わけ)” の例文
重兵衛 なるほど、だれか歌いながら来るようだ。聞き慣れねえ声だから、ここらのわけえ者じゃあるめえ。旅の人でも迷って来たかな。
影:(一幕) (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
母「はい、お前方もふりい馴染でがんしたけんども、今度が別れになります、はい有難うござえます、多助や誰かわけもんが大勢来たよ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
松住町まつずみちょうじゃねえぜ。あさっぱらから、素人芝居しろうとしばい稽古けいこでもなかろう。いいわけものがひとりごとをいってるなんざ、みっともねえじゃねえか」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
サワ甘味スウィイトめつくしたと言ったような、一種の当りのいい人なつこさが溢れ、そしてその黒い細い眼の底に、わけえの、ついぞ見ねえつらだが
それから頼りになるしっかりした若者を知っている。ああ、君はわけえし、——君と己とが一緒になれぁたんといいことが出来るかも知れねえなあ!
「立ちな、わけえの」と頭は顎をしゃくった、「ここで論判するこたあねえ、話があるんなら外へ出てから聞こう」
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
何も御前おめえさんが、あやまんなさる事は無えのさ。こりやほんの僅ばかりだが、世話になつたわけしゆたちに、暖え蕎麦そばの一杯も振舞つてやつておくんなせえ。
鼠小僧次郎吉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ヘッ、どうも、お前という女は、せねえよ。お京さんが、わけえころは、おれの親父を悩ましたというが、お前も、まったく、おれを悩ます。わからねえ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
「そんだつて箆棒べらぼうわけ衆等しらだつてさうだことばかりするものぢやねえ、つまんねえ」憤慨ふんがいしてかういふものも
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「ね、おめえも、早くけえんでえすぞ。俺もわけえ時、婿むこに行ったどこ逃げ出した罰で、今になってこれ……」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
お前の父さんもわけい時はお前と同じ様に、人を人とも思わねえで、それで村にも居られねえような仕末。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わけ旦那だんな祖父殿おんぢいどんことわしらんで、なにはつしやりますやうな悪戯いたづらたかもわからねえ。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わけえ、若え、そういったもんでねえ。」と、またどの爺さんだか胴間どうま声をかっ飛ばした。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「あの時、たけぞうといった今夜の青二才のほかに、もう一人、わけえのがいましたね」
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「馬鹿だなア、手拭は俺から見えないよ、腰へブラ下げているんだろう、——番太や権助じゃあるめえし、良いわけえ者が、手拭を腰へブラ下げて歩くのだけはしなよ。見っともねえ」
……ほんとにわけえお人というものは! (何やらぶつぶつ言うが、聞きとれない)一生が過ぎてしまった、まるで生きた覚えがないくらいだ。……(横になる)どれ、ひとつ横になるか。
桜の園 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
俺たちは酒飲みでなまけ者だと言ってやがる。そして御当人は! 奴らはいったい何だい。わけえ時には何をしてきたんだい。泥坊じゃねえか。そうででもなけりゃあ金持ちになれるわけはねえ。
そんなとこは兄さんもまだわけえなあ。村さ住むやうになつたらやつぱし村のものとの附合ひといふことも考へんことにや。森口なんぞには顏を出しておいたがいいんだ。何かにつけてその方がええ。
続生活の探求 (旧字旧仮名) / 島木健作(著)
「御隠居——それにしちゃあ、年がわけえのう」
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
わけエ時分には散々おふくろに苦労をさせました…勇助さん此の水を御覧なさい、能く澄んでるでしょう、透通すきとおって底が見えるぐらいだのに
「わっしのことでさあ。あんたが脱走なすってから、このわけえ奴らがわっしを船長せんちょに選んだのでさ。」——と「脱走」という言葉に特に力を入れた。
「なあ、勘次かんじさん、こんでわけえものゝところがえゝかんな」といひけた。そとではふたゝはやてゝさわいだ。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「主じはまだずぶわけえ銀流しで、老いぼれた死っ損ないの下男に飯炊きのしわくちゃ婆あがいるばかり、ぐるりは痩っこけた松林にかじかんだ大根畑てえぐあいなんだ」
人形使 これまでは雪見酒だで、五合ごんべい一寸たちまちに消えるだよ。……これからがお花見酒だ。……お旦那、軒の八重桜は、三本揃って、……樹はわけえがよく咲きました。満開だ。
山吹 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「俺も、わけえ時、牛馬のように——やっぱり、町の方さでも片付けば……」
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
