禁厭まじない)” の例文
と、禁厭まじないをいいながら、馬春堂の吹いてころがした吸殻すいがらの火玉を、煙管の先で追いかけたが、雁首がんくびでおさえるとジーッといったので
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「こやつ、わしを老人と見て侮っておるな! ようし! それならば消えて失くなるようにお禁厭まじないしてやるわ。そこ退くなッ」
近頃痳疹はしかが流行りよるけに何かよい禁厭まじないはないかちゅう話から、わしが気休めに書いて遣った、意味も何もない出放題じゃ。
その時分に尚侍ないしのかみが御所から自邸へ退出した。前から瘧病わらわやみにかかっていたので、禁厭まじないなどの宮中でできない療法も実家で試みようとしてであった。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
心配しぬいた揚句、皆はとうとう「かげの禁厭まじない」——むしの禁厭——をさせることにした。禁厭使いの婆は七十を越して、腰が二重になっている。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
また虎魂が産婦現に分身するところを襲い悩ます事あり、方士ブットを招き禁厭まじないしてこれを救うそうだ(スキートおよびプラグデンの書、上出三—五頁)
……今時……今時……そんな古風な、療治を、禁厭まじないを、するものがあるか、とおっしゃいますか。ええ、おっしゃい。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もううしこく、あんまりすえかたのことが思われて、七兵衛待遠しさに眠れないので、お松は、かねて朋輩衆から聞いた引帯ひきおび禁厭まじないのことを思い出した。
そのお寺の宗旨が「秘密」とか、「禁厭まじない」とか、「呪詛じゅそ」とか云うものに縁の深い真言宗であることも、私の好奇心を誘うて、妄想もうそうはぐくませるには恰好かっこうであった。
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
禁厭まじない物忌ものいみの手段にかけては、なにひとつ不足のない時代のことだから、道益はこれというほどのことはみなやったが、なお、二人の子供の将来にそなえるために
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
上は天文下は地理、武芸十八般伊尹いいん両道、陰陽の原理人相手相、占術せんじゅつ禁厭まじない方宅ほうたくから、仏教儒教神道に及び、兵法ではくすのき流、究めていないものはない。そういう俺だ。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
先達のおうかゞいもあゝいう事に出たし、斯うじゃないかと私も思って居りますくらいですし、禁厭まじないも有りまするから、義理をいえば貴方の云う事は御尤もでございまするが
医者か禁厭まじない師がいることが耳にはいりさえすりゃ、五十里が百里先でも直ぐ迎えに行く。医者に払う金だけでも大したものよ。だが今となっちゃ、その金で飲んだ方が利口だと思うね。
追放されて (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
尊はその時分、神仙からさずかった秘法や禁厭まじないで附近の人びとの病気などをなおしていた。尊の噂が高まってくるとともにその門人もんじんとなる者もできた。太美ふとみ万彦よろずひこもその弟子の一人であった。
神仙河野久 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
さきがけ虫とは如何なる虫ぞ、なんの禁厭まじないであったか覚えていないが、妙なことをしたものである。まえの年に書いたすすけたやつをきれいに剥ぎとって、その跡へ新規に貼るわけである。
桜林 (新字新仮名) / 小山清(著)
眼を開いていると、柱にはった白紙で包んだ禁厭まじないふだが眼についた。
生と死との記録 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
倉地の愛をつなぎとめる禁厭まじないのように思えるからしている事だった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
ですが、御承知のとおり禁厭まじないなしにあの方が上がると
「君、それは一体何の禁厭まじないだね」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「——たッた一つある手がかりは、そのなかに、お諏訪すわさまの禁厭まじないというてすえた、大きな虫のきゅうのあとがあることだけです」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かく鼠が神の使となって人を苦しむるよりこれを静めんとて禁厭まじないを行うたり、甚だしきは神といつき祈った例もある。
「ありゃ天満のかめ子煎餅こせんべい、……成程亀屋の隠居でしょう。誰が、貴方、あんな婆さんが禁厭まじないの蛇なんぞを、」
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
まだやっと七つの咲二が、恐れ恐れている禁厭まじないを、観念した心持で掛けられる様子。お咲の狂乱した姿、おらくの念仏。父親が、不快なときに立てるあの陰鬱な足音……。
日は輝けり (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
定「お禁厭まじないでございますか知らん、随分おまもりを襟へ縫込んで置く事がありますから、疫病除やくびょうよけに」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
ユダヤ人ちうのは日本の××のような奴どもで、舎利甲兵衛に黒穂くろんぼを上げておきさえすれば、如何どげな前科があってもれる気遣いは無いという……つまり一種の禁厭まじないじゃのう。
骸骨の黒穂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
蔭で私らのろてて、何ぞ恐い禁厭まじないでもして、夫に生霊取りいてたかも分れしません。
