罵倒ばとう)” の例文
「わあ、ひでえなあ」と罵倒ばとうすると、いそいで立ち上って首を垂れ、閉口したようにこそこそ縁の下にもぐりこんでしまうのである。
そして、庄左衛門が満座の中で諸士から罵倒ばとうされるのを聞いていた時、まあまあ自分でなくってよかったというような安心を覚えた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
「不届者」「不忠者」「露助の真似する売国奴」そう罵倒ばとうされて、代表の九人が銃剣を擬されたまま、駆逐艦に護送されてしまった。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
その叔父がにがりきって、罵倒ばとうするのだから、拙者もちょッと面食らった。——で理由をただすと、法月弦之丞は決して死んではおるまい。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が、だん/\読んで行くうちに、唐沢家に対する荘田の迫害の原因が、荘田に対する自分の罵倒ばとうであったことが、マザ/\と分って来た。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「いったい君にを論ずる資格はないはずだ」と私はついに彼を罵倒ばとうした。するとこの一言いちごんもとになって、彼は芸術一元論を主張し出した。
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
愚かにも気早な嫉妬しっとから、彼ら同士の関係や内情はおろか、当人の人物さえよくも知らずに、婚約の夫を罵倒ばとうしたことである。
父は母の歿後ぼつご、後妻ももらわないで不自由をしのんで来たのであったが、かげでは田舎者と罵倒ばとうしている貝原からめかけに要求され
渾沌未分 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
だが誤解するなかれ、著者は民衆にへつらうところの民衆主義者でなく、逆に彼等を罵倒ばとうし、軽蔑するところの民衆主義者だ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
これを罵倒ばとうする時は、ただ自己を罵倒するのである。今の世に美術無し、というが、これが責めを負うべき者はたれぞ。
茶の本:04 茶の本 (新字新仮名) / 岡倉天心岡倉覚三(著)
世間ではかえってその人を非常に罵倒ばとうし「彼は外道げどうである。大罪悪人である。ラマに対して悪口をいうとは不届ふとどきである」
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その代りに、今度は珠子を非難し、君の脚を売ることを望むような女性は外面がいめんにょ菩薩ぼさつ内心ないしんにょ夜叉やしゃだといって罵倒ばとうした。
大脳手術 (新字新仮名) / 海野十三(著)
飛び付くように抱き起したガラッ八、これはあまり酔っていない上、どんなに罵倒ばとうされても、親分の平次に向って腹を立てるような男ではありません。
喜兵衛は決して反抗はしない、罵倒ばとうされても殴られても、黙って頭を垂れているが、そのときは父がひどく怒って
雨の山吹 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「ケチなお客だなァ」と、一行を見送りつついつまでも口をとがらしている。こっちがケチなのではない。山男のくせに欲張るからとんだ罵倒ばとうを受けたのだ。
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
それ、持参の昼提灯、土の下からさぞ、半間だと罵倒ばとうしようが、白くすわって、ぼっと包んだ線香の煙がなびいて、裸蝋燭ろうそくの灯が、静寂な風に、ちらちらする。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「インドざる」によく似てると、むきつけて、そうであることが、不都合きわまることのようにほんきに、彼女を罵倒ばとうし、そして恥ずかしい目にからかった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
ところが、世の中は妙なもので、その時博士のうちへは激励の投書が降るように来るにひきかえ、××大学へは罵倒ばとう、脅迫の投書が続々舞いこんできたそうだ。
或る探訪記者の話 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
母は三言目には喧嘩腰けんかごし、妻は罵倒ばとうされてあおくなって小さくなる。女でもこれほどちがうものかと怪しまれる位。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
そうすると、父が時としては烈火の如くいきどおって、自分を叱責したり、罵倒ばとうしたりする、それが腕力沙汰にまでなった時、軽蔑が変じて反抗となってしまった。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
音楽の方面では、世の定説に少しも従わず、当代の偉人らがほしいままにしてる名声を、狡猾こうかつ罵倒ばとうすることもできた。女も彼からさらに容赦されなかった。
復讐と同時に、ネネの歓心をったと信じ、必ず帰って来ると高言し哄笑した春日の尖った顔が、ざまァ見ろ、とばかり、私の胸の中で快よく罵倒ばとうされ尽すのだ。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
なぜ親爺は単に「馬鹿野郎。」という放胆ほうたん罵倒ばとうの言葉をえらばなかったのであろう。それならば私は或いは親愛の表現と思い違いをしたかも知れないではないか。
安い頭 (新字新仮名) / 小山清(著)
ところで、ボル派のアナ攻撃は、プレカアノフなんかからの直伝じきでんのその理窟などより、理窟もクソもない頭からの罵倒ばとうが、実は俺たちをもっとも怒らせていたのだ。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
処女にして文学者たるの危険などを縷々るるとして説いて、幾らか罵倒ばとう的の文辞をもならべて、これならもう愛想あいそをつかして断念あきらめてしまうであろうと時雄は思って微笑した。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
