てすり)” の例文
岸を離れて見上げると徳二郎はてすりつて見下ろして居た。そして内よりはあかりが射し、外よりは月の光を受けて彼の姿が明白はつきりと見える。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
形ばかりの銕線はりがねてすりはあるが、つかまつてゆる/\渡る氣にもなれぬ。下の流れを見ぬ樣にして一息に渡つた。橋の長さ二十四間。
熊の足跡 (旧字旧仮名) / 徳冨蘆花(著)
形ばかりの銕線はりがねてすりはあるが、つかまってゆる/\渡る気にもなれぬ。下の流れを見ぬ様にして一息ひといきに渡った。橋の長さ二十四間。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
と、片手にさげた美濃の養老酒の徳利を、門前の御影石の畳の上に置いて、自分は同じ石の橋のてすりへ腰をかけて一休みしている。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼が注進の模様は、見るべき待人を伴ひ帰れるならんをと、ぐに起ちて表階子おもてはしごあたりに行く時、既におそ両箇ふたりの人影はてすりの上にあらはれたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
高いてすり倚凭よりかかって聞くと、さまざまの虫の声が水音と一緒に成って、この谷間に満ちていた。その他暗い沢の底の方には種々な声があった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
梁は覚えず体を舟のてすりに出して大声に言った。陳は梁の呼ぶ声を聞いて、棹をめさして水鳥のかたちを画いた舳に出て、梁を迎えて舟をやった。
西湖主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
我は進みてコルソオに出でたるに、こゝは早や變じて假裝舞の廣間となりたり。四方の窓より垂れたる彩氈は、唯だおほいなるてすりの如く見ゆ。
或日わたくしは洲崎すさきから木場きばを歩みつくして、十間川じっけんがわにかかった新しい橋をわたった。橋のてすりには豊砂橋とよすなばしとしてあった。
元八まん (新字新仮名) / 永井荷風(著)
てすりに寄って、遠く、汽船の青い火の、淋しい、闇に消えて行く方を見守った。何処へ行くのだろうと思われた。
舞子より須磨へ (新字新仮名) / 小川未明(著)
せまい縁に、てすりがついている。欄の下には、高瀬川の水がせせらいでいた。三条の小橋から南は、瑞泉院ずいせんいんのひろい境内と、暗い寺町と、そして茅原かやはらだった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一町ひとまち、中を置いた稲葉家の二階のてすりに、お孝は、段鹿子だんかのこの麻の葉の、膝もしどけなく頬杖して、宵暗よいやみの顔ほの白う、柳涼しく、この火の手をながめていた。……
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
セルギウスは身を起しててすりの所に出た。その外には群集が押し合つて来てゐる。セルギウスは一同に祝福を授けて、それから一人一人物を問ふのに答へ始めた。
逗子養神亭から見た向う岸の低い木柵にもたれている若い女の後姿のスケッチがある。鍔広つばびろの藁帽を阿弥陀にかぶってあちら向いて左の手でてすりの横木を押さえている。
海水浴 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
乗合のりあいはたくさんいた。たいていは異人のようであった。しかしいろいろな顔をしていた。空が曇って船が揺れた時、一人の女がてすりりかかって、しきりに泣いていた。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それで、智恵子が袂を分つて橋を南へ渡り切るまでも、静子は鋼線はりがねてすりもたれて見送つてゐた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
紙入かみいれたゞ一つふところに入れて廊下にさふらふに、此処ここ出水でみずのさまに水きかひ、草履穿ざうりばきの足の踏み入れがたく覚えられさふらひしかば、食堂の上の円きてすり一人ひとりもたれしに、安達氏
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
そして兜橋の上まで来るとてすりに凭れてお宮の追っかけて来るのを待っていた。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
もう二階からは見えない、浴衣に着換へ、てすりに倚つてると、いへうしろには、峯を負ひ、眼の下には石を載せた板葺家根が、階段のやうに重なつて、空地には唐もろこしを縁に取つた桑畑が見える
天竜川 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
戸を前に引いて丁度胸の辺りまである鉄のてすりに倚ると何時もの空が見える。途方もない事をしてしまつたと云ふ後悔を教へる東の遠い空が見える。薄鼠色の上に頻りに白い雲の動いて居る日である。
午後 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
「まあ。」女は目立たぬように男のそばを離れて、てすりにもたれた。
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
二人はてすりりながらこんな立話をした。その時幸作は、豊世の一身に就いて、行末の方針に苦むということを話した。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
こうして二人は、ほんとうに身を以て、裏梯子から、すぐ家のてすりの下の桟橋さんばしに立って、河原を走ることになりました。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「坊樣、さア此處へいらつしやい」と女は言つて坐布團をてすりの下に運び、夏橙なつだい/\其他そのほかの果物菓子などを僕にすゝめた。そして次の間を開けると酒肴の用意がしてある。
少年の悲哀 (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
此頃はセルギウスの便宜を計つて客に面会する日が極つてゐる。男の客の為めには待合室が出来た。セルギウスが立つてゐて、客を祝福する座席はてすりで囲んである。
外記は分銅のついた捕縄ほじょうを口と腕とに掛けながら、物干しのてすりを踏み台に、大屋根をのぞき上げた。
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