おいわけえの、取るにも足らぬ生兵法なまびょうほう細腕立ほそうでたては止めちゃあどうだ。ってじたばたほこりを立てると、大人気ないが、深見重左が王義明致流の極妙で、うぬの五体を立竦みにしびれ殺してくれるぞよ——
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしわけえうちに親父に死なれ、又母親おふくろにも早く別れ、今までみんな伯父様の世話になった事は私も心得て居りますから、あんたが達者でいて
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「ああ、ここは面白おもしれとこだぜ、この島はな、——わけえ者が上陸するにゃほんとに面白え処だ。」と彼は言った。
権頭のいわゆるずぶわけえ銀流しなる者だろう、すばらしい美男だし、身装みなりぜいを尽くしている、ああ顔をあげましたぞ諸君、御覧あれわれらの主人公、かの玉造八百助でござる。
今日けふわけ衆等しらくとおもつてはあ、よるまでけねえんだな」
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
「オイ、そこにいるわけえの」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
作「はアうかえくまア心に掛けて寺参りするてえ、おめえの様なわけえ人に似合わねえて、然う云って居る、えゝなアにあれは名主様の妾よ」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おめえはわけえけれど苦労しているし、理屈だけでものごとを
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
多「なにあんた、そんなに年イ取った/\といわなえがいゝ、わけもんでも寒いだ、なんだかハア雪イ降るばいと思う様に空ア雲ってめえりました」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
清「わけえから何様どんな無分別を出すめいもんでもねえから、明日あすといわず早いが宜い、兼と一緒に今ッから捜しに行きな」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
なにか仰しゃったようでごぜえますが、むずかしくって少しも分りませんが、わけえ殿様に水飴をめさせて、それから殿様にも甜めさせて、それを
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
わけえ親方のめえだが長兄に限っちゃア道楽で借金があるという訳じゃアなし、此の節アい出入場が出来て、仕事が忙がしいので都合も好い訳だのに
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
多助どんとやらの意見で泥坊もたまげ、しおれ果てゝけえったはえれえ奉公人だねえ、わしたまげやした、年いまだわけいがねえ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
云ったってい、厭だから厭と云うのだ、初めはいと思ったから女房にしようと思ったが六年から経って見るとく無くなったねえ、どうもわけえ女を
半「彼奴あいつをおめえさんが何うかして取持って貰いてえと、いうような事を、西浦賀のわけえ者に頼んだ事が有るだろう」
角「お前方めえがたは年がわけえからいまだいくらも子が出来るよ、おらア四十二歳になるが、いまだに子がねえから、斯ういう子を貰ってけば、こんな有難ありがてえ事はねえ」
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
亥「そうか、本所の人か、おらア又豊島町のわけしゅかと思った、見ず知らずの人に厄介やっかいになっちゃア済まねえ」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仙「ハヽヽ、なに危険なことはねえ、大丈夫でいじょうぶだよ、わけしゅ己は伊皿子台町いさらごでえまちにいる荷足の仙太だよ」
われが友達の奥田おくだかね野郎なア立派なわけしゅになったよ、われがと同年おねえどしだが、此の頃じゃア肥手桶こいたごも新しいんでなけりゃかつぎやアがんねえ、其様そんなに世話ア焼かさずにぶっされよ
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
仙「おとっさん、此のわけしゅさんの勘定も一緒に取ってくんな……なに、つりはいらねえよ」
伴「なッてえ/\、これ四けん間口の表店おもてだなを張っている荒物屋の旦那だア、一人二人の色が有ったってなんでえ、男の働きで当前あたりめえだ、わけえもんじゃあるめえし、嫉妬やきもちを焼くなえ」
わけえ同志で斯ういう訳になって、女子おなごを連れて己の家へ来て見れば、家もおさまらねえ訳で、是もさきの世に定まった縁だと思って、あんまやかましく云わねえで、己が媒妁なこうどをするから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
半「何だって外にわけえのが出来たからさ、おねげえだ己がいう事を聞いてくれ」
兼「わけえ親方……腹も立とうがあねさんのいう通り、酔ってるのだから我慢しておくんなせえ、不断此様こんな人じゃアねえから、わっちが連れて帰って明日あした詫に来ます……兄い更けねえうちにけえろう」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
色々ふけえ思召があるんだから、わっしも大旦那のおわけえ時分、まだ糸鬢奴いとびんやっこの時分から、甲州屋のお店へ出入りをしてえて、おめえさんとも古い馴染だが、今度来やアがった番頭ね、彼奴あいつが悪い奴なんだ
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)