周はますます怒って村役人を罵倒ばとうした。村役人はじると共にいかって周を捕縛して監獄へつないだ。
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
自分から、父や叔父のところに乗り込んで行って思いきり罵倒ばとうしてやりたいような気にもなった。
クールフェーラックはアンジョーラのそば舗石しきいしの上にすわって、大砲をなお罵倒ばとうし続けていた。
怨恨えんこんの毒気のようなものもあった、勝利をほこるようなものもあった、冷やかなものもあった、甚だしい軽蔑けいべつもあった、軽蔑し罵倒ばとうし去っての哀れみのようなものもあった
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ショペンハウエルが、満身の力をこめて罵倒ばとうした欧羅巴の女どもといえども、どうしても僕の妻よりも器量が好い。けれどもそれを逆にいえば、僕は黄顔細鼻の男に過ぎぬ。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
彼らはその仮装が同じばかりでなく、同じような昂奮こうふんで語り、同じ声で叫び、そしてときどき彼らは労働歌を合唱した。ある者は工場主を罵倒ばとうし、ある者は皮肉を投げつけた。
仮装観桜会 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
いたる所で嘲笑ちょうしょうされ、細君には罵倒ばとうされ、神の栄光を呪いに呪い、ついに窮余の一策、後光の消失を願うのあまり、神の怒りを買うことを考える。つまり罪悪を行うのである。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
で、「右の頬を打たれたら左の頬も向けよう」彼はしきりにこうした気持をあおりたてて出かけて行ったのだが、しゅうとには、今さら彼を眼前に引据えて罵倒ばとうする張合も出ないのであった。
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
月評を書いたのはまだその頃文名を馳せていたN氏である。N氏はさんざん罵倒ばとうしたのち、こう保吉にとどめを刺していた。——「海軍××学校教官の余技は全然文壇には不必要である」
文章 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
な宿したのもあるようです、それがすぐ形式の差は内容の差を伴うべきものだとさけび俳調俳歌いとうべしと罵倒ばとうして仕舞われたのです、吾々もそう思うですなあ、同じく詩であっても
子規と和歌 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
罵倒ばとうしてみても、撲ってみても心が安まらなかった。安二郎は五十面下げて嫉妬しっとに狂いだしていた。お君がこっそり山谷に会わないだろうかと心配して、市場へ行くのにもあとを尾行つけた。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
それを見当違に罵倒ばとうしたりなんかせずに置いてくれれば好いと思うのである。
あそび (新字新仮名) / 森鴎外(著)
……と同時に洪水のようにほとばしり出る罵倒ばとうの言葉が、口の中で戸惑いし初めた。
一足お先に (新字新仮名) / 夢野久作(著)
借問しゃもんす君はどうだ。菓子を食って老人組を罵倒ばとうするは、けだしわが輩士官次室ガンルームの英雄の特権じゃないか。——どうだい、諸君、兵はみんな明日あすを待ちわびて、目がさえて困るといってるぞ。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
先頃始めて神に関する一書を出しておおい基督教キリストきょう罵倒ばとうし、基督教の教ゆる神は論理上承認し難い、しかして自分の信ずる神、むしろ自分の発見した神は各自の心に存在し、各自と生命を共にし
自由の真髄 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
ブロックは弁護士の言うことをすっかりのみこみ、悪意のこもった眼差まなざしでKをじろじろながめ、彼に対して激しく頭を振った。この動作を言葉に翻訳すれば、乱暴な罵倒ばとうだったにちがいない。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
しきりに五右衛門を罵倒ばとうしていましたが、しかし、こればっかりは事件のほうで起きてこないかぎり、いかなおしゃべり屋の伝六がしゃちほこ立ちをしたとて、どうにもならないことでしたから
その長官たる私が、昭和十年の始め頃からある種の新聞で乱臣賊子らんしんぞくしと大がかりに罵倒ばとうされた。在郷軍人会も大挙してこれに共鳴きょうめいした。そして四方八方から、目を光らせて私をながめるようになった。
親は眺めて考えている (新字新仮名) / 金森徳次郎(著)
最敬礼のもっともきらいなのは生蕃であった、生蕃はいつもかれを罵倒ばとうした。生蕃は大沢一等卒が牙山がざんの戦いで一生懸命に逃げてアンペラを頭からかぶって雪隠せっちんでお念仏をとなえていたといった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
氏は物語の合間合間、自分の正しいことを力説したが、今から考えてみると、その無闇むやみ激昂げっこうや他に対する嫌味いやみなまでの罵倒ばとうも、皆自殺する前の悲しい叫びとして、私には充分理解できる気がする。
地図にない街 (新字新仮名) / 橋本五郎(著)
先生のこころにはそれが絶対のものであったので、当時世間でもてはやされていた歌などには、まるでその価値を認めずに罵倒ばとうされた。その議論に熱烈であったことはまことに驚くべきほどである。
左千夫先生への追憶 (新字新仮名) / 石原純(著)
漸くいらいらして来た居士は何かにつけて余らを罵倒ばとうし始めた。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
と、平馬は、憎々しげに、雪之丞を罵倒ばとうしつづけて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
と、プンプンおこって沼南を罵倒ばとうした事があった。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
たちまち面と向って諸君を罵倒ばとうするのだ。