木のてすりあるはしごは、行くに足の尖まで油斷せざる稽古を、怠りがちなる男にせさするに宜しかるべし。部屋に入りて見れば、さまで見苦しからず。されど例の少女はあらず。
一時ひとしきり、芸者の数が有余ったため、隣家となりの平屋を出城にして、桔梗ききょう刈萱かるかや女郎花おみなえし、垣の結目ゆいめ玉章たまずさで、乱杙らんぐい逆茂木さかもぎ取廻し、本城のてすり青簾あおすだれは、枝葉の繁る二階を見せたが
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余は上ろうか上るまいかと踟蹰ちちゅうしたが、つい女児じょじと犬を下に残して片手てすりを握りつゝ酒樽のこもを敷いた楷梯はしごを上った。北へ、折れて西へ、折れて南へ、三じゅうの楷梯を上って漸く頂上に達した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
伜のよめも居る。その娵は皆の話の仲間入をしようとして女持の細い煙管きせるなぞを取り出しつつある。二階のてすりのところには東京を見物顔なお新も居る。
ある女の生涯 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
三階の亜字のてすりに立って、月にかがやく白骨谷を飽かず見入っているのはお雪ちゃんです。人は全く寝しずまって、物の気というものはありません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やがて燈火あかりが背からす。そしててすりの前のさざ波は、見ているうちに濃藍のうらんから真っ暗になってゆく。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひろげて二面の電報欄を指した。見ると或地方で小学校新築落成式を挙げし当日、ろうかてすりが倒れて四五十人の児童庭に顛落てんらくし重傷者二名、軽傷者三十名との珍事の報道である。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
此方こなたてすりつかまりたるわが顔を見て微笑ほほえみたまいつつ、かいなさしのべて、葉さきをつまみ、しないたる枝を引寄せて、折鶴、木𫟏みみずくひいなの形に切りたるなど、色ある紙あまた引結いてはソト放したまう。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二人は宿屋の二階のてすりに身をせて、目につく風俗なぞを話し合いながら、しばらくそこに旅らしい時を送った。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二階のてすりのところから、いま大道を通る人は何者と尋ねてみると、盲人は足音の調子に耳傾けていたが、これは婆さんの手を一人の男が曳いて行く足音でございますが
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仲居らしい女の影が、てすりに見えたと思うとすぐ消えた。するとまた、階下したの木戸に見えて
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いやその安価やすいのが私ゃ気にわんのだが、先ず御互の議論が通ってあの予算で行くのだから、そうやすっぽいてすりの倒れるような険呑けんのんなものは出来上らんと思うがね」と言って気を
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
高瀬はてすりのところへ行って、川向うから伝わって来るかすかな鶏の声を聞いた。先生も一緒に立って眺めた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
お銀様とお角さんが三宝院のお庭拝見をしている間、米友は門前の石橋のてすりに腰打ちかけて休んでおりました。そこへ、六地蔵の方から突然に、けったいな男が現われて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と、丈八は、思ったが、橋のてすりに、足をとめた町方や、捕手や、弥次馬の群れは
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
廊下のてすりから手の届くほど近いところには、合歓木ねむや藤が暗くおおかぶさっていた。しずくは葉を伝って流れた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
金椎キンツイを驚かさないように、あの室で食事をした以上の慎重さを以て、徐々そろそろと近づいて行き、やがて、寝台のてすりのところへすれすれになるまで来ても、じっと娘の顔を見たままで
大菩薩峠:25 みちりやの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
橋のてすりにいつまでも、ひじをもたせて
雲霧閻魔帳 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岸本は硝子戸ガラスどに近く行った。往来の方へ向いた二階のてすりのところから狭い町を眺めた。白い障子のはまった幾つかの窓が向い側の町家の階上うえにも階下したにもあった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
河童かっぱさらわれるというのは、ちょうどこんなのだろうと思われます。お絹は一言ひとことも物を言うひまさえなく、てすりの上から川の岸の笹藪の中へ、何者とも知れないものに抱き込まれてしまいました。
「橋のてすりくくっておけ」
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電車で浅草橋まで乗って見ると、神田川の河岸かしがもう一度岸本の眼にあった。岸本は橋の上に立って、かつてよく歩き廻ったその河岸を橋のてすりのところから眺めた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
亜字のてすりに立ちながら二人は、じっと身動きもしないでいたが、お雪の動悸が、高ぶってゆくことは眼に見えるようです。それでも逃れようとはもがきません——もう、わかりきっているのでしょう。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もう一度彼が甲板の上に出て見た時は空も海も深いやみに包まれていた。甲板のてすりに近く佇立たたずみながら黙って頭を下げた彼は次第に港の燈火ともしびからも遠ざかって行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)