昨日きのう)” の例文
まだ昨日きのうったあめみずが、ところどころのくぼみにたまっていました。そのみずおもてにも、ひかりうつくしくらしてかがやいていました。
幾年もたった後 (新字新仮名) / 小川未明(著)
昨日きのう聞いた時のように、今日もまた聞きたいものと、それとなく心待ちに待ちかまえるような事さえあるようになって来たのである。
鐘の声 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
京にいる平家一族の耳に入るのは、今日きょうはどこの源氏が蜂起した、昨日きのうは誰それが源氏に味方したというような知らせばかりである。
戎橋えびすばしの「おぐらや」で売っている山椒昆布と同じ位のうまさになると柳吉は言い、退屈たいくつしのぎに昨日きのうからそれに掛り出していたのだ。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
お亡れになりましたのがまだ昨日きのうのようにばかり思われまして、その時の悲しみが忘れられないのでございますが、数えてみますと
源氏物語:47 橋姫 (新字新仮名) / 紫式部(著)
昨日きのう掃除しかけて帰った家には、石山氏に頼んで置いたへり無しの新畳が、六畳二室に敷かれて、流石に人間の住居らしくなって居た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
昨日きのうの尻は勿論の事、一昨日おととい再昨日さきおととい……昨年、一昨年の尻が一時に固まって来る日だぞと覚悟して待っているとサア来るわ来るわ。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
皆様みなさんお早う御座います」と挨拶するや、昨日きのうまで戸外そとに並べてあった炭俵が一個ひとつ見えないので「オヤ炭は何処どっかへ片附けたのですか」
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
嫁入盛りだの……はいお目出度う……ついてはソノ火急な事であってぞ困ったろうが、昨日きのう番頭が國綱のお刀を持って帰られたろうな
翌日彼は朝飯あさはんぜんに向って、煙の出る味噌汁椀みそしるわんふたを取ったとき、たちまち昨日きのうの唐辛子を思い出して、たもとから例の袋を取り出した。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「小野さんたいへんご迷惑でしょう。時に、佐久間さんは昨日きのう会社でいつもと違った怪しい素振りをして見えなかったでしょうか」
玉振時計の秘密 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
「どうだこんなに大きい。内紫うちむらさきというそうだ。昨日きのう一つやってみたところ、なるほど皮の下は紫で美しい。味も夏蜜柑なつみかんの比でないよ。」
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
そのおさんが昨日きのう足の裏をとがめたのを気にしないでいたらば、熱が出てれあがったのを診察して、養生にかえすようにと言った。
旧聞日本橋:08 木魚の顔 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
ころしも一月のはじめかた、春とはいへど名のみにて、昨日きのうからの大雪に、野も山も岩も木も、つめた綿わたに包まれて、寒風そぞろに堪えがたきに。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
昨日きのうの事があったので燕は王子をこの上もないよいかたとしたっておりましたから、さっそく御返事をしますと王子のおっしゃるには
燕と王子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
昨日きのうまで机を並べて勉強した学友の就職を傍観して、むなしく世を恨み、自己おのれのろわねばならぬのです。なんたる悲惨なことでしょう。
融和促進 (新字新仮名) / 喜田貞吉(著)
昨日きのうは石を抱かされたとよ、三度も目を廻して、腰から下が寒天のように砕かれても、口を割らないそうだ、女の剛情なのは怖いぜ」
昨日きのう、伯爵邸に数人の来客があって、西洋館三階の大広間で晩餐ばんさんが供せられた。それが終って客の帰ったのが丁度九時頃であった。
夢遊病者の死 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「ようこそお越し下されました。織田様お使者おいでにき、父に於きましても昨日きのう以来、お待ち致しましてござります。しかるに……」
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それは法則の通り昨日きのうこしらえておいたスープの中へ二、三百目位な雄鶏おんどりを丸のまま入れて塩をホンの少し加えて一時間ばかり湯煮ゆでる。
食道楽:秋の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「ああ、山国の門附かどづけ芸人、誇れば、魔法つかいと言いたいが、いかな、さまでの事もない。昨日きのうから御目に掛けた、あれは手品じゃ。」
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その四年間に「一億同胞いちおくどうほう」のなかの彼らの生活は、彼らの村の山の姿や、海の色と同じように、昨日きのうにつづく今日であったろうか。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
『いや今日こんにちは、おおきみ今日きょう顔色かおいろ昨日きのうよりもまたずッといいですよ。まず結構けっこうだ。』と、ミハイル、アウエリヤヌイチは挨拶あいさつする。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
昨日きのう初雷はつらいできょうの陽ざしは一倍澄んでいる。又八は、まだ耳に新しい武蔵の言葉を思いかべ、ゆうべの酒を吐き出したくなった。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
未だお昼前だのに来る人の有ろうはずもなしと思うと昨日きのう大森の家へ行って仕舞ったK子が居て呉れたらと云う気持が一杯いっぱいになる。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
昨日きのう一昨日おとといも、社へも往かないで、ふざけてたのでしょ、彼奴もひどい奴だわ、あれで名流婦人だなんて、ほんとにあきれるわ」
