立所たちどころ)” の例文
重く血を満した凡ての果実が、黄いろい月、そのふくよかな光のうちに膨らむ。月が動き、凡ての泉が輝き、荘厳そうごんの大諧調立所たちどころに目をさます。
だが、叫ぼうものなら、逃げ出そうものなら、立所たちどころに身の破滅だ。彼女は歯を食いしばって、我慢しなければならなかった。
吸血鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
田舍ゐなかづくりの籠花活かごはないけに、一寸いつすん(たつた)もえる。内々ない/\一聲ひとこゑほとゝぎすでもけようとおもふと、うして……いとがると立所たちどころ銀座ぎんざやなぎである。
木菟俗見 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
およそ裁判には、寸毫すんごうの私をも挟んではならぬ。西方を拝するのは、愛宕あたごの神を驚かし奉って、私心きざさば立所たちどころに神罰を受けんことを誓うのである。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
竹の根を食う鼠で土穴中におり、大きさ兎のごとし、人多くこれを食う。味鴨肉のごとし、竹刺ちくし、人の肉に入りて出ざる時これを食えば立所たちどころに消ゆる。
あいちやんは立所たちどころ屹度きつとうさぎ扇子せんすしろ山羊仔皮キツド手套てぶくろとをさがしてるにちがひないとおもつて、深切しんせつにもれをたづねてやりましたが、何處どこにもえませんでした。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それは神木しんぼくである御蔭おかげじゃ。わしほかにこの銀杏いちょうには神様かみさま御眷族ごけんぞく多数おおぜいいてられる。しいささかでもこれに暴行ぼうこうくわえようものなら、立所たちどころ神罰しんばつくだるであろう。
世の人若し来つて、我等は理想の妻として如何なるものか撰むべき、と問ふものあらば、我立所たちどころに答へて云はむ、其標準たるべきもの此四畳半に二あり、一は乃ちこの古帽なり。
閑天地 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
……高ぶる者を見てこれをことごとかがませ、また悪人を立所たちどころみつけ、これをちりの中に埋めこれがかおを隠れたる処に閉じこめよ、さらば我も汝をめて汝の右の手汝を救い得るとせん。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
像材ざうざい椿なるをもつて此地椿をたきゞとすればかならずたゝりあり、ゆゑに椿をうゑず。又尊灵そんれい鳥をとるいみ玉ふ、ゆゑに諸鳥寺内にぐんをなして人をおそれず、此地の人鳥を捕かあるひはくらへ立所たちどころ神罰しんばつあり。
失敗しくじったかな、此奴こいつ?」と、ときにそう感じられることがあっても、起きぬけにすぐ熱い湯に入り、ぐッと一つそのあとで熱い奴さえ引ッかければ、立所たちどころに、奇妙な位立所にケロリとした。
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
空気銃を持つて出かければ立所たちどころに山の産物を持つて帰るし……これは戯談じようだんでなく、僕はほんとうにこの村でならこの儘で四五人の家族を養つて暮せる自信がついたな——米と酒だけ何うにかすれば
村のストア派 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
奔放自在なる生命の真実性そのものの表現を渇望する心……すなわち溢るるばかりの好奇心に輝くまなこを以て、吾輩の畢生ひっせいの研究事業たる「心理遺伝」の実験を見られると、立所たちどころにこれを理解された。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は何が何やら判らなくなった。恰度ちょうど伽噺とぎばなしの中にある様に、魔法使いのお蔭で何でも欲しいと思うものが、立所たちどころに湧いて出ると云うような趣だった。然し彼はいつまでも茫然としていられなかった。
琥珀のパイプ (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
官の手を待たずして此の文治郎が立所たちどころ打殺うちころすが、われは親兄弟もあるだろうが、これ手前てまえ親達おやたちは左様な悪人に産み付けはせまい、どうか良い心掛けにしたい、善人にしたいと丹誠たんせいして育てたろうが
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
御意ぎょいあらば立所たちどころ召寄めしよすべし
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
この場合、子供という観念は全く盲点によって隠されてしまっていたのです。だが、一度子供というものに気づくと、花瓶の謎は立所たちどころに解決する。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
立所たちどころかげくらふ、はるれば、それまでぢや、生命いのちにもおよびかねぬ。かならさかとほらるゝな……
三人の盲の話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
像材ざうざい椿なるをもつて此地椿をたきゞとすればかならずたゝりあり、ゆゑに椿をうゑず。又尊灵そんれい鳥をとるいみ玉ふ、ゆゑに諸鳥寺内にぐんをなして人をおそれず、此地の人鳥を捕かあるひはくらへ立所たちどころ神罰しんばつあり。
その気に染まる人また立所たちどころに命をおとさざるなし、道南鼠死行一篇を賦し、奇険怪偉、集中の冠たり、数日ならざるに道南またすなわち怪鼠病で死んだも奇だとある。確かに鼠がペストを伝えたのだ。
この疑問は立所たちどころに氷解する筈である。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
御意ぎよいあらば立所たちどころ
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
私達は事件発見者としてそれにも立合うことが出来ましたが、老巧な刑事の一人は、板の間のしみを見ますと立所たちどころに血痕に相違ないと鑑定しました。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やつひとどんぶり、それでも我慢がまんたひらげて、「うれしい、お見事みごと。」とめられたが、歸途かへりみちくらつて、溝端どぶばたるがいなや、げツといつて、現實げんじつ立所たちどころ暴露ばくろにおよんだ。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
日本娘の不二子さんは、捕われて生恥いきはじさらさんよりは、危急の場合、この毒嚢の一噛みで、立所たちどころに命を失うことを、どんなに願っていたかしれない。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
いきほひじようじて、立所たちどころ一國一城いつこくいちじやうあるじこゝろざしてねらひをつけたのは、あらうことか、用人ようにん團右衞門だんゑもん御新姐ごしんぞ、おくみととしやうや二十はたちく、如何いかにも、一國一城いつこくいちじやうたぐへつべきいたつてうつくしいのであつた。
片しぐれ (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
(その時分外ほかに若い男のお客なぞはなく、ほとんど子供と女ばかりだったので、附文の主は立所たちどころに分る筈だ)
木馬は廻る (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
悪魔そのものがひそんででもいない限り、一目この姿を見たならば、立所たちどころ悔悟かいご自白すべき筈である。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
すると、今チクリと刺した蠍のとげには、立所たちどころに人命を奪う猛毒が塗られていたのではないか。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
魔術師は看客かんきゃくの目の前で生きた女を胴切りにしたり、箱詰めの小女こおんなつるぎ芋刺いもざしにしたり、彼女を殺害して鮮血したたる生首を転がして見せたり、あるい立所たちどころに人を眠らせ、自由自在の暗示を与え
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)