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「べつに何んでもありません、ただちょっとした禁厭まじないでございますから、一度地べたへ落してくだすったら、もう用はありませんから、ぐ拾って、貴郎の所有ものにしてください、お礼にさしあげますから」
指環 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
禁厭まじないをして飲ませなくては気が済まないのです。
禁厭まじない祭祝さいしゅく祓除はらいよけ、陰陽道、物忌ものいみ鬼霊きりょう占筮せんぜいなど、多様な迷妄の慰安をもたなくては、生きていられない上流層の人々だった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
欧州で中古禁厭まじないを行う者を火刑にしたが、アダム、エヴァの時代より、のろわれた蛇のみまじなう者をとがめなんだ。
懐中ものまで剥取はぎとられた上、親船おやぶね端舟はしけも、おので、ばら/\にくだかれて、帆綱ほづな帆柱ほばしら、離れた釘は、可忌いまわし禁厭まじない可恐おそろし呪詛のろいの用に、みんなられてしまつたんです。
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それも禁厭まじないとか御祈祷とかいうような非科学的なものじゃない。……つまり今まで話して来たように呉一郎は、黴毒ばいどくとか、結核とかいう肉体的の疾患に影響されて神経を狂わしたのじゃない。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
禁厭まじないもやが己をここで包んでいるだろうか。
禁厭まじないか」
雀が森の怪異 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おれの飲酒高会は、そういう陰性の策謀を追い払う禁厭まじないだよ。……あははは。どうだ、ところで楼上へあがって、一杯やろうか
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その草の中に、榜示杭ぼうじぐいに似た一本の柱の根に、禁厭まじないか、供養か、呪詛のろいか、線香が一束、燃えさしの蝋燭が一ちょう。何故か、その不気味さといってはなかったのです。
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
農家が恩威並び示して田畑の害物を禁厭まじないする諸例を挙げていわく、古ギリシアの農書『ゲオポニカ』に百姓がその耕地より鼠を除かんと欲せば、一紙に次のごとく書くべし
家相、方角、星占いだよ。んぞんぞのさわりというては。祈祷、禁厭まじない御神水おみずじゃ、お守札ふだじゃ。御符ごふうなんぞを頂戴させて。どうぞ、こうぞで済まして来たが。それじゃ治療なおらぬ病気の数々。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大内裏の紫宸殿ししんでんには、聖賢の御障子おんそうじがあるそうだな。聖賢の間にすわったら、聖人賢者のように、頭がよくなるというお禁厭まじないなのか、何なのだ。
施与ほどこしには違いなけれど、変な事には「お禁厭まじないをして遣わされい。虫歯がうずいて堪え難いでな。」と、成程左の頬がぷくりとうだばれたのを、堪難いさまてのひらで抱えて
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
稲虫いなむしの一名稲別当いなべっとう、それを斎藤別当に因んで実盛さねもりというに及んだ由(『用捨箱』下)。この虫盛んな年は大勢松明たいまつ行列して実盛様の御弔いと唱え送り出す。まず擬葬式をして虫を死絶すべき禁厭まじないだ。
荒神まつりの文句じゃねえかともかんげえてみましたがそうでもないらしんで……ズットあとになって聞いてみましたら「日本じゃぱん専売局がばめん台湾ふおるもさ烏龍茶ううろんち一杯わんかぷ十銭てんせんすイラハイかむいんイラハイかむいん」てんですから禁厭まじないにも薬にもなれあしません。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それは白晒布ざらしの地に、八幡大菩薩はちまんだいぼさつ摩利支天まりしてんの名号を書き、また、両の袖に、必勝の禁厭まじないという梵字ぼんじを、百人の針で細かに縫った襦袢じゅばんであった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
施与ほどこしには違ひなけれど、変な事には「お禁厭まじないをしてつかはされい。虫歯がうずいて堪へがたいでな。」と、成程なるほど左のほおがぷくりとうだばれたのを、堪難たえがたさまてのひらかかへて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
これをば襟半に届けたなら何の禁厭まじないになるかいな
「おどろくことはない、天井うらにしのんでいたやつは、徳川家とくがわけ菊池半助きくちはんすけだ、これで隠密落おんみつおとしの禁厭まじないがすんだから、もう安心。燕作えんさく、はやくこい!」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「お慈悲ぢや。」と更に拝んで、「手足に五すん釘を打たれうとても、かくまでの苦悩くるしみはございますまいぞ、おなさけぢや、禁厭まじのうてつかはされ。」で、禁厭まじないとは別儀べつぎでない。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
この標題は表現派の禁厭まじない札ではない。
旁〻かたがた、一度は訪れようと考えていた矢先、ちょうどよい、ここへは苦情の来ぬように俺が禁厭まじないをして来てやる
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
魔をけ、死神を払う禁厭まじないであろう、明神の御手洗みたらしの水をすくって、しずくばかり宗吉の頭髪かみを濡らしたが
売色鴨南蛮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)