直様すぐさま)” の例文
旧字:直樣
目覚めさむればに近し。召使ふものの知らせにて離れの一間ひとまに住み給ひける母上捨て置きてはよろしからずと直様すぐさま医師を呼迎よびむかへられけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
此方から短銃ぴすとると言た時に直様すぐさまはい其短銃ぴすとる云々しか/″\と答えたのが益々彼れの手管てくだですわ、つまり彼れは丁度計略の裏をかいて居るのです
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
あられだ、霰が降って来た。」と大きな声でいって、喜んで小躍こおどりした。而して、直様すぐさま戸外に駆け出して、霰だ。霰だ。といって走っていた。
凍える女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「旦那、大変だ。早く来て下せエ。あれを見ると、直様すぐさま駈出して来ただが、迷路で三十分も手間取っちまった。もう迚も息は吹き返すめエ」
地獄風景 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
常世トコヨと言ふ語の、記・紀などの古書に出た順序を、直様すぐさま意義分化の順序だ、との早合点に固執して貰うて居ては、甚だお話がしにくいのである。
妣が国へ・常世へ (新字旧仮名) / 折口信夫(著)
れがあんこの種なしに成つてもう今からは何を売らう、直様すぐさま煮かけては置いたけれど中途なかたびお客は断れない、どうしような、と相談を懸けられて
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
但し忌諱きいを憚り候儀もこれあり候はゞ、封書にて直様すぐさま差出し申すべく、また(肥後守)自身聞き届け候儀もこれ有る可く候
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
山頬やまぎわの細道を、直様すぐさまに通るに、年の程十七八ばかりなる女房にょうぼうの、赤き袴に、柳裏やなぎうら五衣いつつぎぬ着て、びんふかぎたるが、南無妙。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
壺の中へカジカ蛙をあまたれ、網蓋あみぶたの小孔より蠅を入れると、直様すぐさま蛙の口へ飛び込んで嚥まるるもあれば、暫時して蛙の方へ飛び行き捉わるるもある。
会社から直様すぐさまこゝへ帰つて来なくつても、いくらだつて寄り道は出来るからね。一時、二時まで外にゐるつてことは、こいつ懐中ふところ十分でないと相当骨が折れる。
世帯休業 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
乃公おれは伯母さんが那麽あんなに憤るだろうとは思わなかった。伯母さんは火のようになって、直様すぐさま鞄を抱えて、階下したへ下りた。そして車屋を呼んで来て下さいと言った。
いたずら小僧日記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
只今この黒羅紗の頭巾を突き破り、惣兵衞の首を掻取り、直様すぐさま此の場で切腹いたし、草場へ参った其の上で本意を遂げざるお詫をいたします、あゝ残念でございます
今日はどうでした? と夕頃つい出会って、問いかけでもしたら、彼は直様すぐさま癖の手を頭にやって
(新字新仮名) / 金史良(著)
如何どうも気に成って耐え難い。どうか姉御、一度江戸へって貰いたい。いや江戸へ帰らして呉れとは云わぬ。行かして呉れ。先生御無事ならば、直様すぐさま此方こちらへ帰って来る。
死剣と生縄 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それまで燃え立つやうに覚え候ふ胸の直様すぐさま水をあびせられ候ふやうになり、ふつつりと思ひ切つて清さんにはその手をさへ常談のていに申しくろめ、三谷さんの手前湯にといはせて返し候へば
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
犬の分際ぶんざいで人間を喰うというのは罪の深い事だと気が付いた、そこで直様すぐさま善光寺へけつけて、段々今までの罪を懺悔ざんげした上で、どうか人間に生れたいと願うた、七日七夜、椽の下でお通夜して
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
私は何だか羨ましくなり直様すぐさま家来に命じ同じ味噌汁を作らせた。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
此手紙御覧次第直様すぐさま御帰国待入まちいり申候もうしそろと母の手で狼狽うろたえた文体ぶんていだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
女は直様すぐさま県立千葉病院に入院せしめたるが生命覚束おぼつかなし。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
右の高指の先きの節、少〻疵つけども直様すぐさま治りたり。
直様すぐさま、謹んで記録に留めまして
昼飯をすますと直様すぐさまお千代は派出婦会との契約を断るために出て行く。重吉は種子が生きている時分に雇入やといいれた小女こおんなに暇をやる。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
招待者の人数はハッキリ分っていたから、最後の客が到着すると、直様すぐさま玄関の大扉を締切り、数名の私服刑事が、其内外に見張り番を勤めた。
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
何でも女房は仆れたまゝ気絶した様子でしたが其暇に検査官は亭主を引立て直様すぐさま戸表とおもてに待せある馬車へとかついで行きました
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
三国鼎争ていそうの最中や戦国わずかに一統された際の人間は、百姓までも荒々しいと同時に気骨あり、こんな落書をしたので、それを直様すぐさま自ら返辞した大守もえらい。
私はランプをつけてやろうかとも思ったが、何処どこにランプがあるのか分らないので、直様すぐさま家を飛び出して、彼の母親に告げて、針医を迎いに行ってやろうと思った。
黄色い晩 (新字新仮名) / 小川未明(著)
其のうちに諸方から人が出て捨てゝも置かれぬから、お繼と山平は直様すぐさま自身番へ参りまして、それより細やかに町奉行へ訴えに成りましたが、全く親の敵討と云う事が分りまして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
