一種の魔性ましょうに見せながら、その性全体においては茫漠ぼうばくとした虚無を示して十年の変遷へんせんのうちに根気こんきよく立っている。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
こういう打ち解けた心持で、二人が差し向いに互の眼の奥を見透みとおして恥ずかしがらない時に、千代子の問題が持ち出されたのは、その真相を聞こうとする敬太郎に取って偶然の仕合せであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
僕は知っているよ。君の思っていることくらい、見透みとおせないでたまるか。あたしは、虫けらだ。精一ぱいだ。命をあげる。ああ、信じてもらえないのかなあ。そうだろう? いずれ、そんなところだ。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
途中で見た上阪のぼりざかの中途に、ばりばりと月にてた廻縁まわりえん総硝子そうがらす紅色べにいろの屋号の電燈が怪しき流星のごとき光を放つ。峰から見透みとおしに高い四階は落着かない。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこにはこの宇宙艇の前方と後方と、それから両脇と上下との六つの方角が同時に見透みとおしのできる仕掛けによって、居ながらにして、宇宙艇のまわりの有様がハッキリと分った。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長吉はいつも巡査が立番たちばんしている左手の石橋いしばしから淡島あわしまさまの方までがずっと見透みとおされる四辻よつつじまで歩いて来て、通りがかりの人々が立止って眺めるままに、自分も何という事なく
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
どうせ長続きのする二人でないと云ふ見透みとおしに、今も変りはないのであつた。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「親分、一と言もねえ。まさに見透みとおしの通り、お留の阿魔あまが下手人でしたよ。——縄を打って引っ立てて行くと、笹野の旦那が褒めましたぜ。これが八五郎の手柄か、大したことだね——って」
もちろんその時の庸三に、そこまで見透みとおしのつくはずもなかったし、朗らかな師匠の談話や態度にも、そんな影は少しも差していなかったが、清川の態度には暗示的なものがないとは言えなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
見透みとおし難い人間の心のうごきだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それに宅中うちじゅう陰気でね、明けておくと往来から奥のまで見透みとおしだし、ここいら場末だもんだから、いや、あすこの宅はどうしたの、こうしたのと、近所中で眼を着けて
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山の上に、まるで噴火口ふんかこうでもあるかのように、ポッカリと大穴がいているのです。穴から下をのぞいてみますと、底はどこまでも続いているとも知れず、真暗まっくらで見透みとおしがつきません。
崩れる鬼影 (新字新仮名) / 海野十三(著)
どうせ長続きのする二人でないと云う見透みとおしに、今も変りはないのであった。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
浮雲の引幕ひきまくから屈折して落ちて来る薄明うすあかるい光線は黄昏たそがれの如くやわらかいので、まばゆく照り輝く日の光では見る事あじわう事の出来ない物の陰影かげと物の色彩いろまでが、かえって鮮明に見透みとおされるように思われます。
監獄署の裏 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「林彦三郎が自首して出たんだろう。それくらいのことは見透みとおしさ」
蛍と紫陽花あじさい見透みとおしの背戸に涼んでいた、そのお米さんの振向いたなさけだったのです。
雪霊記事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)