一握の髪の毛 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
つぎの日学校の一時間目は算術さんじゅつでした。キッコはふとああ木ペンを持っていないなと思いました。それからそうだ昨日きのうの変な木ペンがある。
みじかい木ぺん (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
昨日きのうは泣き声を聞いているのも堪えられない気がした隣室の赤児、——それが今では何物よりも、敏子の興味を動かすのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
打捨うっちゃるようにいった田代のそのいいかたのかげにすこしの狼狽のほのめくものがあった。そういえば——そういえば昨日きのうでも……
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
「あたくし昨日きのう銀行からお手紙を頂きましたのでございますが、それには、何か新しい知らせが——いいえ、発見されましたことが——」
昨日きのうだって、前川と美和子とが、一しょに店を出て行った後は、仕事も手につかないほど取乱していた自分が、自分で分っていたし……。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
兄の家では、大阪から見舞いに来ていた、××会社の重役である嫂の弟が、これも昨日きのう山からおりて、今日帰るはずで立つ支度をしていた。
挿話 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
子供の時分の事は最う大抵忘れて了ったが、不思議なもので、覚えている事だと、判然はっきり昨日きのうの事のように想われる事もある。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「だって、お互いの気持ちさえ光風霽月ならベッドが並んでたってかまわないじゃないこと? そう仰言おっしゃったじゃないの昨日きのう
謎の女 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
御存じだかどうだか知りませんが、甲州屋のなあちゃんが昨日きのうから家出をして今にゆくえが知れないので、うちでは大騒ぎをしているんです。
半七捕物帳:35 半七先生 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昨日きのうまでのあそびの友達ともだちからはにわかにとおのいて、多勢おおぜい友達ともだち先生達せんせいたち縄飛なわとびに鞠投まりなげに嬉戯きぎするさまを運動場うんどうじょうすみにさびしくながめつくした。
伸び支度 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ボースンの返事のあるまで、水夫たちは、デッキへ上がって、なつかしき陸をながめ、昨日きのう困らされた海を見入るのであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
彼は自分がそんなに迄あの屋根裏へ行きたがるのが、昨日きのうとは全く違った動機からであることを、我ながら奇としないではいられなかった。
それと同じことは昨日きのう花岡一郎に聞いた。しかし、俺たちは粟も十分に貯えている。また銃器や弾薬もたっぷり手に入れる目算がついている。
霧の蕃社 (新字新仮名) / 中村地平(著)
それで吉が今身体からだを妙にひねってシャッとかける、身のむきを元に返して、ヒョッと見るというと、丁度昨日きのうと同じ位の暗さになっている時
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「うん、われわれも、昨日きのうまでは、そう思っていた。そう信じていたのじゃ。ところが、昨日きのうになって、おどろくべき真相が曝露したのじゃ」
地球要塞 (新字新仮名) / 海野十三(著)
なあ武どん、わたしももう大分だいぶ弱いましたよ。去年のリュウマチでがっつり弱い申した。昨日きのうお墓まいりしたばかいで、まだ肩腰が痛んでな。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
中村は手塚が昨日きのう不良少女と活動写真館からでたのを見た、そうして後をつけていくと洋食屋へはいったというのであった。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
すぐにその態度が変わり昨日きのうまで同僚どうりょう交際であった者を急に見下したり、にわかに傲慢ごうまん尊大そんだいになる場合も僕はしばしば見た。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
「恭一はな」と、にわとりえさをやりに出てきたおばさんが、きかしてくれました。「ちょっとわけがあってな、三河みかわの親類へ昨日きのう、あずけただがな」
小さい太郎の悲しみ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
四月十七日といえば昨日きのうである。それから巴里発電報では、石井大使がポアンカレを訪うて懇談したことをも報じている。
ドナウ源流行 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
それは殿様がお隠れになった当日から一昨日おとついまでに殉死した家臣が十余人あって、中にも一昨日は八人一時に切腹し、昨日きのうも一人切腹したので
阿部一族 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「ええ、お客様はおろか、昨日きのうは郵便物もございませんでした。もっとも、いつだって、此処ここを訪ねて下さる方は、滅多にございませんが——」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
昨日きのうは、私の部屋に据えてある古いオルガンで、正夫さんは、ほとんど終日、ブラームスや、ベートーヴェンなどをひいてきかせてくれました。
青春の息の痕 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
あの人は昨日きのう私に、あの人がたいへん信頼して協力者にしている例の学生を通じて、絹の靴下を贈り物にしてくれました。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)