一年半ばかり耳鼻咽喉科を専門に修めていますと、『眼科へ転ぜよ、委細書面あとふみ』という電報が父から届きました。直様すぐさま転科の手続を済ませて待っていますと、父の書面が着きました。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ははさまに直様すぐさまお出下さるやう、今朝けさよりのお苦るしみに、潮時は午後、初産ういざんなれば旦那とり止めなくお騒ぎなされて、お老人としよりなき家なれば混雑お話しにならず、今が今お出でをとて
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
長吉はふと近所の家の表札に中郷竹町なかのごうたけちょうと書いた町の名を読んだ。そして直様すぐさま、このごろに愛読した為永春水ためながしゅんすいの『梅暦うめごよみ』を思出した。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
だが、蘭堂は直様すぐさま飛び込む勇気がなかった。赤い雫のたれているゴリラの口を見ては、飛かかって行く勇気がなかった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
多年此道で苦労した僕も及ばぬ程の手柄だ、吾々のる所は是からたゞあの犬ばかり、夫にしても君の様に短兵急に問詰ては敵が直様すぐさま疑うから事が破れる
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
今迄下を向いて、眤と一所ひとところ見詰みつめていた捕れた男は真青に血の気の失せた顔を上げて、ドシンと大地に下した鉞の方を見遣みやった。が直様すぐさままた下を向いて自分の膝のあたりを見詰めていた。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
いかにも急速では御座りますが直様すぐさま掃除にかかりたう御座りますとて、何の子細なく約束はととのひぬ、お職業はと問へば、いゑ別段これといふ物も御座りませぬとて至極曖昧あいまいの答へなり
うつせみ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
親父も一人や二人討って掛ろうとも無慚むざんに殺されることは有りませんが、何うかいう係蹄わなに掛って、左様な横死をいたしたので、誠に残念なことでございますから、私は直様すぐさま仇討に出立致し
最初人壺辺に来ると知るや、直様すぐさま蓋近き要処に跳び上がり、平日通り蠅を独占しようと構えいたが、右の次第で、全く己より智慧ちえの劣った者どもにしてやられ、一疋も蠅が飛ばねば一疋も口に入らず
長吉ちやうきちはふと近所の家の表札へうさつ中郷竹町なかのがうたけちやうと書いたまちの名を読んだ。そして直様すぐさまころに愛読した為永春水ためながしゆんすゐの「梅暦うめごよみ」を思出おもひだした。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
この不景気に直様すぐさま口があるではなし、そうかといって、遊んで食える身分でもなし、あなたもあんまり向う見ずだ。
接吻 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
信切顔しんせつがおをして其人の秘密を聞き出しれを直様すぐさま官に売附けて世を渡る、外面げめん如菩薩にょぼさつ内心如夜叉にょやしゃとは女に非ず探偵なり、切取強盗人殺牢破りなど云える悪人多からずば其職繁昌せず
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
いろいろの人がちよつと好い顔を見せて直様すぐさまつまらない事に成つてしまふのだ、傘屋のせんのお老婆ばあさんも能い人で有つたし、紺屋こうやのお絹さんといふ縮れつ毛の人も可愛かあゆがつてくれたのだけれど
わかれ道 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
そんな分らぬ弁天なら罰の当てようも知るまいから心配はありませんよ、これ何時まで子供の様な事を云って何うなります、私が約束して今更変替へんがえは出来ません、直様すぐさま返事をおしなさい、これ照
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
商人汝彼ら殺さずばわれ食事せん、ゆるさぬ内は一切馳走を受けぬと言い張ったので竜女も我を折り、直様すぐさま釈す事はならぬが六ヶ月間人間界へ擯出しようと言ってやがてかの二竜を竜宮から追い出した
と鬼は叫んで、直様すぐさま、その者を捕えてしまった!
過ぎた春の記憶 (新字新仮名) / 小川未明(著)
門をたたくと直様すぐさま女中が雨戸をあけたので、矢田は鎌をかけて君江さんはと聞くと、女中はてっきり君江の待っている旦那だと思込んで
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
療養所は駅の少し手前、美しい丘の中腹に、絵の様に拡がっている白堊はくあの建物だ。車を門内に入れて、受附けに来意をつげると、直様すぐさま院長室に通された。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
文治郎殿がお失策しくじりで中々お聞入れがないから、手前に代ってお詫をしてくれと、何事にも恐れぬ文治郎殿が驚かれ、顔色かおいろ変えて涙を浮べ頼みに参ったから直様すぐさま出ましたが、どうか御了簡遊ばして
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彩牋堂記の拙文は書終ると直様すぐさま立派な額にされたが新曲は遂に稿を脱するに至らずその断片は今でも机の抽斗ひきだししまわれてある。
雨瀟瀟 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
布引氏が直様すぐさま交換局を呼出して、先方の電話の所を調べさせたのは云うまでもない。併し、その結果分ったことは、相手の非常な用心深さばかりであった。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
久「直様すぐさま思いのうおっぱらそろ巴蛇あおだいしょうの長文句蠅々はい/\※」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
貴諭ノ如ク七年来悲歓得失御同然、一晤いちご握手快談仕リ度ク、小官当地書画会相済ミ直様すぐさま帰府ノ心組こころぐみニ御座候。遠カラザル中拝眉仕ルク候。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)